犯罪の九割は失業率で説明がつくという統計分析が大変な反響を呼んでいるようです。
失業率と刑法犯認知件数に相関関係がある、正確に云うと数年のタイムラグで予測値が驚くほどぴったり重なるという話です。
しかし、1999年の桶川市女子大生刺殺事件でストーカー被害の受け付けを拒んだり、警察が認知件数そのものを広範囲に渡って操作していたことが判明しています。

検挙率アップ?受理簿に軽い盗み記さず…茨城の複数署
読売新聞2002年7月8日引用

 茨城県警の複数の警察署が、自転車盗など軽微な窃盗事件の被害届の一部を「盗犯日報」と呼ばれる受理簿に記載せず、窃盗犯の検挙率を高く見せかける操作を行っていたことが、7日分かった。
 読売新聞の取材に対し、同県警の現職幹部とOB10人以上が事実を認めた。操作は1996年ごろまで20年以上続いていたとみられ、1970年代半ば以降、同県警の窃盗犯検挙率は全国平均を上回るケースが大半だった。記載しなかった事件については別の帳簿を作成して他県警からの照会などに備えていたが、事実上、捜査の対象外とされており、被害者感情を無視した対応に批判が出そうだ。
 各警察署は、盗難の被害届を受けると、現場の実況見分などを行い、被害内容を「盗犯日報」に記載している。この集計が犯罪統計に反映され、検挙率の計算のもとになる。ところが、県警幹部らによると、同県内の複数の警察署では、防犯登録をしていない自転車、農家の排水ポンプや野菜などの軽微な窃盗については「被害品や時期を特定しづらく、かつ捜査が難しい」などとして日報への記載を見送っていた。明らかな侵入跡がない“空き巣”被害などについても、実況見分などは行うものの日報には記載せず、その後の捜査は放置された形になっていた。
 被害件数を減らすことで窃盗犯の検挙率を上げるのが狙いで、操作は1970年代にはすでに行われていた。記載しない事件については刑事課長ら署幹部が判断していたという。
 そうした署では、犯人が他の都道府県警で捕まり、照会がある場合を想定し、日報に記載しなかった事件は別帳簿に記載して管理。関東管区警察局による監察の際には、別帳簿を秘匿していた。当時の警察署幹部は「検挙率は署幹部の勤務評定に直結していた」としたうえで、「90年代前半は、署の年間の窃盗認知件数から約50件を外し、検挙率を約2%上げたこともある」と証言。別の幹部は「慣行化しており、県内27署の大半で行われていたはずだ」と指摘する。
 しかし、発生件数を抑えることで、署員が減員される可能性があるとして、90年代半ば以降、操作は途絶えたという。現職幹部の1人は「外したのは解決の可能性が低い事件ばかり。以前は検挙率が重視され、本部から徹底した指示があったので(操作は)仕方がなかった」と話している。
 茨城県警の窃盗犯検挙率は、74年には40・5%と全国平均の51・1%を大きく下回っていたが、翌75年に56・3%と全国平均の51・6%を逆転。以後も一時期を除いて平均以上を記録、全国平均が40%を割り込んだ90年以降には20ポイント以上上回った年もあった。
 永井和夫・県警本部長は「(事実関係については)引き継ぎも報告もないため分からないが、現在は操作していない」としている。

これを踏まえるといろいろと疑問が沸いてきます。
1.検挙率が変わるほど大幅な恣意的操作がなされている認知件数がどうして相関するのか?
2.基礎となる人口が変化しているのに、「率」と「数」がどうして相関するのか?人口当たりの認知率と失業率という「率」と「率」、認知件数と失業者数という「数」と「数」ならわかるのですが。
3.どうしてタイムラグがあるのか?失業保険が切れる数ヶ月ならともかく何年も。とくに失業率がさがってから犯罪数がさがるまでにタイムラグがある理由がよくわかりません。

この3つの疑問点を一挙に解き明かすたったひとつの解があります。
「警察は失業率を基にして刑法犯認知件数にノルマを設定している」
失業率が発表されるのは翌年で、それを基に計画を立てて実行に移すのはさらに1年後ですから、失業率があがってもさがっても最低2年のタイムラグが生じます。
失業率を基にして刑法犯認知件数を決めているのなら、「率」と「数」が相関するのは当然です。
なにより、恣意的に操作しているのに相関する理由がわかります。むしろ、ここまでぴったりと見事に相関してしまうのは、人間が意図的に操作しているからだと考えたほうが自然でしょう。
「犯罪の九割は失業率で説明がつく」より、はるかに説得力があります。

最近は警察が遺失物等横領(放置自転車の乗り逃げ)の捜査にやっきとなってやたらと逮捕者を増やしているのはノルマがあるからというのは公然の秘密ですが、あれは検挙率のノルマを達成するためではなく、すでに被害届が出ていて逮捕しようがしまいが認知件数には関係のない自転車泥棒なんかとは違って、被害届の出ていない放置自転車は逮捕することによって事件が発生して認知件数ノルマが達成できるためだったんですな!
上の記事で1996年に数を減らす操作をやめたというのも、その数年前から失業率が急上昇したために認知件数を押さえ込まなくともよくなったからだったんですな!
すべての謎が解けた! …なんてことを云うとまた感心したりするうっかりさんがなかにはいるかもしれませんので、この際はっきりと云わせていただきますが
こんな簡単な分析でなにかを語るな!

警察庁の「犯罪統計書」では、被疑者の職業、年齡、罪種、犯行場所、時間、被害額、被害品目などいろいろな項目がある。いくらなんでも、ここで挙げた項目くらいは分析してみるべきであろう。
それ以前に、「犯罪統計書」は警察庁サイトにわずか7年分しかアップされていない。一番基本的なデータである「犯罪統計書」がウェブ上にすべてないというのでは話にもなんにもならない。手分けしてすべてアップし、この一番の基礎をみなで共有できるまで、一切なにも語るな!默って手を動かせ!
まさしく、考える前にやるべきことがあるだろ!!

お遊びでやる分にはかまわんけど、こんな適当な分析がひとり歩きするとまた話がややこしくなる。
あの分析をやってる方々は、まさかあれだけでなにかを語れるとは思ってないだろうし、たんなる八つ当たりではあるが、まさしくいま現在、検察統計をまとめることでムチャクチャ苦労している真っ最中の身としてはなんだか無性に腹が立つ。
どうして、検察統計などという基本的なデータをこれまで誰もまとめてなくて、私のような訳のわからないド素人がいちからやらなければならないのか。学者が真っ先にやるべきことではないのか。検察は毎年のように統計の取り方を変えてきて、私を混乱に陥れようとしてくるし。

ちょうど前回のエントリーで河合幹雄教授の説を教えていただいて、昔は住宅街と繁華街は全く別の空間で一般の人が犯罪に巻き込まれることはほとんどなかったなんてすごいこと仰っているので、いったいどういうデータを元にしているんだろうかと気になって『安全神話崩壊のパラドックス』を読んでみたら、1996年から2000年までのわずか5年間の、しかも何故かひったくりの発生場所の変化から述べていて、さらにそれを昭和30年代の少年の補導場所という繁華街に集中するのがあたりまえの上にひったくりとはまったく位相の違うデータと比較することで説明しているのを知って呆れ返ったところだったんですが。
これはあまりにもつっこみどころがありすぎるけど、5年が短いだけではなくまさしく警察が細かい事件を受け付けるようになった方針転換の時期といういろんな要素が入り込みすぎるデータで、そもそも2000年の全国のひったくり発生数は4万6千件で3千人にひとりしか被害に合ってないのに体感治安悪化に影響があるのなら、この人が衰退したというご近所のミニコミが充分機能しているということだし、マスコミの報道によって知ったのならならわざわざこんな例を出すまでもないし、そもそもこの時期のひったくりは増加しているので、こんなデータでなにかを証明するとすれば、「安全神話崩壊のパラドックス」なんて説はでたらめだという結論にしかならない。なぜなら犯罪が増加しているのだから。
つーか、みなさんが不安になっているのは殺人、それも小さい子が殺されることなんですがねえ。一応、云っておくと、昔は住宅地で一般の人が隣り近所の住民に殺される事件が多発してましたが、いまはほんとに少なくなりました。人付き合いが濃厚になると殺される確率もあがります。あいさつは殺人のはじまり。
最大の問題は、このわずか5年間のひったくりの発生場所データさえ自分で作成したものではなくて、たまたま警視庁がそんなデータを出していたから使ってみただけというところだ。

なんで学者さんたちはこんなにお気楽なのか。
人としてもっとも基本的な欲求である世界の真理を解き明かしたいという渇望はそこにはないのかね。ぽっと出た想いつきに、たまたま都合のよいデータがあればそれをひっつけて、そんなことで満足なのかね。
不思議の謎を解かねばならぬという阿久悠作詞の歌を聴いたことがないかね。ねばならぬのだよ。ある日突然、眠りを覚まし地球を襲う神秘の影に誰かがむかっていかねばならぬのだよ。ねばならぬのだよ!

てなことをあの統計分析を見てむらむらと思ったわけさ。興奮して済みません。いろいろ辛いことも悲しいこともあるもので。
『戦前の少年犯罪』を強力にご推薦いただき、おかげでずいぶんとご注文いただいた方がいるようでありがとうございます。ただいま品切れ中ですが、アマゾンにも1/22までには確実に入荷するはずですので、待っててね。


追記
どうも、みなさんと話が噛み合ってないみたいなんでもう一度記しますが、犯罪と失業率の話や河合幹雄教授の説が正しいか間違っているか以前に、それらを含めた学者さんなんかの分析が既成の統計を持ってきただけというところを私は問題にしているのです。
そういう意味で小飼弾氏の問題意識とまったく同じなわけです。
ただ、私は弾氏ほど高いレベルを要求しているのではなくて、「犯罪統計書」や検察統計のような一年ごとにバラバラになったまま書庫のなかに埋もれている統計をつなぎ合わせて、たとえば私が作成した幼女レイプ被害者統計みたいなことをやれと云っているに過ぎないのです。
また、こういうグラフを簡単に作成するために、すべての「犯罪統計書」をデータ化してウェブにアップしましょうと呼びかけているわけです。こういうことはほんとは専門家がさっさとやっておくべきことなんですが、アップするだけなら素人でもできますので、みなさん協力して情報を共有しようではありませんかと云っているのです。
「警察は失業率を基にして刑法犯認知件数にノルマを設定している」は、データの解釈なんてどうとでもなるよという例として出しただけです。これがひとり歩きすると、また困る。そうならないようにちゃんと書いたつもりだったんですが。