前有樽酒行二首 其二 李白 Kanbuniinkai紀頌之の漢詩 李白350- 204
前有樽酒行 其二
琴奏龍門之緑桐、玉壺美酒晴若空。
琴というものは、竜門山の緑の桐で作ったもので演奏するにかぎる。玉の壺にたたえたうまい酒というのは、晴れた空のようにすみきっていて空っぽに見えるのがいい。
催絃拂柱與君飲、看朱成碧顔始紅。
絃をかきならし、琴柱をうごかしながら、君といっしょに飲む。赤い物が青い色に見えたり、ほろ酔いで顔もほんのりあかくなったり、悪酔いをしたりしている。
胡姫貌如花、當壚笑春風。
ペルシャ人の女は、顔立ちがはっきりして花のようだ。酒をうりながら、色香を振りまいて誘ってくる。
笑春風、舞羅衣。
春風のほほえみという誘いに乗ったので、うすぎぬの衣で舞っている。
君今不酔將安歸。
さあ君、いまこそ酔おうではないか。いまさら何処へどう落ち着こうというのか。
前有樽酒行 其の二
琴は竜門の緑桐を奏し、玉壺美酒 清くして空しきが若し。
絃を催し柱(ことじ)を払って君と飲む、朱を看て碧と成れば顔始めて紅なり。
胡姫の貌 花の如し、壚に当って 春風に笑う。
春風に笑い、羅衣を舞う。
君今酔わずして将に安くにか帰らんとする。
前有樽酒行 其二 現代語訳と訳註 解説
(本文)
琴奏龍門之緑桐、玉壺美酒晴若空。
催絃拂柱與君飲、看朱成碧顔始紅。
胡姫貌如花、當壚笑春風。
笑春風、舞羅衣。
君今不酔將安歸。
(下し文)
琴は竜門の緑桐を奏し、玉壺美酒 清くして空しきが若し。
絃を催し柱(ことじ)を払って君と飲む、朱を看て碧と成れば顔始めて紅なり。
胡姫の貌 花の如し、壚に当って 春風に笑う。
春風に笑い、羅衣を舞う。
君今酔わずして将に安くにか帰らんとする。
(現代語訳)
琴というものは、竜門山の緑の桐で作ったもので演奏するにかぎる。玉の壺にたたえたうまい酒というのは、晴れた空のようにすみきっていて空っぽに見えるのがいい。
絃をかきならし、琴柱をうごかしながら、君といっしょに飲む。赤い物が青い色に見えたり、ほろ酔いで顔もほんのりあかくなったり、悪酔いをしたりしている。
ペルシャ人の女は、顔立ちがはっきりして花のようだ。酒をうりながら、色香を振りまいて誘ってくる。
春風のほほえみという誘いに乗ったので、うすぎぬの衣で舞っている。
さあ君、いまこそ酔おうではないか。いまさら何処へどう落ち着こうというのか。
(語訳と訳註)
琴奏龍門之緑桐、玉壺美酒晴若空。
琴というものは、竜門山の緑の桐で作ったもので演奏するにかぎる。玉の壺にたたえたうまい酒というのは、晴れた空のすみきっていて空っぽに見えるのがいい。
○竜門之縁桐 「周礼」に、竜門の琴宏は、祖先のみたまやの中で之を演奏する、とある。鄭玄の注によると、竜門は山の名で、この山の桐は、高さが百尺で枝がなく、琴の材料に用いられる。〇晴若空 晴れた空のようにすみきっていて空っぽに見える。
催絃拂柱與君飲、看朱成碧顔始紅。
絃をかきならし、琴柱をうごかしながら、君といっしょに飲む。赤い物が青い色に見えたり、ほろ酔いで顔もほんのりあかくなったり、悪酔いをしたりしている。
○催絃 絃舷をせきたてる。せわしく絃をかきならす。○払柱 琴柱をはらう。「払」は琴そのものを女性とするので、性行為の比喩である。自由奔放に琴をひくことと表現する。○看朱成碧 赤い色が青く見える。ここでは、酔って物の見分けがつかなくなること、ほろ酔いであったり、悪酔いをしたものと解釈する。
胡姫貌如花、當壚笑春風。
ペルシャ人の女は、かおだちがはっきりして花のようだ。酒をうりながら、色香を振りまいて誘ってくる。
○胡姫 外人の女。当時、長安の酒場にイラン系の美女がいて、歌ったり舞ったりお酌したりした。李白によく登場するが、杜甫の詩にも見える。○貌如花 目鼻立ちが大きくはっきりしている。○当墟 櫨は、酒がめを置く所。漢の文人司馬相加が、美しい女房の卓文君を壚のそばに坐らせ、酒を売らせた話は有名である。「史記」や「漢書」に見える。当壚は、酒を売ること。(おカンの番をすると解することが多い)○笑春風 色香を振りまいて誘うこと。中国古代王朝周幽王は、一人の絶世の美女の気を引こうとしたために、国を滅ぼした。
笑春風、舞羅衣。
春風のほほえみという誘いに乗ったので、うすぎぬの衣で舞っている。
○蘿衣 うすぎぬの衣。
君今不酔將安歸。
さあ君、いまこそ酔おうではないか。いまさら何処へどう落ち着こうというのか。
(解説)
琴は、龍門之緑桐、酒は、玉壺で寝かせた清酒がいい。
それがそろったら、美女の微笑が一番だ。
今更どこへどうするというのだ。とにかく飲もう。
美女微笑と傾国はよく詠われる。また胡女となればペルシャの女となる。唐の時代は長安は国際都市で、西方白人系の女性が流入していたのである。
参考 美女微笑と傾国
紀元前8世紀頃、中国古代王朝の一つ、周の12代目幽王は、一人の絶世の美女の気を引こうとしたために、国を滅ぼし一切合切を失う羽目になってしまった。その絶世の美女は襃似(ほうじ)という王妃だった。「その唇は珊瑚のごとく、その歯は真珠のごとく、その指は、のみで彫られた硬玉のごとし」とうたわれているように、彼女は、さまざまな文献、言い伝えにその美しさが表現されるほどの美女であった。
幽王は、この絶世の美女に溺愛するあまり、正妃と正妃の産んだ子を廃して、褒似を妃として、その子を皇太子にしてしまうほどであった。しかし、どうしたことか、これほどの寵愛を受けているにもかかわらず、彼女は、幽王のもとに来てからは、ただの一度として笑ったことはなかった。そこで、のろしを上げ、各地から慌てて馳せ参じてくる諸候の狼狽ぶった表情を見て、微笑を誘い、これをくりかえした。オオカミ少年と同様、適の侵略に対抗できず、国を滅ぼした。