※2016年追記
<浜松事件>と<二俣事件>、そして山崎兵八刑事の生き様を描く本を、『道徳感情はなぜ人を誤らせるのか 冤罪、虐殺、正しい心』というタイトルで出版しました。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
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『実録 この殺人はすごい!』今日発売の『実録 この殺人はすごい!』(洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)という雑誌で、「二俣事件の真実 死んでも残るアホーだからだ」という記事を書きました。

二俣事件と云っても最近では知る人も少なくなり、また知っているつもりの方も古い時代の拷問冤罪事件だという程度の認識しかないのではないかと思います。
この事件も含めた終戦直後の冤罪に関する本は過去数多く出されておりますが、左翼的書き手が国家による権力犯罪を断罪するというスタンスのものがほとんどで、左翼イデオロギーのひとつのパターンに嵌め込んでしまっているためにほんとうに恐ろしい実像が覆い隠されています。
「幸浦事件」「二俣事件」「小島事件」という冤罪事件を立て続けに引き起こした紅林麻雄警部補は、そんなちゃちなパターンにとうてい納まることのない複雑怪奇なる怪物です。
私は探偵小説にはあまり詳しくないのですが、彼のように自ら巧みなトリックを仕掛けて、華麗な推理でそのトリックを見破り見事に事件を<解決>することによって無差別大量殺人を、それも完全犯罪としてやってのけてしまうような探偵兼犯人なんてのはいるのでしょうか。どなたか探偵作家の方は、<名刑事・紅林麻雄シリーズ>なんてのを執筆されてもいいと思うのですが。
これほどの異様なる魅力を備えた傑物を、これまで類型的パターンによって覆い隠してしまっていたのです。
また、彼の部下たちによって後に引き起こされた「島田事件」「丸正事件」なども含めて、一連の冤罪事件は17歳の少年による戦時中の「浜松9人連続殺人事件」がすべての起点となって繋がっていたのでした。

さらにはこの紅林麻雄警部補と徹底的に対峙した、南部清松氏と山崎兵八氏というおふたりの元刑事も浜松事件から島田事件まで関係するという、ほとんどクトゥルー神話デビルマンかというような壮大なる正邪対決のサーガが静岡を舞台として繰り広げられていたのですよ。
こうやって仕掛ける者と暴く者の両者がいて、初めて冤罪事件というのは成り立つわけです。暴かれないと完全犯罪として埋もれてしまいますし。元々の一家4人虐殺事件はどっかに行ってしまって、何故か文学的才能を持つ特異なキャラたちばかりが偶然にも関わってしまったことによって、壮麗なる物語が打ち建てられたのでした。
とくに紅林との闘いに一生を捧げ尽くした山崎氏の最後までを追ったのは、今回の私の記事が初めてとなります。この人の生き方と執念には心底感動しました。これまで埋もれていた山崎氏の人生を多少なりとも広めることができて、ほんとうに良かったと思っています。遠いとこまではるばる取材に行った甲斐がありました。
14ページの長い記事となってしまいましたが、最後まで読んでいただければ。

ところで、前回に記事を書いた『実録殺人事件がわかる本』が1号で、今回がその2号だとばかり思っていたのですが、これはMurder Watcherというシリーズの第4弾で、毎回誌名が変わるのですな。たったいま気づきましたよ。
取材中もずっと勘違いしてとんちんかんなことを云ってたわけだ。どうも、私にとっては58年前の事件よりも現代のほうが遠い時代で理解が難しいみたいです。


※追記
記事中で、山崎兵八氏の命日を8月21日としておりましたが、これは告別式の日で、正しくは8月19日でした。お詫びして訂正いたします。