私達は、いま原爆が投下され、焦土と化した戦後直後のような状況にあります。

大震災はまるで大空襲の後のように街々を押し流し、まるで爆撃を受けたように原発は煙を上げ、放射性物質をまき散らしています。東日本大震災は、多くの人々の、あるいは肉親の命を奪いました。おそらく3万人を超えるでしょうが、未だにその人数さえ確定できません。

緊急に取り組まなければならないことがいっぱいあります。

ひとつは医療崩壊で、電力不足で手術ができない、必要な医薬品がそろわない等の理由から医療が崩壊している地域を救うことです。小泉「構造改革」下で、医療崩壊が進んだことがボディブローのように効いています。

さらに、ハリケーン・カトリーナも1ヶ月くらいで感染症が広がり、2次災害化しました。トイレの水がなくて、便が流せず、手が洗えない避難所は感染症が広がる温床となります。まずは仮設住宅の建設や本格的な避難所に移すことを急ぐべきでしょう。

さらに生活の手段を根こそぎ津波でさらわれています。農業漁業の再建は並大抵のことではありません。個人任せでなく、国が出資する法人などを組織することを通じて再建する方法も考えなければならないかもしれません。

たしかに戦争は人災なのに対して、この大地震と津波は天災ですから、違った面があります。しかし天災だから仕方がないとして済ませられない面があります。この国は唯一の被爆国であるにもかかわらず、福島第一原発の事故によって史上最悪の放射能汚染被害をもたらしつつあり、かつ近隣諸国をはじめ世界中の国々から情報隠しと放射能をまき散らした行為に批判の眼が注がれています。
これは明らかに人災です。

戦後無責任体制の帰結

私達はどこから再出発すべきなのでしょうか?
そして何をすべきなのでしょうか?

福島原発事故の処理を見ていると、不良債権問題で揺れた頃の政府と銀行の姿と驚くほど重なってきます。悪い情報は隠され、事態がほんの少しでも改善された時だけ、情報を出すことを繰り返します。その結果、事態はますます悪化していきました。今回もまったく同じパターンです。

これは「失われた二〇年」の間に繰り返されてきた無責任体制の一つの帰結だったのです。リスクを考慮できず、リスクが来ても対処する能力もなく、ただひたすら嘘で固めるしかない無能なリーダーたちが闊歩してきた結果、ついにここまで来てしまいました。ちょうど敗戦直後の日本と同じように、この無責任体制の根本的反省なくして、日本が再生することはないでしょう。

まず何より、新しい日本において嘘は絶対に許されません。

これまで国民に対して「原発は安全」「放射能漏れは起こりえない」と言いつづけてきた東京電力、経産省、原子力委員会、原子力安全委員会らは、いまや「想定外だった」として責任逃れや責任の押し付け合いを繰り返しています。

しかし過去に、国会において、大規模地震に伴って電源が失われた場合や、津波による冷却水が確保できない可能性についても、何度か質疑応答が交わされていましたが、結局、状況は改善されませんでした。JCOの放射能漏れ事故、2006年の「新耐震基準」とバックチェックが言われましたが、直後の2007年に中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原発のシュラウドにヒビ割れが生じました。その間、原子力安全委員会や原子力安全・保安院が、厳しく改善を迫った痕跡はありません。

原発を建てる側も認可する側もチェックする側も、みんな「お仲間」だったのです。

これまで彼らは口をそろえて、原子力はKW当たり7円で最も安いエネルギーだと言ってきました。しかし、これも嘘でした。一旦事故を起こせば莫大な人的金銭的被害をもたらすことが、今回白日の下にさらされました。原発のコスト計算は徹底に安全コストを削り、何十年もかかる廃炉のコストを削っていただけのことだったのです。

今ある老朽化したり活断層の上にあったりする原発はただちに止めて再点検し、もし動かすならいくらかかっても必要な安全投資を怠るべきではありません。原発はとてつもなくコストの高いエネルギーなのです。もはや原発に賛成する人も反対する人も、ここから出発する以外にありません。これから原発を受け入れる自治体もほとんどなくなります。老朽化した原発は廃炉を余儀なくされていくでしょう。もはや原発依存のエネルギー政策を続けることは不可能です。

震災復興事業に際して、以下の作業が不可欠です。

  1. 福島原発事故がおさまらないかぎり、日本の安全・安心のブランドは著しく傷つけられ、農産物だけでなく、やがて工業製品の輸出にも打撃が及ぶでしょう。国際的信頼を回復するには、国会で事故調査委員会を設けて事故原因を究明するとともに、東京電力、経済産業省、原子力安全・保安院の責任を明らかにすべきです。もちろん、これまでの経済産業省における原発依存のエネルギー・電力行政も検証の対象とすることも不可欠です。
  2. そうした過程を踏まえて、復興のベースとなる今後のエネルギー・電力行政のあり方を根底から考え直すべきです。検討すべきは、電力会社の地域独占のあり方、発電と送配電の分離(発電の自由化、送配電に関しては10社の統合的運用の枠組を導入)、原子力の安全行政のあり方を抜本的に見直し(原子力安全委員会および原子力安全保安院の独立性の確保)などです。
  3. 浜岡原発、もんじゅなどの停止など、老朽化した、また危険な原発は停止し、再稼働する場合にはいくらかかっても本格的な安全投資を行うべきです。しかし原発が危ないからといって、電力不足を理由に石炭火力に逆戻りしても意味がありません。「原発の増設と輸出」でCO2削減という方針に安易に乗っかってきたことを反省し、環境エネルギー政策の根本的転換を図るべきです。民主党政権は2009年マニフェストに立ち返り、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の導入、キャップ・アンド・トレード方式の排出量取引、地球温暖化対策税(環境税)の諸政策の実施に向けた体制を早急に構築すべきです。
  4. ガレキと化した東北の街々を、すべて防災を加味したうえでスマートシティにし、世界最先端の町作りを実現しましょう。
  5. その一方で、東京など都市では、学校・病院などの公共施設や商業ビルは断熱化を行い、エネルギー自給を義務づけます。住宅は太陽光発電を設置したりピーク時に対応しやすい太陽光とガスのコジェネにしたり、あるいはLEDへの転換を進めたりすることで、世界一の省エネ都市を実現しましょう。
  6. 地方は、太陽光、風力、地熱だけでなく、小水力やバイオマスなどの再生可能エネルギーによってエネルギーの地産地消を図ると同時に、スマートグリッドによる双方向的な送配電網を整え、この再生可能エネルギー転換をベースに地域分散型経済を創出します。それは(固定価格買取制度によって)地方に売電収入をもたらすだけでなく、新しいエネルギーに関連する雇用を作り出します。これによって「中央集権・メインフレーム型経済」からリスクに強い「地域主権・ネットワーク型経済」へ転換するのです。
後戻りせず前へ進もう
いま震災復興をめぐって補正予算の規模をどのくらいにするのか、あるいは復興庁を創設するか否かといった議論が行き交っています。しかし、財源の議論をする前に、いかなる復興計画を立てるのか、復興計画の中身を決めることが先です。

インフラの復旧が必要になりますが、復興需要が終われば元の木阿弥になってしまうような、旧来型の災害復旧対策の焼き直しや石炭火力エネルギーへの逆戻りではいけません。3.11によって一つの時代が終わりました。世界は一変したのです。私たちは発想を大きく変えなければなりません。

かつて敗戦の焦土の中から、一から出直して、この国の再生・復活を図ってきたように、今こそ、この巨大地震をこの国を生まれ変わらせる契機としなければなりません。今こそ戦後無責任体制を一掃するとともに、「国家改造計画」を打ち出さなければなりません。

その基軸となるのは、本格的な再生可能エネルギーへの切り替えです。それによって世界最先端の環境エネルギー先進国を目指すべきです。そのために、この分野において新しい技術を開発し、そこに一気に投資を呼び込んでいく仕組みを作るべきです。そうでなければ、被災地の人々も、そして若い世代も未来に希望を持つことができません。

決して後戻りするのではなく前に進もう。
必要なのは、元に戻る復旧ではなく前に進む復興なのです。

*詳しくは、雑誌『世界』5月号に掲載されている拙著「後戻りせず 前に進もう――日本復興計画の提言――」を読んで下さい。