マーダー・ウォッチャー第5号「殺人大パニック!!」明日発売のマーダー・ウォッチャー第5号「殺人大パニック!!」(別冊映画秘宝) に、『浜松事件の全貌 少年による九人連続殺人事件』を書きました。
間違いなく史上最大の少年犯罪であるにも関わらずこれまでまともな解明がひとつもなされてこなかった事件についての、60年後にして初めてきちんとした記事となります。内務省警保局と静岡県警それぞれの詳細なる内部文書を入手しましたので完璧です。
私みたいなもんが書くのに犯罪だけに絞っても面白くありませんので、事件が起きた戦時中の時代背景なんかについても記しています。戦時は暗く抑圧されていたと思い込んでいる人が多いみたいなんですが、じつは陽気なバブル期でして、そのために将校だけではなく一般兵士の間にも<下克上>なんてもんが蔓延して軍隊はぐだぐだになってしまって、それがまた浜松事件の解決をいかに難しくしたかなんてことを論じてます。
かなり長いですが読んでいただければ。犯人の写真も掲載しています。

こんな重大事件について、これまでちゃんと追究した者がひとりもいなかったというのは驚くべきことです。これらの資料を探し出すのはそれほど難しくないはずなんですが、専門家と称する人たちはいったいなにをしているんでしょうかね。
つい最近出た朝倉喬司『都市伝説と犯罪』なんかも、『日本の精神鑑定』だけを元にして適当なことを書いてますし。これまで浜松事件について書かれた記事はすべて、この精神鑑定の解説だけを頼りにして同じ間違いを犯しています。
拙著『戦前の少年犯罪』もそうだったりしますが、しかし、犯人の年齢は『日本の精神鑑定』だけを読んでも判りますから正確に記しておりますし、被害者の人数が合わないこともずっと気にしていました。みなさんこの二点に引っかからないというのはまともに資料を読んでないんでしょうか。なんせ他の事件の数が多いので『戦前の少年犯罪』執筆時には突き詰められず、ずっと引きずっていた懸案をようやく片付けることができてほっとしました。

さはさりながら、私のように殺人なんかにはまったくなんの関心もなく、ただ誰も発掘していないからという純粋な情報への興味などという処から接近するには、この事件はあまりにも重いものではありました。
私はそんなに恐怖を感じるほうではないのですが、この事件を調べてからは夜中に外出するのが怖くなってしまいまして、こんなのは初めての経験です。道を歩いてる人の顔が全部犯人の顔に見えて、こちらを襲ってくるような幻覚に囚われてまして、人と擦れ違うたびに思わず叫び声を上げそうになったりしています。かなりまずい精神状況です。
Murder Watcher編集部によると、昔ある有名サブカル雑誌の編集者がこの事件に入れ込んで探索しているうちに精神を病んで会社を辞めて田舎に帰ってしまったんだそうですが、身につまされる思いです。
私の場合は60年以上経ってもまだ癒されていない被害者の方の想いに触れたことが決定的になったのではありますが。

なお、今回の記事で文献的には完璧と云っていいと思いますが、まだひとつ発掘されていないものがあるとすれば、紅林麻雄刑事の手記です。
紅林刑事は読書家のインテリで文章もうまく、その性格から見ても浜松事件解決の己の功績を綴ったり、あるいは戦後の冤罪だと非難された事件について反論などを残したのは間違いないだろうと私は推測しています。後者については『週刊文春』昭和34年12月21日号にも手記が掲載されておりますが、もっとまとまったものがあるのではないかと思います。
これらを世に出すことは拷問王などと世間から糾弾されて警察からも見捨てられ失意のうちに若くして憤死した紅林刑事の無念を晴らし名誉回復にもつながることですから、遺族の方も反対はされないでしょう。私のように紅林刑事を非難するようなことを書いている人間が話をしたのでは差し障りがあるかもしれませんが、とくに誉めたりしていなくともこれまで紅林刑事について何も発言していない人なら問題はないかと。
いまのうちに発掘しておかないと永久に埋もれることにもなりますので、学者だとかジャーナリストだとか自称している方は責務を果たしてくださいよ。手っ取り早く名を上げる恰好の素材でもありますし。
これからジャーナリストになりたいなんて志を抱いているお若い方も、いまさら先のない新聞社やテレビ局なんかに入っても人生の無駄でしょうから、こういうものを発掘して自身で道を切り開いていただければ。
紅林刑事は冤罪が確定して死刑を回避した4人のほかにも何人も死刑台に送って480回も表彰を受けた凄腕で、その<名刑事>ぶりは誰かが解明しておかねばならぬのです。

犯人である中村誠策の精神鑑定を担当し、また『日本の精神鑑定』の解説も執筆している内村祐之博士は松沢病院長だけあって、小平義雄、極東裁判の最中に狂って東条英機の頭を叩いたA級戦犯の大川周明、帝銀事件だとか重大事件の精神鑑定も次々やった第一人者なんですが、一高東大野球部のエースとして活躍した投手でもありまして、プロ野球コミッショナーまで務めていて、内村鑑三の息子でもあります。このことは記しておきたかったのですが、無理を云って50枚以上も書かせてもらったのにスペースが足りなくなって落としてしまいました。
この内村博士や紅林刑事、はたまた日本の犯罪プロファイリング創始者である吉川澄一技師など、浜松事件とは特異なる人々が関わった特異なる事件ではありました。



※<浜松事件>を徹底的に掘り下げた本を、『道徳感情はなぜ人を誤らせるのか 冤罪、虐殺、正しい心』というタイトルで出版しました。
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