毎月恒例の「いまじん」の9月は、書芸術家の臼井千里さんと洋画の渡辺由紀子さんによる〈ふたりの宇宙展〉でした。

ふたりの宇宙展2 (2)



ふたりの宇宙展7 (2)

「宇宙」と言いますと、直ぐ天文学的に天体望遠鏡で捉えた銀河系というような思い込みをしてしまいがちですが、あらゆる全てを包み込むものと捉えますと、単に空間的な拡がりだけでなく時間的な永遠性にも目を向けねばなりません。

また「内面宇宙」という言い方をしますと、心の中の世界、そして心が生まれて向かって行く場所も、「宇宙」という言葉から想起されてきます。


〈渡辺由紀子さん〉

ふたりの宇宙展3 (2)



ふたりの宇宙展6 (2)

洋画家の渡辺由紀子さんは『内面から湧き上がる精神性』という言葉で今回の展示のテーマを説明されています。激しく燃え上がる様な赤色が、火山から吹き上がるマグマを連想されます。きっと地球の起こりはそうだったかも知れませんし、円形を描いて拡がる輪にビッグバンを思い浮かべることも可能でしょう。

ふたりの宇宙展12

非常に魅力的なこの作品は、情熱的な赤色の作品の後で見ると、心に穏やかさをもたらしてくれます。バックの群青色に海や樹木を思い浮かべたり、すると真ん中の環は何でしょうかネ?
本当はもっと写真を写してくるべきだったのですが、後で述べる事情により話が盛り上がり、紹介点数が足りません。大変魅力ある展示会ということを記しておきます。


渡辺由紀子プロフィール2 (2)



〈臼井千里さん〉

ふたりの宇宙展4 (2)


臼井千里2 (4)


臼井千里3 (3)

さて、二人目の臼井千里さんは『心象風景』がキーワードかと思います。心象風景を見ようとすれば、結局は見る人が自分自身の心の中を見る、又は感じることによってしか、辿り着けないのでないかと思います。
直ぐ上の作品は「水」と題されています。処が私は題を見ずに見てしまいましたので、フランツカフカ全集で見たカフカのKを思い浮かべてしまいました。作品鑑賞には邪魔になる知識という他ありませんが、暫くは昔の思いに耽りました。

私は幼い頃から本が好きで、読書が人生で一番大切と思うくらいでありまして、硬軟和洋取り混ぜていろんな小説を読んでおりましたが、二十歳を過ぎる頃から段々小説が読めなくなり、評論からノンフィクション系統に読書傾向が変わってきました。

そして、洋物作家で最後に残ったのがフランツ・カフカで、読んだ方ならお分かりになると思いますが、ゴチャゴチャして夢か現実か分からない、不満があるのだけれど一体何が不満だか判然としない、螺旋階段を行ったり来たりする様な小説世界に親近感を抱いていました。

そう言うことで作品から離れてしまいました。慌てて『水』に引き返し、頭を切り替えようとしましたが、これが又行ったり来たりで、心象風景を描いた作品を前に、自分の心象風景を垣間見てしまった結果となりました。


ふたりの宇宙展5 (3)
わざとの様に大きく開けられた右の余白に、見る人が自分の思いを投げかけて、まるで余白の中に本当の作品が有るかのような気になってきます。

この後に書く話とも多少繋がるのですが、「色即是空 空即是色」とつぶやく。

臼井千秋プロフィール (4)


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さて、臼井千里さんは、プロフィールからも分かる様に会議通訳者としてもご活躍ですが、その他に大垣市の蓮華寺というお寺の切り盛りもしておられます。

全く偶然なことですが、共通に懇意にして頂いているお寺がある事を知り、話が大いに盛り上がって、美術の話はそこそこ、もっぱら仏教のことや互いの境遇についてのお話しで、時間が過ぎていきました。

臼井千里1

私が手にしている本は臼井さんの母上が、2007年に出版された歌集『西域の華』で、贈呈して頂きました。

ふたりの宇宙展9 (2)
大変美しい本で、装丁は臼井さんによるものです。母上は出版直前にお亡くなりになり、遺稿集と呼ぶべき本です。本当に有り難うございました。

ふたりの宇宙展14

私が特に心に染みた一首を載せさせて頂きますと、右の歌で

   マガダ国の王舎城址は眼の下に樹海となりてかそか波うつ

蓮華寺を建立し、住職をなされていたご主人と一緒にインド旅行に行かれた時の歌で、マガダ国は釈迦が生まれて活躍した国という知識があれば、この歌を詠まれた時の母上の昂揚された感情が大変良く分かると思います。

左頁の歌も写実の中に心の勇躍が感じられる佳い歌と思いました。

   勢いよく青竹はぜる左義長の炎むら一すじ天のぼりゆく


歌集巻末には想い出の写真が数頁にわたって載せられていて、お二人がインド旅行に行かれた時の写真も掲載されています。母上の歌を口ずさみながら見てみたいと思います。

ふたりの宇宙展16 (2)


また、臼井千里さんが個展を開かれた時の写真も見つかりましたので、折角ですのでその頁も部分的ですが、載せさせて頂きます。

ふたりの宇宙展15

母上の和歌やあとがき、そして写真集を続けてみさせて頂き、臼井千里さんが素晴らしい家族に育まれて充実した人生を歩んでこられたことが実感しました。


私としましても、お寺が結ぶ不思議なご縁に、人生の驚きと妙味を観ずるものでありました。今後ともの末永いお付き合いを願うものです。