李陵 《與蘇武詩三首 其一》#2風に吹かれ一たびその場所をうしなってしまい、すると、連れそう雲もおのおの天の一方に隔てられてしまう。われらもまたこれと同じように、長くここから別れ去ることになるのだ。名残りを惜しみ、またもやそこに立ちどまる。
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前漢・李陵 與蘇武詩 三首其一
與蘇武詩 其一#1
(別れに際して蘇武に与える詩 其の一)
良時不再至,離別在須臾。
今別れたら再会の楽しいときは二度とこないのに、離別のときはたちまち迫ってくる。
屏營衢路側,執手野踟蹰。
分かれ路に立ってはためらい、手を取り合っては野道に立ち止まる。
仰視浮雲馳,奄忽互相踰。
仰ぎ見る空には、浮き雲が浮かびとびかい、先になり、あとになりしてたちまち遠ざかってゆく。
#2
風波一失所,各在天一隅。
風に吹かれ一たびその場所をうしなってしまい、すると、連れそう雲もおのおの天の一方に隔てられてしまう。
長當從此別,且復立斯須。
われらもまたこれと同じように、長くここから別れ去ることになるのだ。名残りを惜しみ、またもやそこに立ちどまる。
欲因晨風發,送子以賤躯。
ああ、せめてこの朝風の吹いてくるときに、この身を載せて、君を送って何処までもお供をしたいのだ。
蘇武に與うる詩 其の一
良時 再びは至らず,離別 須臾【しゅゆ】に在り。
衢路【くろ】の側に屏營【へいえい】し,手を執【と】りて野に踟蹰【ちちう】す。
仰【あお】いで浮雲の馳【は】するを視【み】るに,奄忽【えんこつ】として互【たが】ひに 相い踰【こ】ゆ。
#2
風波に一たび所を失へば,各ゝ【おのおの】天の一隅に在り。
長く當【まさ】に此れ從り 別るべくも,且(しばら)く復た立ちて 斯須【ししゅ】す。
晨風の發するに因って,子を送るに賤躯【せんく】を 以てせんと欲っす。
『與蘇武詩 其一』現代語訳と訳註
(本文)#2
風波一失所,各在天一隅。
長當從此別,且復立斯須。
欲因晨風發,送子以賤躯。
(下し文)
(蘇武に與うる詩 其の一)
風波に一たび所を失へば,各ゝ【おのおの】天の一隅に在り。
長く當【まさ】に此れ從り 別るべくも,且(しばら)く復た立ちて 斯須【ししゅ】す。
晨風の發するに因って,子を送るに賤躯【せんく】を 以てせんと欲っす。
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(現代語訳)
風に吹かれ一たびその場所をうしなってしまい、すると、連れそう雲もおのおの天の一方に隔てられてしまう。
われらもまたこれと同じように、長くここから別れ去ることになるのだ。名残りを惜しみ、またもやそこに立ちどまる。
ああ、せめてこの朝風の吹いてくるときに、この身を載せて、君を送って何処までもお供をしたいのだ。
(訳注)
與蘇武詩 其一
(別れに際して蘇武に与える詩 其の一)
・與蘇武詩:『文選』第二十九巻に李少卿(李陵)として『与蘇武詩三首』の其一として載っている。『古詩源』卷二「漢詩」の中にもある。この作品は後人の偽作といわれる。
・李陵:前漢の名将。字は少卿。騎都尉として、匈奴の征討をし、五千で以て八万の単于軍とよく奮戦した。簡潔に「以少撃衆,歩兵五千人渉單于庭」と表されている。孤軍の歩兵のため、武運が尽き、匈奴に降りた。単于は、李陵を壮として、単于の女(むすめ)を妻として与え、右校王に取り立てた。(『漢書・…・李陵列傳』) 彼はその地で二十余年を過ごし、そこで歿した。蘇武とともにこの時代を彩る人物。李陵、蘇武は、ともに漢の武帝の対匈奴積極攻略策で犠牲となったと謂える人物。二人は、漢の地、胡の地双方を通じての知己で、古来、両者を比して論じられる。一方の蘇武は、匈奴に使いしたが拘留されて十九年匈奴の地にさまよった。しかしながら節を持して、屈服しなかった。
良時不再至,離別在須臾。
今別れたら再会の楽しいときは二度とこないのに、離別のときはたちまち迫ってくる。
・良時:すばらしい時。蘇武と共に過ごす時、この餞別の宴のことになる。通常は女性と閨を共にすることを云う。
・不再:二度とは…ない。一度目はあったが、二度目はないこと。
・至:来る。いたる。
・離別:別離。
・在:…にある。
・須臾:しばらく。しばし。ゆるゆる。ここでは、短時間で、まもなく、の意になる。
屏營衢路側,執手野踟蹰。
分かれ路に立ってはためらい、手を取り合っては野道に立ち止まる。
・屏營:不安に思ってさまようさま。彷徨する。おそれる。ためらう。
・衢路:分かれ道。岐路。李陵と蘇武の人生の分かれ道。
・側:かたわら。そば。わき。
・執手:手をとる。「携手」は男女間の情愛を形で表すときに使い、女性との別れの詩にふさわしいもの。
・野:町はずれ。郊野。前出「衢路」は、大路であって、「野」は町はずれ、また、町外れにある野道。
・踟蹰 ものが行き悩むさま。ためらう。躊躇する。
仰視浮雲馳,奄忽互相踰。
仰ぎ見る空には、浮き雲が浮かびとびかい、先になり、あとになりしてたちまち遠ざかってゆく。
・仰視:仰ぎ見る。
・浮雲:はぐれ雲。浮かんでいる雲。あてどなく空に浮かぶ雲。あてどなく流離う旅人のことでもあり、匈奴の地に留め置かれた蘇武と李陵のことをもいう。
・馳:はせる。かける。ゆく。雲が流れることだが、雲が別れ別れになって流れていくことであって、やがて来る別離を暗示するもの。
・奄忽:たちまち。にわかに。『古詩十九首之十一』に「廻車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」と使われている。
古詩十九首之十一 漢の無名氏(11) 漢詩<98>Ⅱ李白に影響を与えた詩530 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1407
風波一失所,各在天一隅。
風に吹かれ一たびその場所をうしなってしまい、すると、連れそう雲もおのおの天の一方に隔てられてしまう。
・互相:たがいに。相互に。
・踰:こえる。こす。すぎる。とびこす。蘇武が李陵を越えて帰国することも暗示している。
・風波:吹き寄せる風。世の中の風の動き。黄河の最北、陰山山脈あたりの湿地帯を意味する。
・一:ひとたび。
・失所:居る所をうしなう。
・各在:おのおの…にある(いる)。それぞれが別々にいる。
・天一隅:天の(反対側の)片隅。
長當從此別,且復立斯須。
われらもまたこれと同じように、長くここから別れ去ることになるのだ。名残りを惜しみ、またもやそこに立ちどまる。
・長:ずっと。ながく。
・當:まさに…べし。…当然………ことになるだろう。
・從此:これより。今より。
・別:別れる。
・且:しばし。しばらくの間。短時間を指す。
・復:また。
・立:馬より下り立つ。立ち止まる。
・斯須:「須臾」に同じ。しばらく。しばし。ゆるゆる。ここでは、ゆるゆる、の意になる」。
欲因晨風發,送子以賤躯。
ああ、せめてこの朝風の吹いてくるときに、この身を載せて、君を送って何処までもお供をしたいのだ。
・欲因:…によって…したい。ここでは、気後れして「屏營」「斯須」いた李陵の気持ちを促す働きをしている。
・晨風:朝風。また、鳥の名で、ハヤブサ、鷹の仲間。
・晨:朝。
・發:起こる。(風が)吹いてくる。
・送:見送る。送別する。おくる。
・子:あなた。貴男。
・以:…で。(賎しい身)で。
・賤躯:いやしい身。ここでは、敵・匈奴の地に住み続ける李陵が、へりくだって自分のことを指していったことば。もっとも漢代の詩の『虞美人歌』には「漢兵已略地,四方楚歌聲。大王意氣盡,賤妾何聊生。」とあり、本来は女性の自称。