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金子勝ブログ

慶應義塾大学経済学部教授金子勝のオフィシャルブログです。

2010年06月

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ブブゼラの向こうで、「政府の再定義」が起きている

ブゥ~ゥブゥ~ゥ~
南アフリカのサッカースタジアムでは、ブブゼラが鳴り響きます。

永田町にある政治スタジアムの中では、参議院選挙で、消費税~、消費税~と、ほとんどの政党がブブゼラ鳴らしています。が、多くの若者はどのチームに合わせてブブゼラを鳴らしていいのか、分からないままです。

どの政党も、過去の政策の誤りや公約違反を繰り返す。政党もそれを選ぶ国民も、簡単にそれを忘れます。メディアも同じなので、多くの人々は何を判断基準に選んでいいのか、ますます分からなくなります。結局、「人」を変えることで、「責任」の形を整えようとします。その結果、日本の首相は1年任期になりました。そして、「気分」で支持率が大きく振れるようになったのです。それが無責任社会の政治の行き着く先でした。

この間も、その傾向は続いています。

菅直人新首相は、所信表明演説において、「強い経済、強い財政、強い社会保障」をスローガンに掲げ、「最小不幸社会」を目指すと表明しました。そして、増加する社会保障費の財源を確保するには消費税増税を含む税制改革が必要だと言い始めました。

もちろん、格差・貧困の増大、年金・医療・介護の不安が、デフレ経済を生み出す一因となっており、これから高齢化社会を迎えて、ニーズの高い医療や介護の分野で雇用を生むことは非常に大事になることは確かです。

しかし、増税だけをとったら、景気にとってマイナス要因になります。よほどしっかりした社会保障制度の改革案を練り上げて、セットで提案しない限り、増税は政治的に受け入れられないだろうし、経済的には景気の下支えにはならないでしょう。

たしかに、民主党は、衆議選マニフェストで、年金一元化、後期高齢者医療制度の廃止、介護従事者の報酬月額4万円引き上げ、子ども手当、職業訓練中の生活費支給など、自公政権の社会保障政策ではもたないとして、抜本的な社会保障改革を打ち出しました。ところが、この間、子ども手当の半額支給以外、これらの改革はほとんど実行してきませんでした。

おまけに、政府周辺で、これらの抜本的な社会保障改革を実施すると、現状ではどのくらいの財源が新たに必要になるのか、再計算した形跡もありません。しかも菅首相は、社会保障費の自然増を考えると、自民党が考えているのとほぼ同じだから、自民党案と同じ10%を消費税率の参考にしますよ、と言い出す始末。

これでは、菅政権は、自らマニフェストで掲げた社会保障改革なんてやる気がないんと表明したようなものです。どうみても、あ菅(アカン)です。

消費税増税を打ち出せば、それが参議院選挙の争点として浮かび上がり、普天間基地移設問題や政治とカネの問題に関する報道を一気に吹き飛ばしてしまうという読みでしょう。参議院選挙を前にして徹底的に争点をぼかす、あ菅(アカン)政権の狙いは、当面成功したかに見えます。しかし、これで自民党との違いも分からなくなりました。

一方で、自民党と公明党は、このような日本の閉塞状況を作り出した政策的失敗を全く反省していません。いつまでたっても、冷戦型オヤジ思考の「新自由主義」や「構造改革」論から抜け出られないのです。彼らが政権に戻っても、この国は死ぬだけです。

それにしても、小泉=竹中路線のツケはあまりに大きいです。格差や貧困の増大によってデフレ経済を定着させただけではありません。「構造改革」論者たちが進めた「金融立国」は完全に破綻し、新しい成長産業も生みませんでした。それどころか、『新興衰退国ニッポン』の後半でも書いたように、電気製品、スーパーコンピュータ、太陽電池、鉄鋼、半導体など、多くの産業分野で日本の国際競争力を著しく低下させてしまいました。まずは成長してから分配をと言いますが、成長力をどんどん落としたんです。そして、その最大の犠牲者が若者たちだったのです。

ところが、自民党は若手の河野太郎をはじめ小泉「構造改革」を推進してきた人たちを抱えているので、「構造改革」の誤りを総括できないのです。たくさんできた新党も、4月27日付けブログで書いたように、失敗した小泉「構造改革」論の焼き直しそのものです。

例によって、「改革が足りなかった」のオウム返し。結核なのに、風邪薬が効かないから、もっとたくさん風邪薬を飲めば治ると言っているのと同じです。信ずる者は救われるってことでしょうか。

犠牲者になったのに、多くの若者たちも刷り込みの結果、まだ規制緩和や法人税減税で企業が成長できると信じています。たぶん、原爆を2個落とされないかぎり敗戦を認めなかったように、秋葉原にサムソンやLGの製品で埋め尽くされないかぎり、負けは分からないのかもしれません。

こうなってくると、民主党はマニフェストを裏切って自民党に近づき、自民党は過去を反省せずに変われず、ずるずるとやっているうちに、財政赤字も年金もどうにもならなくなっていきます。そして、やがて民主・自民の大連立=挙国一致内閣で、消費税増税ってことになるのかもしれません。そもそも2大政党制を目指していたはずですが……その行き着く先が政党政治の終わり。何てシュールなんでしょうか。

菅首相の言う「第3の道」には、残念ながら中身がありません。なにせ国会で「乗数効果とは何か」を質問されて、何も答えられなかったくらいですから。

昨年末、菅首相(前国家戦略相)が中心になって出した「新成長戦略」も経産省官僚たちの文書です。今までの自公政権の政策はよかった。なかったのは政治のリーダーシップだと言っています。つまり福田政権や麻生政権が出した政策はよかったけれど、首相がダメだったということらしいです。

世界経済の現況を見れば、成長戦略の問題はそんなに簡単ではありません。社会保障改革と増税の組み合わせだけでは、国内市場を厚くするのに貢献できても、必ずしも「強い経済」を作れるとは限りません。

それは、地球温暖化を防ぐべく、世界中の国々がエネルギー転換をベースにした新たな「産業革命」を引き起こす以外にないのです。しかし、それは冷戦時代とはまったく違った状況の下で実現しなければなりません。

結局のところ、冷戦型オヤジ思考を代表する自民党や新党はもちろんのこと、菅政権にも時代認識がないんですね。

私たちは、いま経験したことのない(つまり教科書に書いていない)世界に生きています。市場原理主義に基づく「新自由主義」は、「失われた20年」をもたらし世界金融危機を迎えたことで完全に破綻しました。しかし「新自由主義」の破産後に登場したのは、中国をはじめとする「国家資本主義」の台頭です。

いまや3兆ドルに達せんとする外貨準備高を持つ中国の資金なしに、欧米諸国の財政も金融ももたない状況が生まれています。資源では、世界の石油の埋蔵量や在庫の7~8割が、ロシアのガスプロム、サウジアラビアのアラムコ、中国のペトロチャイナなど7社の国営企業が持っています。そして、世界金融危機によって欧米諸国の成長力が低下する中で、世界経済を牽引しているのは、中国、インド、ロシア、ブラジルなどの新興国の経済です。

これらの新興国の一部は、もともとは「社会主義」国家で、市場経済化を進めてきました。政府が大きな権限を持ち、市場を強くコントロールしています。そして、彼らは「国家資本主義」とも言える手法で、高い経済成長率を実現しています。

しかも中国・ロシアは、軍事外交上、米国中心の国際秩序に対抗して、しばしば権威主義的国家を支援したり支持したりします。これから少なくとも10年くらいは、国家資本主義が台頭する時代となります。世界は多極化と不安定化が進むでしょう。

この「国家資本主義」というモンスターと対抗するためには、否応なしに政府の役割が増してきます。市場任せでは、この国家資本主義には勝てないからです。それは何らかの既存理論に導かれたものではありません。

新しい政府の役割が次々と浮かび上がってきています。
まず、発電所や新幹線や水などの官民一体による「インフラ輸出」やレアメタルなどの「資源確保」の動きが典型的です。「構造改革」路線を主張してきた財界も、利益なればと、これに乗っかっています。
再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度を多くの国が導入していますが、これは官民一体による人為的な市場創出です。そのために発電は規制緩和されますが、売電は食管制度に近い強力な政府介入をとります。
かつて1970年代のマスキー法のように、自動車や建物などの環境規制を強化することによって、環境技術開発投資やイノベーションを誘導する動きも強まっています。規制は経済活動を阻害するという新自由主義とは正反対です。
新しいインフラ投資はもはや道路ではなく、スマートグリッドと双方向的なネットワーク型電線網、あるいは学校や病院の断熱化になります。
公的部門の技術開発投資によってイノベーションを先導することも重要です。中国は、国家主導で有人宇宙飛行から再生可能エネルギーまで、3000億ドル近い技術開発投資をしています。
IT化やデジタル化とともにソフトやコンテンツを創造する知識階級が重要になります。この人材育成と教育分野において政府の役割が大きく増してきています。

つまり新しいタイプの産業政策が求められているのです。

これら新しく登場した政府の機能は、「大きな政府」か「小さな政府」か、あるいは供給サイドか需要サイドかといった冷戦型オヤジ思考の座標軸には当てはまりません。それは進歩派でも同じ。平等と所得再分配を重視する社会民主主義も、高度成長時代に成立したので、経済成長のことは考えないでよかったのです。しかし、今は100年に1度と言われる経済危機に直面しており、産業構造の転換と若者の雇用創出を必要としています。

重要なのは、世界中で一斉に投資を引き起こす「産業革命」のリーダーシップを誰が握るのか、にあります。石炭を基礎とする第1次産業革命も、石油を基盤とする第2次産業革命も、アングロサクソンが主導しましたが、中国は、この再生可能エネルギーを基盤とする第3次産業革命を主導することを狙っています。日本にとってこれほどのチャンスはないはずですが、冷戦型オヤジ思考が日本を覆っています。あ菅政権も同じです。

「構造改革」路線の破綻と国家資本主義の台頭の中で、世界で起きている新しい政府の役割を見極めて、日本も本格的な産業戦略を立てなければ、世界からますます取り残されていくでしょう。そして、この否応なしの「政府の再定義」は、旧来の座標軸の上に成り立ってきた2大政党制の基盤を崩してしまいます。

それはさまざまな危険性と隣り合わせです。この政府の新しい役割は透明性を失えば、癒着と腐敗を生むでしょう。また、先に述べたような民主党と自民党の中身のない大連立になれば、大政翼賛会的状況を生み、政党政治の終焉をもたらすかもしれません。

「国家資本主義」との競争にとって大事なのは、世界で「価値」の争いに勝つことです。より自由で民主主義的な教育システムと技術開発投資を基盤として、世界の環境エネルギー革命をリードするイノベーションを創造する若い世代をいかに育てるか。『新・反グローバリズム』で書いたように、「ルールの共有」によっていかに平等と自由をいかに両立させるか。これらの問題に正面から取り組む必要があります。

この経験のない新しい挑戦は、若い世代に託すしかありません。若者こそが地球温暖化の最大の被害者であり、この挑戦の担い手だからです。仮に、2050年に地球が2℃のティッピングポイントを超えたとしても、ブブゼラも吹けない私はとっくに墓場に入っているはずです。それまで私は声を精一杯張り上げ続けしますが、ブブゼラにかき消されそう…。
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冷戦型オヤジ思考の呪縛 が、日本を米中の谷間に沈ませる

1999年に労働者派遣法が「改正」されて、派遣労働が原則自由化されたけれど、首相までが自由化されたっけ???

安倍晋三、福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫……つぎつぎとクビです。歴代首相の皆さんは、みんな派遣労働みたいじゃありませんか。だったら、もっと派遣労働者の立場に立ってほしいものですけれども、み~んな、お金持ちすぎますね。

ともあれ、菅直人氏が新しく首相になり、V字回復で支持率急上昇です。当面、小沢色を消して「政治とカネ」問題を解決することで高い支持率を維持できるでしょう。が、「脱小沢」の先がもう1つ見えてきません。なぜ政治主導が官僚の抵抗で実現できず、そしてマニフェストに掲げた政策がなぜできなかったのか――そこいらから根本的に反省がないと、鳩山政権の二の舞ですね。

この国のリーダーって人材が払底しているんです。とくに団塊の世代もその下の私のような陥没の世代も、優れたヤツらはみんなドロップしちゃったんですね。トップに生き残ったヤツって、「社長島耕作」みたいに、格好はつけるのはうまいけど、結局、泳ぐのがうまかっただけってケースがほとんどで、ちっとも偉くないんです。

ワールドカップで岡田監督がダメだと、また外国人監督に戻るのかな。菅首相もやっぱりダメだとなると、首相も外国人、いっそのことゴア元副大統領にしたら、なんてことになりかねませんね。情けない。

菅首相も、ただ単に財源が足りないから税制改革を、と言っているだけではダメです。たとえば、普天間問題は財源とはさしあたり関係がなかったのですから。

一方、メディアは、普天間基地問題でもただ鳩山首相の発言がぶれていると攻撃するだけで、じゃあ、一体どうしたらいいのとは一言も言いません。それを言えば、本土メディアの本音が、沖縄県民を犠牲にする差別的「主張」であることが、誰の目にも明らかになってしまうからです。そもそもイラク戦争を煽って何も反省していないメディアですから、鳩山首相の発言のブレを批判する資格などないのですね。インチキなものは徐々に見られなくなり、買われなくなっていくのは当然です。番組制作者は、AKB48やオバカタレントを出せば、若者の視聴率を稼げるくらいにしか考えていないんですね。あ~あ、です。

日本のメディアが本当にだらしがないのは、誰も米国民主党政権が鳩山内閣を潰したという事実に全くふれようとしないことです。そしてイラク戦争にコミットして失敗した外務官僚や防衛官僚が鳩山を潰しにかかったのです。これは、明らかに民主党政権の「政治主導」の敗北なのです。

この点を問題にしないのは、「右」も「左」も同じです。「右」の多くは米国の奴隷なので、そして「左」はリベラルなオバマなので、批判しないのでしょう。そして起きたのは、鳩山首相の発言のブレを叩く大合唱でした。

これまで、民主党は中国重視で日本軽視であると言われてきました。クリントン政権時代には、日本にさまざまな経済的要求を突きつけてきました。オバマ政権も中国重視、日本軽視であることは疑いありません。それは、オバマ政権が任命した中国大使と日本大使の「格」を比べれば、わかっていたことです。

しかも、このブログでも書いたように、オバマ大統領は、できるだけウィングを広げて支持を取り付けようとして、チェンジに失敗しています。ウォール街の親玉=ルービンの人脈であるガイトナー財務長官、サマーズ国家経済会議議長を登用したために、金融危機の処理を誤り、チェンジに失敗して、経済危機を長引かせてしまいました。同じように、ブッシュ政権からゲーツ国防長官を引き継いだために、イラク戦争の失敗の総括も中途半端に終わってしまったのです。結局、そのツケを同盟国の日本に負わせた形といってよいでしょう。いまのオバマ政権は、ポチの日本を対中国交渉の「札」の一つくらいとしてしか考えていないのかもしれません。

厳しく批判されるべき鳩山前首相(とその周囲)の間違いは、この状況を甘く見たことにあります。結局、鳩山前首相は、普天間基地移設問題において辺野古案に戻る際に、これまでの自公政権の立場を継承して中国を敵国としてその「抑止力」として沖縄の海兵隊基地の必要性を表明しました。辞任演説を聞いているかぎりでは、不本意にそうせざるをえなかったことがにじみ出ています。しかし、問題の厳しさは最初から分かっていたはずなのに、「トラスト・ミー」はなかったでしょう。

鳩山前首相がいかに宇宙人でも、こうした政策「転換」が、「対等な日米関係」や「東アジア共同体」構想と矛盾することくらいは分かっているはずです。鳩山前首相は、就任直後、「東アジア共同体」構想のさきがけとして尖閣列島のガス田共同開発を打ち出しましたが、5月30日から3日間にわたる温家宝首相の日本訪問で、その条約締結の交渉を始めることが決まりました。それが鳩山首相の最後の仕事であったとは、本当に皮肉な結末でした。

いま重要なのは、親米か反米かとか、親中か反中か、といった冷戦型オヤジ思考からいかにして脱却するかです。世界情勢は大きく変化しています。

何より、イラク戦争の失敗と世界金融危機で米国の影響力が落ちていく一方で、中国のプレゼンスが高まっています。しかも、米中経済には切っても切れないくらい相互依存関係が生まれていることです。

まず中国のプレゼンスがなぜ急上昇しているのでしょうか。何より、中国の外貨準備高が急激に増え続けていることがあげられます。2009年末で見ると、日本は約1兆500億ドルなのに対して、中国の外貨準備高は約2兆4千億ドルとなり、世界一になっています。

いまや中国によるユーロ圏の国債の購入で、ユーロ危機を支えられるかが左右されます。米国債も同じです。来年(2011年)に、米国は1兆ドルに及ぶ財政赤字が発生します。しかも民間企業のローン借り換え時期で8000億ドル以上の資金需要が発生するのです。その一方で、欧米では金融危機が収束しておらず、銀行の信用収縮(貸し渋り)がまだ続いています。米国は、もはや中国の協力抜きに立ち行かない状況にあるのです。つまり世界金融危機に陥っている欧米諸国は、膨大な外貨準備高を持つ「国家資本主義」の中国によって支えられるという構図が生まれているのです。

韓国の哨戒艦沈没をめぐって朝鮮半島の緊張が高まっていますが、米国は北朝鮮の自制を促す点でも中国頼みになっているようです。実際にここのところ、米国政府による中国元の為替統制批判がぱったりと止まってしまいました。中国ももて余し気味ですが…。

かつての冷戦時代と決定的に異なる点は、米中経済の相互依存が決定的に深まっており、双方が軍事的外交的に衝突することは、両国の経済に決定的に打撃を与えるようになっています。中国・台湾間でも朝鮮半島でも軍事的紛争があれば、経済的打撃は計り知れません。やや挑発的な言い方をすれば、中国共産党はもはや労働者と農民の党ではなく、経済成長で都市中間層が支えている政党になっているのです。世界の政治と経済は、冷戦時代と大きく違ってきています。そして、オヤジたちはこの変化についていけないのです。

では、日本にとって中国はどのような経済的位置にあるのでしょうか。現在、日本経済は景気対策の一時的効果と、中国、ASEAN諸国への輸出でどうにか持ちこたえています。

まず、2010年4月における日本の輸出総額(速報値)は約5兆8900億円で、リーマンショックの半年後であった前年4月と比べると、40%の伸びでした。そのうち中国向け輸出額の占める割合は20%弱、アジア諸国全体の割合は約56%にまで達しています。これに対して、対北米(米国とカナダ)輸出額は約16%にまで落ちています。いまや世界経済の成長センターになりつつある中国との関係抜きに、日本経済が成り立たなくなっているのです。

もはや冷戦時代のように米国についていけば何とかなるという時代ではなくなっているのです。むしろ中国市場あるいはASEAN諸国の市場にもっと積極的に食い込んでいかないと、将来日本が生きていけなくなる危険性があります。年金もそうですが、オヤジ世代が選択を誤って被害を受けるのは、いつも若い世代です。

もちろん、中国経済には大きなリスクが潜んでいることを忘れてはなりません。一つは中国経済のバブル傾向が強まっていること、いま一つは、国内格差が依然として深刻であることです。

中国の統計は信頼性に欠けますが、全国70都市を対象とする不動産価格指数の上昇は非常に急激です。対前年同月比で見ると、3月は11.7%の上昇、4月は12.8%の上昇と急上昇を記録しています。上海、広東、北京といった大都市だけでなく、不動産価格の上昇は海南島のようなリゾート地や内陸部の都市にも及んでいます。

欧米諸国の中央銀行が猛烈な金融緩和政策を続けているにもかかわらず、欧米諸国の景気がよくないので、その過剰なマネーが中国はじめ新興国に流入しています。そういう中で、中国政府は3戸目のマンション購入の住宅ローンを禁止したりして、バブルの過熱を食い止めようとしていますが、うまくソフトランディングできるかどうか、まだ分かりません。

その一方で、農民工と呼ばれる農村から出てきた戸籍のない低賃金労働者には年金・医療制度が十分に適用されておらず、また内陸の農村部は所得でも年金・医療制度でも取り残されています。異常に高い貯蓄率(50%に及ぶ)を低くして消費に向けていくには、国有企業や人民公社を解体していく過程で壊れた社会保障制度をいかに早く再建できるかにかかっています。こうした状況の下で、中国政府は「和諧社会」を掲げて、農村部の医療と教育の再生に重点的な施策を実施していますが、達成できる水準と速さがどの程度になるか、まだ分かりません。

さらに市場経済が内陸部に浸透して拡大していくには、これまで沿岸部に偏っていた企業や工場の立地が今後内陸部にどこまで広がっていくかにかかっています。次第に沿岸部の外側に広がっているものの、内陸部は依然、建設投資に依存した固定資産投資中心の成長です。この辺のリスクをきちんと考えておかないといけません。

もう一つの盲点は、中国を遅れた国と見なすオヤジ思考です。中国は有人宇宙飛行を含む先端技術開発プロジェクトに巨額の資金を戦略的に投じています。環境エネルギー革命でも、資源を買いあさる一方で、2020年までに再生可能エネルギーの割合を23%まで高める目標を立て、太陽光発電や風力発電をものすごい勢いで普及させ、電気自動車の開発も進めています。これまで石炭・石油を基盤とする産業革命はアングロサクソンが担ってきましたが、中国が第3次産業革命を担おうとしているのです。

日本もそうでしたが、キャッチアップする方が、スピードが速くて有利です。サンクス・コストがかからないからです。「新自由主義」の破産の後に来たのが「国家資本主義」の隆盛――これとどう向き合っていくのか。日本は、競争相手として中国と真剣に闘っていく構えがないといけません。

そう考えると、これまでの米国についていけば何とかなる状況はとうに終わっているのです。リスク要因に備えつつも、戦略的な産業政策をとりながら、いかに中国をはじめアジア諸国といかに協調関係を築きながら、いかにしてルールやスタンダードをにぎりつつ、その市場に食い込んでいくかを真剣に考えないといけません。

オヤジの私が言うのも変ですが、食い逃げを図る冷戦型オヤジ思考に毒されてはいけません。時代が変化する時、主流となっている冷戦型オヤジ思考に、若い世代がプロテストして食い破っていく「新陳代謝」がなければ、その社会は衰えていくのです。

私のようなオヤジが、いつまでもオヤジ思考に抵抗しているのにはそろそろ無理があります。教科書を薄めているだけのオヤジ若手でなく、「新陳代謝」をもたらす新しい考え方を持つ若い人が出てきてほしいものです。

そういえば、2日前に草野球をやったのですが、今頃になって足腰に痛みが出てきました。やはり私は「新陳代謝」が衰えているんですね。トホホ……。
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