(1)問題の本質と守るべき原則は何か
2013年11月11日に自民・公明両党が東京電力を「原発事故処理を専門に行う会社」と「電力事業を行う会社」に分社化し、東京電力の事故処理・除染費用負担に国費を投入する提言を出し、それに基づいた政府の動きが次々と出されています。

しかし、安倍首相が言うように汚染水問題が「完全にコントロールされている」ならば、そもそも国が対策に乗り出すことは必要ないはずです。政府の言っていることは支離滅裂です。

「国が前面に出る」ということで、福島第1原発事故の処理や福島の復興が進むかのように報じられていますが、本当でしょうか。あるいは、与党案は「社内分社化」「完全分社化」「独立行政法人化」という3つの選択肢を提示していますが、この三つが本当の選択肢なのでしょうか。そこには東京電力の「破綻処理」は含まれていません。

この問題の本質は、どこにあるのでしょうか。事故処理体制と東京電力の経営のあり方を見直すに際して、つぎの3つが問われなくてはならない点です。

①こうした分社化案で事故処理が進むようになるのか――電力料金や税金をズルズル投入するやり方、戦力の逐次投入が失敗を招き、福島原発事故の収拾を困難にする。

②10兆円の賠償と除染の費用を、誰が、どのように負担するのかが国民に示されているか――10兆円に関して具体的な財源と負担のあり方を国民に示さないまま、東電救済を優先して福島に多大な犠牲を強いることはあってはならない。

③何が国民負担を最小化させる道なのか――経営責任も株主責任も貸し手責任も問わない分社化案では、国民負担がズルズルと膨張していく可能性が高い。かつての不良債権処理問題とそっくりであり、その失敗から何も学んでいない。


(2)責任回避のための逐次投入が失敗を招き、国民負担を膨張させていく。
政府与党の東電分社化案とその後の対応を見ていくと、東電救済のための逐次投入を行い、誰も責任を問われないまま、ほとんど電気料金か税で賄う方針が見えてきます。さらには、柏崎刈羽の安易な再稼動を進める姿勢も見えてきます。これまで、こうしたやり方が、福島第1原発の事故収拾や福島の復興を困難に陥れてきたにもかかわらず、失敗が上塗りされようとしているのです。

まず事故対策とその費用負担の問題点から見てみましょう。

●東京電力の負担を増やさないために、本格的な対策を打たずに泥縄式の事故処理が行われてきたために、事態の悪化が進んできたことの反省がありません。当初、四方を囲う鉛直バリア方式が出たが、1000億円かかるためとられず、安上がりの海側だけの遮蔽壁になってしまいました。現在も経産省と財務省の折衝した結果、予備費の470億円の範囲内(370億円)ということで凍土遮水壁方式が出てきています。この方式は恒久的対策としては実績がなく、どれほど地下水を遮断できるのか、耐久性があるかなど、未知数の部分が多く、本格的な汚染水対策になるかどうか疑わしい。現場は放射線量が高まっており、このような一時的対応を繰り返していてよいのでしょうか。

●仮設タンク方式(フランジ型)ですまそうとした結果、次々に汚染水漏れを起こし、敷地内が放射能で汚染されたため、溶接型に交換することができなくなっています。このまま行くと、仮設タンクの寿命から収拾がつかなくなる危険性があります。しかし、タンクの問題は相変わらず東電任せのままです。

●その中で、経産省は廃炉の会計ルールを変更し、省令ひとつで公聴会も開かず、原発の廃炉費用を電気料金に乗せられるようにしてしまいました。つまり、福島第1原発の廃炉の費用も、将来、電気料金に乗せようとしているのです。ズルズルとした対策を繰り返していけば、事故収拾がどんどん遅れ、電気料金だけが膨らんでいくことになる危険性が高まっています。

つぎに除染費用を見てみましょう。

●すでに原子力損害賠償支援機構から認められた5兆円の交付金枠のうち3.9兆円の交付金を認可されています(残り1.1兆円)が、支払っている賠償費用は3兆円超です(2013年10月段階)。もはや東電には5兆円だとされる除染費用を支払う能力はありません。実際、除染費用を少なくするために本格的な除染が行われず、東京電力が支払った除染費用はわずか67億円にすぎません。除染費用の不足を補うために、原子力損害賠償支援機構の交付金支給枠を5兆円から8兆円に増加させようとしています。いわゆる“追い貸し”です。しかし、本来、特別事業計画によって東京電力が原子力損害賠償支援機構に支払わなければならない特別負担金1.8兆円(2020年まで)を支払っておりません。原子力損害賠償支援機構法の枠組み自体が破綻しているにもかかわらず、追い貸しを続けて東電を生き残らせても展望はありません。実際、重大事故を引き起こした東京電力に反省もないまま安全性を無視して柏崎刈羽を再稼動させ、永遠に電力料金に乗せない限り、返せる見込みがあるとは思えません。1990年代以降に、銀行の不良債権処理で繰り返されてきた失敗そのものです。

●その一方で、中間貯蔵施設と追加除染の費用を国が負担するとし、除染は国の「公共事業」として実施するとしています。除染も汚染水対策と同じで、お金がかかるとして本格的な対策が回避されてきました。セシウム回収型焼却炉もそのひとつです。セシウム回収型焼却炉は600度以上の高温でセシウムを気化させて濃縮すると、汚染土や草木などをそのまま貯蔵するのに比べて容積を100分の1に圧縮できます。ところが、安上がりの中間貯蔵施設方式が選ばれました。これだと2000万トンに及ぶ汚染土壌などがそのまま持ち込まれ、フレコンパックに詰め込まれたまま簡易な屋根をつけたくらいで野積みしていては、集中豪雨などの問題に耐えられません。しかも、そこが最終処分場になってしまう可能性が高くなります。当然、その地域の住民の反対が根強く、住民間に対立が持ち込まれて、除染が進まなくなってしまいました。

●政府は、中間貯蔵施設の建設費1~2兆円をエネルギー特別会計から賄おうとにしています。しかも、失敗した高速増殖炉もんじゅをはじめ、原発推進のための予算の組み替えがないままでは、資金が不足する場合には電源開発促進税を増税することになります。この電源開発促進税増税も電気料金にかかってきます。

●そこで問題となるのは、このエネルギー特別会計含めて2000億円あまりの予算を使っている日本原子力研究開発機構の出身者が、除染に深くコミットしていることです。たとえば、この中間貯蔵施設の建設に関して「日本環境安全事業」という政府出資の天下り法人がアセスメントを含めたプランを作り、この「日本環境安全事業」に中間貯蔵の専門家として環境省環境回復委員会に入ったのが森久起氏ですが、彼は原子力研究開発機構の核燃料リサイクルの前部門長でした。また原子力規制委員会の田中委員長、更田委員も原子力研究開発機構出身です。原子力研究開発機構は、もんじゅをはじめ失敗だらけの政府機関ですが、彼らは予算削減を恐れてか、一貫して安上がり方式の除染を求めています。

●その中で、田中俊一委員長下の原子力規制委員会は個人が持つ線量計で被曝線量が1mSvまでならよいとする提言を出しました。国は、全国基準である空間線量1mSv以下へ環境を回復する責任を放棄し、被災地の住民の「自己責任」に押し付けようとしているのです。では、新しい町や代替地を与えているのでしょうか。それどころか、多くは生活再建に必要な賠償額も支払われておりません。これでは15万人も避難している福島を見殺しにしようとしているのです。

以上見てきたように、東電分社化案は、経営者、株主、貸し手の責任を問わないまま、汚染水対策を含む福島第1原発事故の廃炉費用も、除染費用も電力料金と税金にずるずると乗せていき、国民負担を膨らませていくだけなのです。さらに、東電生き残りのため、柏崎刈羽の再稼動を安易に進めることは、福島原発事故から何も学ぶことがないということに他なりません。

福島第1原発事故以降、電力料金値上げのたびに東京電力離れが進んでいます。その需要電力は560万kWに及びます。大手企業は自家発電を設置したり、新電力に移ったりすることができますが、負担は逃げられない家庭や中小企業に集中します。


(3)電力債が東電処理回避の理由たりうるか?
では、国民負担を最小化する方法はあるのでしょうか?

まず東京電力の経営や賠償負担のあり方を変えるには、原子力損害賠償支援機構法の見直しが必要となりますが、自民も民主も賛成した機構法の付帯決議には、経営者、株主、貸し手、利用者すべてのステークホルダーの負担のもとに1~2年後の見直しが規定されています。今の政府与党の東電分社化案は国会決議違反なのです。

本来ならば、日本航空がそうだったように、旧東電を経営破綻させ、新会社に移行すべきです。経営者、株主、貸し手責任を問うたうえで、発・送電会社を所有権分離し、原発部門は切り離して新事業体にし、旧東電の資産売却あるいは新東電の株式の売却で賠償費用を捻出するのが筋です。

ところが、政府与党が示す東電分社化案を進める人たちは、東京電力を破綻処理した場合、東京電力が発行した4.4兆円の「電力債」が紙クズになり、金融市場を混乱させるから、「民間企業」としての東京電力を残すべきだ、という理由をあげます。

これは本当でしょうか?

たしかに東電の電力債は企業年金投資対象となっていたり、投資信託に組み込まれたりしていますから影響がないとはいえません。ただし、いま他の電力会社の電力債は日本銀行や多くの機関投資家が買い支えていますから、金融市場がパニックになるというのは少々大げさです。

問題は、こうしてズルズルの処理を繰り返しているうちに、大手銀行は、融資を一般担保付きの私募電力債に変えている点です。これは、電気事業法37条で優先弁済が保証されているためです。福島への賠償支払いより「優先」弁済される可能性がある電力債に融資を換えているという意味で、典型的なモラルハザードです。これを至急止めさせ、金融機関には少なくとも原発由来の債務(原子力施設や核燃料の残存簿価、廃炉引当金)は債権放棄しなければなりません。その範囲であれば、銀行への公的資金注入は必要ないか、非常に少ない額に抑えられます。電力債は東電救済の理由にはなりません。

政府は東京電力を「民間企業」として生き残らせないと、事故収拾も賠償もできないと言いますが、そもそも今の東京電力を「民間企業」と呼べるのでしょうか。すでに東京電力には、公的資金1兆円と原子力損害賠償支援機構からの3.9兆円の交付金認可と合わせて計5兆円もの公的資金が入っています。そして原子力損害賠償支援機構と協議して経営再建計画を作成し、その下に動いている事実上の国家管理企業です。実際、原子力損害賠償支援機構から交付金が認可されると、東京電力はただちに自己資本に組み込み、損害賠償を支払って自己資本が足りなくなると、また交付金を認可してもらって延命しているゾンビ企業です。

仮に柏崎刈羽の再稼動を考えた場合でも、原発事故を起こし、その責任を取らない「民間企業」に運営を任せることは狂気の沙汰です。再稼動、廃炉のいずれかの選択肢をとるにしても、新潟県の泉田知事が要請するように管理・運営主体には必ず国が関与する必要がある以上、「民間企業」という言葉を盾に東電救済を継続することは大きなゴマカシです。

事実上の国家管理企業である以上、電力債の処理も、国会の立法次第でどうにでもなります。電力債を「新会社」が引き継ぐ方法だってあるし、国会が「政府保証をつける」と約束してもいいのです。

ただし、もし電力債を守りたくて新会社が債務を引き継げば、東京電力の発電所などの資産売却をするにせよ、新会社の株式を売るにせよ、借金を返済する必要が出てくるので、10兆円の賠償・除染費用の支払いが不足してしまいます。

だとすれば、エネルギー特別会計の原発推進予算を削って組み替え、事故処理費用に年2~3000億円を集中的に投入すべきです。

また六ヶ所村の再処理工場は計画から24年たっても稼働しないまま毎年およそ2500億円もの電気料金を浪費しています。「核燃料サイクル事業」を中止し、そのための積立金3.5兆円のうち六か所の再処理工場の廃炉費用を除く部分と、電気料金に上乗せしている再処理料金のうち年2~3000億円を除染費用に充てるべきでしょう。

こうした抜本的改革を経て、はじめて残る費用が新たに国民負担になるのです。正しい政策の手順に戻さないといけません。

*なお詳しく、その背景を知りたい方は、拙著『原発は火力より高い』(岩波ブックレット、2013年8月)および『原発は不良債権である』(岩波ブックレット、2012年5月)を参照してください。