◆◆◆2012年12月16日紀頌之の5つの漢文ブログ◆◆◆

Ⅰ.李白と李白に影響を与えた詩集
古代中国の結婚感、女性感について述べる、最大長編の漢詩訳注解説(31回分割して掲載)
為焦仲卿妻作 (まとめその1) 漢詩<32>古詩源 巻三 女性詩615 漢文委員会

Ⅱ.中唐詩・晩唐詩
 唐を代表する中唐の韓愈の儒家としての考えのよくわかる代表作の一つ
石鼓歌 韓愈 韓退之(韓愈)詩<97-#7>Ⅱ中唐詩528 漢文委員会kanbuniinkai 紀頌之の漢詩ブログ1678

Ⅲ.杜甫詩1000詩集
"●杜甫の全作品1141首のほとんどを取り上げて訳注解説するブログ 
●詩人として生きていくことを決めた杜甫が理想の地を求めてっ旅をする
●人生としては4/5前で、詩としては1/3を過ぎたあたり。 "
”成都紀行(9)” 桔柏渡 杜甫詩1000 <348>#1 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1679 杜甫1500- 519

Ⅳ.漢詩・唐詩・宋詞詩詩集
星行 韓退之(韓愈)詩<81> (12/16)


Ⅴ.晩唐五代詞詩・宋詞詩
 森鴎外の小説 ”激しい嫉妬・焦燥に下女を殺してしまった『魚玄機』”彼女の詩の先生として登場する 晩唐期の詩人 温庭筠(おんていいん)の作品を訳註解説する。
『更漏子 二』温庭筠  ⅩⅫ唐五代詞・宋詩Gs-16-2-#2 花間集 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1680

謝靈運詩 http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/1901_shareiun000.html
孟浩然の詩 http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/209mokonen01.html
李商隠詩 http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/3991_rishoin000.html
女性詩人  http://www10.plala.or.jp/kanbuniinkai/0josei00index.html




為焦仲卿妻作 (まとめその1) 漢詩<32>古詩源 巻三 女性詩615 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1677

この詩は中国に於ては比較的に少ない叙事詩の傑作で、古今稀に見る長篇である。問答体の長篇であるから、便宜上、篇を十三場面に分けて解し、ここでの掲載は通し番号#によって細分してすすめ、場面は()-枝番としている。なお詩中の登場人物を表記しておく。



登場人物00



・建安 (196―220)後漢献帝の年号
・廬江府 廬江は漢の郡名、もと安徽省廬江県西にあったが、漢未には潜山県に治を

移した。




為焦仲卿妻作其(0)

序曰:漢末建安中,廬江府小吏焦仲卿妻劉氏,
為仲卿母所遣,自誓不嫁。其家逼之,乃投水而死。

仲卿聞之,亦自縊於庭樹。時人傷之,為詩雲爾。
(前夫の)焦仲卿は、このことを伝え聞き、自分もまた庭樹の東南の枝に首を吊って
果てた。時の人は、二人のことを傷(いた)んで詩にしたと云うことである。)

とそ
の経緯が述べられている。白居易の『長恨歌』の祖型になったとも謂える。


序文にいう:後漢末の建安年間に膳江府の小役人であった焦仲卿の妻に劉氏(名は蘭芝)というものがあった。蘭芝は仲卿の母におい出された。離縁された妻・劉氏(劉蘭芝)は更なる嫁入りはしないと心に誓った。(夫の方も、必ず呼び戻すと約束した。しかし実家の方は、劉蘭芝にとって玉の輿とも謂うべき再婚を逼り、嫁入り支度も整った後、前夫に出逢って、愚痴られた。夫婦ともあの世で添い遂げようということになった。その日の夕刻、終(つい)に水に入って死んだ。





為焦仲卿妻作-其一場面 (1)-1
孔雀東南飛,五裏一徘徊。十三能織素,十四學裁衣。
孔雀か東と南に向かって分かれ飛び、互いに心をひかれ、五里行って、ときにさまよいためらいの様子である。
「わたしは十三の歳に、自絹が織れましたし、十四では着物の裁ち万も学びました。

十五彈箜篌,十六誦詩書。十七為君婦,心中常苦悲。
十五歳では、箜篌(くご)を演奏することができ、十六歳では、『詩経』や『書経』の学問をして章句を諳(そら)んじることができました。
十七のときにあなたの妻となって、心の中ではいつも苦労がたえませんでした。

君既為府吏,守節情不移。

あなたが廬江府の役人になられてからはお勤め第一にはげまれて夫婦の情にほだされることなどはありませんでした。


#2(1)-2
賤妾留空房,相見常日稀。雞鳴入機織,夜夜不得息。
わたしはあなたがいないさびしい室に留守居して、ふだんはお目にかかることもめったにないでしょう。
にわとりか鳴くと機を織りはじめ、毎晩寝ることもままならないのです。

三日斷五疋,大人故嫌遲。非為織作遲,君家婦難為。
三日間に、五疋の絹を織りあげました、母さまは故意にゆっくり織っているといって嫌われます。
しかしそれは織り方が遅いためではなく、あなたの家の嫁としての勤めが難儀なのです。

妾不堪驅使,徒留無所施。便可白公姥,及時相遣歸。
わたくしはとてもこき使われるのに堪えかねます。ただとどまっていたとて、どうにもなりません。
おしゆうと様たちに申しあげたいのです。「今のうちに里方へ帰してくださいませ。」と。



#3為焦仲卿妻作-其二場面 (2)-1#3
府吏得聞之,堂上啟阿母。兒已薄祿相,幸複得此婦。
府吏仲卿はこのことばを聞くことをえた、して、「奥座敷で母に申しあげたいことがあります。」
「わたしは不仕合せの人相をしているのでしょうが、幸いにもまたこの妻をめとることができました。」

結髮同枕席,黃泉共為友。共事二三年,始而未為久。
「髪を上に結い始めて仕官したことと同じくして枕席をともにする夫婦となって以来、黄泉のあの世までも添い遂げることにしたのです。」
そして「仕事に仕えると共に一緒の生活をした足かせ三年というもの、まだ始めたばかりで日数もたっていないのです。」

女行無偏斜,何意致不厚。
「妻の行ないに曲がったこと間違ったことがあったわけでもないのです、どういう意図があって、そんな厚情のないあっかいをなさいますか。」


#4(2)-2
阿母謂府潰何乃太區區。此婦無禮節,舉動自專由。
母は府吏が言うのを止めて謂う。「おまえはなぜまあそんなにこせこせと妻をかばうのだ。」
「この嫁は礼儀も節度もわきまえず、作法に至るや勝手気ままな振る舞いではないか。」

吾意久懷忿,汝豈得自由。東家有賢女,自名秦羅敷。
「わたしは長らく心のなかに怒りをおもっていた。おまえらの自由勝手な振舞は許しません。」
「でも、東隣には賢い女がいる。本人が自分でも秦の羅敷だというほどの器量よしなのだ。」

可憐體無比,阿母為汝求。
「その愛らしい姿は、世にもまれである。この母が、おまえのために、その娘を娶ってあげる。」


#5(2)-3
便可速遣之,遣去慎莫留。府吏長跪告,伏惟啟阿母。
「この嫁はすぐさま暇を出してしまいます。ここからおいかえしてしまうので決してとどめおいてはなりませんよ」
息子の府吏は膝まずいてうやうやしく答えるのである。「こうして謹んで母上に申しあげます。」

今若遣此婦,終老不復娶。阿母得聞之,槌床便大怒。
「今もしこの妻を出してしまうなら、わたしは生涯二度と妻をめとるということはいたしません。」
母はこれを聞きくなり、座牀をたたいてのたいへんな怒りようを示すのである。

小子無所畏,何敢助婦語。吾已失恩義,會不相從許。
「この子は親の意向を懼れる所を知らないのですか、嫁を助ける言葉ばかりをどうしていうのでしょう。
わたしはもうあの嫁に義理は持たぬばかりかお前にも恩義はない。これからはおまえに新たに添わせることなど許しはしませんよ。」



#6為焦仲卿妻作-其三場面 (3)-1
府吏默無聲,再拜還入戶。舉言謂新婦,哽咽不能語。
府吏はだまり、無言を続けたままで、お辞儀をして自分の部屋にはいっていく。
事の仔細を妻に伝えようとするが、むせび入って語ることができない。
やっと謂ったのは、

我自不驅卿,逼迫有阿母。卿但
暫還家,吾今且赴府。
「わたし自身がそなたをおい出すのではない。母にせまられたことでどうにもならないことのだ。」
府吏卿は続けて謂う「そなたはしばらく家に帰っていなさい。わたしは今から役所に
「そう長くはならずに帰宅できるはずだ。帰ればかならずそなたをよびかえす。」

#7(3)-2
以此下心意,慎勿違吾語。新婦謂府吏,勿複重紛紜。
「心をおちつけて私の言うことを理解しくれ、よく気をつけてわたしのことばどおりにして違うことをしてはいけないよ」
妻は府吏にいうのだ。「また呼び戻すなどと、そんなごたごたな面倒を重ねてはいけません。」

往昔初陽歲,謝家來貴門。奉事循公姥,進止敢自專?
「昔のことになりますが、初春の候でございました、わが家を辞してあなた様のお宅にまいりました。」
「お舅姑さまの心にそうようにとおっかえして参りました。けっしてわがままな振舞などはいたしてはおりません。」

晝夜勤作息,伶俜縈苦辛。
「昼も夜も仕事にいそしみましたし、苦労辛苦にあけくれて、やつれはててしまいました。」


#8(3)-3
謂言無罪過,供養卒大恩。仍更被驅遣,何言複來還?
わたしには別に言われるような間違いや罪などありはしません、先祖を大切にしてお舅姑さまにお仕えして大恩をまっとうしたいと思っていました。
それなのに追い出されることになったのですから、どうしてまた戻ろうなどと申すことができましょうか。

妾有繡腰襦,葳蕤自生光。紅羅複鬥帳,四角垂香囊。
わたしに刺繍の腰に巻く襦袢があります。それは女としてのはなやかな光沢のあるものです。
また、紅のうすぎぬで作った二重の枡形のとばり、四隅に香の袋がさがっているものなどがあります。

箱簾六七十,綠碧青絲繩。
それに箱の中に首飾りの六、七十の飾りの玉があり、それぞれ緑や碧や青色の飾りの紐がつけてあります。


#9(3)-4
物物各具異,種種在其中。人賤物亦鄙,不足迎後人。
「わたしのそれぞれの物がそれぞれ異なっていますし、使い道も種々のものがその中に入っています。」
「子供じみた賎しい者が持つような物と思われるかもしれませんし、つまらぬ物とおおもいかもしれません、しかし、後から来られる方々にとっては不満足なものでしかないかもしれません。」

留待作遣施,於今無會因。時時為安慰,久久莫相忘。
それでも「わしの気持ちとして、そのまま残しおいて贈り物といたします。今となっては、あなたに会うためのよすがとなってはいけませんから。」
「ときどきはやすらぎと慰めになるとおもいます、いついつまでもお忘れないでくださいませ。」と。



#10為焦仲卿妻作-其四場面 (4)-1
雞鳴外欲曙,新婦起嚴妝。著我繡夾裙,事事四五通。
この嫁は、難が鳴いて、外は夜明けになろうとするころには、新嫁妻として早起きをしてきちんと身仕度をします。
刺繍のあわせ袴をきちんと着け、そのほかの服飾四、五種を一品ごとに身におびます。

足下躡絲履,頭上玳瑁光。腰若流紈素,耳著明月璫。
足には絹糸の履をはき、頭にはべっこうのかんざしを光らせます。
腰にまとうた細織りの白の練り絹は流れる水のようであり、耳には明月のような環をつけるのです。

指如削蔥根,口如含珠丹。纖纖作細步,精妙世無雙
指はねぎの根を削ったようにきれいにととのえ、口には丹ぬりの真珠を含んだようにするのです。
しつけ通りになよなよと小また歩みを進めることにきをつけており、そのすぐれた美しさは世にまたとないほどであるのである。



#11(4)-2
上堂謝阿母,阿母怒不止。昔作女兒時,生小出野裏。
奥座敷にあがって母に別れの挨拶をすると、母上はとめどなく怒っている。
「昔、わたしが子供娘であったときですが、生まれが田舎ものであるままに家を出たのです。

本自無教訓,兼愧貴家子。受母錢帛多,不堪母驅使。
もとより教養、義訓を重ねていないもので、それなのに貴宅の嫁となることはなどとは恥入るものと思いました。
こちらに嫁して母上さまから金子銭や絹織物をたくさん頂戴しましたが、今にしてお役に立たないままというのは堪えられないことです。

今日還家去,念母勞家裏 。
こうして今日、実家に帰ります、後のこと、母上さまは家の裏方の事、労をかけることになりました。」と。


#12(4)-3
卻與小姑別,淚落連珠子。新婦初來時,小姑始扶床。
こんどはまだあどけない小姑と別れをする。涙が連子の玉飾りのように落ちてくる。
「わたしがお嫁にはじめて来たときのこと、あなたはやっと寝台につかまり立ちし始めたころでした。

今日被驅遣,小姑如我長。勤心養公姥,好自相扶將。
今日、わたしはお宅を出されて実家に帰ることになりました。あなたがやがてわたしほどになります。
そうしたら、心をこめて御両親につくしてください。ご自分の身はご自分で十分よくご大切にしてくださいね。

初七及下九,嬉戲莫相忘。出門登車去,涕落百餘行。
月初めの七の日や月の終わりの二十九日に楽しく遊びましたね、私も忘れないのでどうかあなたも忘れないでください。」
こうしてこの家の門を出て車に乗って去ってゆくのだが、涙は雨のようはらはらと行列をなして落ちるのだ。