入彭蟸湖口 謝霊運(康楽) 詩<53#1>Ⅱ李白に影響を与えた詩452 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1173


やがて、何日か宿をして後、臨川郡の入り口にある彭蟸湖、つまり、今の鄱陽湖に着いた。おそらく、郡の下役人の出迎えを受け、挨拶の言葉ぐらいはあったであろうが、謝靈運には、依然として不平と不満に満ちていた。この赴任には謝霊運を押さえつけるものであるから、彼の心はなんともいえぬものがあり、その感情を歌ったものが「入彭蟸湖口」(彭蟸湖口に入る) の一首である。『文選』の巻二十六の「行旅」の部に引用されている。


入彭蠡湖口  #1
客游倦水宿,風潮難具論。
旅ゆく人として船旅につかれて宿を取る、風の流れと長江の流れは自分にとってもそうであるがこうしてそのまま旅をするのがいいのか十分に論じつくすというのは難しい。
洲島驟回合,圻岸屢崩奔。
長江を下ると中州と島が時折り廻ったり戻ったり離れたり集まったりする、長江の流れも岸が折れたり、曲がったりしてしばしば崩れたり出入りが激しかったりして、私の人生のようだ。
乘月聽哀狖,浥露馥芳蓀。
月がのぼってくるとどこからか悲しい声の野猿が鳴いている、夜も更け露に潤う時刻になるとほんのりと菖蒲の花の香りがしてくる。
春晚綠野秀,岩高白雲屯。
春も終わりで木々も萌えるころで、緑が秀でるころであり、しげりも盛んになっている、見上げると岩場の高い所に白い雲が浮かんでいる。
千念集日夜,萬感盈朝昏。
思い返してみて千念(ちじ)の思いで念仏というのは、真昼か真夜中に集うもので、この全身全霊で感じ取るのは朝夕の念仏で満たされるのである。
#2
攀崖照石鏡,牽葉入松門。三江事多往,九派理空存。
露物吝珍怪,異人秘精魂。金膏滅明光,水碧綴流溫。
徒作千里曲,弦絕念彌敦。


(彭蟸湖口に入る)#1
客遊して水宿【すいしゅく】に倦【う】み、風潮【ふうちょう】は具【つぶ】さに論じ難し。
洲島【しゅうとう】は驟【しばし】ば廻合【かしごう】し、折岸【きがん】は屡【しばし】ば崩奔【ほうほん】す。
月に乗じて哀狖【あいいう】を聴き、露に浥【うる】おいて芳蓀【ほうそん】馥【かんば】し。
春は晩れて緑野 秀で、巌 高くして白雲 屯【あつま】り。
千念【せんねん】は日夜に集まり、万感【ばんかん】朝昏【ちょうこん】に盈つ。

#2
崖に攀【よ】じて石鏡に照らし、葉を牽きつつ松門に入る。
三江は事多に往き,九派は理 空しく存す。
霊物は珍怪を宏【おし】み、異人は精魂を秘す。
金膏【きんこう】は明光を減し、水碧は流温【りゅうおん】を綴【や】む。
徒らに千里の曲を作すも、弦絶えて念い彌【いよい】よ敦【あつ】し

彭蟸の三江 北江・中江・南江
潯陽の九派 烏白江・好江・烏江・嘉靡江・吠江・源江・庫江・提江・菌江


現代語訳と訳註
(本文)
入彭蠡湖口  #1
客游倦水宿,風潮難具論。洲島驟回合,圻岸屢崩奔。
乘月聽哀狖,浥露馥芳蓀。春晚綠野秀,岩高白雲屯。
千念集日夜,萬感盈朝昏。


(下し文) (彭蟸湖口に入る)#1
客遊して水宿【すいしゅく】に倦【う】み、風潮【ふうちょう】は具【つぶ】さに論じ難し。
洲島【しゅうとう】は驟【しばし】ば廻合【かしごう】し、折岸【きがん】は屡【しばし】ば崩奔【ほうほん】す。
月に乗じて哀狖【あいいう】を聴き、露に浥【うる】おいて芳蓀【ほうそん】馥【かんば】し。
春は晩れて緑野 秀で、巌 高くして白雲 屯【あつま】り。
千念【せんねん】は日夜に集まり、万感【ばんかん】朝昏【ちょうこん】に盈つ。


(現代語訳)
旅ゆく人として船旅につかれて宿を取る、風の流れと長江の流れは自分にとってもそうであるがこうしてそのまま旅をするのがいいのか十分に論じつくすというのは難しい。
長江を下ると中州と島が時折り廻ったり戻ったり離れたり集まったりする、長江の流れも岸が折れたり、曲がったりしてしばしば崩れたり出入りが激しかったりして、私の人生のようだ。
月がのぼってくるとどこからか悲しい声の野猿が鳴いている、夜も更け露に潤う時刻になるとほんのりと菖蒲の花の香りがしてくる。
春も終わりで木々も萌えるころで、緑が秀でるころであり、しげりも盛んになっている、見上げると岩場の高い所に白い雲が浮かんでいる。
思い返してみて千念(ちじ)の思いで念仏というのは、真昼か真夜中に集うもので、この全身全霊で感じ取るのは朝夕の念仏で満たされるのである。


(訳注)
入彭蠡湖口
 
江西省北部、長江南岸にある湖。中国の淡水湖では最大。北緯29度00分、東経116度10分に位置する。贛江・撫河・信江・饒河(鄱江)・修水などの長江支流がここで流入する。湖の表面積は、季節により146km2から3,210km2まで変わり、長江の水流を調節する役目もしている。紀元前から記録されている湖で、彭蠡湖(澤)、あるいは彭澤とも呼ばれた。何度も洪水を起こし、そのために築いた堤防が湖の中に残っている。 孟浩然『彭蠡湖中望廬山』に「挂席候明発、渺漫平湖中」の表現があるが、更に溯れば謝霊運「遊赤石進航海」に「揚帆采石華、挂席拾海月(帆をあげて海草を採り、蓆を掲げて海月を採集に行く)」の句がある。
彭蠡湖中望廬山 孟浩然
太虛生月暈,舟子知天風。掛席候明發,眇漫平湖中。
中流見匡阜,勢壓九江雄。黤黕容霽色,崢嶸當曉空。
香爐初上日,瀑布噴成虹。久欲追尚子,況茲懷遠公。
我來限於役,未暇息微躬。淮海途將半,星霜歲欲窮。
寄言岩棲者,畢趣當來同。


客游倦水宿,風潮難具論。
旅ゆく人として船旅につかれて宿を取る、風の流れと長江の流れは自分にとってもそうであるがこうしてそのまま旅をするのがいいのか十分に論じつくすというのは難しい。
具論 つぶさに論じる。十分に論じつくす。


洲島驟回合,圻岸屢崩奔。
長江を下ると中州と島が時折り廻ったり戻ったり離れたり集まったりする、長江の流れも岸が折れたり、曲がったりしてしばしば崩れたり出入りが激しかったりして、私の人生のようだ。
洲島 長江の中州と島。このあたりでは長江の流れもゆるく大きな島や中州がある。・ 【うごつく・しばしば】「うこづく」動き揺れる。うごめく。・回合 廻ったり戻ったり離れたり集まったりする。・圻岸 岸が折れたり、曲がったりする。・崩奔 崩れたり出入りが激しかったりする。


乘月聽哀狖,浥露馥芳蓀。
月がのぼってくるとどこからか悲しい声の野猿が鳴いている、夜も更け露に潤う時刻になるとほんのりと菖蒲の花の香りがしてくる。
 ここでは、野猿。屈原『楚辞』「猨狖群嘯兮禽獸所居,至樂佚也。」で猨狖という言葉を用いた。猨は前述の猱蝯の蝯と同義であり、狖とともにテナガザル。・浥露 夜も更け露に潤う時刻になると。艶歌に使用される語である。・ 菖蒲。香草名。夜の娼婦の香水の香りという場合もある。


春晚綠野秀,岩高白雲屯。
春も終わりで木々も萌えるころで、緑が秀でるころであり、しげりも盛んになっている、見上げると岩場の高い所に白い雲が浮かんでいる。


千念集日夜,萬感盈朝昏。
思い返してみて千念(ちじ)の思いで念仏というのは、真昼か真夜中に集うもので、この全身全霊で感じ取るのは朝夕の念仏で満たされるのである。
千、萬念 浄土宗は極楽浄土には念仏を惟唱えること、貴賤・善悪の差別はないものとしておることに基づいている。