都合悪い情報は隠すもの?

福島第1原発事故によって、東電も政府(とくに原子力ムラ官僚たち)も国民に対して本当の情報を隠すものだということが分かりました。メディアも、知ってか知らずか、それを検証もせずに垂れ流すことも分かりました。

TPP
(環太平洋包括経済連携協定)の問題でも同じです。
 

当初、メディアはTPPで問題なのは農業・農産物だとしていました。たしかに、関税撤廃でおよそ40%の食料自給率がさらに低下すれば、大問題です。とくに、ただでさえ基地があるのに、食料までアメリカに依存するとなると、国の存立そのものにかかわります。実際、欧州諸国は、食料の安全保障という観点もあって、日本の数倍の個別所得補償を農業者に支払ってでも食料自給を達成しています。


しかし、実は問題はこれだけにとどまりません。


TPP21の交渉分野に及び、郵政民営化、高額医療の保険外診療の拡大と「混合診療」の解禁、医薬品や医療機械の規制緩和、農薬の安全基準、一定の周波数の入札と外国資本への開放、公共事業の入札条件の緩和、移民労働規制の緩和、看護師・介護士・医師・弁護士の資格問題などが、交渉分野になる可能性があることが分かってきました。


ちらほら報道されているのは、TPPに対する米国内の自動車業界の反対を和らげるために、日本に軽自動車の税金が軽いとか日本のディーラーシステムが排他的であるとか言い出していること、郵政民営化見直し法案の凍結、あるいはBSE問題で月20ヶ月以下という米国産牛肉の輸入条件を緩和しろ(これは厚生労働省が先取りして緩和を準備しています)と米国側が要求してきていることくらいです。


政府は何が問題になるのか、十分な情報開示をしていません。にもかかわらず、とりあえず参加すべきだとか、交渉に参加しないと本当のところは分からないと言います。原発問題と同じ構図です。米国追随路線を突き進む政府は、自らに都合悪い情報を隠している可能性が高いと考えられます。


TPP参加で日本の雇用が増えるのか?

ここで間違ってはいけません。TPPはオバマ大統領の200万人の雇用創出計画の一貫として出されてきているのであって、決して日本の雇用を増やすためのものではありません。


内閣府の試算でもアジアへの輸出が増えることでプラスになっていますが、後で述べるように、TPPが「成長するアジアを取り込む」というのは眉唾ものです。実際、ASEANが中国を巻き込んで、TPPに対抗してRCEP(東アジア包括経済連携協定)を打ち出しており、日中韓自由貿易協定やRCEPこそが「成長するアジア」を取り込むものです。TPPはアメリカに進出している一部大企業を当面やりやすくするだけで、日本国内へのプラスはほとんどありません。


途中で抜ければいいではないか?

TPPに問題が多いことがわかってくると、「とりあえず交渉に参加して、イヤだったら途中で抜ければいいじゃいか」と言い出しています。電力不足だの電力料金が上がるだのと次々と理由を変えていくのと同じ構図です。


しかし、問題は日本政府にそんな交渉力があるかどうかです。残念ながら、過去を振り返るかぎり、全くと言ってよいほど、日本政府にはそのような交渉能力はありません。


証拠もないイラク戦争に対して、米国と同盟関係にあったヨーロッパ諸国やカナダでさえ反対しているにもかかわらず、日本はイラク戦争協力に突っ込んでいき、日本外交は国際的信用を失墜させてしまいました。その反省も検証もきちんとなされているとは思えません。


事実、墜落事故が頻繁に起きており、ハワイでも配備を拒否されたオスプレイを、沖縄県民の強い反対を押し切ってまで強行配備しました。夜間外出禁止令が出ている中にアメリカ兵が何度も犯罪行為を繰り返しているのに、日米地位協定の改定について交渉もしていません。今だにアメリカについていけば、何とかなるという思考停止状況に陥っているのです。


こんな状況で、日本の外交力を考えた場合、国益にそぐわない場合でも交渉から離脱することはできるでしょうか?いったん交渉に参加すれば、例によって「途中で抜ければ、対米関係を悪化させる。今さら抜けるなんてありえない」と主張することは目に見えています。「振り込め詐欺」にご注意です。


推進派はカナダ・メキシコも参加を表明したと言いますが、すでに交渉国間で合意された内容を無条件で受け入れることとなっています。カナダ・メキシコは北米自由貿易協定を結んでいるからまだしも、日本はそうはいきません。


より問題なのは、これまで日本のFTAEPAは一部をのぞいて基本的に自由化対象だけを記載するポジティブ・リスト方式をとってきましたが、これに対して、TPPはリストに掲載したものだけを適用対象としないネガティブ・リスト方式をとっており、この例外以外は基本的に自由化を求められるという点です。


さらに、これに企業が国を相手取って訴訟を起こすことのできるISD条項が入ってきます。もしISD条項が入ると、米国は基本的に訴訟社会なので、日本市場に入れないと、米国企業が日本政府を相手取って訴訟を起こしてくる可能性が生じてきます。他国の裁判所の判決で自国のルールが歪められる危険性があるのです。こうした米国ルールに日本政府や日本企業は耐えられるでしょうか。ノーです。


成長のアジアを取り込む?

しばしば「TPPに参加して、成長のエンジンとしてのアジアを取り込む」という主張がなされてきましたが、TPPには肝心の中国、インド、韓国、などが参加していません。しかも、先に述べたようにASEANTPPに対抗する形で、中国を巻き込んで東アジア包括的経済連携協定(RCEP)の交渉をスタートすることを打ち出しました。TPPに参加すれば、アジアを取り込めるどころか、逆に孤立してしまう可能性もありえます。


TPPは当初言われたような「自由貿易」の仕組みではなく、明らかにアジア市場をめぐる現代版ブロック経済の動きなのです。1930年代のそれは、宗主国と旧植民地・植民地の間で行われましたが、現在はルール圏をめぐる攻めぎ合いです。TPPとは、アメリカン・ルールによるアジア市場の囲い込みの動きと考えてよいでしょう。


では、このような東アジア市場をめぐる動きの中で、日本政府はどのように対応してきたのでしょうか。少し振り返ってみましょう。


2009年総選挙で政権交代した民主党政権は、まず東アジア共同体構想を打ち出しました。しかし、鳩山政権が普天間基地移転問題でつまずいて交代してから、次第に対米追随路線へと逆戻りしてきました。こういう状況で、石原前知事が尖閣問題に火を付け、野田首相が胡錦濤前主席との立ち話で制止されたにもかかわらず、翌々日に国有化を打ち出したために、尖閣問題が深刻化してしまいました。その結果、自動車をはじめ日本製品は、世界一の自動車市場である中国市場から徐々に閉め出されつつあります。


TPPは、すでに交渉参加国間で決まったルールを受け入れなければならず、参加国のほとんどが資源小国で、日本と同じような立場の国はなく、孤立する可能性もあります。


これに対してRCEPは交渉が始まったばかりで、日本の要求が出しやすく合意が得られやすいでしょう。しかもTPPとは違って「成長するアジア」が直接交渉相手になります。日本の輸出先は、中国と韓国で約3割を占め、アジア諸国全体では半分以上を占めます。日本経済にとって、TPPRCEP+日中韓自由貿易協定のどちらが有利かは明らかでしょう。


では、RCEPや日中韓自由貿易協定を優先させて、将来、どのような環太平洋包括連携協定(FTAAP)を目指すべきでしょうか。


RCEPや日中韓自由貿易協定の場合、FTAEPAを締結する時に衝突しやすい農業も、アジア諸国との間では起きにくい点が大きなメリットです(もちろん、簡単ではありませんが)。東アジア諸国は稲作中心の小規模農業であり、日本と比較的似ています。アジアは成長して富裕層が形成されており、すでに一人当たりGDPではシンガポール・台湾に抜かれており、まもなく韓国にも追いつかれると見通されています。こうしたアジアの富裕層は日本の農産物を選好しています。RCEPや日中韓自由貿易協定によって、日本の農業は輸出産業に生まれ変わることも可能になります。アジア諸国から一部低価格の農産物が入ってくるかもしれませんが、TPPと比べればまだ個別所得補償などで対応可能でしょう。かつてより、アジアレベルでずっと市場統合がやりやすい状況が生まれています。


一方、もしアメリカがアジアと貿易関係を結びたいなら、アメリカは一方的に有利なルールを押し付けるTPPではなく、RCEPなどで合意されたアジアのルールに従っていかなければなりません。将来、環太平洋包括連携協定(FTAAP)ができるとすれば、日本は自国の利益を考え、より自国に有利な状況を作るように動くのが外交戦略の基本になるはずです。


小泉「構造改革」の焼き直し

TPPが貿易上の利益がないと分かると、今度はTPPが押し付けるアメリカン・ルールを「グローバル・スタンダード」としてTPPを正当化する主張が表に出てきています。規制緩和や民営化で、日本経済に活力が生まれ、日本の雇用が増えるというのです。


手を変え品を変え、ですが、これって、どこかで聞いたフレーズではありませんか?


そうです。TPPは小泉「構造改革」の焼き直しなのです。これは、いわゆる“ショック療法”で日本は立ち直るという「議論」ですが、それが散々な結果に終わったことは明らかです。


先のブログにも書いたように、小泉「構造改革」の間に、情報スーパーハイウエイ構想を掲げる米国にスパコンでもIT革命でも後れをとり、電機産業の悲惨な経営状況を招いてしまいました。また小泉「構造改革」は貧困と格差の拡大をもたらし、デフレを定着させてしまいました。失敗の反省がない無責任大国ニッポンです。


いま、「失われた20年」の間に、日本は売るモノが次第になくなりかけていることが最大の問題です。小泉「構造改革」の焼き直しであるTPPに入っても、状況が改善する見込みは全くありません。むしろ、グリーンイノベーション、ライフイノベーション、農業の6次産業化による地域経済の強化など、自らの成長戦略を急ぐことが何よりも必要なのです。


ところが、それを妨げているのが、原発や電力会社の既得権益を守るために「抵抗勢力」と化している財界首脳なのです。もはや日本の経済界は“戦艦大和”と化しています。政治だけでなく55年体制のままである財界も改革が必要とされています。