猛虎行 李白Kanbuniinkai紀頌之の漢詩李白特集350 -276
猛虎行-張旭と飲む
「君に尊敬の念を抱きつつ御馳走になって君のために歌をうたうわけである。自分はまだ志を得ない漢の張良のようなもの、仙人の赤松の跡を逐って上昇するほど、脱俗的の気分にはなっていない。」
張良は下郡の杷橋のもとで黄石公から兵法を授けられ、その後、漢の高祖に仕えて出世して留侯にまでなった。「その黄石公に比すべき人のみ、わが気持ちが分かってくれるものだ」と歌う。最後の句は、李白の希望を述べ、わが心を知ってくれる黄石公のごとき人が出てほしい。そして、再び活躍する場を与えてはしいという。前途に対しての希望はまだまだ消えてはいない。ぞく叛乱軍の侵入の悲惨を歌いながら、それに刺激されて任侠心が勃然とよみがえってきたのであろうか。
洛陽には洛水が流れている。「その辺りは胡兵たる賊軍がいずこにも走りまわっている。戦いのために、野草が血塗られている。財狼に比すべき賊軍は、みな衣冠束帯をつけて役人となり、横暴を極めている」。「流血は野草を塗らし、財狼のもの尽く冠の樫をす」には、安禄山の配下の者が、にわか官僚となって、横暴な振舞いをしていることに対する李白の憤りがこめられている。
凡そ生死の場に損入する遊侠者の悪い部面として賭博行為がつきまとう.したがって司馬遷が遊侠者の性格を述べるに当り,正義に外れる場合のあり得る事を前提とした意中にはこのような行為も入るわけである.
李白「梁園吟」には組分けして滑を賭け遊び暮したことが彼の実際経験としで述べられているが,より切実感を盛った描写としては「猛虎行」がある.これは楽府体の詩であるが辞中の言菜では,溧陽で張旭に留別するに際し作ったものとされている.この中には 李白が安禄山の乱を避けて宣城に至り,この地の太守と親交があったことを語り,また時には自ら 六博をなして賭博的享楽中にその壮心を慰めた様子も詠われている.李白がこのような放浪の旅をしきりに痛快にできたのは,尋常一様の士として、過去の作品の軌を異にするものである.詩の注釈に蕭士賛はこの詩を李白のではないと凝っている。
李白の詩は、論理の流れが滑らかで、使われている語が幾様にも掛けことばとされている。それでいても論理の錯誤はない。立て板に水が流れるような詩であることが一番で、押韻のために無駄な語を使用しない。 しかし、この詩は一貫性がない。論理性もしっかりしていない。この詩は倫理的でないことに尽きる。
だからといって李白のものではないとは言えない。いや、李白の詩、全体的な作品から見て、もう一つの大きな時期的なもの、政情不安、治安も不安な時期であったことが、この詩にさせたものであるようにおもえるのである。
儒教的な視点で李白の詩は語れない。遊侠的実践を好ましくないものとして位置づけ、遊侠・任侠は不正義につながるという儒教者の教条主義的な見方では理解できないのかもしれない。
蕭士賛は論理が通っていない偽物といい。
「猛虎行」蕭士賛曰,按此詩似非太自之作,用事既無倫理.徒爾辟鴬狂誕之辞,首尾不相應,詠絡不相貫串 語意斐率.悲欺失拠,必是他人詩,竄入集中,歳久難別.
王琦は時期的に合致、飲んだ席でのことであり、本物という。
李太白文集韓註巻六 「猛虎行」琦夜是詩当天宝十五載之春,太白与張旭相遇於溧陽,而太白又将遨遊東越,与張旭宴別而作也.
「函谷関が堅固であることが天子のいる長安を支えることになるし、天下の運命は潼関を守る総司令官の哥舒翰にかかっている。ところが、長き仗を持った唐の軍隊三十万もおりながら、戦い敗れて、関門を開いて賊軍安禄山を潼関より入れてしまった。情けないことだ。一挙に長安は占領され、役にたたぬ公卿たちは犬羊のごとく追いまわされ、なすところを知らず。忠義の者は塩辛や塩漬けにされてしまった。賊軍の横暴略奪は悲惨を極めた」と、当時の乱離の様を追憶している。杜甫もしきりに安禄山の乱を歌い、その悲惨さを多く歌っているが、詩人ならずとも、当時の人々に特に衝撃は大きかった。
李商隠
「行次西郊作一百韻」について李商隠の詩150 -147はじめに
行次西郊作 一百韻 李商隠 紀頌之の漢詩ブログ李商隠特集150-149
「猛虎行」は李白が溧陽(江蘇省常州市の南に位置する西湖の西端から50km位西に行ったあたり)にいるとき作った詩である。
この地で草書の名人張旭(杜甫「飲中人仙歌」にも出る)と遇って、酒を飲んで歓を尽くし、別れに際して作ったもので、亡国の感慨を歌ったものである。
4回に分けて掲載。
猛虎行 ( 此詩蕭士贇云是偽作 )
猛虎のうた ( 此の詩は、蕭士贇が言うに李白の作ではない偽作である。)
#1 吟、琴/道、倒、草、城、寧。
朝作猛虎行。 暮作猛虎吟。
朝に猛虎の歌を作って、日暮れに猛虎の歌を吟じている。
腸斷非關隴頭水。 淚下不為雍門琴。』
腹立たしくて腸がちぎれんばかりに怒りがわいてくる関中には天子はいなくて隴山の奥に行ってしまって水が流れてくるばかり。今はただ涙が流れて止まらない、雍城で大敗しその門前で寂しく琴音が響く。
旌旗繽紛兩河道。 戰鼓驚山欲傾倒。
今や叛乱軍の軍旗が風に翻っている渭水、洛水の両岸を抑えられてしまった。戦いの際に打ち鳴らされる太鼓は吹きの山々に轟き、これを倒してもらいたいのだ。
秦人半作燕地囚。 胡馬翻銜洛陽草。
しかし、長安にいた臣下の者たちは、叛乱軍に進んで虜になってしまった。その捕虜たちの奸臣たちは叛乱軍の馬たちに託して洛陽に送られたのだ。
一輸一失關下兵。 朝降夕叛幽薊城。
ひとたび輸送され、ひとたび消失して関中の兵は叛乱軍に下ったのだ。明日に降参した者たちは、ゆうべには幽州の薊の城郭から叛乱は始まったのだ。
巨鰲未斬海水動。 魚龍奔走安得寧。』
安禄山の叛乱以来そのオオガメは大海原切り開いて出てくることはない。大魚と龍も大暴れしてどうしてそのままおとなしくしておられるものか。
#2 時、止、市/貧、臣、人/此、士/鱗、人』
頗似楚漢時。 翻覆無定止。
朝過博浪沙。 暮入淮陰市。』
張良未遇韓信貧。劉項存亡在兩臣。
暫到下邳受兵略。來投漂母作主人。」
賢哲棲棲古如此。今時亦棄青云士。
有策不敢犯龍鱗。竄身南國避胡塵。
寶書玉劍挂高閣。金鞍駿馬散故人。』 ( 玉一作長 )
#3 客。石。擲。/ 奇。知。隨。
昨日方為宣城客。制鈴交通二千石。
有時六博快壯心。繞床三匝呼一擲。
楚人每道張旭奇。心藏風云世莫知。
三吳邦伯皆顧盼。四海雄俠兩追隨。 ( 皆一作多 )
蕭曹曾作沛中吏。攀龍附鳳當有時。』
#4 春、人、塵、賓、親。
溧陽酒樓三月春。楊花茫茫愁殺人。
胡雛綠眼吹玉笛。吳歌白紵飛梁塵。
丈夫相見且為樂。槌牛撾鼓會眾賓。
我從此去釣東海。得魚笑寄情相親。
猛虎の行 (注 此の詩、蕭士贇に云う、是れ偽作。 )
#1
朝に 猛虎の行を作す、暮に 猛虎吟を作す。
腸斷す 關に非らずして 隴頭の水。 淚下 為さずして 雍門の琴。』
旌旗 繽紛として 兩の河道。 戰鼓 山を驚かして 傾倒せんと欲っす。
秦人 半ば作すと 燕地の囚となる。 胡馬 銜を翻して 洛陽の草。
一輸 一失 關下の兵。 朝降 夕べに叛し 幽薊の城。
巨鰲は未だ海水を動して斬らず。 魚龍は 奔走 安ぞ寧を得る。』
#2
頗 似て楚漢の時。 翻 覆て定むる止るることなし。
朝 博 浪沙を過ぎ。 暮 淮陰の市に入る。
張良 未だ 韓信の貧に遇わず。劉項 存亡すること兩に臣在る。
暫く 下邳にて 兵略 受けて到る。來りて 漂母 主人と作して投ざるる。
賢哲 棲棲 古きこと此の如し。今時 亦 青云の士棄る。
策 有り 敢て龍鱗を犯さず。身を竄して 南國に 胡塵を避ける。
寶書 玉劍 高閣に挂る。金鞍 駿馬 故人は散る。』
#3
昨日 方に宣城の客と為し。制鈴 交通 二千石。
有時 六博 快壯の心。 床を繞らし 三匝 一擲を呼ぶ。
楚人 每道 張旭は奇なり。 心藏 風云 世に知る莫れ。
三吳 邦伯 皆盼を顧る。 四海 雄俠 兩に追隨す。 ( 皆一作多 )
蕭曹 曾て沛中の吏と作す。龍を攀げて 鳳に當に時に有りて附く。』-#3
#4
溧陽の酒楼に三月の春、楊花は茫茫れて人を愁殺せしむ。
胡の雛緑の眼にて玉笛を吹き、呉歌の白紵(はくちょ)は梁の塵を飛ばす。
丈夫相い見えば且く楽しみを為せ、牛を槌ち鼓を樋きて衆賓を会す。
我は此より去って東海に釣りせん、魚を得ば笑って寄せて情相親しまん。
渭水は秦州から右側に流れ長安を過ぎて、潼関で黄河と合流する。合流して黄河は東流(右に)して洛陽方面から来た洛水と合流する。
猛虎行 現代語訳と訳註
(本文) #1
猛虎行 ( 此詩蕭士贇云是偽作 )
朝作猛虎行。 暮作猛虎吟。
腸斷非關隴頭水。 淚下不為雍門琴。』
旌旗繽紛兩河道。 戰鼓驚山欲傾倒。
秦人半作燕地囚。 胡馬翻銜洛陽草。
一輸一失關下兵。 朝降夕叛幽薊城。
巨鰲未斬海水動。 魚龍奔走安得寧。』
(下し文)
猛虎の行 ( 此の詩、蕭士贇は云う、是れ偽作。 )
朝に 猛虎の行を作し、暮に 猛虎吟を作す。
腸斷す 關に非らずして 隴頭の水。 淚下 為さずして 雍門の琴。』
旌旗 繽紛として 兩の河道。 戰鼓 山を驚かして 傾倒せんと欲っす。
秦人 半ば作すと 燕地の囚となる。 胡馬 銜を翻して 洛陽の草。
一輸 一失 關下の兵。 朝降 夕べに叛し 幽薊の城。
巨鰲は未だ海水を動して斬らず。 魚龍は 奔走 安ぞ寧を得る。』
(現代語訳)
猛虎のうた ( 此の詩は、蕭士贇が言うに李白の作ではない偽作である。)
朝に猛虎の歌を作って、日暮れに猛虎の歌を吟じている。
腹立たしくて腸がちぎれんばかりに怒りがわいてくる関中には天子はいなくて隴山の奥に行ってしまって水が流れてくるばかり。今はただ涙が流れて止まらない、雍城で大敗しその門前で寂しく琴音が響く。
今や叛乱軍の軍旗が風に翻っている渭水、洛水の両岸を抑えられてしまった。戦いの際に打ち鳴らされる太鼓は吹きの山々に轟き、これを倒してもらいたいのだ。
しかし、長安にいた臣下の者たちは、叛乱軍に進んで虜になってしまった。その捕虜たちの奸臣たちは叛乱軍の馬たちに託して洛陽に送られたのだ。
ひとたび輸送され、ひとたび消失して関中の兵は叛乱軍に下ったのだ。明日に降参した者たちは、ゆうべには幽州の薊の城郭から叛乱は始まったのだ。
安禄山の叛乱以来そのオオガメは大海原切り開いて出てくることはない。大魚と龍も大暴れしてどうしてそのままおとなしくしておられるものか。
(訳注)
猛虎行 ( 此詩蕭士贇云是偽作 )
猛虎のうた ( 此の詩は、蕭士贇が言うに李白の作ではない偽作である。)
○猛虎 安禄山の叛乱、叛乱軍の残虐で略奪をほしいままにしたことを踏まえていう。○蕭士 草書を完成させた立派な人。○贇 美しい草書 ○偽作 陸機作のものの贋作ということにしてイメージを借りた。
猛虎行 陸機 Kanbuniinkai紀頌之の漢詩李白特集350 -274 |
朝作猛虎行。 暮作猛虎吟。
朝に猛虎の歌を作って、日暮れに猛虎の歌を吟じている。
○猛虎 自分の意に副わない敵対する側を指すもの。ここでは、反乱軍安禄山の軍が、勝手気ままな治政を行い、各地で略奪をほしいままに繰り返した。唐王朝の貞観の治により、地方の隅々まで、潤っていたものが、官僚取立て制度のシステムの崩壊から、税負担が大きくなり、唐王朝に対する不満があり、安禄山もその不満を受けて当初は支持をされていた。ところが、その軍は、胡の帽子をかぶり、野党、盗賊の群れであった。民衆の支持はたちまち離れた。李白は、陸機の「猛虎行」の雰囲気を借りて歌ったものである。
腸斷非關隴頭水。 淚下不為雍門琴。』
腹立たしくて腸がちぎれんばかりに怒りがわいてくる関中には天子はいなくて隴山の奥に行ってしまって水が流れてくるばかり。今はただ涙が流れて止まらない、雍城で大敗しその門前で寂しく琴音が響く。
○雍門 756年雍丘の戦いにおいて唐王朝軍が大敗している。○
旌旗繽紛兩河道。 戰鼓驚山欲傾倒。
今や叛乱軍の軍旗が風に翻っている渭水、洛水の両岸を抑えられてしまった。戦いの際に打ち鳴らされる太鼓は吹きの山々に轟き、これを倒してもらいたいのだ。
○旌旗 反乱軍の軍旗。○繽紛 ひらひらと風に翻っているさま。○兩河道 黄河の分水、渭水は長安を西に上流を流域とする川と洛陽も黄河の分水の洛水にそっている。この時両都市を反乱軍が抑えていた。 ○戰鼓 戦いの陣列を整える陣太鼓。○驚山 太鼓の音が山に轟いて、そこに住む人間にとって脅威であった。
秦人半作燕地囚。 胡馬翻銜洛陽草。
しかし、長安にいた臣下の者たちは、叛乱軍に進んで虜になってしまった。その捕虜たちの奸臣たちは叛乱軍の馬たちに託して洛陽に送られたのだ。
○秦人 長安、洛陽の朝廷の官僚、臣下。○半作 官僚として王朝軍の筋を通さないこと。○燕地囚 反乱軍の捕虜となること。 ○胡馬 反乱軍の軍馬。○翻銜 馬の轡の向きを変える。ここでは西に向かう馬を東に帰ることで、反乱軍の本拠地洛陽に向かうことを示す。○洛陽草 洛陽で捕虜として仕えること。
一輸一失關下兵。 朝降夕叛幽薊城。
ひとたび輸送され、ひとたび消失して関中の兵は叛乱軍に下ったのだ。明日に降参した者たちは、ゆうべには幽州の薊の城郭から叛乱は始まったのだ。
○幽薊 反乱軍が決起したところを示す。幽:幽州。・薊:古代中国の都市。春秋戦国時代には、燕の都が置かれた。現在の北京市。
巨鰲未斬海水動。 魚龍奔走安得寧。』
安禄山の叛乱以来そのオオガメは大海原切り開いて出てくることはない。大魚と龍も大暴れしてどうしてそのままおとなしくしておられるものか。
○巨鰲 オオガメ 李白『懷仙歌』 懷仙歌 李白 111
「堯舜之事不足驚。 自余囂囂直可輕。
巨鰲莫戴三山去。 我欲蓬萊頂上行。」
(尭舜の事は驚くに足らず自余のものの囂囂(きょうきょう)たるは直だ軽んず可し。巨鰲は三山を戴きつつ去ること莫かれ、我は蓬莱の頂上に行かんと欲す)
儒教を国のおしえ覇道として堯帝と舜帝のやったことなど私にとっては驚くべきことではない、まして私に嘆いたり、心配してうるさいものはただ値打ちのない軽んじられるものなのだ
ただ大亀いる、仙人の住む三山をはるか先に背負っていってしまってはいけない、私はこれから蓬萊山の頂上に行こうと思っている。
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