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金子勝ブログ

慶應義塾大学経済学部教授金子勝のオフィシャルブログです。

2011年10月

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原発コストの出し方って、とっても変です。 ――私の原子力日記その2(2/2)――

以上に基づいて、以下のような発言をしました。
 

  資源エネルギー庁の原発コスト56円/kWhは、あくまでもモデルプラントを使ったシミュレーションですが、そもそもシミュレーションというのは建設前に予測するために行うものであって、現に原発が稼働しているのに、シミュレーションでコストを出すというのは問題です。

 

  電力会社から経済産業省に対して提出されている原発の設置許可・受け渡し報告・運転発電許可の申請書を出すべきです。そこには電力会社が計算した発電コストが書いてあるはずなので、ここを出発点にすべきです。それが電力料金設定のベースになっているからです。そのうえで、稼働率や送配電ロスを考慮し、あるいは耐用年数を超えた原発に関して適切な安全投資が行われたかどうかを含めて、原発コストを計算すべきです。

 

③除染費用は、どの範囲までやるか、どういう方式をとるかで大きく費用が違ってきます。複数の専門家や民間企業から意見を聴取すべきです。

 

  核燃料サイクルについては、もんじゅや常陽のような高速増殖炉は電力を供給していませんから、当然、それをコストに含めるべきです。また、イギリスのセラフィールドの再処理工場は閉鎖しました。現在、原発内にためこんでいる使用済み核燃料の本数を明らかにし、その処理コストを核燃料サイクルコストに含めるべきです。

 

「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」から、以下のような試算結果の報告がありました。

 

  モデルプラントを使用した核燃料コスト(割引率3%の場合)について、直接処分モデルが約1円/kWh、全量再処理モデルは約2円/kWhの違いがあります。

 

  また損害賠償費用については、「東京電力に関する経営・財務調査委員会の試算」をベースに55045億円と見積もっています。

 

  モデルプラントの損害費用は38878億円と試算。ただし、除染費用については推計が困難で、明確な数字は出していません。

 

  事故リスクコストは、この損害費用×事故発生頻度/総発電量で出します。しかし、事故発生頻度をどう設定するかで、大きく違ってきます。モデルプラントを使った計算ではIAEAの安全目標である110-5にするか、実績値をベースに210-3にするかで、小委員会は意見が分かれているとのことでした。両者で何と百倍の開きがあります。

 

小委員会のシミュレーションは、おそらく陸奥に新しい中間施設が建設できたとして、これから核燃料サイクルにどれだけのコストがかかるかを試算したものと思われます。しかし、これはいかにも非現実的です。

 

私は、これに対して以下のような発言をしました。

  これからのコストを試算する、モデルプラントを使うシミュレーションは、これまでうまくいっているならばよいが、すでに核燃料サイクル政策は失敗しているので適切ではありません。中間貯蔵施設が足りず、六カ所村の中間処理施設は機能していません。またセラフィールドの再処理工場は閉鎖します。結果、原発内部に大量の使用済み核燃料がたまっていますが、そのコストは入っていません。そして、今回の事故では、福島第1原発の4号機内部の使用済み核燃料が爆発してしまいました。なのに、これらのコストを外すことは極めて問題です。

 

*六カ所村の再処理工場・燃料加工工場は事故・放射能漏れが頻発しています。ちなみに事故・トラブルの一覧については以下を参照。とくに再処理工場がひどいです。

http://dailydb.jnfl.jp/daily-stat/cgi/view_yeartrbl.cgi

 

  除染は、失われた財産額だけカバーすればすむわけではなく、金銭に還元できない、国土を回復するという考え方があります。帰りたい、あるいはそこに長く住みたいという人々が数多くいる以上、こうした考えを無視することは適切ではありません。どこまでの範囲でどのような方式の除染方法をとるかで、費用は大きく違ってきます。複数の専門家や民間企業を呼んで意見を聴取し、複数の選択肢を国民に提示すべきです。

 

  事故発生率に関して意見が分かれているが、参考意見として、電力会社が無限責任の賠償保険に入るとして、どれだけの保険料がかかるのか、国内外の保険会社に試算してもらうべきです。

 

もちろん、シミュレーションという手法は場合によっては非常に有効な手段です。

 

たとえば、Speediを適切に使えば、放射能被害を防ぐことができます。ところが、原子力安全委員会はそれを公表しませんでした。その理由の一つとして、すべてのデータがそろっていなかったという点をあげています。しかし、シミュレーションはあくまでも予測ですから、実際の放射線量まで予測せずとも、放射線が飛ぶ範囲や方向を予測すれば十分なのです。ところが、原子力ムラは肝心のシミュレーションの特性を使わずに、それを隠してしまったのです。

 

ところが、今度は実際のコストを計算しなければならないのに、予測のために使うシミュレーションを使おうとしています。何というチグハグさでしょうか。それは、シミュレーションである以上、決して実際の原発コストではありません。実際には原発コストは非常に高いので、それを意図的に隠すためにシミュレーションという手法を「悪用」しようとしているのではないかと疑われても仕方ありません。

 

前にも述べたように、実際の原発の発電コストを分析する方法はいくつかあります。私が今回提出したメモはその一つです。それには、肝心の情報を隠してきた経産省・資源エネルギー庁に、きちんとした情報公開を求めていくことが必要です。

 

メディアは情報公開法を使ってでも、その資料の公開を請求して多くの国民に知らせる義務があります。もしメディアがそれをやらないなら、みんなで「知る権利」を行使するのも一つの方法かもしれません。何はともあれ、それがエネルギー基本計画見直しの出発点になるのですから。

 

29

原発コストの出し方って、とっても変です。 ――私の原子力日記その2(1/2)――

 10月26日は、私にとって3回目の原子力委員会でした。

まず、これまで2回の議論を踏まえて提出された『今後の安全確保について』と『新大綱策定会議(第6回、第7回)における委員からの質問に対する回答』に基づいて、事務局(内閣府原子力政策担当室)の説明がありました。

議事次第と配付資料は、以下のURLに掲載されています。

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei8/index.htm

 

まず阿南委員が議論の口火を切りました。

IAEANRCによる福島原発事故の教訓を参考にしているが、なぜそれができなかったのか、きちんとした総括がないと発言しました。

 

議論のやりとりの中で、鈴木篤之委員(原子力研究開発機構理事長)から、原子力安全委員会での経験を踏まえ、安全規制は決定して実施するのに時間がかかり、電力会社が技術の進歩に応じて自主的に安全投資をするのが困難な事情を説明しました。

 

私は、『新大綱策定会議(第6回、第7回)における委員からの質問に対する回答』中の「地震応答解析結果について」に関する疑問と合わせて、次のような発言をしました。

①福島第1原発のように耐用年数30年を超えて原発を稼働し続ければ、減価償却が終わっているので電力会社はもうかるが、どのような改良投資が行われたのでしょうか。配管を含めて、地震に耐えられたのか、あるいは中性子や水素による金属疲労はきちんと考慮しているのかなどが、きちんと検証されているのでしょうか。実際、2号機は水素爆発ではなかったことが明らかになっています。もはや、すべてを「想定外」の津波のせいにするのは無理があります。

②そもそも、「地震応答解析」を、事故を引き起こした事業者に聞いていること自体に違和感があります。実態はともあれ、NRC(米原子力規制委員会)は事故を引き起こした事業者に乗り込んでいく形になっています。ところが、日本はそうなっていません。

問題なのは、安全規制を決めるのに時間がかかることにあるのではありません。事故原因にヒューマンファクターがあるとすれば、現場ではなく安全投資を怠ってきた事業者にあります。そして、規制当局の独立性自体が疑われていることこそが問題なのではないでしょうか。

 

その後、山名委員からも、規制や監督の不十分点ばかりが指摘されているが、規制や法によってガンジガラメになっているので、事業者が十分な安全投資ができない面があるとの発言がありました。

 

私は、福島第1原発で、それが事故原因になったのか、具体的に説明してほしいと質問しました。山名委員は事故調査委員会の結果を待つとお答えになったので、知野委員から具体的な事例で説明してほしいとの突っ込みがありました。

 

つぎに、議題は核燃料サイクルコスト、事故リスクコストに移りました。

そもそも、前に述べたように、資源エネルギー庁がシミュレーションによって出す56円/kWhという数字自体が「架空」のものです。私は、拙著『「脱原発」成長論』第3章で、大島堅一氏による有価証券報告書を使って実績値を出す地道な分析を高く評価しています。しかし、私たちが原発に対する実際の負担額から、発電コストを割り出す第3の方法があります。その方法を要約して、以下の「メモ」として配布いたしました。

 

 

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2011.10.26原子力委員会メモ

                              金子 勝

 

原発の発電コスト計算に関して

1.そもそも資源エネルギー庁が算出している原発の発電コスト56円という数字に関して、モデルプラントを使用した「架空」の数字であって実際のコストではありません。

 

2.原発の設置許可・受け渡し報告・運転発電許可の申請書が電力会社から経済産業省に対して提出されているはずです。申請書は炉ごとに出されており、これらの各申請報告書の中に電力会社が計算したものではありますが、各炉の理論上の発電単価が記述されているはずです。以下の原子力発電施設に関して、少なくとも以下の各申請書の原本謄写と概要を提出していただきたい。

1)BWR式を採用している福島第一第二の10基と柏崎刈羽の5基。

2)PWR式を採用している関電の美浜と高浜と大飯の11基。

3)ABWR式を採用している柏崎刈羽の2基。

 

3.各発電所の操業開始から現在までの稼働実績(比較的小さな事故による休止の場合も含めて、稼働・点検の各合計期間)と総発電量に関する概要についても添付していただきたい。あわせて、付随施設である揚水発電所の(建設時)予定稼働率と実際の稼動実績・発電量の概要も添付していただきたい。

 

4.できれば、長距離送電用の高圧線・変電所設置の各費用、さらには送電ロスの実績値の資料も公開していただきたい。これらは今回の災害や事故のような非常時の電力融通用としてではなく、平時に大都市から離れて設置された原子力発電所から電力消費地である都市部までの送電を目的として設置されたものであると考えます。よって、これらもあわせて計算することで正確な原子力発電コストが算出されるのではないでしょうか。

 

5.廃炉費用を含む事故処理コストを計算するに当たって。

一般に、安全投資を含む設備投資を多く支出すれば、稼働率が高まる傾向にあるはずです。短期で発電コストを出すには、(安全投資コスト)―(稼働率向上によるコスト減)が問題になりますが、福島第一原発事故が発生したために、こうした点を考慮するだけでは不十分になりました。

1)納税者に負担を課さないために、現行の損害賠償保険のあり方を見直し、事故賠償保険のあり方を見直すべきです。電力会社に無限責任の賠償保険への加入を義務づけるとした場合、どの程度の保険料になるのか。いくつかの民間保険(損害保険)会社に試算してもらったうえで、意見聴取をするべきです。

2)事故率(事故発生係数)を算定する際に、過去に起きた事故や不具合をどのように事故率の計算過程に参入するのか、この点を明示していただきたい。また暫定的でも、地震および津波に対する安全基準を高めた場合に、どれだけの追加投資額が必要であるかも考慮しなければ意味あるコスト計算にはなりません。その点も明らかにしていただきたい。

3)原子力発電所は耐用年数を超えて使用すれば、電力会社の利益率は非常に向上しますが、危険性も増します。福島第一原発事故はその危険性が顕在した可能性があります。各原子力発電所(あるいは原子炉)は、建設当時に耐用年数を何年と予定していたのか。耐用年数を延長するためにどのような改良工事が行われたのか。耐用年数を延長して使用している原子力発電所について、その判断は妥当な科学的根拠があってのことなのか。

 4)今回の事故を踏まえて、溶けた燃料を取り出す過程も含めて、原子力施設の除染と解体(あるいは石棺にするまでにかかる期間と費用を算出する必要があります。現状で詳細が分からないとすれば、燃料のメルトダウンの状況によって場合分けした概算でも出さなければ、事故リスクコスト計算にはならないと思います。

 

6.当然、賠償費用、除染費用も事故リスクコストに含まれるが、以下の点に留意すべきである。

1)国の賠償紛争審議会の委員には利益相反の疑いのあるメンバー(エネ法研)が含まれており、また賠償費用の算定についても今後の紛争が生じる恐れがあり、過小になりやすい。今後の賠償費用の増加について見通しを明らかにしてほしい。

 2)除染費用についても、除染や汚染廃棄物について基準が何度もぶれて変更されています。どういう基準をとり、どういう方式をとるかで、コストは大きく違ってきます。また現行の原子力技術開発機構による除染事業には、評価機関と実施機関の両方を兼ね、かつ再委託という事業仕分けで批判された方式がとられており、多くの問題点が含まれ

ています。複数の専門家ないし民間企業から意見聴取を行う必要があります。

 

7.今回、使用済み核燃料のコストを含めて原発の発電コストを出すと聞きます。以下の点について資料を提出していただきたい。

1)米仏を含む多くの先進国ですでに止めている核燃料サイクル政策について、失敗してきた常陽、もんじゅにかかった費用(建設費、開発費、人件費)とこれから電力を生み出さないまま「運転」している費用を発電コストに含めるべきだと考えます。

 2)現在、原子力発電所のプールに収用されている使用済み核燃料に関して、経過年数毎に本数を明らかにしてほしい。六カ所村の「中間施設」の失敗を考慮したうえで、仮に、それらを収用する「中間施設」を建設した場合、いくらのコストがかかるか明らかにしていただきたい。

 3)またMOX燃料が使用済みになった時に必要な冷却年数と維持コストを明らかにしていただきたい。

 

8.さらに原子力発電所の立地対策費用として、立地自治体に支払われた電源三法交付金の金額も発電コストに含めるべきだと考えます。

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5

原子力安全行政の仕組みが壊れています ――私の原子力日記その1――

2011103日、私にとって2度目の原子力委員会です。

たくさんの委員がいて、事務局が用意した説明に時間を要するので、一人ひとりの発言時間が限られてしまいます。そこで、以下のメモを配り、この線にそって発言しました。

 

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2011.103原子力委員会メモ

                         金子勝(慶應義塾大学)

 

1.長期で議論することと短期で議論することを分けて考える必要があります。

福島原発事故に伴う原子力発電の安全性について議論することは非常に重要です。

しかし同時に、今どういう状況にあるのかを認識することから始める必要があります。

  

1)来年春にはすべての原発が点検に入り止まると言われています。日本の企業は愚かではないので今年の事態を踏まえて自家発電を拡充しており、たとえ「計画」停電を行っても、大企業は十分に対応できるでしょう。家庭でも太陽光を設置する動きが加速するでしょう。一層の節電も可能で、場合によっては「計画」停電を受け入れるかもしれません。残る問題は中小企業、とりわけ電力多消費型の製造業が夜間操業を強いられるなどの影響です。

 

2)周知のように、できるだけ原発依存を減らしたいというのが世論調査の結果です。稼働する原発が激減する来夏を乗り切れれば、基本的に原発はいらないという世論が形成されるでしょう。私自身はそれでもよいという立場ですが、こうした状況を踏まえず、中長期的な議論をしていても、事態の変化についていけない間が抜けた議論をする結果になりかねません。

 

3)節電の効果もあり、原発16基で「計画」停電もしないですみました。現時点では、そもそも、なぜ、どれだけの数の原発が必要なのか、何一つ秩序だった説明がなされていない状況が続いています。民間の余剰発電能力に関して十分な情報開示が行われたかどうかについても疑われています。また日本卸売電力取引所も3.11以降も十分に機能したとはいえません。日本卸売電力取引所も送配電を監視する側の電力系統利用協議会も、(PPSもわずか入っていますが)大手電力会社の出身者でほぼ占められています。当然、運営組織も価格設定も含めて改善が求められるでしょう。それ次第ではかなりの問題が克服できるかもしれません。

 

4)来年度から原子力庁が発足します。その間にも、原子力安全・保安院によって再稼働に向けてストレステストが行われています。そのことが不信を招いています。

 

2.原子力安全行政の不信を払拭するには、普通に考えることが大事です。

 

 1)事故発生後に、つぎつぎと安全基準が変わること。これが原子力安全行政の信頼を著しく損ねています。校庭1ミリシーベルトから20ミリシーベルトになり、放射線量が低下したので、また1ミリシーベルトに戻りました。放射性物質に汚染された廃棄物の埋め立て可否の基準が100ベクレルから8000ベクレル以下に変わってしまう。チェルノブイリより高い耕作禁止基準5000ベクレルを上回っています。毎日食べる主食の米の500ベクレルという暫定基準も根拠が曖昧です。さらに、国の除染方針が1ミリシーベルトから5ミリシーベルトに変わったのも、汚染土壌の量が多すぎ費用がかかるという理由だとしか考えられません。しかも、校庭問題と同じく福島県の現地市町村から反発が起きて、再び1ミリシーベルトに戻すという顛末になりました。これでは福島第1原発事故発生以前の基準はほとんど無意味だったということになりかねません。

  問題は下水処理汚泥や清掃工場の焼却灰にも出ています。住民の激しい抗議で、横浜市で海に埋め立てようとして頓挫しました。そもそも環境省が決めた8000ベクレルの基準の根拠が曖昧で高いからです。各地で問題化し、野積みになった状態です。除染や廃棄物処理を安上がりで済まそうとして、かえって問題の解決を難しくしてしまいました。現行の原子力安全行政が住民に受け入れられていないことの証なのではないでしょうか。

 

2)そもそも問題の根源は、826日にいわゆる「放射能汚染瓦礫処理法」の56条に、除染に関する基準について環境大臣が原子力安全委員会の意見を聞かなければならないという規定が突然入り、議論なしに国会を通過したことにあります。原子力安全委員会はSpeediの情報を隠し、多くの人々を被曝するままに任せてしまいました。とくに放射性ヨウ素は半減期が短いので、子供にとって致命的事態をもたらした可能性も否定できません。いわゆる「原子力ムラ」の関係者が除染業務をやるのはふさわしくありません。なぜ技術力のある民間企業に直接委託せず、日本原子力研究開発機構に介在させるのかも非常に不透明です。問題は、評価機関と実施機関が分離されていない点にあります。両者を分離したうえで、これまでの原子力安全行政にかかわりのなかった清新なメンバーを加え、より国民に開かれたものとすべきです。この間見られたように、安全基準を頻繁に変えたり、詳細な線量測定もしないまま住民の決定権を奪ったり、混ぜて薄める除染や仮置き場のような方式をとったりすることは問題です。二次災害をもたらしたり、問題を長期化させたりするだけです。

 

3)子供や妊婦の胎児は放射能に弱く、日本の未来を担う無限の可能性を持っています。子供と妊婦を守るために本格的除染が不可欠です。とくに(それ自体いいことかどうかは別にして)食の提供や子育てに携わっている女性の反発は、イデオロギーに関わりない強い反発です。まず、人々の「不安」を取り除くことを最優先するべきです。これは危機管理の鉄則です。残念ながら、そうした原則は破られています。たとえ原発プラント本体の安全性を確保できるようにするとしても、現に、人々が生活の安全を脅かされていると不安を抱く状況を解消しないかぎり、原発の安全性に関する議論は何らの説得力を持ちえません。仮に、原発再稼働を重視する人にとっても、このまま除染が進まないと、原発の再稼働は困難になります。

 

4)立地自治体が仮に原発再稼働(新規建設も同じ)を認めたとしても、周辺自治体との軋轢と亀裂が進みます。今回の福島第一原発事故では、電源三法交付金(+固定資産税収入)を全くもらっていない、あるいはわずかしかもらっていない広範囲の周辺自治体にも大量の放射性物質が飛散しました。ただでさえメルトダウンして燃料棒が取り出せず事故処理が相当に長引くのに、便益は一切ないのに被害だけが長期化するという状況が消えなければ、軋轢と亀裂は拡大し、また脱原発の国民世論も強まるでしょう。牧之原市の浜岡原発永久停止の決議はその兆候にすぎません。

除染費用・賠償費用の「節約」と原発再稼働は両立しないことを自覚すべきです。

 

5)コメの予備調査で、福島県二本松市から国の暫定基準と同じ値が検出されました。コメは毎日食べる主食なので、問題はかなり深刻です。それは放射能汚染の日常化を意味し、食の不安を通じて原発事故問題を一層拡大してしまいます。内部被曝を防ぐために、「汚染された土壌の本格的な除染」と「食品の全量検査」が不可欠であり、急ぐ必要があります。すでに新米シーズンなのに、去年米が売れています。やがて、このように不十分な「除染」を続けているうちに子供に健康被害が出た場合、原発廃止の世論は決定的なものとなるかもしれません。ここで原発の安全性について、いくら議論しても無意味な事態になりかねません。

 

3.事故を引き起こし、公表データをずるずるとかさ上げしていくやり方、「やらせ問題」を含めて、電力会社に対しても原子力安全委員会に対しても原子力安全・保安院に対しても国民の間に不信感が募っています。その当事者がストレステストをやって原発を再稼働すると言っても、ほとんど説得力がないことを自覚すべきです。とくに、九電玄海原発の再稼働と佐賀県知事、北電の泊原発などで「やらせ問題」が明らかになり、保安院自身も過去にそうした行為を行っていることが露呈しました。

普通に考える必要があります。たとえば、有害物質が入り何度もラベルを貼り替えた食品会社があるとしましょう。責任者をかえずに、もう一度やり直しましたと言って、誰がその会社の製品を買うでしょうか。雪印はラベルを貼り替えただけで潰れました。

 

1)危機管理にとって非常に重要なのは、透明な手続きです。関係者以外の人間を入れた別の仕組みで、「消費者」に分かりやすい安全基準を設けないかぎり、いかなるテストを実施しても信頼性に欠けます。

 

  2) 事故調査委員会の検証結果を待って、新しい安全基準を設けるのが基本的な筋です。しかし、全ての原発が停止することを「混乱」と考える方々は、それを待てないというのであれば、保安院によるストレステストではかえって混乱を招くだけであることを認識すべきです。とくにシミュレーションは仮定の数値を少し変えるだけで、かなり違った結果が出ます。すべてを「仲間内」ですまそうとする時代は終わったのです。

 

 3)原発の安全性に関する議論をする前に、現行の手続きの問題点についてきちんと認識しておかなければなりません。せっかくの議論が無駄になる可能性があるからです。原発の安全性の検証手続きについては、原発に批判的な専門家を入れた第三者委員会を介在させ、公開の原則をもって丁寧な説明をすることが最低限必要です。

 

リスク分析が機能するには、リスク評価機関の独立性・一貫性、それを踏まえたリスク評価・リスク管理に関して、ステークホルダーとの間で、公開の原則に基づいてリスクコミュニケーションを行うことが非常に重要です。残念ながら、現状ではいずれも満たされていません。ここが現在の原子力安全行政に対する国民の不信を招いているのです。この問題を払拭しないかぎり、いかなる議論をしても説得力を失います。

 

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伴英幸委員らが、原発を止めるという選択肢も議論すべきだと主張しました。

 

その後、内閣府原子力災害対策本部の「東京電力福島原子力発電所の事故から得られた教訓とその取り組みの進捗状況について」と電気事業連合会の「原子力発電所における取組状況」の報告がありました。前者はIAEAへの報告をベースにした安全対策の現状、後者は主として原発プラントにおける津波対策、全電源喪失に対する対策の報告でした。

*原子力委員会の報告については以下で公開されています。

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei7/index.htm

 

阿南久委員が、事故発生後の被害状況の検証もなく安全対策はあるのか、と食い下がりました。

 

私はつぎの点を述べました。

IAEAへの報告では、14号機はすべて水素爆発したことになっています。にもかかわらず、今になって2号機は水素爆発ではないという。これはIAEA報告とつじつまが合いません。伴英幸委員が言うように、事故原因について地震の影響を排除すべきではありません。

 

24時間作動の監視映像を公開すべきです。この間の問題は、データを小出しにすることにあります。原子力安全・保安院の中村審議官が312日午後の記者会見で「メルトダウンの可能性がある」と述べて、その夜に辞めて、西山審議官に交替しました。2カ月後に、実は「メルトダウンしていました」になり、6カ月後には、14号機は水素爆発していたはずが、実は2号機は水素爆発ではないと言い出す。2カ月後になって発表したのは温度と圧力のデータだけ。その公表データにそってみても2号機はかなり前から圧力低下が起きており、一部の専門家から地震による格納容器の損傷が起きていたとの指摘があって、ようやく地震計のデータを持ち出してくる。放射線量のデータも、2カ月後のデータ公開に際して、ホワイトボードに「20秒間に0.8ミリシーベルト」という殴り書きだけです。批判的意見を持つ研究者にも検証可能なように、全てのデータを公開すべきです。

 

③過去の国会での議論や東電が事前に認識していたことからしても、津波を「想定外」とすることはできませんが、津波に関しては別の問題があります。津波の高さは場所によって大きな違いがあります。近隣地域でも、津波の高さが510m(想定内の範囲)のところがあります。柏崎刈羽原発事故では活断層の見落としていたためにシュラウドのひび割れ事故が起きましたが、福島原発の立地に際して、地形による潮位の違いを見落としていたのではないか。

*たとえば福島第一原発の設計段階において、「遡上高」という概念が抜け落ちていた可能性もあります。なお津波高と遡上高については以下を参照。

http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq26.html

 

④原子力ムラは国民の信用を失っています。原子力安全・保安院だけでストレステストをやっても誰も信用しません。原発に批判的な専門家を入れるか、同時並行で別の検証を行い、そこに原発に批判的な専門家を入れるかしないかぎり、簡単には原発を動かしましょうということにはなりません。保安院だけのストレステストで再稼働して、もし小さな事故でも起きれば、それで原発は終わります。ずさんな除染についても同じ。もし子どもに健康被害が出れば、原発は終わります。

 

私は委員会で、手続き論から始めねばならず、失礼を顧みず、あえて「原子力ムラ」という言葉を使いました。その閉鎖性が深刻な事故を引き起こしたと考えるからです。批判する者を排除する、「仲間内」だけになってチェックが甘くなる、事故を起こしても責任を問われない、だからまた同じ誤りを繰り返す。2度とこのような事故を起こさないように…。

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