従斤竹澗超嶺渓行 謝霊運(康楽) 詩<51#1>Ⅱ李白に影響を与えた詩446 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1155


 儒教者は謝靈運が理解できないようだ。多くの注釈で儒教者の感覚で間違った解釈をしている。仏教徒としての謝靈運ということ見ていくと違った意味となってくる。まず、ある注釈書に謝靈運にとって「自然の美しさ、山水の美しさは、気を紛らすことであり、精神的な苦しみを忘却するためであった」と「觀此遺物慮。一悟得所遣。」(此を觀て 物慮を遺【わす】れ、一たび 悟って遣る所を得たり。)この詩の最後の聯であり、結論としている。基本的な姿勢が儒教者の観念で捉えるからこのような了見の狭い解釈となったのだ。

この『從斤竹澗越嶺溪行詩』で、“斤竹潤から多くの嶺や谷を越えての旅で、猿声・谷・巌下の雲、花の上の露、遠き山川、潤、桟道、水草などの美しきを巧みに詠じ、結句で「此を観て物慮を遣れ一たび悟りて遣る所を得」と歌っている。これは霊運は美しい山水をみているあいだだけは心の憂いを忘れることができたという。すなわち、霊運が山水の美にあこがれたのは、常にその精神的な苦しみを忘却するためであった。ここで問題となるのは「物慮」である。これに対し、江家は物欲と塵慮であるというが、一般の人々より金持であり、生活に困らぬはずであった霊運ではあるが、さらにたくさんの金銭への欲望があったのかもしれぬ。そして、塵慮とは出世への欲望であったろうか。口では忘れたといっても、これは人間の本能である。いつも心の中には忘れることができなかった。これらは中国の知識人のみならず、人類の永遠の悩みでもある。”とあらわされている。儒教者の注釈を日本で、直訳しそのまま解説しているからで、実は全く違うことをいっているのである。自然の美しさは浄土ととらえているのである。念仏を唱えることで浄土にゆけるといっているのである。


從斤竹澗越嶺溪行詩
斤竹澗から峰を越え谷川ぞいに行く時の詩
猿鳴誠知曙。穀幽光未顯。
猿が鳴いて、本当に夜が明けていくことがわかるのであるが、谷が深く、しずかで暗く、朝日の光はまだあらわれない。
巌下雲方合。花上露猶泫。
岩の下に雲がわいてきてちょうどそこで集まり合わさっている、谷に咲く花の上には露がまだしたたっている。
逶迤傍隈隩。迢遞陟陘峴。
うねうね峰は続き、山のくぼみに沿って、高く遠く山の切り通しや小さい嶺にのぼってゆく。
#2
過澗既厲急。登棧亦陵緬。
川渚屢徑複。乘流翫回轉。
蘋萍泛沉深。菰蒲冒清淺。
企石挹飛泉。攀林摘葉卷。
#3
想見山阿人。薜蘿若在眼。
握蘭勤徒結。折麻心莫展。
情用賞為美。事昧竟誰辨。
觀此遺物慮。一悟得所遣。


(斤竹澗より嶺を越えて溪行す。)
猿鳴いて誠に曙【あけぼの】を知り、谷幽にして光未だ顯【あら】われず。
巌下に雲 方【まさ】に合し、花上に露猶 泫【したた】る。
逶迤【いい】として隈隩【わいおう】に傍【そ】ひ、迢遞【ちょうてい】として陘峴【けいけん】を陟【のぼ】る。

#2
澗を過ぎて既に急を厲【わた】り、桟を登って亦 緬【めん】を陵【しの】ぐ。
川渚【せんしょ】は屡【しばし】ば 徑複【けいふく】し、流に乗じて回轉【かいてん】を翫【もてあそ】ぶ。
蘋萍【ひんべい】は沈深【ちんしん】に泛び、菰蒲【こほ】は清淺【せいせん】を冒【おお】えり。
石に企【つま】だてて 飛泉を挹【く】み、林を撃ちて葉巻【ようけん】を摘む。
#3
想見【そうけん】す山阿【さんあ】の人、薜蘿【へいら】眼に在るが若し。
蘭を握りて勤【ねんごろ】に徒【いたずら】に結び、麻【ま】を折りて心展【の】ぶる莫し。
情は賞して美と為すを用いて。事 昧【くら】くして竟に誰か辨せん。
此を觀て 物慮を遺【わす】れ、一たび 悟って遣る所を得たり。


現代語訳と訳註
(本文)

從斤竹澗越嶺溪行詩
猿鳴誠知曙。穀幽光未顯。
巌下雲方合。花上露猶泫。
逶迤傍隈隩。迢遞陟陘峴。


(下し文)
斤竹澗より嶺を越えて溪行す。
猿鳴いて誠に曙【あけぼの】を知り、谷幽にして光未だ顯【あら】われず。
巌下に雲 方【まさ】に合し、花上に露猶 泫【したた】る。
逶迤【いい】として隈隩【わいおう】に傍【そ】ひ、迢遞【ちょうてい】として陘峴【けいけん】を陟【のぼ】る。


(現代語訳)
斤竹澗から峰を越え谷川ぞいに行く時の詩
猿が鳴いて、本当に夜が明けていくことがわかるのであるが、谷が深く、しずかで暗く、朝日の光はまだあらわれない。
岩の下に雲がわいてきてちょうどそこで集まり合わさっている、谷に咲く花の上には露がまだしたたっている。
うねうね峰は続き、山のくぼみに沿って、高く遠く山の切り通しや小さい嶺にのぼってゆく。


(訳注)
從斤竹澗越嶺溪行詩
斤竹澗から峰を越え谷川ぞいに行く時の詩
斤竹澗 温州府楽清県の東七十五里の谷川の名。・溪行 谷川ぞいに行く。


猿鳴誠知曙。穀幽光未顯。
猿が鳴いて、本当に夜が明けていくことがわかるのであるが、谷が深く、しずかで暗く、朝日の光はまだあらわれない。


巌下雲方合。花上露猶泫。
岩の下に雲がわいてきてちょうどそこで集まり合わさっている、谷に咲く花の上には露がまだしたたっている。
 したたる。


逶迤傍隈隩。迢遞陟陘峴。
うねうね峰は続き、山のくぼみに沿って、高く遠く山の切り通しや小さい嶺にのぼってゆく。
逶迤 うねうねとしたさま。・隈襖 山のくま。'隈, 山曲也。'隩, 隈也。 ・迢遞 造かに遠い。・陘峴 陸に連山の切れ目、峴は小さい嶺。