道路憶山中 謝霊運(康楽) 詩<58-#3>Ⅱ李白に影響を与えた詩452 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1173


臨川郡に行く途中、遠ざかりゆく始寧の故居を思い、その過去の生活を追憶しつつ、その感情を歌った。「道路憶山中」(道路にて山中を憶う) 詩は、『文選』の巻二十六の「行旅」 の部に選ばれているものである。


道路憶山中
采菱調易急,江南歌不緩。
楚人の歌曲の「採菱曲」の調べで歩くと早歩きになりやすいし、「江南曲」だと歌はゆるやかにはならない。
楚人心昔絕,越客腸今斷。
楚人の宋玉の心というのは昔に讒言によって絶たれてしまった、越客の屈原の腸も今私の断腸の思いも屈原が強烈な愛国の情から出た詩を生み出したように、私はこの自然を極楽浄土、祇園精舎として詩を描くのだ。
斷絕雖殊念,俱為歸慮款。
屈原の国を思う心と私の極楽浄土へのおもい、断絶は念いをそれぞれ殊にするというものだが、一緒なのは供に故郷に帰りたいという思いが強いということである。
#2
存鄉爾思積,憶山我憤懣。
故郷を思う気持ちはうず高く積み重なってしまった、先祖の謝安の東山を思えば、私の心は我慢できないし、腹に据えかねるのだ。
追尋棲息時,偃臥任縱誕。
始寧で隠棲の時を昔を思い起してみると、体が思うに任せず、わがままでしまりがないことをし続けていたのだ。
得性非外求,自已為誰纂?
この性格になったのはだれか外部から影響を受けたというものではない。すべてこの身から出たものであり、誰の為に集めてそろえるといったものであろうか。
不怨秋夕長,常苦夏日短。
愁いに秋の夕の長いことを怨んでみてもしかたがないし、「一切皆苦」と常に夏に日ごとに短かくなっていく、生滅変化を免れえないからこそ苦であるとされるのだ。
#3
濯流激浮湍,息陰倚密竿。
人生は浮き沈みの多い流れで急流は激しいし、そして木陰にて休み、始寧での隠棲生活がそれだった、そしてひっそりとした竹の林に寄りかかるのは自分を支えてくれる仏教者たちであった。
懷故叵新歡,含悲忘春暖。
しかしこうして旅する今となって、故郷の山を懐うので新しい歓びは得られはしないし、悲しみを抱いていては喜ぶべき春の暖かさをわすれる。
淒淒明月吹,惻惻廣陵散。
それで、凄淒と胸ふさがる懐いで「明月の曲」を吹き、身にしみて感ずる「廣陵散」の琴曲をかなでる。
殷勤訴危柱,慷慨命促管!
この憂いを晴らす,心をこめて琴柱に訴える、笛の音が急にして怒り嘆きを命じるのである。

道路にて山中を憶う
菱を采る調べは急になり易く、江南の歌は緩ならず。
楚人の心は昔から絕ち,越客【えつかく】の腸は今に斷つ。
斷絕【だんぜつ】は念いを殊にすと雖も,俱為【とも】に歸慮【きりょ】に款【たた】かれぬ。
#2
鄉を存【おも】い爾【しか】い思いは積めり,山を憶い我は憤懣【ふんまん】す。
棲息の時 追尋するに,偃臥【えんが】して縱誕【しょうたん】を任【ほしい】ままにせり。
性を得る外に求むるに非らず,自から已むのみにて誰の為にか纂【つ】がん?
秋の夕の長きを怨みず,常に夏の日の短きに苦しむ。
#3
濯流【とうりゅう】浮湍【ふたん】に激しくし,陰に息【いこ】いて密【しげり】の竿【たけ】に倚る。
故【むかし】を懷い新しき歡【よろこ】びは叵【しがた】く,悲しを含み春の暖かなるを忘る。
淒淒として明月を吹き,惻惻として廣陵を散【ひ】く。
殷勤【いんぎん】 危柱【きちゅう】に訴え,慷慨【こうがい】 促管【そくかん】を命ず!


現代語訳と訳註
(本文)
#3
濯流激浮湍,息陰倚密竿。
懷故叵新歡,含悲忘春暖。
淒淒明月吹,惻惻廣陵散。
殷勤訴危柱,慷慨命促管!


(下し文) #3
濯流【とうりゅう】浮湍【ふたん】に激しくし,陰に息【いこ】いて密【しげり】の竿【たけ】に倚る。
故【むかし】を懷い新しき歡【よろこ】びは叵【しがた】く,悲しを含み春の暖かなるを忘る。
淒淒として明月を吹き,惻惻として廣陵を散【ひ】く。
殷勤【いんぎん】 危柱【きちゅう】に訴え,慷慨【こうがい】 促管【そくかん】を命ず!


(現代語訳)
人生は浮き沈みの多い流れで急流は激しいし、そして木陰にて休み、始寧での隠棲生活がそれだった、そしてひっそりとした竹の林に寄りかかるのは自分を支えてくれる仏教者たちであった。
しかしこうして旅する今となって、故郷の山を懐うので新しい歓びは得られはしないし、悲しみを抱いていては喜ぶべき春の暖かさをわすれる。
それで、凄淒と胸ふさがる懐いで「明月の曲」を吹き、身にしみて感ずる「廣陵散」の琴曲をかなでる。
この憂いを晴らす,心をこめて琴柱に訴える、笛の音が急にして怒り嘆きを命じるのである。


(訳注) #3
濯流激浮湍,息陰倚密竿。

人生は浮き沈みの多い流れで急流は激しいし、そして木陰にて休み、始寧での隠棲生活がそれだった、そしてひっそりとした竹の林に寄りかかるのは自分を支えてくれる仏教者たちであった。
濯流【とうりゅう】 浮き沈みの多い流れ。・浮湍【ふたん】急流。
息陰 木陰にて休む。ここでは始寧での隠棲生活をいう。・密竿 竹の林。ここでは自分を支えてくれる仏教者をさすもの。


懷故叵新歡,含悲忘春暖
しかしこうして旅する今となって、故郷の山を懐うので新しい歓びは得られはしないし、悲しみを抱いていては喜ぶべき春の暖かさをわすれる。
・叵 …し難い,…できない叵耐我慢ならない.


淒淒明月吹,惻惻廣陵散。
それで、凄淒と胸ふさがる懐いで「明月の曲」を吹き、身にしみて感ずる「廣陵散」の琴曲をかなでる。
凄淒 (1) 寒い,冷え冷えする.(2) もの寂しい,うらさびれた.悲しい,胸ふさがる.・惻惻 . 惻 惻(そくそく). 悲しみ、悼むさま。身にしみて感ずること。・明月 明月の曲 古典音楽、越劇(浙江省の地方劇:女性のみで演じられる京劇に次いで人気のある華東の伝統劇の中の曲。)漢の謝安(字は安石)が始寧(会稽紹興市の東の上虞県の西南)に隠居して朝廷のお召しに応じなかったのは「東山高臥」といって有名な講である。山上に謝安の建てた白雲・明月の二亭の跡がある。また、かれが妓女を携えて遊んだ寄薇洞の跡もある。○・廣陵散 漢代の大型琴曲。別名「廣陵止息」。安徽省壽縣境內の民間樂曲。琴、箏、笙、築等の樂器で演奏,現存するもっとも古い琴曲である。


殷勤訴危柱,慷慨命促管!
この憂いを晴らす,心をこめて琴柱に訴える、笛の音が急にして怒り嘆きを命じるのである。
殷勤 ねんごろな,心のこもった、心からもてなす.・危柱 琴の音が高いことをいう。柱はことじ。・慷慨【こうがい】1 世間の悪しき風潮や社会の不正などを、怒り嘆くこと。「社会の矛盾を―する」「悲憤―」2 意気が盛んなこと。・促管 笛の音が急なこと。