経産省はもういらない

ミカン箱の中に腐ったミカンが一つでも入っていると、やがて全部が腐っていきます。

腐ったミカンが底の方にあると、最初に箱を開けただけでは気づかないことがあります。

電力会社、経済産業省(経産省)、自民党、学界、メディアの関係がその典型的です。


電力会社は経産省から役員として天下りを受け入れます。自民党は電力会社の役員たちから政治献金を受けます。2009年における自民党の政治資金団体「国民政治協会」の個人献金の7割以上が、電力会社の役員・OBたちからのものでした。経産省と自民党は、電力会社の地域独占を守ります。そこで上がる利益が、また自分たちにキックバックしてくる仕組みです。


それだけではありません。

経産省は、原子力を推進する資源エネルギー庁に加えて、それをチェックするはずの原子力安全・保安院まで手に入れました。

おまけに、電力会社から多額の広告費がメディアにばらまかれ、学界・研究者・評論家たちにはさまざまな名目のお金が渡りますから、原発に楯突く者、批判する者は封じられていきます。

「鬼に金棒」です。


おかげで、福島第1原発事故が起きるまでにも、過去何十年にわたって、数多くの原発事故隠し、データ改ざんが行われてきましたが、どれもウヤムヤにすることができました。


しかも、福島第1原発事故が起きた後でさえ、この情報隠蔽・癒着体質は何ら変わっていませんでした。九州電力の「やらせメール」や「やらせ説明会」の問題によって、原発政策を進める経産省資源エネルギー庁も、それをチェックするはずの原子力安全・保安院も、ともに九州電力とグルなことが露見しました。北海道電力の泊原発3号機のプルサーマル説明会でも似た「やらせ」が起きていました。


この間、原発がメルトダウンしていたことを隠していただけでなく、放射性物質の線量測定も本格的除染も進めず、文科省、原子力安全委員会などと一緒になって人々を被曝するに任せてきました。本来なら国が責任をもって、事故処理費用と本格的除染作業の費用を見積もり、東京電力の国有化を含めてその負担のあり方を決めるべきなのに、事態を放置し、戦後最大の「公害」事件を起こしつつあります。


そんな中で、海江田前経産相は、経産省事務次官、資源エネルギー庁長官、原子力安全・保安院長を「更迭」する人事を発表しました。しかし、これは表向きのことで、実は順送り人事にすぎず、「原子力ムラ」を守ることに今なお懸命です。


こうした状況は、かつての銀行の不良債権処理問題とそっくりの構図です。しかし、今度のツケの先送りは、人命や子どもの健康にかかわるだけにより深刻です。


そもそも、こうした問題が起きる背景には、すでに経産省という官庁がその役割を失っている、あるいは自ら失ってきたという現実があります。


経産省は、投資意欲の高かった高度成長期には、業界ごとの調整機能を働かせて「仕切られた競争」を作り出すことで、過剰投資を防ぎ、「MITIの奇跡」と呼ばれました。

ところが、2000年代に入って(つまり小泉「構造改革」時代に)、多くの電気製品、スパコン、半導体、太陽光電池など、多くの日本製品は急速に世界シェアを落としてきました。この間、日本企業の国際競争力はどんどん低下しています。


既存大企業経営者の短期的利益を上げるのに都合のよい規制緩和や法人税減税以外に、経産省は言うことがなくなってしまいました。それは「呪文」に近く、規制緩和すれば市場が自動的に新しい産業を生み出すというものです。だったら、個別利害を超えて産業戦略を立案する経産省そのものがいらないはずです。


結局、彼らは、55年体制のままの日本経団連の利益代弁者となることで、自らの存在意義を見いだすしかなくなりました。そして、先に述べた既得権益の保護者となってしまい、産業構造の転換を妨げる役割を果たすようになってしまいました。


原子力政策を含むエネルギー政策はその象徴です。


経産省は、民主党への政権交代以降、民主党マニフェストにある再生可能エネルギーへの転換政策を覆すことに血道をあげてきました。排出量取引も地球温暖化税(環境税)も、みな先送りにし、原発の新規建設によるCO2削減政策にすり替えてきました。そして55年体制の財界の言うがまま、TPP(環太平洋連携協定)推進、法人税減税、原発の輸出促進を繰り返すだけです。


再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、バイオマス、小水力など)の全量固定価格買取制度も、直嶋元経産相時代に、自公政権時代の一般家庭の太陽光の余剰電力のみの買取政策に限定しようとしてきました。原発事故後に、それが食い破られると、海江田経産相を使って、買取価格による電気料金引き上げを0.5円╱kWhに抑制しようとしてきました。経産省は、買取価格を抑制することで、再生可能エネルギーの拡大を抑えようとする姿勢を一貫してとってきました。


ところが、福島第1原発事故の発生と再生可能エネルギーへの転換を求める国民世論の台頭によって、こうした動きも食い破られてしまいました。


8月26日に国会を通過した「再生可能エネルギー特別措置法(再生エネ法)」は、後述するように、再生可能エネルギーの買取価格の決め方などについて大幅な修正を余儀なくされました。経産省は1年間かけて準備してきた再生エネ法が、わずか2日間の与野党協議で、その核心的部分を覆されたことに反発していると伝えられています(『電気新聞』2011年8月15日付「全量買取法案で3党合意 19日に衆院通過へ」)。


彼らは、自分たちが「腐ったミカン」であることに自覚がないのでしょう。

中身だけでなく箱そのものも新しくしなければいけない時代が来たのかもしれません。


ともあれ、8月26日に再生エネ法は決まりました。これからは、この再生エネ法をどう活かすか、が問われてきます。


改善された再生エネ法と技術革新

与野党合意案に基づいたものですが、まだまだ不十分な点があるとはいえ、経産省が作ってきた当初の原案に比べると改善しました。

いくつかの改善点を再確認しておきましょう。


  1. 買取価格の決定について、政府(経産省)原案では経済産業大臣が決定することになっていましたが、価格設定に関与する第三者機関「調達価格等算定委員会」を設け、委員の選定に関して国会の同意を条件とすることになりました。さらに買取価格は、経済産業大臣だけでなく農林水産大臣、国土交通大臣との協議のうえ、最終決定することになります。まだ委員会のメンバーも買取価格も決まっておらず、経産省が「第三者委員会」を乗っ取ろうとする危険はありますが、この間、再生可能エネルギーを妨害してきた経産省の「意向」だけで決められなくなった点は一歩前進したと評価できます。

  2. 再生エネ法は、発電事業者に長期間、有利な固定価格で買い取るように電力会社に義務づけます。もとの経産省案だと、一般家庭の太陽光発電の余剰電力のみが1kWhあたり40円以上と高く、他の風力、地熱、小水力、バイオマスなどは15~20円と低く、しかも一律の買取価格でした。それが再生可能エネルギーの種類に応じてコストをカバーできるようにきめ細かく決めることになりました。これで、それぞれの地域にあった自然エネルギーを選べるようになり、再生可能エネルギーへの転換が進むことになります。

  3. 電力会社は、買取価格を電力料金に上乗せすることができます。その際、電力料金の上昇が産業の国際競争力を奪うとの批判に応えて、電炉メーカーなど、製造業平均の8倍以上の電力多消費産業には負担軽減措置を講ずることになりました。


再生可能エネルギーの特徴は、初期投資は高くつきますが、普及するにつれて「規模の経済(スケールメリット)」が働き、価格が「学習曲線(ラーニングカーブ)」を描いて低下していくという点にあります。液晶テレビや電卓と同じです。したがって、先送りすればするほど、日本はこの分野で国際競争力を失ってしまうのです。つまり、早い者勝ちという面があるのです。


その一方で、石油など化石燃料の価格は上昇していく危険性が高まっています。将来的に石油資源は枯渇する可能性があります。そのうえ世界金融危機が続き、各国の中央銀行はひたすら量的金融緩和を行っていますので、行き場を失った過剰な流動性がいずれ石油や穀物に向かうことになります。すでに、この半年間、化石燃料の高騰を反映して、電気料金の値上げが続き、値上げ額は標準家庭で600円ほど(東京電力)になります。その意味でも、再生可能エネルギーへの転換は不可欠なのです。


しかも、再生エネ法の成立を契機にして、この分野における投資の動きや技術革新の動きはとても速まっています。日本もまだ技術力がある間に、オール・ジャパンで取り組めば、再び世界のトップに復帰するのも夢ではありません。いくつかの事例をあげておきましょう。


  1. 太陽光発電は太陽追尾型も出来ており、まだコストが高いですが、ポスト・シリコンの太陽電池も開発されています。量産効果が働くようになれば、太陽光発電の稼働時間もエネルギー効率も飛躍的に高まります。また、三菱ケミカルが塗る太陽電池を開発するなどの動きもあります。

  2. 風力発電機でも、日本製鋼所室蘭製作所がギアや増速機がない風力発電機製造、2010年度、初めて新規稼働国内シェア1位になりました。これまで風力発電の買取価格が低い一方で、部品点数が多いためにメインテナンス費用が嵩み、稼働していない風力発電も見られました。しかし、故障がしにくくメインテナンスも容易な風力発電機が生まれ、メインテナンス費用を含んだ買取価格をきちんと設定できれば、普及が急速に進むでしょう。

  3. 地熱発電の分野では、富士電機、三菱重工、東芝の技術力が高く世界シェアを競っていて、すでに日本の技術力は高く評価されています。日本は、火山国で地熱発電の潜在力は世界的にもかなり高い方に属します。国立公園など開発規制の緩和や1kW当たり20~25円くらいの価格が設定されれば、飛躍的に伸びるでしょう。


再生可能エネルギーは不安定だとよく言われます。この問題を克服するには、蓄電しつつ地域間・消費者間で需給を調節するスマートグリッド(ITを活用した賢い送配電網)の整備が必要です。日本は直流超伝導や優れた送配電網を持っており、この点でも世界を先導できる潜在的可能性を秘めています(実は、再生可能エネルギーで先を行くドイツも、この点でまだ不十分です)。


大事なのは、この再生可能エネルギーへの転換とそれに付随する蓄電、発電、省エネなどの広範な領域において、日本の技術力を総動員することです。それにつれて、建物、耐久消費財なでも技術革新が起きるでしょう。そして、これらで世界のトップになることで、地球温暖化阻止の先頭に立つのです。それは、夢を持てる仕事です。


地域からの胎動

再生可能エネルギーは、地域分散型ネットワークのシステムの基盤となります。そして、再生エネ法は地域経済を活性化させる起爆剤となります。コストをカバーする買取価格になれば、発電量に応じて地域に収入をもたらすと同時に、地域に雇用を作り出します。


再生エネ法の制定が伝えられると、地域から一斉に再生可能エネルギーへの投資の動きが出てきました。思いつくかぎりで、列挙しておきましょう。


  1. 関西広域連合や黒岩神奈川県知事が精力的に動いています。彼らは、住宅の太陽光発電の全量買取を要求しましたが、それは通りませんでした。しかし、スマートメーターが各家庭に導入されば、節電すればするほど電力料金が安くなるという意味で、改善の一歩にはなるでしょう。
    関西広域連合で「エネルギー検討会」が設置され、再生可能エネルギーを含む長期のエネルギー計画を策定する予定です。エネルギー転換はますます具体的になってきています。

  2. 7月13日に、孫正義ソフトバンク社長が呼びかけ、35の道府県が参加する「自然エネルギー協議会」が発足し、10件のメガソーラー計画を立て、まず北海道帯広市で太陽光発電の実験プラントの建設を計画しています。この協議会の会長を務める岡山県は、2020年までに10件のメガソーラーの誘致を打ち出しました。

  3. 7月27日には17の政令指定都市が同様の協議会を発足させました。

  4. ソフトバンクが筆頭株主であるグリーンパワーインベストメントは、青森県つがる市に国内最大規模の風力発電所の建設を計画しています。一方、ソフトバンクに対抗して、NTTドコモも、発電事業に参入して基地局で太陽光や風力発電を行う方針を打ち出しました。

  5. 三井化学などが、愛知県に国内最大の太陽光発電所を計画し、日本政策投資銀行が融資の9割を賄う予定です。

  6. 京都府の山田啓二知事は、「エネルギーの地産地消」に向けたモデルづくりを、京丹後市や府南部の関西学研都市で進めていく方針を表明しました。

  7. 和歌山県は、これまで「わかやま新エネルギーランド構想」に基づいて2008年度から太陽光や風力など再生可能な新エネルギーの利用を10年間で2倍にすることを目標に進めていました。実際には、すでに4倍超になっていることが分かりました。

  8. 大分、熊本両県が、農業用水などを利用して行う小水力発電の本格的な導入に乗り出します。大分県は今年度、県が事業主体となり、豊後大野市、由布市など3か所で、現地調査や水利権の調整などを実施します。そして九州電力との売電交渉などを経て整備に着手する予定です。大分県別府では、温泉の蒸気を利用してタービンを回す小型地熱発電「湯けむり発電」を、地元中小企業と協力して取り組んでいます。

  9. 佐賀県も吉野ヶ里歴史公園北の工業団地(神埼市)でメガソーラー計画を検討中です。

  10. 最後に注目したいのは、兵庫県が検討している県民出資の共同発電所です。これは民間の出資を募り、売電収入を配当する方式で、買取制度に参加できない集合住宅の住民がこの制度に参加できる点で、また財政が苦しい中でもできる点で、成功すれば面白い試みになるでしょう。


実際には、この他にもまだまだあります。地域から、再生可能エネルギーへの取り組みがうねりのような波が押し寄せています。多くの企業も、将来性ある分野として再生可能エネルギー、スマートグリッド、蓄電、などをあげています。


もちろん、「第3者委員会」のメンバーの構成によって価格設定が意図的に歪められてしまう可能性も残っています。さらに、再生エネ法の例外規定を使って、電力会社が送電線への投資を怠り、買い取り拒否を繰り返す事態も考えられます。その時には、発送電分離改革を実行し、さらに前に進むことが必要になってくることは言うまでもありません。


日本版グリーン・ニューディールを

百年に一度の世界金融危機は、なおも続いています。

欧米諸国は、かつての日本と同じように、本格的な不良債権処理をできず、金融機関はなおも多量の不良債権を抱えたままです。景気対策が切れるたびに、金融危機が再浮上するスローパニックが続き、やがて長期停滞に陥っていくという「日本化」が進行しています。


米国の大手金融機関は、なおも巨額の不良債権を抱えたままで、バンク・オブ・アメリカなどに対する毒入り証券の買い戻し請求がくすぶっています。また地方の中小金融機関は2008年以降、400行以上が経営破綻し、依然として破綻が続いています。そして、雇用も大きく落ち込んだままです。にもかかわらず、債務上限引き上げ交渉に際して、野党共和党の財政赤字削減要求から、オバマ政権はもはや財政政策をとりえません。FRBによる量的金融緩和QE2.0も切れました。緊縮財政を続ければ、景気後退が加速します。量的金融緩和を続ければ、為替切り下げ競争をひどくし、石油や穀物などの商品先物相場をつり上げていくでしょう。米国経済は、深刻なジレンマに直面しています。


欧州でも、金融危機と財政危機の悪循環が続いています。ギリシャ、アイルランド、ポルトガルと続いた財政危機の後、再びギリシャの財政危機が表面化しました。ギリシャに対する支援策が決まると、今度はイタリア、スペインの危機へと伝染しつつあります。90行あまりの銀行に対するストレステストを実施し、資本不足とされたのは8行だけでした。シミュレーションによる銀行ストレステストは信頼性に欠けています。


もはや欧米諸国は中央銀行の量的金融緩和以外にとる道はありません。それは、ひどい為替切り下げ競争(=近隣窮乏化政策の連鎖)を引き起こしています。


「既得権益者」たちによる攻撃によって「東アジア共同体」構想が頓挫した日本円や、ユーロに加わらなかったスイスフランは、ひどい為替レートの上昇に直面しています。8月20日には、1ドル=75円という記録的な円高を記録しました。政府・日銀は為替介入を続けざるをえないでしょう。しかし、効果は限定的です。


その一方で、日本の財政赤字は深刻です。東日本大震災による震災復興にも、多額の財源が必要です。もはや従来の経済政策では限界があります。


こういう中で、拙著『「脱原発」成長論 新しい産業革命』(筑摩書房)でも述べたように、世界金融危機から抜けて行くには、世界中で再生可能エネルギーへの投資を一気に推し進め「新しい産業革命」を起こしていく以外に道はないでしょう。今こそ、日本版グリーン・ニューディールが必要なのです。

そして、この分野の技術で世界を再びリードし、発展する東アジア中心に、新たな輸出産業に育て上げていくのです。


そのためには、まず箱から腐ったミカンを取り除くことから始めなければなりません。そうしないと、新しいミカンを入れても、また腐ってしまいますから…。