kaneko_masaru

金子勝ブログ

慶應義塾大学経済学部教授金子勝のオフィシャルブログです。

2011年12月

28

まるで不良債権問題そっくりです ――私の原子力日記その4(2/2)――

2011.12.22原子力委員会・新大綱策定会議メモ

                             金子 勝

 

「今後の原子力発電とそれに関連する事項に対する重要課題とその基本方針に関する論点(案)」について、再開後の議論を踏まえておらず、問題が多い。

 

1.番号1がつけられている「原子力発電の意義について」において、脱原発も含めて議論すべきとの意見があるにもかかわらず、今後、「原発をどうするのか」についての基本的な選択肢を提示しつつ、それらを丹念に議論しないのであれば、この会議の意味はほとんどない。この問題について、総合資源エネルギー調査会およびエネルギー環境会議が決定すべきであるなら、この委員会の独立性が疑われるだろう。また番号5の「研究開発と人材育成について」は、すでに原発維持を前提としたものになっている。前提になる「原発政策の選択」を議論にしていないのに、こうした議題だけが出てくるのはどうみてもおかしい。

 

2.この観点から、どれだけの原発が必要なのか、国民に選択肢を明示するのが本会議の責務である。

 (1)まず入り口段階の電力需要全体からみた原発の必要数を明らかにすべきである。  2011年夏における節電を「前提にした場合」と「前提にしない場合」、さらに「一層の節電・省エネが進んだ場合」に分けて、現状における電力会社、民間の一般事業会社などの電力供給能力を示したうえで、必要原発数を出すべきである。

(2)さらに、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」も明らかにしているように、東京電力が原発を再稼働しない場合、深刻な債務超過に陥っていく。原発再稼働がないと、電力料金が上がるといわれるのは、電力会社の経営に問題があるからである。それゆえ、東京電力だけでなく、他の電力会社も同様の問題を抱えている。原発が停止し、電力料金を引き上げない場合、各電力会社はどれほど赤字が生じるのか、情報を開示すべきである。

(3)つぎに、出口段階における原発維持可能数を明らかにすべきである。六カ所の再処理工場を「稼働しない場合」、「稼働した場合」、「直接処分の場合(最終処分場が確保されることが前提)」、「直接処分が実現しない場合」に分けて、具体数を出すべきである。

(4)入り口段階と出口段階における、それぞれの場合を組み合わせた選択肢を国民に情報を提示することが、税金を使ってやっている本会議の使命であろう。

 

3.東京電力は2012年3月期(単体)決算で税引き後利益が5763億円の赤字となる見通しで、政府による約1兆円の公的資金投入と実質国有化が検討されていると報じられている。事故処理費用および賠償費用に関して、あるいは発送電分離改革について事態の推移を見て再度議論をすることを明示すべきである。

 

4.注記にあるが、核燃料サイクル政策について、大きな失敗を続けている高速増殖炉「もんじゅ」の存続について、なぜ当面の議論の対象から外すのか、理由を明らかにすべきである。

 

5.番号3~4について六カ所村の再処理工場の継続を前提とした議題になっている。再処理工場については放射能漏れなど事故やトラブルが多く、また放射能の環境汚染が問題になっている。イギリスのセラフィールドも止めていく。改めて、きちんと議論すべきである。

 六カ所村の再処理工場は、一種の「不良債権」問題だと考えられる。もし六カ所村の再処理工場を閉鎖すると、これまで投じた日本原燃および電力会社の資金が焦げ付くことになる。工事をいったん開始してしまった以上、ずるずると止められないダムなどの公共工事と似ていると思われる。除染費用を十分に出さず、福島県民をはじめ多くの国民が福島原発事故によって放射性物質に不安と恐れを抱いている状況のもとで、このような事業に巨額の資金を投入し続けることは許されないと考える。

 

6,日本原燃株式会社の簡易財務諸表はWebに公表されているが、以下の点についてより詳細な財務会計情報の開示を求める。

 (1)20113月末のB/S(貸借対照表)で「建設仮勘定」に14010億円が計上されているが、契約価額の全体、契約解除の場合の返還金などについて。

  (2)同じくB/Sにある「再処理料金前渡金」として7272億円が計上されているが、これは電力会社からのものなのか、その具体的内容について。

 (3)P/L(損益計算書)上の「売上高」2855億円、「売上原価」と2524億円の具体的内容について。

(4)B/S上の「長期借入金」8713億円、「短期借入金」1164億円について、借入先など具体的な内容について。

(5)同じくB/S上、固定負債の部にある「資産除却債務」5133億円について、これがいかなる資産に対して計上されているのか、その具体的な内容について。

 

7.番号6の「国際社会で果たすべき役割について」は、福島第1原発事故に関する2つの事故調査委員会の報告書が出ておらず、また会議においても原発の安全性について議論を尽くしたとはいえず、ましてや原発輸出の是非についても議論していない状況で、原発輸出を前提とした議論は不適切である。したがって議題から外すべきである。

28

まるで不良債権問題そっくりです ――私の原子力日記その4(1/2)――

 1222日の原子力委員会の新大綱策定会議は、私にとって4回目の会議でした。

会議資料のURLは、以下です。

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei10/index.htm

 

最初に、東京電力と資源エネルギー庁から、福島第一原発事故に対する新たな事故処理の中長期ロードマップの説明がありました。例の最大40年というものです。

 

私は、つぎのような疑問を出しました。

 

(1)10年で溶けた燃料を取り出すとされているが、確たる根拠はあるのか。

スリーマイルと違って、格納容器にひび割れか配管が壊れるか、格納容器に損傷が起きて放射能が漏れています。水を注入しないと核燃料を冷却状態にできませんが、そうすると、建屋内は高い放射線量になるというジレンマを抱えています。

 

(2)もし10年でメドが立たないと、見直すこともありうるのか。たとえば、石棺方式に変えるとかの選択もありうるのか。

 

(3)事故処理費用は当面1兆円あるいは13千億円とも言われ、原子力委員会の原発コスト計算では1兆円を前提として計算されていますが、それはこの工程表のどこまでをカバーしているか。もし不足するのなら、今年度末に単体で5000億円を超える赤字を出すと報じられている東電はどのようにして資金を調達するつもりなのか。

仮に、事故費用が40年間で13千億円だとすると、割引率を無視しても、年平均300億円です。そんな低い費用で済むとは考えられません。これで計算した原発コストに基づいて、エネルギー基本計画の前提としていいのでしょうか。

 

(1)と(2)の疑問に対しては、理想的なケースで努力目標であり、見直しもありうるという趣旨の回答がありました。つまり、根拠が曖昧だということです。

 

(3)の疑問に対しては、原子力委員長が外国の事例などを参考にして事故処理費用を出したもので、うまくいけば、ただ冷やす状態になるのでコストはかからないとの回答がありました。しかし、それは取らぬ狸の皮算用です。当然、何人かの委員から、この事故処理コストを前提とすべきではない、今の原発コストが一人歩きするのはおかしいとの意見が相次ぎました。見直しがあった場合、それをコスト計算に反映するのかとの疑問に対しては、コスト等検証委員会から見直すとの回答がありました。

 

こうした問題の本質は、ある意味で原発が事実上の「不良債権」だという現実です。

「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の報告書(これ自体は財務省の賠償スキームを前提としていて問題点が多い)でも、原発が再稼働せず、固定費を割り込んでいけば、東電は電力料金を上げないかぎり、赤字が膨らんで行きます。こうした状態が何年か続けば、電力会社は債務超過に陥っていきます。これは他の電力会社でも同様です。また安全投資が巨額に膨らめば同じことです。

 

こうした背景から、電力各社はもはや電力債さえ発行できず、市場から資金を調達できない状況に陥っています。だからこそ、安全軽視で「やらせ3兄弟」の仲間内のストレステストで強引に原発を動かそうとするのです。すでに、原発はさまざまな「公的資金」でかろうじて支えている「不良債権」なのです。

 

*ちなみに、経営・財務調査委員会の報告書概要(8 ~13頁参照)については、以下です。

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keieizaimutyousa/dai10/siryou2.pdf

 

しかし「不良債権」は原発本体だけではありません。核燃料サイクル政策の中心となっている六カ所村の再処理工場は、もっとひどい「不良債権」です。

 

六カ所村の再処理工場は、89年の建設申請時の建設費用は約7600億円でしたが、20年たった今では建設費用は22千億円と3倍近くに上っており、しかも放射能漏れや事故で稼働していません。アレバ社が撤退して以降、高速増殖炉もんじゅで大失敗をしている、あの日本原子力研究開発機構が担当しているせいなのか、全然駄目なのです。まるで八ッ場ダムとそっくり。

 

この六カ所村の再処理工場を潰すと、日本原燃は経営破綻する可能性が非常に高く、原燃が破綻すれば、一部の電力会社もまた経営が危うくなるという構造なのです。というのは、日本原燃に出資している株主は電力各社であり、彼らは電力料金に再処理費用を乗せて、ここに巨額の資金を突っ込んでいるのです。六カ所の再処理工場が潰れてそれがパーになれば、電力各社の株主責任を問われるだけでなく、私たちの電力料金を無駄使いした挙げ句に、自らの経営も破綻の可能性が出てきてしまうのです。

 

これまで日本の原発は使用済み核燃料を自ら処理できず、英仏に頼ってきました。そして処理できない使用済み核燃料を、原発建屋内のプールなどにため込んできました。しかし、イギリスのセラフィールドでも放射能漏れは深刻で、たとえば、最近でも子どもの歯からプルトニウムが検出されて問題になっています(以下のURLを参照)。そしてセラフィールドは停止が予定されているのです。そうなると、原発はますます「便所のないマンション」状態になります。そこで六カ所村の再処理工場が大事になるのですが、上のような有り様なのです。

http://www.guardian.co.uk/uk/2003/nov/30/greenpolitics.health

 

ここをきちんと処理しないと、「不良債権」の原発を動かし続け、見通しのない「不良債権」の六カ所村の再処理工場に無駄カネを投じ続けていれば、日本のエネルギー政策は「失われた20年」になってしまいます。まさに銀行の不良債権処理問題とそっくりです。

 

成功する見込みのない事業に巨額のカネを注ぎ込むほど、福島原発事故は軽微なものではありません。原子力関連予算を徹底的に見直し、福島の除染費用を捻出しなければなりません。きちんとした財務諸表、営業報告などの情報公開が不可欠です。

 

 

つぎに、新策定会議において、エネルギー環境会議とコスト等検証委員会からの中間報告がありました(最初のURLを参照)。

 

ところが、これに対して、なんと原子力ムラの方々から、「なぜ原発を減らす必要があるのか」「原発の意義を議論しよう」と、「脱原発依存」でさえ否定する主張が相次いだのです。

 

私は、今も放射能汚染に脅え、農業もできなくなっているのに、除染費用が0.6兆円などということは、本来ならありえない、我々は国民の付託を受けて議論をしているはずだと述べました。そして、原発の意義を話し合うのはいいですが、その会議を福島で開こうと提案しました。何人かの委員から賛成の意見が出ましたが、委員長からも事務局からも何の答えもありませんでした。

 

 

最後に、事務局から「今後の原子力発電とそれに関連する事項に対する重要課題とその基本方針に関する論点(案)」の説明がありました。

 

伴委員、浅岡委員から、このまとめ自体が「原発推進」を前提したものになっていると批判がありました。伴委員は、会議の議論を反映したまとめとするために、会議から委員を選ぶべきだとの意見が出されました。しかし、十分な答えはありませんでした。

 

私は、以下に提出したメモの2に基づいて、現状でどれだけ原発が必要なのか、維持可能なのか、数値に基づいて議論をしようと提案しました。もちろん、その際には、原発ゼロの選択肢を排除しないことは当然です。

 

現状において原発の必要数、維持可能数を出すには、入口、途中、出口の3段階に分けて考えて客観的な数字から始める必要があります。

 

まず入口段階では、今夏の節電・省エネを前提とした場合、それを前提しない場合、さらに節電・省エネを進めた場合に分けて、必要原発数を出す。電力会社の経営的観点から、原発稼働数に応じて、電力会社にどれだけ赤字が発生し、電力料金値上げが必要かを出す。そして出口段階で、六カ所が将来稼働した場合、そうでない場合、最終処分場が決まって直接処分をした場合、直接処分ができない場合に分けて、維持可能な原発数を出す。

とりあえずは、原発が置かれている現状について国民に情報を開示することが必要です。

 

委員長は、それを受けて国民に選択肢(あるいは選択肢のベースになる数値)を提示する作業を約束しました。

 

もちろん私は、時間のタームについては議論の余地は残りますが、自らコントロールできない原発は止めるべきだという立場であることは言うまでもありません。

5

成功の見込みのない核燃料サイクルのコストは?――私の原子力日記その3――(2/2)

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

20111130日原子力委員会メモ

                          金子 勝

 

1.核燃料サイクルコストに関して

 20111110日付け原子力委員会の「核燃料サイクルコスト、事故リスクコストの試算について(見解)」について強く抗議いたします。前回の本委員会における議論が十分に反映しておらず、この内容について、多くの国民の納得が得られるとは考えられません。

    先回の委員会において、モデルプラントを使用したシミュレーションによるコスト計算には大きな問題点があると指摘しました。何より現行の核燃料サイクル政策が失敗している事実が何ら反映されていないからです。

    現状では、六カ所村の再処理施設は度重なる放射能漏れや事故によって、事実上機能しておりません。またイギリスのセラフィールドの再処理工場も止めました。

    核燃料サイクルが失敗した結果、原発敷地内および建屋内に使用済み核燃料が非常に多量に貯蔵されています。今回は、その一部が爆発を引き起こしたのです。現在の状況は極めて危険な状態を放置しているのと同じです。どうみても、原子力委員会が東京電力福島第1原発事故に対して深刻な反省をしているとは考えられません。

    もんじゅを含め高速増殖炉は、15年ぶりに再開しましたが、たちまち事故によって停止してしまいました。同様の事故は欧米や旧ソ連の高速増殖実験炉でも起こっており、これらの国々は1990年代終盤までに、高速増殖炉計画からつぎつぎと離脱していきました。これまで巨額の税金が投入されてきたにもかかわらず、成功する見込みもたっていません。

    再処理も高速増殖炉も成功する見込みが立たない状況下で、成功を前提としたシミュレーションという手法を使うのは間違っています。この点に関して、どうして失敗してきたのか、どのようにして成功する見込みがあるのか、問題点も見込みも指摘がないのは国民に対して極めて不誠実です。少なくとも、核燃料サイクルについて過去の失敗のコストを提示し、それが含まれていないことを明示すべきです。

 

2.再びシミュレーションによるコスト計算について

①.原発の設置許可・受け渡し報告・運転発電許可の申請書が電力会社から経済産業省に対して提出されており、申請書には各炉の理論上の発電単価が記述されているはずです。それに基づいて稼働率や送配電ロスなどを踏まえた実際のコストを提示すべきです。電力料金制度が総括原価主義を前提にされている以上、それが消費者の負っている電力料金の基礎となっています。それが実際のコストです。

②「見解」は、他の電力との比較が可能でないという理由を挙げています。

各種世論調査によれば、78割の国民が再生可能エネルギーを促進すべきと答えています。そして再生可能エネルギー特別措置法が成立し、固定価格買取制度が発足します。現在、多くの国民がエネルギーを選択する際に必要とされる情報は、シミュレーションによる原発のコストではなく、実際に負担しなければならない原発の発電単価と再生可能エネルギーの買取価格との差です。税金を使って作業をしているのなら、少なくとも、国民に対して、実績値に基づいた原発コストを提示するべきです。

 

3.損害賠償費用の見積もりについて

    東京電力に関する経営・財務調査委員会報告書を参考として損害賠償費用を5兆円と算出していますが、どうみても過小です。たとえば、日本経済研究センターでさえ、10年間で620兆円と見積もっています(201161日付新聞各紙参照)。これには除染費用は含まれておりません。とくに原発周辺地域で除染が不可能な地域の場合、住民が新たな生活を確保するために新しい町を作る費用が発生します。その費用が入っていないことも問題です。

    廃炉コストは非常に過小評価されています。廃炉に30年以上かかり、メルトダウンした燃料の取り出しにどれだけかかるかわかりません。どのような技術を基礎にして費用を出したのか、明らかにしてほしいと思います。

    事故率を過小評価する考え方は、これからの安全投資を無視していると書かれています。これは、これまで流布されてきた原発の「安全神話」と同じ論理です。再稼働の手続きを見ても、ストレステストを「仲間うち」で行い、原発に批判的な人々(あるいは利害のない人々)は排除されています。多くの国民は、まず核燃料サイクル政策ありき、再稼働ありき、といった議論の進行を見ていると、ますます懸念を抱くでしょう。危機管理の原則からいえば、厳しい数字で臨むのが本来の筋です。

④「見解」では、「損害保険料が将来リスク対応費用に該当するのではないかとの指摘がなされています。 しかしながら、原子力事故のように大数の法則に乗らない極めて稀な事象で巨大な損害をもたらす対象に対しては、実社会において損害保険は成立していない」との指摘があります。しかし、この記述は次の点で問題があります。

1)スリーマイル事故、チェルノブイリ事故は被害が甚大で大きなコストのかかる重大事故でしたが、東京電力福島第1原発事故はそれに劣らないものです。40年以内に3つの過酷事故があったのを「極めて稀な」という一言ですますのは、ほとんど説得力はありません。民間の損害保険会社が損害保険を提供できないのなら、それほど危険だということになります。したがって、原子力発電は将来起こりうるリスクを考えるなら、できるだけ早期に廃止すべきとの結論が導かれるはずです。現に、多くの先進諸国は、脱原発に向かったり新規建設ができなくなったりしています。

2)あるいは民間保険でカバーできないのなら、論理的には、少なくとも、これまで賠償保険で大幅に免責を与えて、民間会社任せにしたことに問題があるということになります。電力会社の国有化、ないし国が株式を所有して原発に関する経営方針への関与を強めるべきであったということになります。今後も電力会社に原発の運用を任せ続けるかぎり、事故を引き起こす可能性を否定できない以上、民間保険が成り立たないということは、民間企業の電力会社に事故対応費用や賠償費用を賄う能力がないことを示しています。

⑤そもそも、福島第一原子力発電所で発生した事故について、地震・津波から当該プラントが具体的にどのような影響を受け、どのような過程を経て破壊・爆発に至ったのか、政府の事故調査委員会による調査に基づいて議論をしないうちに、事故リスクのコストを計算することに無理があります。他の原発への安全投資の具体的な内容を決定する前になされなければならない最も重要な作業が抜け落ちております。仮にこういう段階であっても、事故リスクのコストを出さなければならないとすれば、常に最悪の事態を想定して計算するのが当然です。このコスト計算が再稼働の前提になるのなら、なおさらです。

たしかに、事故調査委員会の調査結果を受けて事故リスクのコストを計算する本来の手続きをとった場合、順次定期点検で停止する原発の再稼動の時期が遅れることも考えられます。その場合、各電力会社の経営状況が悪化するならば、国が電力会社の運転資金を融通する手段を講ずるべきでしょう。この穴埋めコストもまた「安全投資」の重要な一部とみなすのが本来の筋ではないでしょうか。これらは巨大技術の安全運用には必要不可欠な手続なのではないかと考えます。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 

5

成功の見込みのない核燃料サイクルのコストは?――私の原子力日記その3――(1/2)

 1130日は、私にとって4回目の原子力委員会(新大綱策定会議)でした。

議事録と提出資料は以下にあります。

 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei/siryo/sakutei9/index.htm

 

まず、原子力委員会が1110日付けで行った核燃料サイクル・コストについての報告がありました。

 

私は最後に添付したメモを提出したうえで、つぎの3点に絞って指摘しました。

 

    燃料サイクル政策は失敗しています。六カ所村の再処理工場はしばしば放射能漏れや事故が起きて、稼働していません。イギリスのセラフィールドの再処理工場も止まりました。その結果、原発敷地内、建屋内に大量の使用済み核燃料がたまっています。それが4号機の水素爆発につながったと言われています。こうした事態をどう考えるのでしょうか。

どうして核燃料サイクルが失敗しているのか、どのようにして成功する見込みがあるのか。その点を明らかにしないで、成功することを前提にしてシミュレーションでコスト計算を行うのは明らかにおかしいのではないでしょうか。少なくとも順序が逆です。

 

    原発コストに関して、なおも実績値でなくシミュレーションによってコスト計算を行おうとしていますが、1110日付けの原子力委員会の決定では、他の電源と比較可能な方法としてシミュレーション手法が正しいと、自己正当化しています。

しかし、各種世論調査によれば、国民の78割は原子力に代わるエネルギーとして再生可能エネルギーをあげています。国民が知りたいのは、原子力発電と再生可能エネルギーについて、自分が実際に負担する電力料金の比較です。

まず、総括原価主義をとっている以上、電力会社が経産省に提出した申請書にある発電単価に基づいて、稼働率、送配電ロスなどを含めて計算した発電コストこそが、消費者が実際に負担している原発に関する電気料金であるはずです。そして再エネ法が決まり、(これから決まる)電力会社が再生可能エネルギーを買い取る際の買取価格が、消費者が負担する電力料金に直接反映するコストです。少なくともシミュレーションだけでなく、実際に消費者が負担する電力料金をベースにして、両者を比較できるデータを示すことが本委員会の義務だと考えます。

 

    原子力委員会の報告では、「原子力事故のように大数の法則に乗らない極めて稀な事象で巨大な損害をもたらす対象に対しては、実社会において損害保険は成立していない」と述べられています。しかし、スリーマイル事故、チェルノブイリ事故、東京電力福島第1原発事故と、40年以内に3つの過酷事故があったにもかかわらず、それを「極めて稀な」という一言ですますのは国民の感覚とあまりにかけ離れています。

さらに、民間の損害保険が成立しないということは、原発事故のコストがあまりに巨大だからで、それほど危険だということです。だとすれば、できるだけ早期に廃止すべきだということになります。あるいは、少なくとも多額の免責を与えて、民間企業任せでやってきたことが間違いだということになります。

 

つぎに、将来のエネルギー需給の見通しについて、いくつかの報告があり、また日本原子力研究開発機構から高速増殖炉サイクル(もんじゅ)について報告がありました。

 

まず私は、原子力機構が行った報告「高速増殖炉サイクル技術開発の意義」について、もんじゅは1995年にナトリウム漏れ事故を起こして停止し、15年ぶりに再稼働したらすぐに落下事故を引き起こしている(つまり一切、動いていないに等しい状況です)にもかかわらず、失敗の原因がどこにあるのか、失敗の責任はどこにあるのか、について一切の説明がないのは、あまりにおかしいと批判しました。

 

この点について、鈴木篤之日本原子力研究開発機構理事長から説明がありました。

 

しかし、再処理といい、高速増殖炉といい、これまでうまく行っておらず、成功の見込みも疑わしいのです。原発についてはよく「便所のないマンション」に例えられますが、出口があって、それに合わせて入り口があるのです。出口がないのに入り口ばかり増やすのは、どう考えてもおかしいのです。

 

将来のエネルギー需給見通しに関する報告については、浅岡美恵委員が行った「3.11大震災・原発停止 電力需給問題と地球温暖化対策について」を支持しました。

 

再生可能エネルギーの不安定性を指摘する委員の意見が出ましたので、私は、こうした再生可能エネルギーへの転換を進めるための試算は、発送電分離改革と地域独占の廃止を前提としていること、系統接続を進めると同時に、スマートグリッドを軸とする一つのシステムを構築することが前提になっていることを主張しました。他の試算はこうした問題を踏まえていません。もちろん脱原発に関して、時間のタームをどうとるかは議論の余地がありますが、こうした改革は不可欠です。

 

原発を再稼働しないと、エネルギー供給が不安定になり日本経済にマイナスであるとの主張が続きました。原子力ムラは、3.11などなかったかのように、原発が必要だと言い始めています。私は、これに対して、『「脱原発」成長論』で述べたように、欧州債務危機など世界金融危機が続く中で、むしろ新しいエネルギーに対する多額の投資を引き起こすことこそが内需を喚起することにつながり、必要なのだと主張しました。

 

そして最後に、こう言いました。

 

福島県二本松市のゴルフ場の運営会社が放射性物質の除染と損害賠償を求める訴訟を起こしました。その中で、東京電力は放射性物質を「無主物」、つまり「東京電力の所有物ではない」と主張しています。こういうことを言っているかぎり、原子力は国民の理解は絶対に得られません。

 


記事検索
QRコード
QRコード
rec
hon
出演番組
img_thumbnail_23
著書・共著
  • ライブドアブログ