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金子勝ブログ

慶應義塾大学経済学部教授金子勝のオフィシャルブログです。

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無責任と逐次投入の果てに(2) ――エネルギー基本計画の問題点は何か

「エネルギー基本計画」のひどい内容

秘密保護法が国会で採決された日に、どさくさ紛れに、経済産業省の「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」で「エネルギー基本計画」の素案が提示されました。当然、その内容のひどさにもかかわらず、新聞記事は小さくなってしまいました。

 

主な内容を見ると、以下の通りです。

 

●原発の依存度を可能な限り低くするとしながらも、電力の安定供給、コスト低減、温暖化対策の観点から、安全性の確保を前提に原発を「重要なベース電源」として位置づけた。民主党政権下の「2030年代に原発ゼロとする」という方針が根本的に覆されてしまった。

●いま全国で7つの原発の14基が、原子力規制委員会の安全審査を受けているが、原発の再稼働に前向きな姿勢を明確にした。

●民主党政権下で「原発の新設・増設は行わない」とされたが、今回は原発の新設や増設については直接言及せずに「必要とされる規模を確保する」とし、新設や増設に含みをもたせた。

全体の電力供給に占める電源別の構成比率について、現時点で原発の再稼働が見通せないという理由をあげて示さなかった。それは、ずるずる方式をとることを意味する。

●使用済み核燃料について、「国が前面に立って最終処分に向けた取り組みを進める」とし、最終処分場の候補地を自治体からの公募に頼るこれまでの方法を改め、処分場に適した地域を示すなど国が主導して問題に取り組む姿勢を明確にした。だが、具体策は何も示さなかった。

●ただし太陽光や風力といった再生可能エネルギーについては、今後3年程度、導入を最大限加速していくとした。だが、3年以後については書かれていない。

 

今回の「エネルギー基本計画」が何より問題なのは、民意を反映させるプロセスを全く欠いていることです。

 

昨年9月に民主党政権下において決めた「2030年代に原発ゼロ」とするエネルギー政策は、討議参加型世論調査と銘打って各地において公募の参加者の意見表明がなされました。また当時、9万を超えるパブリックコメントが寄せられ、原発ゼロが圧倒的でした。

 

こうした討論参加型世論調査と比べてみると、今回は総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において脱原発を主張する委員を降ろし、原発推進の立場に立つ委員に差し替えたうえで、官僚主導の業界利益のための審議会政治へ逆戻りさせたもので、民意を完全に無視したものです。まるで福島原発事故などなかったかのようです。

 

嘘で塗り固めた非現実的な「計画」

使用済み核燃料の最終処分場は見通しが立たないという根本的問題を別にしても、原発を「重要なベース電源」と位置づける根拠がきわめて薄弱です。

 

まず電力不足と安定供給を理由にあげていますが、大飯原発を再稼動させる前にも、計画停電が必要だとして電力が不足するという嘘キャンペーンを展開しました。

 

 昨年夏を見ると、最大電力需要があった83日の14時台で2682kWでしたが、想定した最大電力需要2987kW300kW以上も下回りました。2010年夏の最大電力需要である3095kWと比べると400kW以上も少なかったのです。節電効果を過少に見積もったため、余剰電力が1割ほど発生したのです。

 

今夏も猛暑でしたが、さすがに嘘キャンペーンは鳴りをひそめました。むしろ省エネ=スマート化をひとつの産業戦略にしていく発想こそが求められています。電力不足は原発再稼動の理由になりません。

 

そこで次に出てきたのが、燃料費増加キャンペーンです。

 

経産省は、原発停止による火力発電への代替により、2012年度に燃料費が3.1兆円増えたとする数字を1人歩きさせています。しかし、河野太郎議員によれば、ここでも計算のゴマカシをしています。

http://www.taro.org/2013/11/post-1420.php

 

経産省は、2010年度の過去3年間の原発の平均電力量である2748億kWh から、泊3号機と大飯3、4号機の発電電力量156億kWh(2012年度)を差し引いた2592億kWhを全て火力発電で代替したと仮定して計算しています。

 

しかし実際には、節電や省エネが進んだこともあって、火力発電の焚き増しは1827億kWh に過ぎませんでした。つまり、766億kWhも過大な数字で計算しているのです。しかも、その火力発電の内訳をみると、燃料単価が高い石油火力を1206億kWhも発電するとして見積もっています。また、LNGの価格は、40年も前にカタールと結んだ契約に基づいて原油価格の上昇に連動させた価格で計算しており、ガスの調達先を分散すれば、かなりの節約が可能なのです。

 

環境エネルギー政策研究所や自然エネルギー財団の試算によれば、燃料費コストの増加分は3.1兆円の半分の1.5兆円程度です。ここでも経産省は、原発を再稼働させたいために燃料費増加を過大に見積もっています。

http://www.isep.or.jp/library/5224

http://jref.or.jp/images/pdf/20130918/JREFenergyproject_2013.pdf 

 

 

「原発は安い」は本当なのか

経産省は、原発のコストについても、201112月にコスト等検証委員会が出した8.9/kWh で、石炭火力の9.4/kWh LNGガスの10.7/kWhより安い数値を使っています。これはモデルプラントを使って50基全部が動くことを前提にシミュレーションで試算したもので、いまや非現実的なものです。

 

まず原発は追加安全投資で約2兆円ほどかかりますが、これもかなり過少な数字です。欧州の原発には、メルトダウンしても受け止めて冷却設備に流し込むコアキャッチャーを装備するようになってきています。安倍首相は、「世界一の安全基準にする」と言っていますが、コアキャッチャーは原子力規制委員会の新安全基準には含まれていません。コアキャッチャーなどを標準装備すれば、さらに多額の費用がかかります。

 

賠償・除染費用は少なくとも10兆円になります。

 

ところが、政府は、汚染土をフレコンパックに詰め込み野積みにする中間貯蔵施設方式をとり、東電も認めていた5兆円かかる除染費用を2.5兆円に削ろうとしています。その背後には、東電を救済する政府と、自らの予算を削られまいとする日本原子力開発機構が、東京ドーム20個分以上と言われる巨大な汚染土の山を築く方式を推進し、これ以上、土を剥がすなとしています。

 

その日本原子力開発機構出身の田中俊一原子力規制委員長は、20mSvでいいと言い、賠償打ち切りを主張してきました。

 

そして環境省は、東電・ゼネコンと一体化して、100分の1に減容できるセシウム回収型焼却炉付き森林バイオマス方式を拒否しています。東電救済のために、必要な費用を出さずに失敗してきた事故対策を全く反省していません。

 

こうして見てくると、安全投資、賠償・除染費用は少なくとも12兆円以上はかかります。燃料費の1.5兆円とは比べものにならないくらい大きい数字です。それらが原発の発電単価を押し上げています。

 

さらに、政府も原発依存を出来るだけ下げるとしていますが、原発は40年で減価償却し、廃炉の引当金を積むことになっているので、もし途中で廃炉にすると、原子力発電施設と核燃料の残存簿価、廃炉引当金の不足が生じ、特別損失として計上しなければなりません。現時点で原発50基をすべて廃炉にすると、少なくとも4.4兆円はかかることになりますが、これには原発サイトの共用施設分が含まれていませんので、過小評価の可能性があります。ともあれ実際に、50基を廃炉にすると、いくつかの電力会社が経営破綻する恐れが出てきます。

 

それゆえ、電力会社は安全軽視で原発を再稼働させたくなるのです。

 

問題は、再稼働する原発が少なければ少ないほど、原発の発電単価は上昇することになることです。廃炉にする原発の廃炉引当金不足額が生じ、しかも稼働する原発の数が少ないほど、分母が小さくなり、原発のコストは高くなるからです。今回のエネルギー計画は、電源構成の具体的数値をあげずに、そのことを隠そうとしています。

 

私は、拙著『原発は火力より高い』(岩波ブックレット)において、50基中28基を廃炉にして、2兆円の安全投資、10兆円の賠償・除染費用、28基分の廃炉費用を乗せて、政府のシミュレーション方式を使って試算したところ、原発の発電単価は1735/kWhになりました。火力のおよそ2倍です。もはや原発の経済性は全くないと言ってよいでしょう。

 

問題はこの廃炉費用を経済産業省の省令だけで電気料金に乗せられるようにしたことです。それによって、料金負担は新電力と契約できない家庭(国民)や自家発電を持たない中小企業にかかってきます。原発は不良債権そのものであり、その抜本的処理が必要なのです。

 

そのためには、以下の手続きが必要です。

    まず電力会社に原子力発電施設と核燃料の残存簿価、廃炉引当金の不足額に当たる株式を発行させ、それを政府が買い取ります。

    そのうえで、電力会社を発電会社と送配電会社に分離し、原発を電力会社から切り離して、すでに事実上破綻している日本原子力発電に集めることが大事です。日本原電は基本的に廃炉専門会社になります。もし少数の原発を動かすことになったとしても、少なくとも電力会社の経営事情に左右されずに、高い安全基準を設定して時間をかけて原発の安全性を見ることができます。

    一方、原発=不良債権を切り離すことで電力会社の経営は健全になり、電力会社に多く貸付けている銀行はこれで不良債権を処理することができます。

    国が買い取った電力会社の株は、原発を切り離して健全化した電力会社が買い戻してもいいし、一般に売却してもいい。少なくとも国民や中小企業が負担を負うことなく原発を処理することができるようになります。

 

経産官僚や古い産業構造を代表する経団連の一部リーダーの無責任体制を守るために、コストが異常に高い原発を再稼働して、産業構造の転換に遅れれば、「失われた30年」になってしまいます。

 

原発=不良債権の処理を急がないといけません。

 

*参照:拙著『原発は火力より高い』(岩波ブックレット)

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無責任と逐次投入の果てに    ――事故処理体制と東京電力のあり方について――

(1)問題の本質と守るべき原則は何か
2013年11月11日に自民・公明両党が東京電力を「原発事故処理を専門に行う会社」と「電力事業を行う会社」に分社化し、東京電力の事故処理・除染費用負担に国費を投入する提言を出し、それに基づいた政府の動きが次々と出されています。

しかし、安倍首相が言うように汚染水問題が「完全にコントロールされている」ならば、そもそも国が対策に乗り出すことは必要ないはずです。政府の言っていることは支離滅裂です。

「国が前面に出る」ということで、福島第1原発事故の処理や福島の復興が進むかのように報じられていますが、本当でしょうか。あるいは、与党案は「社内分社化」「完全分社化」「独立行政法人化」という3つの選択肢を提示していますが、この三つが本当の選択肢なのでしょうか。そこには東京電力の「破綻処理」は含まれていません。

この問題の本質は、どこにあるのでしょうか。事故処理体制と東京電力の経営のあり方を見直すに際して、つぎの3つが問われなくてはならない点です。

①こうした分社化案で事故処理が進むようになるのか――電力料金や税金をズルズル投入するやり方、戦力の逐次投入が失敗を招き、福島原発事故の収拾を困難にする。

②10兆円の賠償と除染の費用を、誰が、どのように負担するのかが国民に示されているか――10兆円に関して具体的な財源と負担のあり方を国民に示さないまま、東電救済を優先して福島に多大な犠牲を強いることはあってはならない。

③何が国民負担を最小化させる道なのか――経営責任も株主責任も貸し手責任も問わない分社化案では、国民負担がズルズルと膨張していく可能性が高い。かつての不良債権処理問題とそっくりであり、その失敗から何も学んでいない。


(2)責任回避のための逐次投入が失敗を招き、国民負担を膨張させていく。
政府与党の東電分社化案とその後の対応を見ていくと、東電救済のための逐次投入を行い、誰も責任を問われないまま、ほとんど電気料金か税で賄う方針が見えてきます。さらには、柏崎刈羽の安易な再稼動を進める姿勢も見えてきます。これまで、こうしたやり方が、福島第1原発の事故収拾や福島の復興を困難に陥れてきたにもかかわらず、失敗が上塗りされようとしているのです。

まず事故対策とその費用負担の問題点から見てみましょう。

●東京電力の負担を増やさないために、本格的な対策を打たずに泥縄式の事故処理が行われてきたために、事態の悪化が進んできたことの反省がありません。当初、四方を囲う鉛直バリア方式が出たが、1000億円かかるためとられず、安上がりの海側だけの遮蔽壁になってしまいました。現在も経産省と財務省の折衝した結果、予備費の470億円の範囲内(370億円)ということで凍土遮水壁方式が出てきています。この方式は恒久的対策としては実績がなく、どれほど地下水を遮断できるのか、耐久性があるかなど、未知数の部分が多く、本格的な汚染水対策になるかどうか疑わしい。現場は放射線量が高まっており、このような一時的対応を繰り返していてよいのでしょうか。

●仮設タンク方式(フランジ型)ですまそうとした結果、次々に汚染水漏れを起こし、敷地内が放射能で汚染されたため、溶接型に交換することができなくなっています。このまま行くと、仮設タンクの寿命から収拾がつかなくなる危険性があります。しかし、タンクの問題は相変わらず東電任せのままです。

●その中で、経産省は廃炉の会計ルールを変更し、省令ひとつで公聴会も開かず、原発の廃炉費用を電気料金に乗せられるようにしてしまいました。つまり、福島第1原発の廃炉の費用も、将来、電気料金に乗せようとしているのです。ズルズルとした対策を繰り返していけば、事故収拾がどんどん遅れ、電気料金だけが膨らんでいくことになる危険性が高まっています。

つぎに除染費用を見てみましょう。

●すでに原子力損害賠償支援機構から認められた5兆円の交付金枠のうち3.9兆円の交付金を認可されています(残り1.1兆円)が、支払っている賠償費用は3兆円超です(2013年10月段階)。もはや東電には5兆円だとされる除染費用を支払う能力はありません。実際、除染費用を少なくするために本格的な除染が行われず、東京電力が支払った除染費用はわずか67億円にすぎません。除染費用の不足を補うために、原子力損害賠償支援機構の交付金支給枠を5兆円から8兆円に増加させようとしています。いわゆる“追い貸し”です。しかし、本来、特別事業計画によって東京電力が原子力損害賠償支援機構に支払わなければならない特別負担金1.8兆円(2020年まで)を支払っておりません。原子力損害賠償支援機構法の枠組み自体が破綻しているにもかかわらず、追い貸しを続けて東電を生き残らせても展望はありません。実際、重大事故を引き起こした東京電力に反省もないまま安全性を無視して柏崎刈羽を再稼動させ、永遠に電力料金に乗せない限り、返せる見込みがあるとは思えません。1990年代以降に、銀行の不良債権処理で繰り返されてきた失敗そのものです。

●その一方で、中間貯蔵施設と追加除染の費用を国が負担するとし、除染は国の「公共事業」として実施するとしています。除染も汚染水対策と同じで、お金がかかるとして本格的な対策が回避されてきました。セシウム回収型焼却炉もそのひとつです。セシウム回収型焼却炉は600度以上の高温でセシウムを気化させて濃縮すると、汚染土や草木などをそのまま貯蔵するのに比べて容積を100分の1に圧縮できます。ところが、安上がりの中間貯蔵施設方式が選ばれました。これだと2000万トンに及ぶ汚染土壌などがそのまま持ち込まれ、フレコンパックに詰め込まれたまま簡易な屋根をつけたくらいで野積みしていては、集中豪雨などの問題に耐えられません。しかも、そこが最終処分場になってしまう可能性が高くなります。当然、その地域の住民の反対が根強く、住民間に対立が持ち込まれて、除染が進まなくなってしまいました。

●政府は、中間貯蔵施設の建設費1~2兆円をエネルギー特別会計から賄おうとにしています。しかも、失敗した高速増殖炉もんじゅをはじめ、原発推進のための予算の組み替えがないままでは、資金が不足する場合には電源開発促進税を増税することになります。この電源開発促進税増税も電気料金にかかってきます。

●そこで問題となるのは、このエネルギー特別会計含めて2000億円あまりの予算を使っている日本原子力研究開発機構の出身者が、除染に深くコミットしていることです。たとえば、この中間貯蔵施設の建設に関して「日本環境安全事業」という政府出資の天下り法人がアセスメントを含めたプランを作り、この「日本環境安全事業」に中間貯蔵の専門家として環境省環境回復委員会に入ったのが森久起氏ですが、彼は原子力研究開発機構の核燃料リサイクルの前部門長でした。また原子力規制委員会の田中委員長、更田委員も原子力研究開発機構出身です。原子力研究開発機構は、もんじゅをはじめ失敗だらけの政府機関ですが、彼らは予算削減を恐れてか、一貫して安上がり方式の除染を求めています。

●その中で、田中俊一委員長下の原子力規制委員会は個人が持つ線量計で被曝線量が1mSvまでならよいとする提言を出しました。国は、全国基準である空間線量1mSv以下へ環境を回復する責任を放棄し、被災地の住民の「自己責任」に押し付けようとしているのです。では、新しい町や代替地を与えているのでしょうか。それどころか、多くは生活再建に必要な賠償額も支払われておりません。これでは15万人も避難している福島を見殺しにしようとしているのです。

以上見てきたように、東電分社化案は、経営者、株主、貸し手の責任を問わないまま、汚染水対策を含む福島第1原発事故の廃炉費用も、除染費用も電力料金と税金にずるずると乗せていき、国民負担を膨らませていくだけなのです。さらに、東電生き残りのため、柏崎刈羽の再稼動を安易に進めることは、福島原発事故から何も学ぶことがないということに他なりません。

福島第1原発事故以降、電力料金値上げのたびに東京電力離れが進んでいます。その需要電力は560万kWに及びます。大手企業は自家発電を設置したり、新電力に移ったりすることができますが、負担は逃げられない家庭や中小企業に集中します。


(3)電力債が東電処理回避の理由たりうるか?
では、国民負担を最小化する方法はあるのでしょうか?

まず東京電力の経営や賠償負担のあり方を変えるには、原子力損害賠償支援機構法の見直しが必要となりますが、自民も民主も賛成した機構法の付帯決議には、経営者、株主、貸し手、利用者すべてのステークホルダーの負担のもとに1~2年後の見直しが規定されています。今の政府与党の東電分社化案は国会決議違反なのです。

本来ならば、日本航空がそうだったように、旧東電を経営破綻させ、新会社に移行すべきです。経営者、株主、貸し手責任を問うたうえで、発・送電会社を所有権分離し、原発部門は切り離して新事業体にし、旧東電の資産売却あるいは新東電の株式の売却で賠償費用を捻出するのが筋です。

ところが、政府与党が示す東電分社化案を進める人たちは、東京電力を破綻処理した場合、東京電力が発行した4.4兆円の「電力債」が紙クズになり、金融市場を混乱させるから、「民間企業」としての東京電力を残すべきだ、という理由をあげます。

これは本当でしょうか?

たしかに東電の電力債は企業年金投資対象となっていたり、投資信託に組み込まれたりしていますから影響がないとはいえません。ただし、いま他の電力会社の電力債は日本銀行や多くの機関投資家が買い支えていますから、金融市場がパニックになるというのは少々大げさです。

問題は、こうしてズルズルの処理を繰り返しているうちに、大手銀行は、融資を一般担保付きの私募電力債に変えている点です。これは、電気事業法37条で優先弁済が保証されているためです。福島への賠償支払いより「優先」弁済される可能性がある電力債に融資を換えているという意味で、典型的なモラルハザードです。これを至急止めさせ、金融機関には少なくとも原発由来の債務(原子力施設や核燃料の残存簿価、廃炉引当金)は債権放棄しなければなりません。その範囲であれば、銀行への公的資金注入は必要ないか、非常に少ない額に抑えられます。電力債は東電救済の理由にはなりません。

政府は東京電力を「民間企業」として生き残らせないと、事故収拾も賠償もできないと言いますが、そもそも今の東京電力を「民間企業」と呼べるのでしょうか。すでに東京電力には、公的資金1兆円と原子力損害賠償支援機構からの3.9兆円の交付金認可と合わせて計5兆円もの公的資金が入っています。そして原子力損害賠償支援機構と協議して経営再建計画を作成し、その下に動いている事実上の国家管理企業です。実際、原子力損害賠償支援機構から交付金が認可されると、東京電力はただちに自己資本に組み込み、損害賠償を支払って自己資本が足りなくなると、また交付金を認可してもらって延命しているゾンビ企業です。

仮に柏崎刈羽の再稼動を考えた場合でも、原発事故を起こし、その責任を取らない「民間企業」に運営を任せることは狂気の沙汰です。再稼動、廃炉のいずれかの選択肢をとるにしても、新潟県の泉田知事が要請するように管理・運営主体には必ず国が関与する必要がある以上、「民間企業」という言葉を盾に東電救済を継続することは大きなゴマカシです。

事実上の国家管理企業である以上、電力債の処理も、国会の立法次第でどうにでもなります。電力債を「新会社」が引き継ぐ方法だってあるし、国会が「政府保証をつける」と約束してもいいのです。

ただし、もし電力債を守りたくて新会社が債務を引き継げば、東京電力の発電所などの資産売却をするにせよ、新会社の株式を売るにせよ、借金を返済する必要が出てくるので、10兆円の賠償・除染費用の支払いが不足してしまいます。

だとすれば、エネルギー特別会計の原発推進予算を削って組み替え、事故処理費用に年2~3000億円を集中的に投入すべきです。

また六ヶ所村の再処理工場は計画から24年たっても稼働しないまま毎年およそ2500億円もの電気料金を浪費しています。「核燃料サイクル事業」を中止し、そのための積立金3.5兆円のうち六か所の再処理工場の廃炉費用を除く部分と、電気料金に上乗せしている再処理料金のうち年2~3000億円を除染費用に充てるべきでしょう。

こうした抜本的改革を経て、はじめて残る費用が新たに国民負担になるのです。正しい政策の手順に戻さないといけません。

*なお詳しく、その背景を知りたい方は、拙著『原発は火力より高い』(岩波ブックレット、2013年8月)および『原発は不良債権である』(岩波ブックレット、2012年5月)を参照してください。
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思考停止のTPP――総選挙に問う(2)

都合悪い情報は隠すもの?

福島第1原発事故によって、東電も政府(とくに原子力ムラ官僚たち)も国民に対して本当の情報を隠すものだということが分かりました。メディアも、知ってか知らずか、それを検証もせずに垂れ流すことも分かりました。

TPP
(環太平洋包括経済連携協定)の問題でも同じです。
 

当初、メディアはTPPで問題なのは農業・農産物だとしていました。たしかに、関税撤廃でおよそ40%の食料自給率がさらに低下すれば、大問題です。とくに、ただでさえ基地があるのに、食料までアメリカに依存するとなると、国の存立そのものにかかわります。実際、欧州諸国は、食料の安全保障という観点もあって、日本の数倍の個別所得補償を農業者に支払ってでも食料自給を達成しています。


しかし、実は問題はこれだけにとどまりません。


TPP21の交渉分野に及び、郵政民営化、高額医療の保険外診療の拡大と「混合診療」の解禁、医薬品や医療機械の規制緩和、農薬の安全基準、一定の周波数の入札と外国資本への開放、公共事業の入札条件の緩和、移民労働規制の緩和、看護師・介護士・医師・弁護士の資格問題などが、交渉分野になる可能性があることが分かってきました。


ちらほら報道されているのは、TPPに対する米国内の自動車業界の反対を和らげるために、日本に軽自動車の税金が軽いとか日本のディーラーシステムが排他的であるとか言い出していること、郵政民営化見直し法案の凍結、あるいはBSE問題で月20ヶ月以下という米国産牛肉の輸入条件を緩和しろ(これは厚生労働省が先取りして緩和を準備しています)と米国側が要求してきていることくらいです。


政府は何が問題になるのか、十分な情報開示をしていません。にもかかわらず、とりあえず参加すべきだとか、交渉に参加しないと本当のところは分からないと言います。原発問題と同じ構図です。米国追随路線を突き進む政府は、自らに都合悪い情報を隠している可能性が高いと考えられます。


TPP参加で日本の雇用が増えるのか?

ここで間違ってはいけません。TPPはオバマ大統領の200万人の雇用創出計画の一貫として出されてきているのであって、決して日本の雇用を増やすためのものではありません。


内閣府の試算でもアジアへの輸出が増えることでプラスになっていますが、後で述べるように、TPPが「成長するアジアを取り込む」というのは眉唾ものです。実際、ASEANが中国を巻き込んで、TPPに対抗してRCEP(東アジア包括経済連携協定)を打ち出しており、日中韓自由貿易協定やRCEPこそが「成長するアジア」を取り込むものです。TPPはアメリカに進出している一部大企業を当面やりやすくするだけで、日本国内へのプラスはほとんどありません。


途中で抜ければいいではないか?

TPPに問題が多いことがわかってくると、「とりあえず交渉に参加して、イヤだったら途中で抜ければいいじゃいか」と言い出しています。電力不足だの電力料金が上がるだのと次々と理由を変えていくのと同じ構図です。


しかし、問題は日本政府にそんな交渉力があるかどうかです。残念ながら、過去を振り返るかぎり、全くと言ってよいほど、日本政府にはそのような交渉能力はありません。


証拠もないイラク戦争に対して、米国と同盟関係にあったヨーロッパ諸国やカナダでさえ反対しているにもかかわらず、日本はイラク戦争協力に突っ込んでいき、日本外交は国際的信用を失墜させてしまいました。その反省も検証もきちんとなされているとは思えません。


事実、墜落事故が頻繁に起きており、ハワイでも配備を拒否されたオスプレイを、沖縄県民の強い反対を押し切ってまで強行配備しました。夜間外出禁止令が出ている中にアメリカ兵が何度も犯罪行為を繰り返しているのに、日米地位協定の改定について交渉もしていません。今だにアメリカについていけば、何とかなるという思考停止状況に陥っているのです。


こんな状況で、日本の外交力を考えた場合、国益にそぐわない場合でも交渉から離脱することはできるでしょうか?いったん交渉に参加すれば、例によって「途中で抜ければ、対米関係を悪化させる。今さら抜けるなんてありえない」と主張することは目に見えています。「振り込め詐欺」にご注意です。


推進派はカナダ・メキシコも参加を表明したと言いますが、すでに交渉国間で合意された内容を無条件で受け入れることとなっています。カナダ・メキシコは北米自由貿易協定を結んでいるからまだしも、日本はそうはいきません。


より問題なのは、これまで日本のFTAEPAは一部をのぞいて基本的に自由化対象だけを記載するポジティブ・リスト方式をとってきましたが、これに対して、TPPはリストに掲載したものだけを適用対象としないネガティブ・リスト方式をとっており、この例外以外は基本的に自由化を求められるという点です。


さらに、これに企業が国を相手取って訴訟を起こすことのできるISD条項が入ってきます。もしISD条項が入ると、米国は基本的に訴訟社会なので、日本市場に入れないと、米国企業が日本政府を相手取って訴訟を起こしてくる可能性が生じてきます。他国の裁判所の判決で自国のルールが歪められる危険性があるのです。こうした米国ルールに日本政府や日本企業は耐えられるでしょうか。ノーです。


成長のアジアを取り込む?

しばしば「TPPに参加して、成長のエンジンとしてのアジアを取り込む」という主張がなされてきましたが、TPPには肝心の中国、インド、韓国、などが参加していません。しかも、先に述べたようにASEANTPPに対抗する形で、中国を巻き込んで東アジア包括的経済連携協定(RCEP)の交渉をスタートすることを打ち出しました。TPPに参加すれば、アジアを取り込めるどころか、逆に孤立してしまう可能性もありえます。


TPPは当初言われたような「自由貿易」の仕組みではなく、明らかにアジア市場をめぐる現代版ブロック経済の動きなのです。1930年代のそれは、宗主国と旧植民地・植民地の間で行われましたが、現在はルール圏をめぐる攻めぎ合いです。TPPとは、アメリカン・ルールによるアジア市場の囲い込みの動きと考えてよいでしょう。


では、このような東アジア市場をめぐる動きの中で、日本政府はどのように対応してきたのでしょうか。少し振り返ってみましょう。


2009年総選挙で政権交代した民主党政権は、まず東アジア共同体構想を打ち出しました。しかし、鳩山政権が普天間基地移転問題でつまずいて交代してから、次第に対米追随路線へと逆戻りしてきました。こういう状況で、石原前知事が尖閣問題に火を付け、野田首相が胡錦濤前主席との立ち話で制止されたにもかかわらず、翌々日に国有化を打ち出したために、尖閣問題が深刻化してしまいました。その結果、自動車をはじめ日本製品は、世界一の自動車市場である中国市場から徐々に閉め出されつつあります。


TPPは、すでに交渉参加国間で決まったルールを受け入れなければならず、参加国のほとんどが資源小国で、日本と同じような立場の国はなく、孤立する可能性もあります。


これに対してRCEPは交渉が始まったばかりで、日本の要求が出しやすく合意が得られやすいでしょう。しかもTPPとは違って「成長するアジア」が直接交渉相手になります。日本の輸出先は、中国と韓国で約3割を占め、アジア諸国全体では半分以上を占めます。日本経済にとって、TPPRCEP+日中韓自由貿易協定のどちらが有利かは明らかでしょう。


では、RCEPや日中韓自由貿易協定を優先させて、将来、どのような環太平洋包括連携協定(FTAAP)を目指すべきでしょうか。


RCEPや日中韓自由貿易協定の場合、FTAEPAを締結する時に衝突しやすい農業も、アジア諸国との間では起きにくい点が大きなメリットです(もちろん、簡単ではありませんが)。東アジア諸国は稲作中心の小規模農業であり、日本と比較的似ています。アジアは成長して富裕層が形成されており、すでに一人当たりGDPではシンガポール・台湾に抜かれており、まもなく韓国にも追いつかれると見通されています。こうしたアジアの富裕層は日本の農産物を選好しています。RCEPや日中韓自由貿易協定によって、日本の農業は輸出産業に生まれ変わることも可能になります。アジア諸国から一部低価格の農産物が入ってくるかもしれませんが、TPPと比べればまだ個別所得補償などで対応可能でしょう。かつてより、アジアレベルでずっと市場統合がやりやすい状況が生まれています。


一方、もしアメリカがアジアと貿易関係を結びたいなら、アメリカは一方的に有利なルールを押し付けるTPPではなく、RCEPなどで合意されたアジアのルールに従っていかなければなりません。将来、環太平洋包括連携協定(FTAAP)ができるとすれば、日本は自国の利益を考え、より自国に有利な状況を作るように動くのが外交戦略の基本になるはずです。


小泉「構造改革」の焼き直し

TPPが貿易上の利益がないと分かると、今度はTPPが押し付けるアメリカン・ルールを「グローバル・スタンダード」としてTPPを正当化する主張が表に出てきています。規制緩和や民営化で、日本経済に活力が生まれ、日本の雇用が増えるというのです。


手を変え品を変え、ですが、これって、どこかで聞いたフレーズではありませんか?


そうです。TPPは小泉「構造改革」の焼き直しなのです。これは、いわゆる“ショック療法”で日本は立ち直るという「議論」ですが、それが散々な結果に終わったことは明らかです。


先のブログにも書いたように、小泉「構造改革」の間に、情報スーパーハイウエイ構想を掲げる米国にスパコンでもIT革命でも後れをとり、電機産業の悲惨な経営状況を招いてしまいました。また小泉「構造改革」は貧困と格差の拡大をもたらし、デフレを定着させてしまいました。失敗の反省がない無責任大国ニッポンです。


いま、「失われた20年」の間に、日本は売るモノが次第になくなりかけていることが最大の問題です。小泉「構造改革」の焼き直しであるTPPに入っても、状況が改善する見込みは全くありません。むしろ、グリーンイノベーション、ライフイノベーション、農業の6次産業化による地域経済の強化など、自らの成長戦略を急ぐことが何よりも必要なのです。


ところが、それを妨げているのが、原発や電力会社の既得権益を守るために「抵抗勢力」と化している財界首脳なのです。もはや日本の経済界は“戦艦大和”と化しています。政治だけでなく55年体制のままである財界も改革が必要とされています。


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