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金子勝ブログ

慶應義塾大学経済学部教授金子勝のオフィシャルブログです。

2010年02月

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私を突き動かすもの

最近の政治経済状況を見ていると感じる、戦前の大恐慌と様相が似てきていていることへの不気味さ――それが私の中を突き動かすのです。もちろん、自分自身の苦い経験もあって、私は、今にも「ファシズムがやってくる」という「狼少年」のような議論をする気はありません。何か社会全体が壊れていくような感覚と言ったらわかるでしょうか。長期停滞の時代には、人が生きていく方向性が見えなくなり、経済に連動して政治も社会も崩れ始めていくものです。実際に、経済は言うまでもなく、政党政治の崩壊を予兆するようです。

 こういう時は、「過去の似た事例」を注意深く比較して考えることが必要です。実は、この不況は1930年代の大恐慌とは似て非なるものです。

 たとえば、大恐慌期には、小さな銀行が「伝染」によってドミノ倒しのように破綻しましたが、今は欧米のマネーセンターバンクがヨレヨレの状態です。あるいは金融のグローバル化のおかげで、アイスランド、バルト三国、ドバイ、ギリシャ、ポルトガルと、つぎつぎと国家がデフォルトになりかねない危機が襲っています。つぎは中東欧諸国が危ないといわれています。さらに、資源インフレ(石油ショック)と資産デフレ(バブル崩壊)が同時に襲う、かつて経験したことのない不況です。G7にはカネがなく、G20が新たに登場しましたが、これが新しい世界の安定的秩序になるとは思えません。これまで一度も経験したことがないような長い経済停滞と多極化した不安定な世界が続く危険性が高まっています。歴史は繰り返すように見えて、決して同じではありません。

 しかも、過去の歴史解釈もまた変わるものです。ニューディール政策が大恐慌を終わらせたかのような議論が一部にありますが、虚心坦懐に見れば、戦争が景気回復をもたらしたというのが「真実」でしょう。そして戦争による破壊が戦後の膨大な更新投資、更新需要を作り出しました。その底流では、石炭から石油へのエネルギー転換が起きていました。何より第二次世界大戦は「石油による戦争」でした。軍艦も戦闘機も爆撃機も戦車も輸送車も、みな石油で動くようになったのです。戦後の航空機産業や自動車産業の成長は、この戦争抜きには考えられません。中島飛行機(富士重工)、日産あるいはドイツのBMWもみな「石油の戦争」が基礎になって生まれました。もちろん、景気回復のために戦争をしろと言っているのはありません。実際に戦前と比べれば、兵器の破壊能力は比べものにならないくらい巨大になりました。先進諸国同士の戦争は、地球の破滅を意味します。おそらく現代の戦争は、過去とは違っています。まず冷戦の終結とともに、藤原帰一氏が言うようにアフガン、ソマリアなどのアフリカ諸国といった「見捨てられた地域」が生まれ、そこで国家が溶解して「テロリストたち」がどんどん育っていっていく。彼らが先進諸国を襲うようになりました。そして、先進諸国はそれに備えて、ますます「監視国家」「管理社会」化していくという形をとって、戦争は「現実化」しつつあるように思えます。すべては似ていて、全く異なるのです。経済学にかぎらず、既存の学問が役に立たず、現実の前に立ちすくみ、説明力をますます失っています。では、何を考えるべきなのでしょうか。

 いまは戦争抜きにいかにしてこの未曾有の不況を脱するのか、を真剣に考えないといけない時期なのかもしれません。私には、地球温暖化阻止という大義を掲げ、世界中でいっせいにエネルギー転換を引き起こし、爆発的な更新投資、更新需要を一気に喚起する以外に抜け道は見つからないように思えるのです。過去を本当に反省するならば、日本はその先頭に立たなければならないでしょう。たしかに、格差も貧困もひどい。だが、本当に平和や人権を守ろうとする気があるなら、決して内向きになってはいけません。同じ所をぐるぐる回っていては何も生まれてこないからです。未来に向かって、何を作り出すのか。それが、『日本再生の国家戦略を急げ!』(小学館)と『新・反グローバリズム』(岩波現代文庫)を書いた底流にある(書いていない)問題意識です。いま私は、命を使い切ってでも、将来の世界を見通したいという欲望に勝てないでいます。
23

おまえはすでに死んでいる

入学試験があって、ブログをしばらく更新できず、申しわけありませんでした。ボヤボヤしているうちに、バンクーバー冬季オリンピックが始まってしまいました。上村愛子選手がまた4位。何ともニガい結果です。オリンピックは、もともと政治的イベントの色彩が強く、そのせいか「国力」を現します。とりあえず、男子スピードスケート500m、フギュアスケートで銅メダルで、トリノの悪夢は避けられましたが、中国、韓国勢と比べると、ああ、日本は衰退しているんだなあ、と実感させられます。

そんな中、日本の産業競争力を代表するトヨタのリコール問題。この問題は意外と深刻な気がします。日本の産業の競争力が急速に落ちている象徴的事件になりかねないからです。トヨタは、ペダルが戻りにくいとの問題で、アメリカで約426万台のリコールが明らかになり、2009年11月以降にトヨタが全世界で対応するリコールや改修台数は延べ900万台近くになると言われています。

 その後、日本およびアメリカにおいて、電子制御の不具合でブレーキがかかりにくいという問題で、ついにリコールとなりました。今度はカローラもリコール要求が出ていて、どこまで膨らむかわからない状況になってきました。

 もちろん問題の要因はいろいろあるでしょうが、社長自らが認めたように、トヨタ生産方式の原点を忘れたことが大きな原因と言えそうです。まず、トヨタは、部品供給会社や下請け企業と緊密な協力関係を築き、高品質の製品をつくってきました。だからこそ、部品が数万点に及ぶ自動車産業で力を発揮してきました。しかし、グローバル化とともに、米国の部品供給会社に発注したペダルに欠陥が出て、対応できませんでした。

 さらに、かつては日本企業の現場労働者の熟練技能こそが企業競争力の源泉であるとされてきましたが、その肝心の熟練技能を担うモノ作りの現場をハケン社員に頼るようにもなりました。またトヨタに代表される、かつての日本の企業は、顧客のニーズを大切にし、ニーズに合わせた製品開発を心がけてきました。ところが、顧客がブレーキの利きに不安を感じているのに、トヨタ幹部の「フィーリングの問題だ」という一言で済まそうとした、その時点で、トヨタ生産方式は完全に忘れられていることになります。

日本製品の競争力低下は「過剰品質」にあるという議論があります。「選択と集中」は一見当たり前のように見えますが、単品勝負となれば、コスト勝負にしかなりません。このようなコストダウン優先の考え方でいけば、日本人の賃金を中国並みに引き下げなければならなくなります。こうした発想が小泉「構造改革」路線以降、とにかくグローバル化だ、合理化だとのかけ声のもとに強まりました。小泉政権時代に、労働者派遣法が改悪され、株式持ち合いは否定されて企業間の結びつきが弱められ、製品作りにおける企業間のコーディネーション力は完全に失われてしまいました。いまや、日本の産業は衰退に向かっていると言ってよいでしょう。バブル崩壊処理の失敗がその第一波だとすれば、それを決定的にしたのは小泉「構造改革」だったと思われます。ところが、主流経済学者もメディアも全く反省がありません。

データは嘘をつきません。小泉「構造改革」によって日本の成長力が急落しています。OECD統計によれば、小泉「構造改革」直前の2000年には世界第3位であった一人あたりGDPは、小泉「構造改革」が終わった2007年には第19位にまで落ち、2008年にはついに第23位にまで落ちています(もっとも、統計によっていろいろな順位があります)。個別産業分野で見ても、半導体、テレビ、スーパーコンピュータ、太陽光電池など、90年代に世界第1位だったものが、どんどん転落を始めています。ところが、メディアでは依然として、「構造改革」論者が「改革が足りない」「規制緩和や民営化が足りない」という発言が行き交っています。メディアは、それでバランスをとっているつもりになっており、「なぜ小泉『構造改革』が日本の成長力を落としたのか」という当然の問いを誰も発しようとしていません。まるでミッドウエイ海戦後の日本を再現しているようです。しかし、誰も「おまえはすでに死んでいる」とは言われたくないんでしょうね。このままでは第2の敗戦がまもなくやってきます。この国は、衰退の自己認識と反省抜きに、蘇る方向性は出てこないでしょう。
3

オバマ政権も相当に苦しい


望ましくないことだが、日米ともに政治も経済もしだいに麻痺しつつある。

オバマ大統領は、そうとうに苦しそうだ。1つつまずけば、他も次々つまずくという状態である。「ボタンの掛け違いはなかなか修正できない」とか、「誰にでもいい顔をしようとすると大胆なことが出来ない」といった言葉が浮かぶ。

1月21日に、ポール・ボルカー・元FRB議長を伴って、米国の銀行の高リスク投資を禁止する金融規制案を発表した。その内容は、グラス・スティーガル法以来と言われるが、銀行がヘッジファンドやプライベート・エクイティなどを運営したり、投資したりすることを禁じ、顧客からの依頼のない銀行の自己勘定売買を制限するものである。この間、銀行や投資銀行が、事実上自らの傘下にあるヘッジファンドやMMF(マネーマーケットファンド)を運営して、サブプライムローンなどを組み込んだ毒入り証券化商品などを売買して莫大な利益を上げてきた。それが住宅バブルを大きくし、住宅バブルの崩壊を大きくしたので、当然の措置と言ってよいだろう。が、遅きに失している。

 ボルカーは、大統領選の時の経済政策のアドバイザーだったが、当時から金融規制案に近いことを主張していた。ところが、オバマ大統領は勝利した途端、NY連銀の総裁だったガイトナーを財務長官に就け、ハーバード大の学長だったサマーズを国家経済会議の委員長に任命し、いつしか80歳を超えるボルカーは閑職に追いやられてしまった。ガイトナーもサマーズも、ウォール街に近い人物だ。そこから、金融機関のズルズル救済、不良債権のズルズル処理がはじまった。しかし、不良債権を抜本処理しない限り、金融問題が解決しないことは分かりきっていた。案の定、シティーバンクは、1年ぶりに赤字に転落している。

そこで、再び「金融規制」というボルカー案に戻った。金融規制案は、銀行がヘッジファンドを運営することや、銀行による自己売買取引を禁じるというものだ。ただ、これでも不十分だろう。MITのサイモン・ジョンソンやFTのコラムニストのマーティン・ウルフも批判しているように、この提案でも信用収縮は止まらない。現在、いくらFRBが資金供給をしても、信用乗数が上がらないのである。本来なら、金融機関の一時国有化しかないだろう。

 だが、状況はもっと悪い。この金融規制案でさえ、議会を通らない可能性がある。おそらく今年の中間選挙を意識して、米共和党は何でも反対路線に入っており、アメリカ政治は麻痺しているので、オバマは共和党陣営が反対しにくい金融規制案を持ち出してきた面がある。政治的駆け引きの面が強いのではないか。

一方、景気がいっこうに上向かず、追いつめられているオバマ大統領は、1月27日の一般教書演説のなかで、失業率が10%を突破した雇用問題を最重点に掲げ、200万人の雇用を創出すると訴えた。しかし、財政赤字が過去最悪に膨らんでいるため、財政規模を大きくすることができない。雇用関係の予算を手厚くすると、他の予算を削らざるをえず、本格的な景気回復は難しいだろう。米国は、金融が健全化するのに時間がかかり、その間に他セクターが犠牲になり、日本のように長期停滞に入ってしまうかもしれない。

それでも、オバマ大統領が何より雇用重視を訴えたのは、11月の中間選挙を意識しているからだろう。アメリカの選挙は「雇用」と「物価」が左右するからである。もし、中間選挙で民主党が大敗するようなことになれば、オバマ大統領はジミー・カーターの二の舞……つまり1期で終わりということになる恐れがある。

 ちなみに、日本の民主党政権も同じにならなければよいのだが、政治献金問題も含めて民主党の混乱ぶりを見ていると、その危険性は否定できないと思う。2月1日に、『民主党への緊急提言 日本再生の国家戦略を急げ!』(小学館)を上梓したが、民主党の人たちには是非読んでもらいたい。


日本再生の国家戦略を急げ!日本再生の国家戦略を急げ!
著者:金子 勝
販売元:小学館
発売日:2010-02-01
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