「エネルギー基本計画」のひどい内容

秘密保護法が国会で採決された日に、どさくさ紛れに、経済産業省の「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」で「エネルギー基本計画」の素案が提示されました。当然、その内容のひどさにもかかわらず、新聞記事は小さくなってしまいました。

 

主な内容を見ると、以下の通りです。

 

●原発の依存度を可能な限り低くするとしながらも、電力の安定供給、コスト低減、温暖化対策の観点から、安全性の確保を前提に原発を「重要なベース電源」として位置づけた。民主党政権下の「2030年代に原発ゼロとする」という方針が根本的に覆されてしまった。

●いま全国で7つの原発の14基が、原子力規制委員会の安全審査を受けているが、原発の再稼働に前向きな姿勢を明確にした。

●民主党政権下で「原発の新設・増設は行わない」とされたが、今回は原発の新設や増設については直接言及せずに「必要とされる規模を確保する」とし、新設や増設に含みをもたせた。

全体の電力供給に占める電源別の構成比率について、現時点で原発の再稼働が見通せないという理由をあげて示さなかった。それは、ずるずる方式をとることを意味する。

●使用済み核燃料について、「国が前面に立って最終処分に向けた取り組みを進める」とし、最終処分場の候補地を自治体からの公募に頼るこれまでの方法を改め、処分場に適した地域を示すなど国が主導して問題に取り組む姿勢を明確にした。だが、具体策は何も示さなかった。

●ただし太陽光や風力といった再生可能エネルギーについては、今後3年程度、導入を最大限加速していくとした。だが、3年以後については書かれていない。

 

今回の「エネルギー基本計画」が何より問題なのは、民意を反映させるプロセスを全く欠いていることです。

 

昨年9月に民主党政権下において決めた「2030年代に原発ゼロ」とするエネルギー政策は、討議参加型世論調査と銘打って各地において公募の参加者の意見表明がなされました。また当時、9万を超えるパブリックコメントが寄せられ、原発ゼロが圧倒的でした。

 

こうした討論参加型世論調査と比べてみると、今回は総合資源エネルギー調査会基本政策分科会において脱原発を主張する委員を降ろし、原発推進の立場に立つ委員に差し替えたうえで、官僚主導の業界利益のための審議会政治へ逆戻りさせたもので、民意を完全に無視したものです。まるで福島原発事故などなかったかのようです。

 

嘘で塗り固めた非現実的な「計画」

使用済み核燃料の最終処分場は見通しが立たないという根本的問題を別にしても、原発を「重要なベース電源」と位置づける根拠がきわめて薄弱です。

 

まず電力不足と安定供給を理由にあげていますが、大飯原発を再稼動させる前にも、計画停電が必要だとして電力が不足するという嘘キャンペーンを展開しました。

 

 昨年夏を見ると、最大電力需要があった83日の14時台で2682kWでしたが、想定した最大電力需要2987kW300kW以上も下回りました。2010年夏の最大電力需要である3095kWと比べると400kW以上も少なかったのです。節電効果を過少に見積もったため、余剰電力が1割ほど発生したのです。

 

今夏も猛暑でしたが、さすがに嘘キャンペーンは鳴りをひそめました。むしろ省エネ=スマート化をひとつの産業戦略にしていく発想こそが求められています。電力不足は原発再稼動の理由になりません。

 

そこで次に出てきたのが、燃料費増加キャンペーンです。

 

経産省は、原発停止による火力発電への代替により、2012年度に燃料費が3.1兆円増えたとする数字を1人歩きさせています。しかし、河野太郎議員によれば、ここでも計算のゴマカシをしています。

http://www.taro.org/2013/11/post-1420.php

 

経産省は、2010年度の過去3年間の原発の平均電力量である2748億kWh から、泊3号機と大飯3、4号機の発電電力量156億kWh(2012年度)を差し引いた2592億kWhを全て火力発電で代替したと仮定して計算しています。

 

しかし実際には、節電や省エネが進んだこともあって、火力発電の焚き増しは1827億kWh に過ぎませんでした。つまり、766億kWhも過大な数字で計算しているのです。しかも、その火力発電の内訳をみると、燃料単価が高い石油火力を1206億kWhも発電するとして見積もっています。また、LNGの価格は、40年も前にカタールと結んだ契約に基づいて原油価格の上昇に連動させた価格で計算しており、ガスの調達先を分散すれば、かなりの節約が可能なのです。

 

環境エネルギー政策研究所や自然エネルギー財団の試算によれば、燃料費コストの増加分は3.1兆円の半分の1.5兆円程度です。ここでも経産省は、原発を再稼働させたいために燃料費増加を過大に見積もっています。

http://www.isep.or.jp/library/5224

http://jref.or.jp/images/pdf/20130918/JREFenergyproject_2013.pdf 

 

 

「原発は安い」は本当なのか

経産省は、原発のコストについても、201112月にコスト等検証委員会が出した8.9/kWh で、石炭火力の9.4/kWh LNGガスの10.7/kWhより安い数値を使っています。これはモデルプラントを使って50基全部が動くことを前提にシミュレーションで試算したもので、いまや非現実的なものです。

 

まず原発は追加安全投資で約2兆円ほどかかりますが、これもかなり過少な数字です。欧州の原発には、メルトダウンしても受け止めて冷却設備に流し込むコアキャッチャーを装備するようになってきています。安倍首相は、「世界一の安全基準にする」と言っていますが、コアキャッチャーは原子力規制委員会の新安全基準には含まれていません。コアキャッチャーなどを標準装備すれば、さらに多額の費用がかかります。

 

賠償・除染費用は少なくとも10兆円になります。

 

ところが、政府は、汚染土をフレコンパックに詰め込み野積みにする中間貯蔵施設方式をとり、東電も認めていた5兆円かかる除染費用を2.5兆円に削ろうとしています。その背後には、東電を救済する政府と、自らの予算を削られまいとする日本原子力開発機構が、東京ドーム20個分以上と言われる巨大な汚染土の山を築く方式を推進し、これ以上、土を剥がすなとしています。

 

その日本原子力開発機構出身の田中俊一原子力規制委員長は、20mSvでいいと言い、賠償打ち切りを主張してきました。

 

そして環境省は、東電・ゼネコンと一体化して、100分の1に減容できるセシウム回収型焼却炉付き森林バイオマス方式を拒否しています。東電救済のために、必要な費用を出さずに失敗してきた事故対策を全く反省していません。

 

こうして見てくると、安全投資、賠償・除染費用は少なくとも12兆円以上はかかります。燃料費の1.5兆円とは比べものにならないくらい大きい数字です。それらが原発の発電単価を押し上げています。

 

さらに、政府も原発依存を出来るだけ下げるとしていますが、原発は40年で減価償却し、廃炉の引当金を積むことになっているので、もし途中で廃炉にすると、原子力発電施設と核燃料の残存簿価、廃炉引当金の不足が生じ、特別損失として計上しなければなりません。現時点で原発50基をすべて廃炉にすると、少なくとも4.4兆円はかかることになりますが、これには原発サイトの共用施設分が含まれていませんので、過小評価の可能性があります。ともあれ実際に、50基を廃炉にすると、いくつかの電力会社が経営破綻する恐れが出てきます。

 

それゆえ、電力会社は安全軽視で原発を再稼働させたくなるのです。

 

問題は、再稼働する原発が少なければ少ないほど、原発の発電単価は上昇することになることです。廃炉にする原発の廃炉引当金不足額が生じ、しかも稼働する原発の数が少ないほど、分母が小さくなり、原発のコストは高くなるからです。今回のエネルギー計画は、電源構成の具体的数値をあげずに、そのことを隠そうとしています。

 

私は、拙著『原発は火力より高い』(岩波ブックレット)において、50基中28基を廃炉にして、2兆円の安全投資、10兆円の賠償・除染費用、28基分の廃炉費用を乗せて、政府のシミュレーション方式を使って試算したところ、原発の発電単価は1735/kWhになりました。火力のおよそ2倍です。もはや原発の経済性は全くないと言ってよいでしょう。

 

問題はこの廃炉費用を経済産業省の省令だけで電気料金に乗せられるようにしたことです。それによって、料金負担は新電力と契約できない家庭(国民)や自家発電を持たない中小企業にかかってきます。原発は不良債権そのものであり、その抜本的処理が必要なのです。

 

そのためには、以下の手続きが必要です。

    まず電力会社に原子力発電施設と核燃料の残存簿価、廃炉引当金の不足額に当たる株式を発行させ、それを政府が買い取ります。

    そのうえで、電力会社を発電会社と送配電会社に分離し、原発を電力会社から切り離して、すでに事実上破綻している日本原子力発電に集めることが大事です。日本原電は基本的に廃炉専門会社になります。もし少数の原発を動かすことになったとしても、少なくとも電力会社の経営事情に左右されずに、高い安全基準を設定して時間をかけて原発の安全性を見ることができます。

    一方、原発=不良債権を切り離すことで電力会社の経営は健全になり、電力会社に多く貸付けている銀行はこれで不良債権を処理することができます。

    国が買い取った電力会社の株は、原発を切り離して健全化した電力会社が買い戻してもいいし、一般に売却してもいい。少なくとも国民や中小企業が負担を負うことなく原発を処理することができるようになります。

 

経産官僚や古い産業構造を代表する経団連の一部リーダーの無責任体制を守るために、コストが異常に高い原発を再稼働して、産業構造の転換に遅れれば、「失われた30年」になってしまいます。

 

原発=不良債権の処理を急がないといけません。

 

*参照:拙著『原発は火力より高い』(岩波ブックレット)