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金子勝ブログ

慶應義塾大学経済学部教授金子勝のオフィシャルブログです。

2010年05月

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口蹄疫と金融危機:「見えない病」のリスク

どうもブタクサの花粉なのか、鼻と目が痛むのでマスクをしていたら、「おまえも口蹄疫がうつったのか?」と言われました。

おい、おい、俺は牛豚ではないぞ~。うつるわけないだろ~。

でも、私が、ひどいギャフン症(花粉症)であることを信じられないのはわかります。いろいろと叩かれても、あまり痛みを感じない「歩くサンドバック」なので、細やかな神経もデリカシーもないように見えますからね。ということで、家畜扱いされている私です。



さて口蹄疫問題は、予想通り初動の遅れから、深刻な被害に及んでしまいました。いろいろと聞いていると、地元でも、とくに一所懸命飼育してきた牛豚を処分せざるをえない畜産農家は大変を通り越して悲惨になっています。たしかに口蹄疫自体は人には感染しませんが、口蹄疫のウィルスの感染力は非常に強く、人もウィルスを運ぶ可能性があるので、学校も商店もみな機能不全になっているようです。

以前ツイッターでも少し書きましたが、残酷だけれど、早い段階で口蹄疫にかかった牛豚が出た周囲の牛を全頭処分していれば、問題は早く収束していたはずです。少なくとも種牛のある高鍋町に及ぶまでに、迅速に全頭処分を行っておれば、これほどにまでに産地被害がひどくならなかったでしょう。

もちろん、こうした措置をとるには、公的資金を投入して3年間ほど農家の所得を補償することが必要になります。ですが、私有財産である牛豚をいきなり強制処分することはできません。そこで、半径一〇キロの牛豚を強制処分ができるようにするために、議員立法が必要になります。5月末になって、ようやくこの特別立法が成立しました。

ここでの問題は、やがて流行性感冒がおさまるように、当初、口蹄疫にかかった牛だけを殺処分していれば、事態が沈静すると考えたことです。口蹄疫の具体的症状が目に見える形になった場合だけ殺処分をしていると、なぜ事態がひどくなってしまうのでしょうか。

何よりウィルスは目に見えず、口蹄疫に感染している牛かどうか見分けがつかない点が重要なポイントです。これは「見えない病」なのです。それゆえ明確に感染した牛だけを処分しているだけだと、ウィルスが根絶されないまま放置されることになります。それでは、いつまでたっても口蹄疫は治まらず、つぎつぎと感染地域が広がってしまい、被害も対策費用も巨額に嵩んでしまうことになるのです。

かつてのBSE問題も、この「見えない病」というリスクに直面しました。BSEにかかった牛には異常プリオンが発生し、脳が海綿(スポンジ)状になることは知られています。しかし異常プリオンは変異したタンパク質ですから、それ自体がウィルスのように感染するとはなかなか考えにくい面があります。ともあれ異常プリオンが原因か結果かは別にしても、少なくとも異常プリオンが発生した牛はBSEになっていることは確かなので、餌に混ぜる肉骨粉についてトレーサビリティ・システムをたどり、同じ肉骨粉を食べた牛をすべて殺処分せざるをえなくなります。そうしないと、被害の拡大を止められないのです。

リスク社会では、この「見えない病」をいかに防ぐかが大きな問題となります。これは、実はバブル崩壊と不良債権問題にも共通しています。

私は1998年頃、雑誌の『世界』において共著で、銀行経営者の法的責任を問い、60兆円の公的資金を強制注入すべきだと主張しました。それ以降、経営責任と公的資金の強制注入を繰り返し言ってきました。不良債権を精査してそれに十分な貸倒引当金を積むか、一時国有化して金融機関から不良債権を切り離すか、いずれかの措置をとらないと、金融危機は長引いて、貸し渋りを通じて他のセクターへの被害もひどくなるからです。

これは口蹄疫やBSEの際の「全頭処分」にあたる措置だと考えれば分かりやすいでしょう。しかし、実際には不良債権の精査をせず、経営危機が表面化した金融機関だけにズルズルと公的資金を逐次注入する道を選んでしまいました。それが、日本経済の体力を著しく衰弱させ、長期停滞を招く一因になったことは言うまでもありません。

金融機関が多額の不良債権を抱えたまま隠しているとしたら、一体どういうことが起こるのでしょうか、できるだけ簡潔に考えてみましょう。

金融機関はたくさんお金を持っているように見えますが、実はすでに融資や投資をしていますので、手元に置く現金はギリギリまで抑えています。そこで、銀行間で資金を融通する金融市場が重要な役割を果たします。ところが、根本的な不良債権処理策をとらず、大量の不良債権を隠したまま抱えているために、互いに金融機関同士が信用できなくなってしまいます。資金を貸し出す相手が潰れたら、貸し出した資金は焦げ付いてしまいます。自分も不良債権を隠して抱えていますので、万が一でもそういうことが起きたら、自分も潰れてしまいます。こうしてコール市場などから資金を調達できなくなって、金融機関が経営破綻に追い込まれていってしまうのです。

もし、1つでも大手金融機関が実際に経営破綻すると、このカウンターパーティリスクは著しく拡大していきます。日本では山一證券や拓銀の破綻、米国ではリーマン・ショックがそうでした。カウンターパーティリスクが高まる時、一国の場合は金利にカントリーリスクが上乗せされます。今回のように世界的な金融危機の場合は、ロンドンの銀行間資金調達の基準金利(LIBOR)が上昇します。

もちろん預金者や投資家にも伝染が生じます。多額の預金を預けていたり、金融機関と契約したりしている人たちは、金融機関が潰れてしまうと損失を被ってしまうので、次々と預金や契約を解約しようと殺到します。金融機関はますます苦しくなってしまいます。まさに口蹄疫と同様に、「見えない病」の伝染が起きてしまうのです。

しかし問題はそれにとどまりません。銀行が大量に不良債権を隠したまま抱えていると、いくら中央銀行が量的金融緩和政策で大量のマネーを市場に供給しても、金融機関の貸出は伸びません。利益が上がっても不良債権処理に追われ、また新しい不良債権を抱えるのを嫌がって貸出を抑制するからです。日本のバブル崩壊後に起きた貸し渋りが典型的ですが、いまアメリカでもそれが起きています。結局、迅速な不良債権処理策をとらないと、この信用収縮が長引いて、経済は長期停滞に陥ってしまいます。

単純な貨幣数量説に立つインフレターゲット派が失敗するのは、そのためです。そもそも中央銀行によるベースマネーの供給で、M2、M3といった広義のマネーを十分にコントロールすることはできません。それは投資や需要にも依存するので、金融政策としては金利政策を併用せざるをえなくなります(もっとも、産業構造の大転換期には財政金融政策には限界がありますが)。ところが、バブル崩壊後はしばしばゼロ金利状態に陥るので、それも使えません。デフレだからお金をばらまけばいいといった単純化された議論は、新しいリスク問題の本質を見失わせてしまい、非常に危険です。結局、それは過剰なマネーを供給して、つぎのバブルを引き起こすしかないという「バブル病」をもたらします。もちろん、中央銀行がバブルを創り出すことなんて教科書に載っていませんね。

自分の頭で考えられずに、経済学のテキストだけを信じている人たちは、構造改革だのインフレターゲットだのとテキストの延長で単純に説明しようとします。しかし、前にも述べましたが、口蹄疫やBSEと同じく、かえって「見えない病」の被害を大きく拡大させてしまう役割を負ってしまうのです。経済学者がほとんど信用されなくなったのは、教科書がすでに時代の要請に応え切れていないことに原因があります。

もっとも、信用収縮の問題を「流動性の罠」に組み入れている米国の経済学者もいないわけではありません。たとえば、ジョセフ・スティグリッツです(もっとも私とは理論的枠組みは違っていますが…)。彼が、サブプライムローンに端を発する金融危機に際して、いち早く金融機関の一時国有化を主張したのもうなずけます。しかしアメリカでも、サイモン・ジョンソンMIT教授、ヌリエル・ルービニNY大学教授など、問題の本質を把握している経済学者が少ないのが残念です。

結局、現実はポールソン前財務長官、ガイトナー現財務長官とバーナンキFRB議長は、不良債権のずるずる処理の道を選びました。確実に、アメリカは日本の失敗の後を追いかけています。アメリカ経済も長期停滞に陥る危険性があります。

ちなみに、ギリシャ危機を財政赤字問題だとするのは極めて表層的です。実は、金融危機がまだ解決されていないこと(「見えない病」の伝染)が問題の本質なのです。

実際、EUとIMFが総額1100億ユーロの支援策を打ち出し、ギリシャは支援を受ける代わりに財政再建を行うことになりましたが、株式市場など金融市場はなかなか落ち着いてきません。なぜでしょうか。

企業再生の場合から類推して考えると、わかりやすいでしょう。企業再生をする場合、通常、事業をリストラクチャリングしたうえで、企業が上げられる収益の範囲内で返済できるように、金融機関に債権放棄させて、当該企業の債務が縮減されます。そこでは、いわゆる株主責任や貸し手責任が問われます。

同じようにギリシャ問題でも、債権放棄と資金支援がセットでないと問題は解決しません。つまり、ギリシャ国債に投資した民間銀行が債権放棄に応じ、そのうえでEUやIMFがギリシャを資金支援することが必要不可欠です。ギリシャは観光産業くらいしか産業がないので、ギリシャの借金を大きく減らすことなしに、急激な財政再建政策だけを強制しても、景気が悪化して税収が減り、かえって財政再建ができなくなってしまいます。やがて、1~2年もすれば支援資金を食いつぶしてしまい、ギリシャ危機が再燃しかねません。この間、アイスランド、バルト三国、ドバイ、ギリシャと弱い国々からソブリン・リスクの伝染が起きてきましたが、さらにポルトガルやスペインにも飛び火したら、次々と支援資金が必要になり、泥沼のようなプロセスが始まってしまうでしょう。

かといって、国力に応じて支援資金を負担するということになっていくと、ドイツ・フランスの負担が重くなります。ただでさえ自国の金融機関救済や景気対策で財政的ゆとりを失っています。とくにドイツ国内では負担に反対する意見が根強いのはそのせいです。

では、なぜ民間金融機関は債権放棄ができないのでしょうか。欧米の金融機関は、サブプライム問題以降、根本的な不良債権処理策をとらず、大量の不良債権を隠したまま抱えています。アイルランド、スペイン、イギリスなどは住宅バブルが崩壊していて、金融機関は非常に苦しい経営状態にあります。

このような状況で、どの金融機関が、どれだけのギリシャ国債やポルトガル国債やスペイン国債を持っているか明らかになっただけで、その金融機関はたちまち経営危機に陥る危険性が高まってしまうのです。ましてや債権放棄額が大きいことが明らかになれば、金融危機が再燃してしまうでしょう。まさに口蹄疫と同じ、またサブプライム問題と同じ構図です。それゆえ、ギリシャ危機はヨーロッパのサブプライム問題と言われているのです。

そう、いまも世界金融危機は続いているのです。

でも残念なことに、私の能力不足に加えて政官財界だけでなく学界も作戦失敗組が占拠しているせいで、私のウィルスは伝染する力が弱いようです。もっとも伝染する力が強ければ、私も殺処分の対象になるかも……。そろそろ、電車のホームではポケットに手鏡が入っていないかチェックしないとね。
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炎上日記再び:AKB48にはついていけない

現代日本の最大のタブー。AKB48の謎を取り上げてみましょう。

学生は「先生、これだけは止めた方がいい。悪口をちょっとでも書こうものなら炎上くらいじゃすまないですよ」というのです。どうもAKB48ファンは、普段は若い普通のサラリーマンで全く区別がつかず、しかも相当に熱狂的らしい。

AKB48ファンは、まるで、普段はデイリープラネット社の新聞記者クラーク・ケントに姿を変えているスーパーマンみたいだな……。

「それじゃあ。電車のホームから突き落とされてしまうのか」と聞くと、学生は「わかりませんよ」と脅すのです。そういえば、ちょっと前に、この学生は「AKB48はかわいい子ばかりだ」と言っていた。この学生もAKB48フリーメイスンなのか……。

お~お、怖~い。

と言いつつ、私も歳をとったのでしょうか。

AKB48は、いまだに顔も歌も覚えられません。というか、覚える気になりません。

同世代のオヤジたちには、「モー娘。」とAKB48は同じアイドルグループで、「モー娘。」が飽きられたためにAKB48が出てきたものだと考えられています。

しかし、これでは認識が浅すぎます。

実は、両者は似て非なるものす。

まず「モー娘。」は、1997年7月にテレビ東京の「ASAYAN」という番組のオーディションで落選し、5人の初代「モー娘。」は「愛の種」という曲を5日間で5万枚売ることがデビューの条件とされました。実は「モー娘。」は、ホリプロのタレント・キャラバンのサクセス・ストリーとは逆に、負け組・再チャレンジの物語だったのです。

しかも、「モー娘。」は新メンバーが加わっては卒業させ、主役も入れ替わっていく世代交代が起きる過程において、時には、その対立が表面化さえします。安倍なつみと後藤真希の「対立」は有名でした。その一方で、陰湿な派閥対立の代わりに、プッチモニ、タンポポ、ミニモニ。など、つぎつぎとグループ内に複数の小グループができました。それは、個性とは言い難い「欠点」がグループの特徴だったりします。実に人間的でした。

そう、「モー娘。」は、若者にとって耐え難い日本の会社組織や学校組織のありようとは正反対の「組織」だったのです。

ところが、AKB48は、ちょっと違っています。

人気投票(総選挙?)で、並ぶ順番が決まっていくらしいのです(まもなく1年ぶりに第2回総選挙?が行われるらしい)。CD1枚につき1枚の投票券がついてきます。つまり、メンバーの間では、AKB48という「会社」の売り上げに貢献してゼニを稼いだヤツの勝ちです。

一方、ファンも対等平等ではありません。ファンはCDを大量に購入して1人で大量投票するのもありで、1人1票ではありません。お金を持っている者は、自分の好きなメンバーを押し上げることができるのです。実際、何百枚も買う「隠れサラリーマン」もいるとか……。全てはお金で決まるという市場原理――これほど分かりやすい組織原理はありませんね。

そしてAKBマーケットはほぼ毎日開かれています。AKB48には、秋葉原にある専用劇場と頻繁に行う握手会が存在しています。ここでも、ファンの人気が反映されやすいシステムができています。

メンバーは、入って1年目でも人気投票で票をたくさん獲得できれば、いきなり目立つ前の列に並ぶことができるのに対して、そうでないと、すっと後ろの列にいて、やがて出られなくなってしまうらしいのです。実際、初期からいるメンバーであってもCDのジャケット写真やPVや歌の音源にも入れてもらえないメンバーもいます。

もちろん、AKB48にも、「渡り廊下走り隊」など小グループがありますが、同じ所属事務所であったりするだけで、セット販売で人気を集めランキングを上げようとする意図が見え見え。決して、人間的な個性が理由となっているわけでもありません。

一見すると、これらは顧客の参加意識を煽る伝統的手法です。

が、ちょっと賢い子なら考えればわかるはずです。

このランキングで競わせる手法は、会社や塾、あるいはえげつない学校で行われている「成果主義」そのものです。

たしかに、このランキング競争のおかげで、AKB48のメンバーは生き残るために必死に努力をしています。その健気に努力する姿に、自分を重ね合わせて応援している若いサラリーマンも多いのかもしれません

ところが、それは現実の会社と同じように「裏」があります。AKB48は正規メンバー(正社員)になりたい予備軍(まるで派遣労働者みたい)がいっぱいおり、賃金がとても低くてすむのです。このルールに従わないなら、辞めてもらいえば、いくらでも代わりはいるからです。メンバーがもともと所属している事務所(プロダクション)は、まるで派遣会社みたいです。出られない、あるいは辞めていくメンバーたちは、ランキング競争に負けたのだから仕方がないということになるのでしょう。

そして気づいてみると、秋元康だけがガッポリ儲かるようになっているのです。

これって、ユニクロとそっくりじゃない?

価格破壊の先頭に立つユニクロは、「完全実力主義」を標榜しています。仕事の成果は本人の責任とされ、時間外に商品知識などの勉強も要求されます。勉強すれば昇進のチャンスもありますが、半年ごとに人事評価、移動があり、気合いを抜けば、すぐ落とされてしまうのです。しかも、商品をすすめることも含めて、個別の客とのコンタクトは禁止され、頻繁に引っ越しを伴う転勤を命じられます。つまり、店員たちはどんどん入れ替えられていく仕組みなのです。もちろん、安売りを標榜しているくらいですから、社員の給料も高くはありません。

そして気づいてみると、社員が必死になって働いた「成果」は、オーナーの柳井正氏のもとにジャンジャン集まってきます。ちなみに、フォーブス誌の世界の資産家100人によれば、柳井氏は日本一の資産家で、その資産額は8200億円を超えるそうです。

こうしてユニクロは、国内のデザイナーも商店も職人技も服装文化も、すべてを安売りで食い尽くしていきます。つまり、ユニクロは、お客様に選ばれることを大義(経済学では消費者主権と言います)にして、従業員の人件費を切り詰め、そして安い給料で買える商品をそろえてはデフレ経済を定着させていく、デフレのマッチポンプなのです。

何か、AKB48とユニクロって、とても似ていませんか?

ちなみに、「構造改革」論による雇用流動化や「成果主義」によって、若い人たちをたくさん非正規雇用に追いやり、正規雇用もランキング競争で競わせされています。この仕組みは、主流経済学によれば、インセンティブを刺激する制度設計によって、人を転落の恐怖に追い込めば、みんな一所懸命働いて効率性が高まるということになります。

しかし、本当にそうでしょうか?

この間の「構造改革」論による雇用流動化や「成果主義」のもたらした「成果」は、さんざんです。これだけ増えた非正規雇用の人たちは、ほとんど熟練も技能も身につきません。膨大な若い人材がすり減ってきています。貧困で生きていくのに精一杯な人たちに、夢だとか気概をもてということ自体に無理があります。もちろん、これでは、内需も盛り上がるはずがありません。

実際、失業などを理由とした20代30代の自殺が増えて、ついに13年連続で自殺者(全体)は3万人を超えました。いつ終わるともしれない戦争のようです。個別のメンバーしか見ていないファンたちは、ランキング競争に勝たせることに夢中で、声もあげられずに消えていくAKB48最後列のメンバーを想像することはないんでしょうね。

正規雇用の人たちが、目先の競争に追われる仕組みが必ずしも効率性や成長力を高めるとは限りません。とくに若い技術者は悲惨です。企業はオヤジ技術者ばかりになって若い技術者が雇われませんから、イノベーションや新製品を創り出す企業の能力は悲惨なほどに落ちています。一方で、大学も、博士号をとっても3年契約で雇われる、いわゆる「ポスドク」であふれています。3年で追われているのですから、長い時間をかけてやる大きな発見発明はできっこないし、帰ったらイスがなくなっているので、留学もできません。3年契約を3回も繰り返せば、たちまち40歳に近づいてしまいます。こうして若い人を使い捨てた結果、日本企業の競争力はどんどん衰退してきています。

デフレ日本では、これからも、AKB48とユニクロは、皆で同じ服を着て売って、皆でランキング競争に追われていくのでしょう。ユニクロの没個性な商品も、AKB48の彼女らが着ている女子高生的な「制服」も、兵隊さんの軍服に見えてくるのは歳のせいでしょうか。

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スローパニックは続く

5月6日に世界中で株価が急落しました。株価の急落が起きては回復し、また株価の急落が生じる――こうして間欠的にパニック売りを誘いながら、経済が長期停滞局面に入る現象を「スローパニック」と、私は特徴づけています。

バブル崩壊後、迅速で大胆な不良債権処理を行えない場合、どの金融機関も損失を隠していますので、ちょっとでも危険な兆候が見えると、たちまち互いを信用できなくなってしまうカウンターパーティリスクが起きやすくなるのです。それがパニック売りを誘います。経済指標が一時的に良くなっても、まだ不動産などのバブル崩壊現象が止まっていない場合は、徐々に不良債権が累積して悪化していくプロセスが静かに進行していきます。そして、またパニック売りが起きます。

G20も日銀も、世界経済は予想以上の速さで回復していると言い出しています。企業業績や消費の一部に改善傾向が出ていることは確かですが、これを自律的回復ととらえるのは早計でしょう。欧米諸国の状況を見ると、スローパニックを脱したとは言えません。

まず欧州では、住宅バブルが崩壊して以降、アイスランド、バルト3国、ドバイ、ギリシャと、ずっと国家がデフォルト(債務不履行)に陥るソブリン・リスクが伝染する状況が起きています。ギリシャ危機は、2日にEUとIMFが3年間1100億ユーロ(約14兆円)の融資を決めたことでいったん収まるかに見えましたが、ギリシャ国内で財政再建策への反発から騒乱状態になったことで、財政再建策が実施されるかどうかわからなくなっています。そもそも1990年後半の東アジア経済危機がそうだったように、急激な財政再建策を実施したところで、ギリシャ経済の悪化が起きてうまくいきません。かといって、ドイツを中心にしてこの支援負担に反対する国内世論が根強く、支援額を大幅に増やすことも難しいでしょう。

もし、ギリシャの財政危機の処理がつまずいたり、時間がかかったりすると、たちまちポルトガル・スペインにも飛び火していくでしょう。実は、ポルトガルの対外債務残高はギリシャより多いのです。さらに東欧諸国も危ない状況です。もし伝染現象が起きると、ヨーロッパ経済が再びマイナス成長に陥るだけでなく、世界中の金融機関に損害が及ぶことになり、世界経済を減速させてしまいます。

他方で、財政赤字をターゲットにして、ソブリン・リスクが表面化するという現象を見ると、今後、これまでのように世界中が一斉に財政出動によって景気対策を続けていくことは困難になっていくでしょう。これは、非常に脆弱な景気回復をますます弱くします。

つぎは米国経済です。米国では不動産関係の指標が悪いままで、住宅新規着工数など住宅関連の指標が極めて弱く、また商業用不動産の価格下落もひどい状態です。不動産バブルの崩壊はまだ止まっていません。今度は、商業用不動産ローンを組み込んだ債務担保証券(CDO)が焦げ付いていきます。たしかに、米国では大手金融機関は合併を繰り返して、「大きくて潰せない」状況が生じましたが、新たな不良債権処理に追われていくことになるでしょう。信用収縮はなかなか止まりません。

前にも書いたように、こういう中で、証券取引委員会(SEC)が、ゴールドマンサックスがヘッジファンドのポールソン&カンパニーと組んで、質の悪い債務担保証券(CDO)を空売りしたとの疑いで提訴しました。今秋の中間選挙での敗北を回避するために、民主党はウォール街の「腐敗」をたたく姿勢を強めています。しかし、上院の金融規制案(ドッド法案)は抜け道だらけのようです。なので、11月の中間選挙に向けて、当選の厳しい民主党議員から、さらに厳しい金融規制案が出てくる可能性もあります。ウォール街の政治献金攻勢との駆け引きが続くでしょう。

しかし、ここで忘れてならないのは、地方銀行の破綻がどんどん増えている点です。FDIC(米国預金保険公社)によれば、2009年以降で205行、2010年の4月末までですでに65行も潰れており、勢いを増しています。戦後最大の金融危機と言われた1990年代初めの不動産バブル崩壊の時でも、潰れた銀行は181行ほどでした。そのすごさが分かります。まだ米国の金融問題は決して終わったとはいえず、地域経済の衰退もさらにひどくなるでしょう。金融セクターの処理が長引けば、他セクターが犠牲になり、米国経済が日本のように長期停滞に入っていく可能性も否定できません。

そういう中で、すべてが中国に吸い寄せられていく循環ができています。世界金融危機によって世界中の中央銀行が金融緩和政策を繰り返していますが、今は欧米諸国の経済が良くない状態なので、世界中にあふれる過剰なマネーがインド、ブラジル、中国などの新興国に流入しています。とりわけ上海万博で賑わう中国は、財政にまだゆとりがあり、景気対策を打っていることもあってバブル経済気味になっています。この中国に世界中の企業が輸出を増やして企業業績をもたせている状態になっているのです。

しかし、中国の不動産バブルはひどく、うまくソフトランディングできるかどうか分かりません。中国政府当局がバブル経済であることを自覚していることが救いですが、非常に不確定な状況にあることに変わりはありません。

世界経済は自律的回復軌道に乗ったので、しばらく待てば、あるいは景気対策を打っていれば、日本経済が元に戻ると考えるのは早計です。こうしたリスクを無視した「楽観論」を垂れ流しては、日本経済は「失われた20年」を経験しました。

今、日本の産業は、国際競争力の衰退が始まっています。不良債権処理の失敗に続く「構造改革」路線がそれをもたらしました。さらに、いま主流経済学は再びマクロ経済政策に基づく場当たり的な経済政策を主張し始めています。しかし、それでは問題が先送りされるだけです。それは、当面逃げ切ればいいと思っているオヤジたちのための道具立てにすぎません。政官財学界はこうしたオヤジ失敗組に占拠されているので失敗が続いてきましたが、それを後押しする、さもしい連中も多いので、これからも続きそうです。

これからは、経済学から消えてしまった産業政策、中長期の産業戦略が非常に重要になってきます。環境エネルギー革命やニーズの高い分野でイノベーションと雇用を創出する政策転換を急ぐ必要があります。実際に、世界中で官民一体となった動きも強まっています。

何より重要なのは人材育成です。すでに多くの若者は希望を喪失しています。この間、成果主義の名前で2人に1人が非正社員になり、若い技術者が雇われずに、日本企業はイノベーションを創り出せなくなっています。大学でもポスドクであふれています。ところが、この厳しい人件費削減で利益をあげた大企業役員の報酬だけが上がってきました。「構造改革」を煽ったダメ経営者たちは、失敗はすべて「マーケットが決めた」ことだから、というわけです。もはや若者にとって、さもしい経営者たちはあこがれの対象でもなくなりつつあります。

私は思うのです。このダメ経営者こそ失敗の責任をとって若い世代に交代させることが重要です。あるいは報酬を半減させ、その分、若い技術者、現場労働者をたくさん雇うことこそが必要です。新陳代謝のない社会はやがて滅びます。そして、私を含めてオヤジたちは、その頃は年金をもらい逃げして墓場に入っているでしょう。

その頃になっても、ゲゲゲの鬼太郎は歳をとらずに子供のままでいるのでしょうか。だとしたら、これ以上の悲劇はないでしょう。
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二流の帝国主義・二流の人間


今ちまたで変なジョークが行き交っています。鳩山首相の本当の腹案は「5月末とは、実は来年5月末でした。なんちゃって。」というものです。でも、これはジョークじゃないかも。

だって、地元の理解が前提だとすれば、沖縄も徳之島もありえないでしょう。結局、ずるずると普天間基地を維持することになるしかないのかも?

私も、何度か普天間基地に行ったことがあります。本当に、町のど真ん中に基地があるのです。かつて少女レイプ事件がありましたが、米兵による犯罪が頻繁に起きています。犯人を逮捕し裁判もできない状況とは、日本自身が屈辱的にアメリカに犯されているのと同じことです。正直言えば、私は「愛国主義者」なので、そういう感覚を捨てきれません。

鳩山首相の沖縄訪問を見て、政権交代の重みも言葉の重みも全く感じられませんでした。

とくに、鳩山発言の中でもひっかかったのは、「抑止力」という言葉です。

総選挙前に、鳩山首相は沖縄に訪問して、普天間基地移設問題に関して「国外・県外移設」を明言したにもかかわらず、今回は全く逆に「抑止力」を盾に基地を沖縄に置くことを主張しました。総選挙前は、野党だから「抑止力」なんてきちんと考えた上での発言ではなかったということなのでしょうか。

「ソフトパワー」論で有名なジョセフ・ナイをはじめ、現在、米国の有力な政治学者たちの何人かは、日本の基地縮小要求を拒んでいません。鳩山政権は、こうした米国政治の中枢とコンタクトをとろうとせず、むしろ質の悪いジャパン・ロビーと日本の親米派(というより米国追随派)に頼りだしているのが気になります。ジャパン・ロビーは日本から譲歩を引き出しては地位を確保し、日本の米国追随派は米国側に利益を与えることで問題を落着させて地位を確保しようとします。こうして間違ったイラク戦争に日本は協力させられるという歴史に汚点を残したのです。これで日本の外交上の立場を著しく落としました。いま、鳩山政権は外交でも第2自民党化しているのは、この「利益政治ゲーム」に完全に巻き込まれ始めているからです。

その点で気になるのは、この「お詫び」訪問は、小泉政権下で日本をイラク戦争に突っ込ませた岡本行夫氏が『文藝春秋』5月号に寄稿した論考(岡本行夫「ねじれた方程式『普天間返還』をすべて解く」)とそっくりの展開になっている点です。

岡本氏は、日本が北方領土、竹島、尖閣列島など四方に領土問題を抱え、沖縄の海兵隊が抑止力になっていると言い、鳩山首相は沖縄に率直に謝罪して、基地被害の軽減を考えるしかないと言います。

しかし、アメリカがこうした小さな島々を守るために米中関係を危うくしてまで介入すると考えるのは過剰期待でしょう。米国は、北方領土に関してロシアと日本の問題であるとの立場であり、竹島にいたっては2008年7月末にブッシュ大統領がテレビインタビューで「韓国領だ」と発言し、報道官が慌てて領土問題に非介入の立場であると発言しているくらいです。米国は尖閣列島問題でもその領有権については、「中立的」立場を表明しています。そもそもメキシコ湾での石油掘削でも、アメリカは中国と同じく「大陸棚」の論理を使っている以上、日本の「味方」になってくれるというのは過剰な期待でしょう。ちょうど、イラク戦争に協力したけれど、拉致問題でも米国が全然非協力であったように、アングロサクソンとの交渉に「義理人情」を持ち出すのは無意味です。ただアメリカに従えとするサンケイ的な「売国奴」的主張は別にして、真面目に「国益」について冷静な議論が必要だと思われます。

きちんと押さえておかなければいけないことが2つあります。1つは、海兵隊は防衛部隊ではなく、敵国に上陸する攻撃部隊であるという事実です。もう1つは、この間、安保条約は、中東から南西アジアまでに広がる「不安定の弧」を射程に置いたものに変質したことです。つまり、沖縄の海兵隊基地は、対テロ戦争のための中継基地になっているということであって、それは本来の日米安保条約の「極東条項」に規定された日本防衛のための「抑止力」ではないということです。これが、イラク戦争の失敗を眼前にして、イラク戦争反対、インド洋からの給油艦の撤退を主張した民主党の立場ではなかったのでしょうか。本来の安保条約に戻れと言う主張は、ちっとも「過激」ではありませんしね。民主党政権は、この当たり前の主張さえ言わなくなっています。「対等な日米関係」はどこに行ってしまったのでしょうか。

「極東」に限ったとしても、これだけ中国経済が発展し、中台間で自由貿易関係が深まり中国元での貿易決済が行われている下で、中台間で陸上戦が勃発するとは考えにくいでしょう。冷戦時代の思考から逃れられないオヤジたちの「論理」に他なりませんね。仮に、中台間で紛争が起きたとしても、空軍・海軍は展開するかもしれませんが、300万人近くいる中国人民解放軍に対して、米海兵隊が上陸作戦を展開するでしょうか。しかも沖縄海兵隊2万人のほとんどはグアムに移転してしまうのです。沖縄にいる残った2千人が「抑止力」になるのでしょうか。そうなれば、朝鮮半島の有事でも、必ずしも沖縄の海兵隊が不可欠とは考えられません。仮に上陸作戦がとられたとしても、まずは韓国駐留の米軍が動くでしょうし、グアムそして米本土の海兵隊が出動します。それも、朝鮮半島の米軍を救援するためでしょう。

結局、日本にいると土地の費用から駐留費まで「思いやり予算」で安上がりにすむからいたい。グアムへの引っ越し費用の大半を日本が追ってやっています。基地建設もお金出すって言ったでしょ、ということかも。何せ、米国も財政赤字がひどいので。

しかし、そもそも「東アジア共同体」構想を打ち出しながら、中国や朝鮮半島を攻撃する米軍部隊を置くことは政策的には矛盾します。今後の中国経済の発展可能性を考慮すれば、いかに軍事的衝突を避けるかを考える必要があります。もしリアリズムの立場から日本の自衛が必要となると考えるとしたら、たぶんかつて植民地にした中国・韓国などとのアジア集団安全保障を結ぶ時以外には非現実的です。

しかし、それにしても鳩山首相は、オバマ大統領と会った時に「トラスト・ミー」はないでしょう。子供の遊びじゃないんだから。その後、鳩山首相自身が「駐留なき安保」というなら、そもそも会った時に沖縄の海兵隊がいらないことを言うべきでした。官僚は過去の慣習にしたがって動くものです。政治主導というなら、少なくとも国家戦略を立てるという点では、政治家が官僚より優れていて、堂々と主張しなければなりません。

お~と、経済学者なのに、軍事外交問題まで口出ししてしまいました。でも、みんなイライラしていませんか?環境エネルギー政策から道路・公共事業の箇所付けにいたるまで、民主党政権は第2自民党になり果てつつあります。最後は、アメリカの「都合の良い女」になってしまう。これって政権交代なのでしょうか?

最後に、正直に告白しておきます。

沖縄の人には迷惑かもしれませんが、私は沖縄に特別の感情を持っています。

私が生まれて初めて行った「外国」がokinawaだからです。

時は1971年。私は大学一年生で、okinawaは返還直前でした。

そこで見たモノは、

カテナ基地のフェンスの向こう側で畑を耕すオバアの姿。

読谷村の射爆場へと続く道で、生まれて初めてカービン銃を向けられた経験。

沖縄の商店で使ったドル紙幣。

そこで初めて「日本」という名の「国の屈辱」を知りました。

かつて戦前の日本は、欧米列強にへりくだり、アジアを蔑視して植民地化しようとする「二流の帝国主義」でした。私たちは、二流の人間だけにはなりたくないものです。
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