李白研究05 清平調詞について <李白研究05> Ⅰ李白詩1702 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ7058
李白 清平調について
楽府の一つ。唐の玄宗が楊貴妃と沈香亭で牡丹をながめて楽しんだとき、李白が勅を受けて作ったもの。楽府には、清調・平調・瑟調があったが、李白が、清調と平調を合わせて清平調三章を作った。
清平調とは、欒律の名で、
通典に「『清商三調』,而其初,則是僅有『清商』曲之稱.我們如今就來談漢朝起初的『清商』曲的古琴的訂弦法.而唐朝杜佑《通典》:『平調、清調、瑟調,皆周房中曲之遺聲,漢世謂之三調。』則似漢代己有清商三調的稱呼了.」
(『清商三調』,而其初,則是僅有『清商』曲之稱.我們如今就來談漢朝起初的『清商』曲的古琴的訂弦法.而唐朝杜佑《通典》:平調、清調、瑟調は皆周の房中曲の遺聲、漢世、これを三調といい、すべて相和調という。則似漢代己有清商三調的稱呼了.」とある。
李白の巻四30・31・32-《清平調詞,三首之一・二・三》詩は、沈香亭の牡丹の宴に際し、勅命に因って作ったので、清調平調の二つを合して曲に譜したから、清平調といったので、もとより詩題ではない。それから、李白が勅命に因って作ったのは、この詩と宮中行楽詞十首とであるが、これに就いては、後人の記述が錯雑して、傳聞異辭、頗る多く、紛粉として、歸著するところを知らぬようである。そこで、今正史たる新舊唐書の文を挙げ、それから他の雑書の説をも引抄して、一わたり、研究して見ようと思う。但し、是等は、大抵、王埼註文の序誌碑傳年譜などに集めてあるので、何もここで新たに詮議したわけではないこと一言ここに断って置く。
劉句の《舊唐書》
「白既嗜酒,日與飲徒醉於酒肆。玄宗度曲,欲造樂府新詞,亟召白,白已臥於酒肆矣。召入,以水灑面,即令秉筆,頃之成十餘章,帝頗嘉之。嘗沉醉殿上,引足令高力士脫靴,由是斥去。乃浪?江湖,終日沉飲。時侍御史崔宗之謫官金陵,與白詩酒唱和。」
(白、すでに酒をたしなみ、日に飲徒とともに酒肆に酔う。玄宗、曲を度して、楽府新調を造らんと欲し、すみやかに白を召す。年すでに酒肆に臥す。召し入るとき、水を以て面に灌ぎ、即ち筆を秉らしむ。これに頃くして、十餘草を成す。帝、頗る之を嘉す。かつて、殿上に沈醉し、高力士をして、靴を脱せしむ。これに由って、斥け去られ、乃ち江湖に浪跡し、終日沈飲す。時に侍御史崔宗之は金陵に謫官し,白詩と酒と唱和す。」とある。
次に宋祁の《新唐書・李白傳》
「玄宗,召見金鑾殿,論當世事,奏頌一篇。帝賜食,親為調羹,有詔供奉翰林。白猶與飲徒醉於市。帝坐沈香亭子,意有所感,欲得白為樂章;召入,而白已醉,左右以水靧面,稍解,援筆成文,婉麗精切無留思。帝愛其才,數宴見。白嘗侍帝,醉,使高力士脫靴。力士素貴,恥之,擿其詩以激楊貴妃,帝欲官白,妃輒沮止。白自知不為親近所容,益驁放不自脩,與知章、李適之、汝陽王璡、崔宗之、蘇晉、張旭、焦遂為「酒八仙人」。懇求還山,帝賜金放還。白浮游四方,嘗乘舟與崔宗之自采石至金陵,著宮錦袍坐舟中,旁若無人。」
(玄宗、金鑾殿に召し見て、当世の事を論じ、頌一篇を奏す。帝、食を賜ひ、親ら爲に羹を調す、詔あり、翰林に供奉せしむ。白、なお飲徒と市に醉ふ。帝、沈香亭中に坐し、意咸ずるところあり、白を得て樂章を爲らしめむと欲し、召し入るれば、白、すでに醉へり。左右、水を以て面に注ぎ、稍々や解くるや、筆をとって之を成す、艶麗精切にして、恩を留むるなし。帝、その才を愛し、数ば宴飲す。
白、常に帝に侍し、酔うて、高力士をして靴を脱せしむ。力士顕貴、これを恥とし、その詩を摘まんで、以て楊貴妃を激す。帝、白を官せむと欲す、妃、輒ち沮んで止む。白、自ら近親に容れられざるを知り、益す驁放にして、自ら修せず、賀知章、李適之、汝陽王璡、崔宗之、蘇晉、張旭、焦遂とともに、酒中の八仙人となり、懇ろに山に還るを求む。帝、金を賜うて放還す。白 四方に浮游し,嘗て與崔宗之と乘舟し 采石より金陵に至る,宮錦袍を著し舟中に坐す,旁若無人。」とある。
《新唐書》卷二百二〈文藝列傳中·李白〉~5762~
天寶初,南入會稽,與吳筠善,筠被召,故白亦至長安。往見賀知章,知章見其文,歎曰:「子,謫仙人也!」言於玄宗,召見金鑾殿,論當世事,奏頌一篇。帝賜食,親為調羹,有詔供奉翰林。白猶與飲徒醉于市。帝坐沈香子亭,意有所感,欲得白為樂章,召入,而白已醉,左右以水面,稍解,授筆成文,婉麗精切,無留思。帝愛其才,數宴見。白嘗侍帝,醉,使高力士脫靴。力士素貴,恥之,擿其詩以激楊貴妃,帝欲官白,妃輒沮止。白自知不為親近所容,益驁放不自脩,與知章、李適之、汝陽王璡、崔宗之、蘇晉、張旭、焦遂為「酒八仙人」。懇求還山,帝賜金放還。白浮游四方,嘗乘月與崔宗之自采石至金陵,著宮錦袍坐舟中,旁若無人。
(天寶の初め,南の方會稽入る,與筠と善くす,筠被召し,故に白 亦た長安に至る。往いて賀知章に見う,知章 其の文を見て,歎して曰く:「子,謫仙人也!」於れを玄宗に言う,金鑾殿に召して見う,論 世事に當る,頌一篇を奏す。食を賜ひ、親ら爲に羹を調す、詔あり、翰林に供奉せしむ。白、なお飲徒と市に醉ふ。帝 沈香子亭に坐し,意 感ずる所有r,白を得て樂章を為らしめんと欲し,召し入るれば,白 已に醉えり,左右、水を以て面に注ぎ、稍々や解くるや、筆をとって之を成す、艶麗精切にして、恩を留むるなし。帝、その才を愛し、数ば宴飲す。
白、常に帝に侍し、酔うて、高力士をして靴を脱せしむ。力士顕貴、これを恥とし、その詩を摘まんで、以て楊貴妃を激す。帝、白を官せむと欲す、妃、輒ち沮んで止む。白、自ら近親に容れられざるを知り、益す驁放にして、自ら修せず、賀知章、李適之、汝陽王璡、崔宗之、蘇晉、張旭、焦遂とともに、酒中の八仙人となり、懇ろに山に還るを求む。帝、金を賜うて放還す。白 四方に浮游し,嘗て與崔宗之と乘舟し 采石より金陵に至る,宮錦袍を著し舟中に坐す,旁若無人。)
舊唐書、新唐書、二書の記するところ、各も詳略はあるも、李白の作ったのは、欒府新調、もしくは楽章というだけで、詩を特定しているわけではない。しかし、舊唐書には十餘章とあるから、宮中行楽詞を指したものらしく、新書には、「帝 沈香亭中に坐す」とあるから、どうやら、興慶宮の龍池のほとり沈香亭の前の牡丹を詠じた清平調詩らしいが、これだけでは、どうも確定まではできない。それから孟棨の本事詩は、前に宮中行楽詞の候下に引いたが、明かに、同詞である。
次に太平廣記に引ける韋叡の松窓録は、一番詳しく、
「開元中,禁中初重木芍藥,即今牡丹也。《開元天寶》花呼木芍藥,本記云禁中為牡丹花。得四本紅、紫、淺紅、通白者,上因移植於興慶池東沉香亭前。會花方繁開,上乘月夜召太真妃以步輦從。詔特選梨園子弟中尤者,得樂十六色。」(開元中、禁中、はじめて木芍薬を重んず、即ち今の牡丹なり。四本、紅、紫、浅紅、通白なるものを得たり。上、輿慶地東の沈香亭前に移植す。たまたま、花、まさに繁開す。上、照夜白の馬に乗じ、太眞妃、歩輦を以て従う。詔して、特に梨園弟子中の尤なるものを選び、樂十六部を得たり。)
李龜年手捧檀板,押眾樂前,將欲歌。上曰:"賞名花對妃子焉用舊樂辭?"為遽命,龜年持金花箋,宣賜翰林學士李白進清平調辭三章,白欣承詔旨,猶苦宿醒未解,援筆賦: 雲想衣裳花想容,
春風拂檻露華濃。
若非群玉山頭見,
會向瑤台月下逢。
一枝紅豔露凝香,
雲雨巫山枉斷腸。
借問漢宮誰得似,
可憐飛燕倚新妝。
名花傾國兩相歡,
常得君王帶笑看。
解釋春風無限恨,
沉香亭北倚欄幹。
龜年捧詞進,上命黎園弟子約略詞調撫絲竹,遂捉龜年以歌。妃持頗黎七寶杯,酌西涼州葡萄酒,笑領歌意甚厚。
(李亀年、歌を以て一時の名をほしいままにす、手に檀板を捧げ、衆樂を押して前み、将に之を歌はむとす。上曰く、名花を賞し、妃子に対す、焉んぞ、舊樂詩を用ふるを爲さむ、と。遂に亀年に命じ、金花箋を持し、翰林供奉李白に宣賜し、立どころに、清平調辭三首を進めしむ。白、欣然として旨を承け、なお宿酲未だ解けざるに苦みつつ、因って、筆を援って之を賦す。その辭に曰く、云云と。龜年、遽に辭を以て進む。上、梨園の弟子に命じ、約略、絲竹を調撫し、遂に龜年を促し、以て歌はしむ。太眞妃、披璃七賓盞を持して、西涼州の蒲桃酒を酌み、笑って歌意を領する、甚だ惇し。)
上因調玉笛以倚曲,每曲遍將換,則遲其聲以媚之。太真飲罷,斂繡巾重拜上。龜年常語於五王,獨憶以歌得自勝者,無出於此,抑亦一時之極致耳。上自是顧李翰林尤異於他學士。
(上、因って、玉笛を調し、以て曲に倚り、曲遍、將に換らむとする毎に、すなはち、其聲を遅くして、以て之に媚ぶ。太眞妃、飲罷んで、繍巾を斂め、重ねて、上を拝す。龜年、常に五王に語る、ひとり憶ふに、歌を以て自ら勝るを得るもの、これより出づるはなしと。抑も、亦一時の極致のみ。上、これより一、李翰林を顧みること、尤も他の學士に異なり)とあって、ここには、明かに清平調としてある。それから、李陽氷の草堂集序には「天寳中,皇祖下詔,徵就金馬,降輦歩迎,如見綺皓,以七寳牀賜食,御手調羮以飯之,謂曰:卿是布衣,名為朕知,非素蓄道義,何以及此。?'置於金鑾殿, 出入翰林中, 問以國政, 潛草詔誥, 人無知者。」(天寶中、皇祖〔玄宗を指す〕詔を下し、徴して、金馬に就かしめ、輦を降って歩迎し、綺晧を見るが如く、七寶牀を以て食を賜ひ、御手子、羹を調し、以て之に飲ましむ。謂って日く、卿は是れ布衣なるも、名、朕に知らる、素より道義を蓄ふるに非ざれば、何を以て、此に及ばむと。金鑾殿に置き、翰林中に出入し、問ふに国政を以てし、潜に詔誥を草せしむ、人、知るものなし)とあって、酔中に詩を賦した事などは、少しも書いてない。勿諭、陽氷は、太白の族叔であるから、この序中には、唯だ大なるものを挙げて、その他を略したのであらう。