2006年05月26日

「黒字亡国―対米黒字が日本経済を殺す/三國陽夫」


「黒字亡国―対米黒字が日本経済を殺す/三國陽夫」



内容(「BOOK」データベースより)
日本経済を苦しめたデフレの真犯人は誰か?赤字を垂れ流すアメリカがなぜ、好況に沸くのか?黒字を貯めれば貯めるほど活力が殺がれる日本経済。その「亡国の構図」を暴く。

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日本経済を苦しめたデフレと、赤字を垂れ流すアメリカの好況は、日本からアメリカへのマネーの還流にあると指摘します。

主題については、いろいろ議論もあるかと思いますが、国際収支の正体という点については間違っていないと思います。

ただし、BewaadInstitute@Kasumigasekiさんのトンデモ#12:「山田の法則」?において、行き過ぎた対米黒字悪玉論について、次のような反論があることも知っておくべきでしょう。

(引用開始)

山田編集委員は、「対米黒字という幻想」と題して1/28の朝刊・Be on Saturdayに長文の寄稿をされています。そのスタートはいきなりこれです。

>米国の貿易赤字は05年7000億ドルを超え史上最大を更新する、という。
>日本の貿易黒字は11月までに9兆3000億円、年間では10兆円を超えそうだ。
>黒字を稼いでいる日本がデフレに沈み、競争力で劣るはずの米国が好況に沸く。なぜなのか?
>朝日「対米黒字という幻想」

なぜかって、そりゃ「競争力」に優れば黒字国・劣れば赤字国ではないからです。国内で使う以上に作れば輸出して黒字国に、作る以上に使えば輸入して赤字国になるだけの話。しょっぱなから飛ばしてくれますなぁ(笑。といっても、この問題意識がなければこの記事は成立しないわけですが)。

>昨年1〜6月、日本の対米貿易黒字は3兆6200億円あった。同じ時期に3兆4200億円が日本から米国に還流している。
>大赤字の米国に日本から銀行融資や証券投資などで資金が流れ、外資の懐に入って、今度は逆流して日本が買われている。
>朝日「対米黒字という幻想」

日本からアメリカへの資金流入についても書いていますからわかっているのかもしれませんが、ネットの数字(輸出から輸入を差し引いたもの)である貿易黒字額とグロスの数字であるアメリカから日本への投資額を注記もつけずに比べるのはミスリードです。わかってない可能性が高いように思えますけれども(笑)。

>インドは香辛料などを輸出して宗主国の英国から大幅な黒字を稼いだが、支払いは英国通貨のポンドで、ロンドンの銀行に預けられた。インド人の汗と涙で稼ぎ出した貿易黒字は帳簿の上だけだった。英国企業に融資され、宗主国の投資や消費を活発にした。英国人はインドの産物と資金で一段と豊かな暮らしを実現した、という。
>三国さんは近著「黒字亡国」で、いまの日米関係が植民地時代のインドと英国の関係に酷似していることを丹念に描き、「対米黒字が日本にデフレを引き起こしている」と説いている。
>植民地インドと同様に、日本は稼いだカネを米国に置いてきている。
>朝日「対米黒字という幻想」

まず植民地時代のインドの輸出品目を見ますと、19世紀のインドの貿易では、棉花、綿糸、綿布、アヘン、米など概して数種類の主要品目が大きな比重を占めており、第一次大戦前には、インドは一方では欧米・日本に対して第一次産品を輸出し、工業品を輸入する発展途上国型の貿易構造を維持しながら、他方では東南アジアや東アフリカには工業品を輸出し、第一次産品を輸入する先進国型の貿易構造を作り出したとのことですから、そもそも「香辛料などを輸出」という認識が極めて怪しいわけですが。大航海時代で脳内歴史が止まってませんか(笑)?

でまあ上で書いたように貿易黒字は輸入できるほど国内消費・投資がなかったということと同じなのですが、輸出で黒字となっても生活水準が向上しなかったのは、ポンド払いであったことなどより、

高付加価値産業である綿織物製造から駆逐され低付加価値である原材料品の産地として特化させられたこと、
しかもその輸出はイギリス系商人によって担われ輸出することに由来する付加価値分もイギリス人の懐に入った、
相対的為替レートがポンド安・ルピー高に設定され交易条件が不利だった、
ことの影響の方がよほど大きいでしょう。ちなみに貿易黒字(正確には経常黒字)は資本赤字の鏡像で、資本赤字は国内投資をカバーしてなおあまる国内貯蓄のことですから(政府の存在は捨象)、ポンド払いでなくルピー払いだったとしても海外に金を持っていかざるを得なかったのです。

>植民地インドと同様に、日本は稼いだカネを米国に置いてきている。
>米経済戦略研究所のクライド・プレストウィッツ所長はかつて私に言った。
>「レクサスはいいクルマだ。トヨタは米国人に売っていると思っているが、我々は日本のクルマを日本人のカネで買っている。米国にとってこんなうれしいことはないが、こんなことがいつまで可能なのか」
>こんな日米関係を、米政府内では「日本は米国のクライアントカントリー(保護領)」と呼ぶ人がいる、という。国際収支が黒字になっても「勝ち」ではない。資金を自国で使えないなら「貢いでいる」のと同じである。
>朝日「対米黒字という幻想」

プレストウィッツがどのような趣旨でコメントしたのか裏は取れませんが、まともな経済学に基づく発言だとすると、日本から借金して日本から物を買うという自転車操業がいつまでつづくのか、そのサステナビリティに懸念を示したと考えられます(この手の懸念であればクルーグマンやバーナンキも表明しています、というか現在アメリカでの経済論壇における主要論点の1つです)。

それが山田編集委員の手にかかると「貢いでいる」ということになってしまうのですから、正しい意見も聞き手に能力がなければ正しくなくなってしまうといいますか(笑)。日本が資金(経済学的に正確を期すなら超過貯蓄)を自国で使わないのは、自国で使うより海外で使うほうが得だからに他ならず、別にアメリカに強いられてアメリカに投資しているのではありません。アメリカ政府内で被保護国扱いされるのは安全保障の観点から見てのものと考えるのが自然でしょう(安保条約の実質的片面性など)。

ついでに揚げ足を取っておきますと、国際収支=経常収支+資本収支+誤差脱漏で、会計的には経常収支と資本収支はネットアウトでゼロになりますから、「国際収支が黒字」になるのは誤差脱漏ゆえ(笑)。その黒字が「『勝ち』ではない」って当たり前ですね(笑)。

#経常収支のつもりで使ったのでしょうが、それにしても「勝ち」を意味しないのはこれまで申し上げたとおりです。

>経済の血液が米国に流れれば、その分日本は消費や生産に回るマネーを失い、経済は停滞する。代わりに得ているのが米国の政府が発行する国債だ。ドル建ての米国債は円高になれば減価する。しかも勝手に売れない。日本が資金を引き揚げたら、それこそドル暴落が起こりかねない。
>朝日「対米黒字という幻想」

「経済の血液が米国に流れれば」ってだから民間ベースの投資判断で行われているわけで、誰も強制しているわけではないんですってば。で、日本が貿易黒字国になったこととデフレになったことはどのぐらい近接したタイミングで発生しましたか?
「ドル建ての米国債は円高になれば減価する」って円安になれば逆に儲かりますが何か(笑)?
「しかも勝手に売れない」ってどうせかつての橋本発言(アメリカの貿易摩擦に由来する対日強硬発言に対して「米国債を売却したい衝動にかられる」とかいったやつ)がアメリカから批判されたことあたりが念頭にあるのでしょうが、どの国だって自国の国債市場を乱高下させかねない軽率な発言をされたら抗議・批判ぐらいして当然です。それが陰謀論者の手にかかると・・・。
「減税をしながらイラクに大量の兵士を送るという芸当が可能になる」のは、日本でも流行の財政の信頼性やらサステナビリティの問題です。別に日本の投資家がアメリカ国債を買わなくたって、それ以外の投資家がそのリターンがリスクに見合うと思えば買うでしょうし、日本の投資家が買い続けようとしたってそれ以外の投資家の多くが見放したら買い支えられるものではありません。幼稚な陰謀論はほどほどに。

(引用修了)

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