李白 江上寄元六林宗#2
涼風何蕭蕭,流水鳴活活。浦沙淨如洗,海月明可掇。蘭交空懷思,瓊樹詎解渴。勗哉滄洲心,歲晚庶不奪。幽賞頗自得,興遠與誰豁。
時しも、涼風蕭蕭として吹き来たり、穎水の汚れないながれる水音は、活活として聞える。その邊一帯は、浦上の白沙、浄くして、さながら洗うが如く、海上より差し上る明月の影は、円かにして、拾い取ることも出来そうである。かくて、その臭い蘭の如しというような交誼を結んで居た君の事を懐えば、わが心、渇するが如く、そして、瓊樹の仙藥を以てするも、これを医薬とすることは出きない。われは、この世を去って、滄洲に浮びたいという出世間的願望を持って居るが、この上とも、自重するが善いので、いくら、老年に成っても、その志は奪われずに、依然として居たいものである。かくて、天然の好景を見るにつけて、幽賞おかず、心に自得すれば、淸興自ら遠く、ただ誰かと共にして、此胸を豁開すれば、なお更面白かろうといふので、是非君と一緒に居たいと思うばからである。 272#2 《卷13-13江上寄元六林宗#2》Index-19 Ⅱー14-739年開元二十七年39歳 【2分割】<272#2> Ⅰ李白詩1549 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ6293
年:739年開元二十七年39歳
卷別: 卷一七三 文體: 五言古詩
詩題: 江上寄元六林宗
交遊人物:元丹丘 書信往來(都畿道 河南府 潁陽)
江上寄元六林宗 #1
(都畿道 河南府 潁陽にいる元丹丘に逸興を共にしたいものと寄せたもの)
霜落江始寒,楓葉綠未脫。
大江の上に広がる天河、霜落ちること早く、水は既に寒くなったが、楓樹の葉は、緑のまま、まだ紅葉もしない。
客行悲清秋,永路苦不達。
われは、旅の身であるから、清秋に逢うことを悲み、そして、駅路は長くして、まだ目的地に到著しない。
滄波眇川汜,白日隱天末。
渺渺たる滄波は、入江に漲り、白日は、天末に隠れて、やがて日暮に成った。
停棹依林巒,驚猿相叫聒。
その時、棹を停め、林巒に傍うて、舟を停泊すれば、猿は驚いて、囂しげに啼き出す。
夜分河漢轉,起視溟漲闊。
夜中になると、天の河は、轉じて西にうつり、起って、仰ぎ視れば、本当に水が黒く漲って居るように見える。
#2
涼風何蕭蕭,流水鳴活活。
時しも、涼風蕭蕭として吹き来たり、穎水の汚れないながれる水音は、活活として聞える。
浦沙淨如洗,海月明可掇。
その邊一帯は、浦上の白沙、浄くして、さながら洗うが如く、海上より差し上る明月の影は、円かにして、拾い取ることも出来そうである。
蘭交空懷思,瓊樹詎解渴。
かくて、その臭い蘭の如しというような交誼を結んで居た君の事を懐えば、わが心、渇するが如く、そして、瓊樹の仙藥を以てするも、これを医薬とすることは出きない。
勗哉滄洲心,歲晚庶不奪。
われは、この世を去って、滄洲に浮びたいという出世間的願望を持って居るが、この上とも、自重するが善いので、いくら、老年に成っても、その志は奪われずに、依然として居たいものである。
幽賞頗自得,興遠與誰豁。
かくて、天然の好景を見るにつけて、幽賞おかず、心に自得すれば、淸興自ら遠く、ただ誰かと共にして、此胸を豁開すれば、なお更面白かろうといふので、是非君と一緒に居たいと思うばからである。
(江上、元六林宗に寄す) #1
霜、落ちて、江、始めて塞く、楓葉、緑未だ脱せず。
客行、清秋を悲む、永路、達せざるに苦む。
滄波 川汜眇たり,白日 天末隱たり。
棹を停めて 林巒に依り,驚猿 相い 叫聒【きょうかつ】。
夜分 河漢 轉じ,起って視れば 溟漲 闊し。
#2
涼風 何ぞ 蕭蕭たる、流水 鳴って活活。
浦沙淨くして、洗ふが如く、海月、明、掇すべし。
蘭交空しく思を懐き、瓊樹詎んぞ、渇を解かむ。
勗【つと】めよ哉 滄洲の心,歲晚 庶わくば 奪わず。
幽賞 頗る自得,興 遠くして 誰れと豁せん。
『江上寄元六林』 現代語訳と訳註解説
(本文) #2
涼風何蕭蕭,流水鳴活活。
浦沙淨如洗,海月明可掇。
蘭交空懷思,瓊樹詎解渴。
勗哉滄洲心,歲晚庶不奪。
幽賞頗自得,興遠與誰豁。
(下し文)
#2
涼風 何ぞ 蕭蕭たる、流水 鳴って活活。
浦沙淨くして、洗ふが如く、海月、明、掇すべし。
蘭交空しく思を懐き、瓊樹詎んぞ、渇を解かむ。
勗【つと】めよ哉 滄洲の心,歲晚 庶わくば 奪わず。
幽賞 頗る自得,興 遠くして 誰れと豁せん。
(現代語訳)
時しも、涼風蕭蕭として吹き来たり、穎水の汚れないながれる水音は、活活として聞える。
その邊一帯は、浦上の白沙、浄くして、さながら洗うが如く、海上より差し上る明月の影は、円かにして、拾い取ることも出来そうである。
かくて、その臭い蘭の如しというような交誼を結んで居た君の事を懐えば、わが心、渇するが如く、そして、瓊樹の仙藥を以てするも、これを医薬とすることは出きない。
われは、この世を去って、滄洲に浮びたいという出世間的願望を持って居るが、この上とも、自重するが善いので、いくら、老年に成っても、その志は奪われずに、依然として居たいものである。
かくて、天然の好景を見るにつけて、幽賞おかず、心に自得すれば、淸興自ら遠く、ただ誰かと共にして、此胸を豁開すれば、なお更面白かろうといふので、是非君と一緒に居たいと思うばからである。
(訳注) #2
江上寄元六林宗
(都畿道 河南府 潁陽にいる元丹丘に逸興を共にしたいものと寄せたもの)
元丹丘は李白が30歳前後に交際していた道士のひとり。李白はこの人物の詩を15編も書いているとおり、心から信服していたようだ。頴川は河南省を流れる川、元丹丘はこの川のほとりに別荘をもっていた、嵩岑は嵩山のこと、五岳のひとつで神聖な山とされた。
胡紫陽、その高弟子元丹邱との関係は、さらに深い。その関係を表す詩だけでも、以下の13首もある。
李太白集 | Category 詩題 | 作時 |
巻-No. | 西暦 年号 | |
06-08 | 1.元丹丘歌 | 731年開元十九年 |
24-02 | 2.題元丹丘山居 | 731年開元十九年 |
24-03 | 731年開元十九年 | |
18-16 | 736年開元二十四年 | |
02-08 | 5.將進酒 | 736年開元二十四年 |
14-12 | 738年開元二十六年 | |
23-55 | 738年開元二十六年 | |
巻13-13 | 14上寄元六林宗 | 739年開元二十七年39歳 |
巻09-01 | 15秋日鍊藥院鑷白髮贈元六兄林宗 | 741年開元二十九年 |
06-07 | 8.西岳云台歌送丹丘子 | 743年天寶二年 |
18-11 | 9.以詩代書答元丹丘 | 744年天寶三年 |
24-08 | 10.題嵩山逸人元丹丘山居 并序 | 750年天寶九年 |
22-02 | 11.尋高鳳石門山中元丹丘 | 751年天寶十年 |
12-11 | 12.聞丹丘子于城北營石門幽居中有高鳳遺跡 | 751年天寶十年 |
22-01 | 13.與元丹丘方城寺談玄作 | 751年天寶十年 |
以上の十三首+二首である。
涼風何蕭蕭,流水鳴活活。
時しも、涼風蕭蕭として吹き来たり、穎水の汚れないながれる水音は、活活として聞える。
活活 ながれる水音は、活活として聞える。
浦沙淨如洗,海月明可掇。
その邊一帯は、浦上の白沙、浄くして、さながら洗うが如く、海上より差し上る明月の影は、円かにして、拾い取ることも出来そうである。
浦沙 浦上の白沙。許由・巣父とも中国の伝説的高士で,許由は帝堯の国を譲るとの申し出に対し耳が汚れたと言って水で洗い,巣父はそのため川の水が汚れたと言って牛に水を飲ませず帰ったという。
掇 ひろいとる。
蘭交空懷思,瓊樹詎解渴。
かくて、その臭い蘭の如しというような交誼を結んで居た君の事を懐えば、わが心、渇するが如く、そして、瓊樹の仙藥を以てするも、これを医薬とすることは出きない。
○瓊樹 玉のようにきれいな樹木。仙境の樹木。王宮の宮殿の樹木。
勗哉滄洲心,歲晚庶不奪。
われは、この世を去って、滄洲に浮びたいという出世間的願望を持って居るが、この上とも、自重するが善いので、いくら、老年に成っても、その志は奪われずに、依然として居たいものである。
幽賞頗自得,興遠與誰豁。
かくて、天然の好景を見るにつけて、幽賞おかず、心に自得すれば、淸興自ら遠く、ただ誰かと共にして、此胸を豁開すれば、なお更面白かろうといふので、是非君と一緒に居たいと思うばからである。