李白 春思
燕草如碧絲,秦桑低綠枝。當君懷歸日,是妾斷腸時。春風不相識,何事入羅幃。
(春になって折楊柳に安全を祈る、そして、秦の羅敷のように貞操感高く桑を積んでいる。それでも、その思いを知ってか知らずか、羅幃の中へ春風は入ってくると詠う。)
燕の地は、北方の寒い處で、春のくることも遅いから、今しも漸く碧の絲のような細い芽が草に出た位、しかるに長安附近では、最早、桑の葉が茂って、緑の枝を垂れている。君は燕にあり、我は秦に在り、君がかえることを懐う日は、即ち妾が心腸を断つおもいがつのる時である。これほどの思いをしている我が思いを知らずして、羅幃に吹きこんでいる春風は、まことに気の知れないつれないものである。
743年(52)李白 巻五 25-《春思》(燕草如碧絲,) Index-23Ⅲ― 2-743年天寶二年43歳 94首-(52) <李白> Ⅰ李白詩1710 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ7098
年:743年天寶二年43歳 94首-(52)
卷別: 卷一六五 文體: 樂府
詩題: 春思
作地點:長安(京畿道 / 京兆府 / 長安)
及地點:無
春思
(春になって折楊柳に安全を祈る、そして、秦の羅敷のように貞操感高く桑を積んでいる。それでも、その思いを知ってか知らずか、羅幃の中へ春風は入ってくると詠う。)
燕草如碧絲,秦桑低綠枝。
燕の地は、北方の寒い處で、春のくることも遅いから、今しも漸く碧の絲のような細い芽が草に出た位、しかるに長安附近では、最早、桑の葉が茂って、緑の枝を垂れている。
當君懷歸日,是妾斷腸時。
君は燕にあり、我は秦に在り、君がかえることを懐う日は、即ち妾が心腸を断つおもいがつのる時である。
春風不相識,何事入羅幃。
これほどの思いをしている我が思いを知らずして、羅幃に吹きこんでいる春風は、まことに気の知れないつれないものである。
(春思)
燕草は 碧絲の如く,秦桑は 綠枝を 低たる。
君が 歸るを懷う日に 當り,是れ妾が腸を斷つの時。
春風 相い識らず,何事ぞ 羅幃に
入る。
『春思』 現代語訳と訳註解説
(本文)
春思
燕草如碧絲,秦桑低綠枝。
當君懷歸日,是妾斷腸時。
春風不相識,何事入羅幃。
(下し文)
(春思)
燕草は 碧絲の如く,秦桑は 綠枝を 低たる。
君が 歸るを懷う日に 當り,是れ妾が腸を斷つの時。
春風 相い識らず,何事ぞ 羅幃に
入る。
(現代語訳)
春思(春になって折楊柳に安全を祈る、そして、秦の羅敷のように貞操感高く桑を積んでいる。それでも、その思いを知ってか知らずか、羅幃の中へ春風は入ってくると詠う。)
燕の地は、北方の寒い處で、春のくることも遅いから、今しも漸く碧の絲のような細い芽が草に出た位、しかるに長安附近では、最早、桑の葉が茂って、緑の枝を垂れている。
君は燕にあり、我は秦に在り、君がかえることを懐う日は、即ち妾が心腸を断つおもいがつのる時である。
これほどの思いをしている我が思いを知らずして、羅幃に吹きこんでいる春風は、まことに気の知れないつれないものである。
(訳注)
春思
(春になって折楊柳に安全を祈る、そして、秦の羅敷のように貞操感高く桑を積んでいる。それでも、その思いを知ってか知らずか、羅幃の中へ春風は入ってくると詠う。)
【題義】「春思」は、古楽府の題にはないが、李白には、「秋思」という詩が二首ある。作時期の違いはあるが、思婦につぃて詠ったものである。この「春思」詩に関連した詩は次に述べる。
秋思・春思 |
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《巻五 24秋思》 春陽如昨日、碧樹鳴黃鸝。 蕪然蕙草暮、颯爾涼風吹。 天秋木葉下、月冷莎雞悲。 坐愁群芳歇、白露凋華滋。 |
(秋思) 春陽は昨日の如く、碧樹に黃鸝を鳴かしむ。 蕪然たる蕙草の暮、颯爾として涼風吹く。 天は秋にして 木葉下り、月は冷やかにして莎雞悲む。 坐に愁う 群芳歇み、白露 華は凋まして滋きを。 |
《巻五 25-春思》 燕草如碧絲,秦桑低綠枝。 當君懷歸日,是妾斷腸時。 春風不相識,何事入羅幃。 |
(春思) 燕草は 碧絲の如く,秦桑は 綠枝を 低たる。 君が 歸るを懷う日に 當り,是れ妾が腸を斷つの時。 春風 相い識らず,何事ぞ 羅幃に 入る。 |
《巻五 26秋思》 燕支黃葉落,妾望自登臺。 海上碧雲斷,單于秋色來。 胡兵沙塞合,漢使玉關回。 征客無歸日,空悲蕙草摧。 |
(秋思) 燕支 黃葉落つ,妾は望んで 自ら臺に登る。 海上 碧雲斷え,單于 秋色來る。 胡兵 沙塞に合し,漢使 玉關より回る。 征客 歸える日無し,空しく 蕙草の摧くるを悲む。 |
燕草如碧絲、秦桑低綠枝。
燕の地は、北方の寒い處で、春のくることも遅いから、今しも漸く碧の絲のような細い芽が草に出た位、しかるに長安附近では、最早、桑の葉が茂って、緑の枝を垂れている。
*季節も変わり、月日も流れた…、という時間経過を表している。
1.
燕草:北国である燕国の草。夫のいるところをさす。 ・燕:〔えん〕北国の意で使われている。現・河北省北部。 ・如:…のようである。
2.
碧絲:緑色の糸。 ・碧:みどり。あお。後出「綠」との異同は、どちらも、みどり。「碧」〔へき〕は、碧玉のような青緑色。青い石の色。「綠」〔りょく〕は、みどり色の絹。
3.
秦桑:(ここ)長安地方のクワ。陌上桑の羅敷 ・秦:〔しん〕、女性のいる場所の長安を指している。 ・低:低くたれる。 秦桑 秦地、即ち長安附近の桑、自己の居るところをさす。《巻五02 -陌上桑》「綠條映素手,採桑向城隅。」(綠條 素手に映じ,桑を採って城隅に向う。)陌上桑には二つある。一には、李白がこの詩、子夜吳歌に述べた羅敷「秦氏有好女,自名為羅敷。」であり、二は魯の秋胡の妻、《列女伝 秋胡子》「潔婦者,魯秋胡子妻也。」、顔延之(延年)《秋胡詩》のこと、李白はこの詩の後半最後に「使君且不顧,況復論秋胡。徒令白日暮,高駕空踟躕。」と述べている。
4.
綠枝:緑色の枝。
當君懷歸日、是妾斷腸時。
君は燕にあり、我は秦に在り、君がかえることを懐う日は、即ち妾が心腸を断つおもいがつのる時である。
5.
君:(いとしい)あなた。男性側のこと。
6.
當:…あたる。
7.
懷歸日:戻ってこようと思う日。(彼女に告げていた)帰郷の予定日。
8.
是:(それは)…である。
9.
妾:〔しょう〕わたし。女性の謙遜を表す自称。
10.
斷腸:腸(はらわた)が断ち切られるほどのつらさや悲しさ。
*この聯は、いつになっても帰ってこない男性を、ひたすら待つ身のやるせなさを謂う。
春風不相識、何事入羅幃。
これほどの思いをしている我が思いを知らずして、羅幃に吹きこんでいる春風は、まことに気の知れないつれないものである。
11.
不相識 顔見知りの人ではない。知り合いの人ではない。
12.
何事 どうしたことか。
13.
羅幃〔らゐ〕薄絹のとばり。
*わたし(=女性)の切なく淋しい胸の内を理解して、春風は慰めてくれているのであろうか。