秋日登揚州西霊塔 李白 Kanbuniinkai紀頌之の漢詩 李白350-205
秋日登揚州西霊塔 李白
宝塔凌蒼蒼、登攀覧四荒。
宝塔は 青々とした大空を凌駕するように立っている、登ってみれば 世界の果てまですべて見渡せる。
頂高元気合、標出海雲長。
宝塔の頂は高く聳えて森羅万象の基本となる「気」が集合しておるのだ、その先端は抜き出ており、海、雲より長いのだ。
万象分空界、三天接画梁。
宝塔の頂は高く聳えて森羅万象の基本となる「気」が集合しておるのだ、その先端は抜き出ており、海、雲より長いのだ。
水揺金刹影、日動火珠光。』
金色に輝くこの寶塔の影は池の水面に揺れ動く、太陽のかがやきは、 火の珠(たま)で輝き動いているのだ。
鳥払瓊簷度、霞連繡栱張。
赤玉で飾った軒端をかすめて鳥は飛びかう、夕焼けの空は、四方に張った幔幕の向こうに拡がっている。
目随征路断、心逐去帆揚。
宝塔から見る目は旅路の見える限りをみつめるのである、そして心は、去りゆく船の帆影を高めていてそれを追いかける。
露浩梧楸白、風催橘柚黄。
晩秋の桐や楸(ひさぎ)の実は、露を受けて白くなっている、風に吹かれて蜜柑は熟れ黄色に色付きゆれる。
玉毫如可見、於此照迷方。』
もしも玉毫の仏は一万八千世界を見とおせるという、そのちからで、いまここで迷える方向を照らしてほしい。
秋日登揚州西霊塔 李白 現代語訳と訳註、解説
(本文)
宝塔凌蒼蒼、登攀覧四荒。
頂高元気合、標出海雲長。
万象分空界、三天接画梁。
水揺金刹影、日動火珠光。』
鳥払瓊簷度、霞連繡栱張。
目随征路断、心逐去帆揚。
露浩梧楸白、風催橘柚黄。
玉毫如可見、於此照迷方。』
(下し文)
(下し文) 秋日 揚州の西霊塔に登る
宝塔(ほうとう)は蒼蒼(そうそう)を凌(しの)ぎ、登攀(とうはん)して四荒(しこう)を覧(み)る。
頂きは高くして元気(げんき)と合し、標(ひょう)は出でて海雲(かいうん)長し。
万象(ばんしょう) 空界(くうかい)を分(わか)ち、三天(さんてん) 画梁(がりょう)に接す。
水は金刹(こんせつ)の影を揺(うご)かし、日は火珠(かしゅ)の光を動かす。
鳥は瓊簷(けいえん)を払って度(わた)り、霞(か)は繡栱(しゅうきょう)に連なって張(は)る。
目は征路(せいろ)に随って断(た)え、心は去帆(きょはん)を逐(お)うて揚(あ)がる。
露浩(おお)しくて梧楸(ごしゅう)白く、風催(うなが)して橘柚(きつゆう)黄なり。
玉毫(ぎょくごう) 如(も)し見る可(べ)くんば、此(ここ)に於いて迷方(めいほう)を照らさん。
(現代語訳)
宝塔は 青々とした大空を凌駕するように立っている、登ってみれば 世界の果てまですべて見渡せる。
宝塔の頂は高く聳えて森羅万象の基本となる「気」が集合しておるのだ、その先端は抜き出ており、海、雲より長いのだ。
金色に輝くこの寶塔の影は池の水面に揺れ動く、太陽のかがやきは、 火の珠(たま)で輝き動いているのだ。
赤玉で飾った軒端をかすめて鳥は飛びかう、夕焼けの空は、四方に張った幔幕の向こうに拡がっている。
宝塔から見る目は旅路の見える限りをみつめるのである、そして心は、去りゆく船の帆影を高めていてそれを追いかける。
晩秋の桐や楸(ひさぎ)の実は、露を受けて白くなっている、風に吹かれて蜜柑は熟れ黄色に色付きゆれる。
もしも玉毫の仏は一万八千世界を見とおせるという、そのちからで、いまここで迷える方向を照らしてほしい。
(語訳と訳註)
宝塔凌蒼蒼、登攀覧四荒。
宝塔は 青々とした大空を凌駕するように立っている、登ってみれば 世界の果てまですべて見渡せる。
○蒼蒼 大空が青々と広がっているさま。 ○登攀 上りあががること。 ○四荒 四方の果ての先には海があると考えられていた。天涯、など。
頂高元気合、標出海雲長。
宝塔の頂は高く聳えて森羅万象の基本となる「気」が集合しておるのだ、その先端は抜き出ており、海、雲より長いのだ。
万象分空界、三天接画梁。
すべての自然の現象というものは、空の界を分けている、天、地、人と日、月、星の三霊三界は、天の架け橋の梁に接している。
水揺金刹影、日動火珠光。
金色に輝くこの寶塔の影は池の水面に揺れ動く、太陽のかがやきは、 火の珠(たま)で輝き動いているのだ。
○金刹 金色に輝くこの寶塔
鳥払瓊簷度、霞連繡栱張。
赤玉で飾った軒端をかすめて鳥は飛びかう、夕焼けの空は、四方に張った幔幕の向こうに拡がっている。
○瓊簷 赤玉の彫刻で飾った軒端。○繡栱張 四方に張った幔幕。
目随征路断、心逐去帆揚。
宝塔から見る目は旅路の見える限りをみつめるのである、そして心は、去りゆく船の帆影を高めていてそれを追いかける。
露浩梧楸白、風催橘柚黄。
晩秋の桐や楸(ひさぎ)の実は、露を受けて白くなっている、風に吹かれて蜜柑は熟れ黄色に色付きゆれる。
○梧楸白 桐や楸(ひさぎ)の実
玉毫如可見、於此照迷方。
もしも玉毫の仏は一万八千世界を見とおせるという、そのちからで、いまここで迷える方向を照らしてほしい。
○照迷方 一万八千世界、迷えるものの行く末を照らすこと。
(解説)
・詩型 五言排律
・押韻 蒼、荒。長。梁。光。/張。揚。黄。方。
揚州に向かっていた李白が、揚州に着いたころ、晩秋になっていた。揚州の「西霊塔」(せいれいとう)は、当時の塔のなかでは最も高いものであった。ここにきたものは必ず西霊塔に登った。
塔から夕焼けの空が「繡栱」(桝形)の向こうに拡がっているのを眺め、旅の行く末を思い、揚州の渡津(としん)を出てゆく船の帆影に胸の高まるのを覚えた。しかし、自然がおのずからその実りをもたらすように、自明のこととして自分の将来を見定めることはできません。
「玉毫」は仏の額の巻き毛のことで、東方一万八千世界を照らすといいます。もしも未来が分かるというのなら、いまここで迷える方向を照らしてほしいと詩を結び、李白は東魯を旅立っては来たものの行くべき人生の方向が定まらず、心に迷いを生じていることを告白しています。