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金子勝ブログ

慶應義塾大学経済学部教授金子勝のオフィシャルブログです。

2012年08月

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猛暑の夏に原発再稼動を考える(2/2)

4.なぜ電力会社は危ない原発ほど動かしたくなるのか

メディアは、政府(経産省)の言うがまま、原発を停止して火力発電に変えると、燃料費上昇ゆえに電力コストが上昇すると報じてきました。原発コスト56円と火力の10円以上の差額がコストの増加として出てきますが、これは実際にはシミュレーション上の計算にすぎません。しかも、この差額をすべて燃料費としていますが、本当でしょうか。

 

拙著『原発は不良債権である』でも書いたように、原発には巨額の固定費問題があることが隠されています。50機の原発を全機停止すると、減価償却費、借入金返済、メイテナンス費用などで、巨額の赤字が発生します。そのために、安全性が確保できず稼働できない原発は不良債権に化けてしまうのです。

 

たとえば、福島第1原発56号機と福島第2原発14号機の6機分の減価償却とメイテナンス費用だけで年間900億円かかります。原発再稼動を急ぐ背景がここにあります。

 

その一方で、燃料費の上昇分は形式上自由化されている企業向けではなく、一般家庭用料金に上乗せられています。総括原価主義のもとでは、燃料費の上昇分は3カ月毎に燃料調整額に算入され、電気料金に転嫁できる仕組みになっているからです。その結果、東京電力で見ると、利用者の38%しか占めていない一般家庭が、東京電力の利益の9割以上を占めるようになっています。

 

さらに、50機の原発のうち35機は減価償却が十分でなく、廃炉・解体のための引当金が不足しています。それゆえ、原子炉等規制法の40年廃炉ルールを適用すると、原発は利益を一切生まなくなるだけでなく、いきなり償却不足額(簿価上の残存価値)と引当不足額が赤字となって表面化し、それが電力会社の経営を大きく圧迫することになります。

 

しかも電力会社は、危険な老朽原発ほど動かしたくなる動機が働いています。

 

というのは、原発は40年、稼働率76%で減価償却と廃炉引当が終了する会計ルールで運用されており、事故やトラブルがあった原発ほど償却不足・引当不足に陥っているからです。たとえば、なぜ東京電力が、中越沖地震で事故を引き起こした柏崎刈羽原発24号機を動かそうとしているのかも、そこに1つの理由があります。

 

5.危ない電力会社は社会的に処理すべきです

これまで見てきたように、安全性を担保できない原発=不良債権を抱えた電力会社を野放しにすることほど危険なことはありません。

 

原発問題はあくまで電力会社の経営問題である以上、電力会社に公的資金を注入しなければなりません。しかし、かつての銀行問題と同じく、公的資金注入を契機にして経営体質にメスを入れないと後々大変なことになってしまいます。

 

まず前のブログでも書いたように、現在の東京電力の国有化のあり方は、経営責任も貸し手責任を問うことなしに、賠償費用を利用者(国民)に負わせるものですが、この枠組みでは、安全投資をすることなしに危険な原発を再稼働しようとする動機が絶えず働いてしまいます。現状の東電実質国有化の枠組みを壊さなければなりません。

 

東京電力については経営責任・貸し手責任を問いつつ、発電会社と送・配電会社に分社化して解体したうえで売却する必要があります。その過程において原発を廃炉にしていくために原発を国家管理に置いていく方法も考えられます。しかし、順序を間違えると、ただの東電救済になってしまうことに注意が必要です。

 

同じく関西電力もミニ東電化しています。とりわけ現在の老朽原発依存の経営体質は危険きわまりない状態です。経営責任を明確にして公的資金を注入し、発送電を分離したうえで、安全投資をしたり、廃炉費用を援助したり、効率的なガス発電を建設させたりするべきでしょう。

 

全国的にできるだけ早く原発をなくすにも、公的資金が必要となります。

資源エネルギー庁が出した資料によれば、既存原発の償却不足額(残存簿価)と廃炉・解体費用の引当不足額で4兆円ほどの資金が必要となります。さらに電力会社がいう廃炉費用が十分かどうかも検討の余地があります。正面から原発の即時廃止を実現するには、公的資金を入れてもそうすべきだという社会的合意を作る必要があります。

 

そうした合意が困難で、もし一定数の原発を動かすとしても、(原発に安全ということはありませんが)危険で事故リスクの高い、即時廃炉にした方がいい原発を明確化しなければいけません。超党派の国会議員が作る「原発ゼロの会」が公表した24の即時廃炉リスト(629日付ブログ参照)が参考になります。

http://genpatsuzero.sblo.jp/

 

こうしたリストは経済性を考えても合理的です。危険な原発はそれだけ安全投資が多額になりますから、必要な安全投資を行うと稼働する経済的意味がなくなるからです。

 

しかし、廃炉までの期間を短縮するとしても、もし一定数の原発を動かすとすれば、新しい規制当局が最も重要な問題になります。メルトダウンを隠し、原発事故後にいち早く逃げた原子力安全・保安院は国民の信頼を完全に失っています。大飯原発3.4号機を含めて、これまで保安院が行った「安全審査」は全て無効にする必要があります。

 

6.プレイヤーがレフェリーを兼任?

新しい原子力規制委員会が「原子力ムラ」から選ばれようとしている事態は極めて危険です。「原子力ムラ」からは選ばないとしていた細野環境相は、国民に対して背信行為を行っています。

 

田中俊一氏は原子力事業である日本原子力研究開発機構出身であり、明らかに推進側の人間です。しかも原子力損害賠償紛争審議会では、東電救済のために自主避難の賠償を一貫して妨害し、20mSv以下は帰還しても健康に影響がないとしたり、食品の安全基準を500Bqから100Bqに引き下げるのに反対したりしてきた人物です。

 

5人の候補のうち4人までが原子力関連団体や事業者から報酬を得ています。とくに更田豊志氏は日本原子力研究開発機構の現職幹部であり、日本原子力発電からも報酬を得ています。推進側が規制側を兼ねると、すべてのルールが崩れていきます。

 

福島原発事故以前から原発の危険性に警鐘を鳴らしていた人物を入れることが絶対に必要です。

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猛暑の夏に原発再稼動を考える(1/2)

1.原発は電力不足問題でなく電力会社の経営問題です

エネルギー選択肢に関する意見聴取会が14都市で行われましたが、およそ7割が「原発ゼロ」の意見でした。猛暑が続いているにもかかわらず、電力使用率が90%を超える日はほとんどないという事実が、こうした主張にリアリティを与えています。

 

大飯原発34号機が安全性を十分に確認されないまま再稼働されたことは大きな問題です。百歩譲ったとしても、少なくともこの2機だけで日本中の十分電力は足りていることが明らかになりました(実際には余剰電力が存在していました)。

 

その一方で、東京電力、関西電力、九州電力など原発依存度の高い電力会社は赤字に陥っています。問題の本質がより鮮明になってきました。原発問題は、電力・エネルギー不足問題ではなく、あくまでも電力会社の経営問題だということです。

 

2.原発コストは安いのか?

原発のコストは安い、原発がないと日本経済はダメになるという情報操作が行われてきました。しかし、原発は安全投資をせず、減価償却もしないで老朽原発を動かせば動かすほど、原発コストは安くなるだけの話です。従来、電力会社はそうしてきたからこそ原発で利益を上げることができたのです。福島原発事故を2度と起こさないように、安全基準を一層高めていけば、もはや原発は採算をとれません。

 

それは、原発について無限責任の民間損害賠償保険が成り立たないことにも現れています。

 

言うまでもなく、地震多発国において、安全投資のコストの削減は危険性の増加を意味します。実際、その利益優先の姿勢ゆえに、原発の安全性が軽視されてきました。福島第1原発事故も、その一つの帰結なのです。

 

さらに問題なのは、福島第1原発事故以降、被害対策費用を削減すればするほど、原発コストが安くなる関係にあることです。現在、シミュレーションで原発コストを計算するやり方を採用していますが、この方式では賠償費用が膨らめば膨らむほど、原発コストに上乗せされていきます。逆に言うと、福島を見殺しにすれなするほど、原発のコストは安くなるという関係にあります。

 

それは東京電力の実質「国有化」のあり方とも結びついて、問題を深刻化させています。東京電力が企業として生き残るためには、賠償費用・徐染費用をできるだけ抑えなければならなくなるからです。今の「国有化」の枠組みでは、福島を見殺しにする動機が絶えず働くようになっているのです。

 

本来なら東京電力は解体・売却することで、できる限り賠償費用や除染費用を出すべきですが、結局、経営責任も貸し手責任も問われず、賠償費用を利用者(国民)に電気料金で負担させています。重大事故を引き起こしても国民負担で救ってくれるということになれば、電力会社のモラルハザードは一層深刻になります。

メディアはこのことを正面から問題にしていません。

 

3.電力不足キャンペーンは何だったのか?

大飯原発34号機の再稼動が必要だという「理屈」を作るために、政府(経産省)は15%節電しても計画停電が必要かもしれないと発表し、メディアはそれを煽り立てました。

しかし、福島原発事故以前からも事故以降も、情報隠しや情報操作が繰り返されてきたことははっきりしています。

 

電力不足だから原発が必要だという主張は本当だったのでしょうか。

 

この間の事態を簡単に振り返ってみましょう。

 

関西電力は、大飯原発3号機がフル稼働した途端、猛暑に入っていたにもかかわらず、火力発電所12機のうち8機を止めてしまいました。同時に、中部電力等から電力を購入しています。その結果、電力使用率90%を超える日はごくわずかでした。当初、大飯原発を再稼働しない時の電力不足を15%とした時の計算の想定とは全く違っています。

 

しかも、7月の節電は2010年比でみても、9.8%で、大飯原発34号機の再稼働前に政府が立てた節電目標15%をはるかに下回っています。それでも電力は十分に足りているのです。

 

計画停電も必要だと電力不足キャンペーンをはってきたメディアは、自ら厳しい検証をすることが不可欠です。そうしなければ、原発事故報道で信用を失っている大手メディアはまた同じ過ちを繰り返し、信用を完全に失うことになります。

 

問題の本質は、関西電力の経営体質にあります。

 

関西電力は原発比率が約5割を占めています。関電は不良債権化した原発を抱えて、全原発が止まれば、約4000億円の赤字に陥ってしまうところでした。そこで、電力不足だとして大飯原発再稼動34号機を再稼働しましたが、それでも、なお2000億円の赤字が予想されます。

 

関電の八木社長は「高浜34号機を稼働したい」と主張していますが、もはや電力不足の理由は成り立ちません。少なくとも4機の原発を動かさないと経常赤字が消えないだけなのです。こうした会社に原発を任せると、利益優先で安全性の徹底した軽視がはびこります。

 

さらに問題なのは、関西電力の経営体質が老朽原発依存であることです。実際、関西電力の11機の原発のうち7機が1970年代に運転開始した老朽原発です、もし40年廃炉ルールを適用すると、8年以内に7機がなくなってしまいます。だからこそ、メルトダウンを隠し、福島原発事故後に真っ先に逃げた原子力安全・保安院が、すでに40年を過ぎた美浜原発1号機などについて「安全審査」を急いだのです。本当に危ない企業体質です。

 

さらに老朽原発依存体質はひどく、火力の備えも全く不十分です。関西電力のおよそ半分は燃料費が非常に高くつく石油火力だからです。もともと関西電力は「倹約経営」に徹して、ピーク時対応に、中部電力、中国電力などから電力を購入していました。徹底したアウトソーシングです。

 

しかし、大飯原発再稼動前は、他の電力会社も電力が不足していて、これができないとしていました。しかし、猛暑の夏でも相当に余っていたのです。そして大飯原発3号機のフル稼動と同時に火力発電所を止めてしまったのです。少なくとも大飯原発再稼動と前後する時期に、関西電力は中部電力とどのような電力売買契約を結んでいたのか、明らかにする責任があります。

 

問題の根っこはさらに根深いものがあります。

 

現状では美浜13号機、高浜12号機は償却不足・引当不足であり、40年廃炉ルールを適用すると、たちまち関西電力は経営的に成り立たなくなってしまいます。もちろん、大飯原発再稼動に際して必要とされた免震棟、フィルター付きベント、低地にあるオフサイトセンターなどの安全投資の資金は出てきません。さらに他の老朽原発についても、40年で廃炉にすることを前提にするならば、安全投資などするはずがありません。

 

原発は電力不足問題というより、あくまで電力会社の経営問題なのです。

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