2019年05月

2019年05月04日

かんかん森The Interview第19回は妻と2人の息子さんの4人家族でかんかん森に暮らして8年のSさんのご登場。スラリと長身で理知的な風貌のSさんのお仕事はどんなだろうとかねてから思っていました。そこで、やっとお聞きするチャンスが来たとばかりにズバリそこから切り込みました!



聞き手:どんなお仕事をされているんですか?

Sさん:企業の人材育成支援です。部長や執行役員対象の研修を中心に様々な階層に実施しています。強みはEラーニング(講義映像の配信)で、時流を解説した内容や各分野で実績のある方に経験を語ってもらうものまで幅広く揃えています。この講義映像と集合研修(学校スタイルの講義)を組み合わせ、各企業のニーズに適したものを提案、販売につなげていきます。

聞き手:なるほど。ご担当は?

Sさん:営業と研修内容の企画です。営業では、人事担当者から研修への期待を伺うところから始めるのですが、企業担当者自身がニーズを把握していないことがままあるんです。「〇〇部署から営業リーダー研修をしたいと言われたんですが。。。」というレベルの問いかけから必要な要素を整理してご提案する、ということが多いです。

聞き手:いろんなケースを知っていないと提案できないですよね。

Sさん:そうですね。沢山のケースを知っていることが、より適した提案につながります。研修は効果や価格比較が難しく、実際に見てから決めていただくことも出来ないので、提案の的確さや人事の方にいかに信じてもらえるかで結果が左右されますね。

聞き手:人事担当者が自分たちが求めているものだと感じてくれれば受注につながるわけですね。
Sさん:はい。会話の中からその会社の課題を引き出していく工夫が必要になります。

聞き手:何か困ることってありますか?

Sさん:最も困るのは決められない会社への営業です。研修提案を執行役員や副社長が判断する会社は5,6回企業訪問しないと決まらない。しかも、窓口の担当者から聞く話がコロコロ変わる。提案の場なのに「少し方針が変わりまして」と言われ、提案書が使えなくなる場合もあります。典型的な日本の企業といった感じですね。

聞き手:物事ひとつ決めるのにも時間がかかって、稟議をあちこち回す。これからの時代の変化に乗り切れるのかと心配ですよね。その部分を直す研修をした方がいいんじゃないかしら。現場の社員の研修をどうのこうのと言っているより、上層部の考え方を直しましょうよという研修や、自分の考えを社員にきちんと伝えるスキルを磨く研修。そういうのが必要なのは上にいるあなたでしょ、と言いたくなることあります。

Sさん:確かにそうですね!提案するのはすごく難しそうですけど。(笑)

聞き手:人材育成は肝ですけど、それこそ5G*, IoT*, AIが入ってきて、ルーティーンの仕事を機械がやるようになるという時代を迎えて、わたしはどうやって生きていけばいいんですかって心配している人も沢山いるじゃないですか。そういう質問、立場的にされたりしませんか?
*5G: 5th Generationの略で、第5世代移動通信システムのこと。現在、規格の検討が進められている次世代の通信システム。
*IoT:Internet of Thingsの略で、日本語では「モノのインターネット」と訳される。さまざまなモノがインターネットに接続され、情報交換することにより相互にコントロールする仕組み。

Sさん: AIの代替による不安の声は聞かないですが、定型業務など誰がやっても同じ処理ができる業務がなくなる分、もっと創造的なこととか、今まで時間捻出できなかった「緊急ではないけど重要なこと」に時間が割けるようになるはずなんですよね。

聞き手:あと、残業が無くなって、ワークライフバランスがよくなるとか。

Sさん:そうですね。そういうところに目が向けられるといいですよね。今のレベルの機械でもできる(パターン化されている)仕事をしているという意識があるなら、そのままで居ることは大きなリスクです。

聞き手:ただ、日本の教育がそういう変化に対応できているかというのが心配。イノベーションを生み出せる人材育成が急務とか今になって言っているじゃないですか。これからの子どもたちはそういったことを伸ばせる教育を受けられるかもしれないけど、大人で詰め込み教育、暗記教育を受けてきた人間はどうしたらいいんだという話しになりませんかね。突然、「クリエイティブなことを考えてくれ、君」といわれても。これからは、その辺の研修が求められていくんでしょうか。創造力を伸ばす研修とか?!

Sさん:そんな魔法のような研修ができたら億万長者になっているかも(笑)。でも方向性としては2つあると思います。1つはその人がやりたいと考えてきたことを出してもらう方法。こうできたらいいのになぁと思いながらも、うちの会社ではダメだと諦めていたことをとりあえず出してもらうんです。もう1つは、やりたいことがないという人へのアプローチ。本当はあるのに出したくないか、自分にはないと思い込んでいる人。そういう人には「あなたの業界や職種は5年後、10年後にはどうなると思いますか?なぜそう思いますか?」といった感じで問いかけ、未来を考えてもらうんです。意見を出しやすい環境も大事な要素ですよね。誰でも創造性はあるんですよ。

聞き手:無いわけではなく、引き出し方を学んでこなかったわけですね。

Sさん:そう思います。日本企業の多くが採用してきた減点式の人事評価は創造性を発揮しても評価されない制度です。例えば新商品を開発してもヒットしなければバツがつき、出世コースから外れる。チャレンジが評価されづらい。そういう会社ではルーティーンをしっかり回す保守的な人で経営幹部が形成されていくので、さらに保守的になっていく。

聞き手:なんか、日本企業の問題は幹部のレベルであり、幹部自体にグローバルに活躍出来る人材がどれだけいるのか、ということかと思うことがあります。日本企業は経営が上手くいかなくなると神頼み的に海外の辣腕社長を連れてきますが、日本ではスケールの大きい人材は育たないということですかね。

Sさん:今は日本にもベンチャーを立ち上げている活きのいい人が沢山いて、これからは国内でもまかなえそうな気がします。また、全般的に欧米と日本では経営者になるタイミングが違うのもポイントかと思います。欧米の場合、経営志望者はビジネススクールを卒業すると最初から経営者になるための修行の道を歩む。経営を任される年齢が早く、経営者としての成功体験を積みながら大きな事業を任されていきます。元日産のカルロス・ゴーンも30歳で300億ドルの企業のトップでしたからね。欧米では入社してから45歳くらいまでが勝負。その間に成果を上げた人が社長になり10数年は続けるのが一般的です。他方、日本の場合は50代後半まで部長職を続けてろくに経営をせず、そのあとポンポンと昇格していき、社長職は3年〜6年しかやりません。このように欧米と日本とではシステムが全く違うんです。

聞き手:日本は中間管理職にいる期間が長い分だけ、ご機嫌取りが上手い人間が昇進する傾向がまだあるでしょう?そういうところを直していかないと世界レベルでどうやって成長していけるのかと思ってしまいます。この辺、どう思います?

Sさん:ご機嫌取りは顧客ではなく社内を注視していますから、これからの時代、顧客とライバル企業の変化が激しい時代には益々足を引っ張る存在になるでしょうね。日本企業の特殊性として、海外の企業に比べて圧倒的に長寿であることが挙げられます。これは家名を残す慣習が影響していると考えていますが、瞬間的に利益を生むことより、組織を継続発展させていくことに重点を置く傾向にあります。信頼やミスのなさ、誠実さが必要でしたし、組織内の親密さも重要だったことも影響していると思います。でも今は想像もしていなかった分野から競合が現れ、2,3年で市場を席巻してしまう時代です。こういうのをディスラプトすると言うのですが、その瞬間瞬間にベストを尽くすことがより求められています。

聞き手:なるほど。精度の高い瞬発力がより重要ということですね。

Sさん:そうですね。たとえ話ですが、インドの方が面白い話をしていました。日本人がマラソン好きなのはよく分かると言うのです。序盤から集団を形成し、相手の様子を伺いながら駆け引きを続け、そのうちにトップに躍り出て(社長で)ゴールというように、マラソンを長いビジネス人生と捉えているんじゃないかと。一方、インドでは毎日が100メートル競走なんだそうです。今日負けたら終わり。瞬間瞬間の必死さが違う。マラソンだって頑張って走るわけですが、42キロあまりを走ることを前提に競争するのと、今日の100mだけに賭けて競うのとでは走り方が違います。

聞き手:インド人って世界的企業を見ても重要なポストにいるケースが多いですよね。

Sさん:そうですね。エネルギッシュですしIT系に強いですね。これも聞いた話ですが、インド人は名字でカースト制のどの階層に属すか分かるそうで、しかも階層によって職業が決まってしまうそうです。でも、新しい職種であるIT系についてはカースト制で想定されていないので、どの階層の人でもチャレンジできる。つまり、一番底辺の人達でも豊かになれる職業なので、結果、意欲のある優秀な人材が集中することになります。また、国内よりもアメリカで活躍したほうが報酬もいいし、偏見もないということのようですね。

聞き手:なるほど、勉強になります。Sさんが今一番伸ばしたいスキルは何ですか?

Sさん:そうですね。仕事のチャンスを広げるために英語力は必要だなとは思いますが、今の仕事ではロジカルシンキングや問題解決のスキルが必要だから、もっと磨いていきたいと思っています。

聞き手:ロジカルシンキングもまた日本人は苦手でしょう?なぜかしら?

Sさん:日常で求められないからじゃないでしょうか。ロジカルシンキングとは、情報を頭に入れるときの整理の仕方です。事実と憶測や感情をしっかり分けるのが基本です。日本の学教教育では決まった内容を暗記し、テストでも覚えた内容を書かせる機会が多いです。事実とされることを覚えるだけだから整理する力は鍛えられない。一方、欧米では、中高時代に様々な意見がある前提で自分の意見を問われるので、自分なりに調べ、整理し、考えをまとめ、相手に伝わるようにアウトプットします。これを民族や宗教、つまり価値観が大きく異なる人間同士で行うので、自然と鍛えられます。

聞き手:確かに。アメリカのようにいろんなバックグラウンドの人たちが住んでいるとロジカルシンキングが出来ないと伝わり合えないことになりますね。だから日本の企業の人がアメリカの企業の人と交渉し合う際、ものすごくロジカルに攻めてこられることにびっくりすることが多いと聞きます。英語はとてもロジカルで、その英語を使っている人だからロジカルになるのかなと思います。日本語はものすごくあいまい。裏表があって行間や空気を読まなければならない場合が多いです。

Sさん:日本語は、ロジカルさより感情をいかに丁寧に伝えるかに重きが置かれている気がしますね。日本人は日本語のあいまいさでもって、同一民族としての調和を保ってきたのかなと思います。

聞き手:全く同感です。ところで話が変わりますが、最近のかんかん森、どう思います?

Sさん:みんなでより暮らしやすい場所に変えていこうという雰囲気になっていると思います。今度、大きな変更がありますよね?

聞き手:係の仕分けですね。以前住んでいた人たちが作ってきた細分化された係を、現在住んでいる人たちにもっと合う形に変えていこうとするもので、たとえば、イベント係をなくし有志ベースとするというように、この変化は基本的にみんな能動的に動けることをベースとしていると思います。

Sさん:何を行うにしてもその目的、やる意義をちゃんとみんなで握れていればいいと思います。だたこの目的を決めるのは結構大変。「そこまで考えるのは面倒くさい」と言われたことが少なくないです。でも、多数決は取らないルールのかんかん森だからこそ、全体の方向感は大事ではないでしょうか。この数年は暗黙のうちにではありましたが、財政を健全化する時期でした。やっと正常化して、入居費や共益費のルールを変えることも出来る状態になりました。その一方で建物の修繕に絡み、物入りになるタイミングでもありますから、次の15年に向けて再構築するとても大切な時期だと思います。

聞き手:男性陣がもっと参加してくれるとコミュニティーももっと変わってくるかなと思いますが。

Sさん:そうですね―。でも話し合いは拘束時間が長いですよ。時間短縮と言う意味でも、大事なのは全体の方向感を握れているかです。仮に入居費(初期費用)を抑えて多様な人を受け入れる方針なのだとしたら、これを実現するお金の使い方になります。その上でさらに物質的に豊かに暮らしたいなら、収入を増やすか、余計なコストを減らすかのどちらかでしょう。場当たり的に欲しいものを買っていったら、すぐに財政破綻しますよ。

聞き手:なるほど、ぜひもっとコミュニティーにコミットして、ロジカルな視点で発言してください!

Sさん:ロジカルがすべてではないですけど、多数決では決めない議論をするには必要な要素だと思いますね。これをどうすべきか、話したかったんですね。

聞き手:そうするといろんなミーティングに出ざるを得なくなりますよ!(笑)話し合っていてもなかなか決まらないときに、さっとロジカルに話をまとめてくれる人がいると、そうか、と気づいて決まることもあるかと思います。今日は勉強になるお話をたくさん聞かせていただけて面白かったです。ありがとうございました!

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