2014年09月22日

のぶお ハタチ、旅に出る


短い秋が過ぎ去り冬がきた。
 
12月に2度雪が降り2度目の雪はうっすらと積もった。 
寮の目の前は畑だったのでそこでのぶおと雪だるまを作った。
 
その年の年末年始、のぶおは実家に帰らずに寮で過ごしたようだった。
夏休み以降、後期の講義にほとんど出席することがなくなったのぶおは単位を取れる見込みが無かったので実家の両親に顔向けができないようだったのだ。
 
年が明けると僕はアパート探しを始めた。 
アルバイトやらサークルの集まりやらでめっきり寮で食事をとる機会が少なくなったので食事付年間48万円という家賃も高いように思えたからだった。
学生街だという事で安いアパートはいくらでもあった。
最終的に駅徒歩6分で1DKトイレ風呂付で管理費込みで29,000円という物件に決めた。
大学からは駅の出口は逆側だったが当時はオートバイで通学していたので関係なかった。
住んでいた寮にも自転車で5分ほどと近かった。 
 
のぶおはいくつかの物件の内覧に付き合ってくれた。
どこの部屋を見ても寮の部屋よりは広かったのでのぶおは
「すげえ、すげえ」
としきりに言っていた。
 
ただのぶおは以前のように大きな声では笑わなくなっていった。
 
 
春がきた。 
 
大学校舎の桜は見事に咲き誇り、街は着飾った新入生で溢れた。
僕は寮から出てアパートに引越した。 
 
その春は所属していたサークルの代表になっていた僕は新入生の勧誘やサークルの仕事で忙殺された。
サークルは部活とは違い、全て学生が自主的に運営している。
練習場所の確保、練習試合の相手選びと交渉、その打ち上げをする居酒屋の確保、合宿もあるので旅行代理店とも打合わせしなければならない。
またそれら全てにお金が掛かるので年間の予算を計算し、サークル費を全部員から回収しなければならない。 
ただただ上級生に誘われるがままに気分次第で参加していた1年生の頃とは大違いだった。
 
僕は地方から出てきて1人暮らしを始めたばかりの新入生を積極的に勧誘した。
実家から通学する学生は地元にコミュニティがあるし同じ高校から進学した友人も多いのに対し、地方から出てきた学生は昨年の僕と同じようにぼっちが多かった。
そういうぼっちな新入生を4月の前半のうちに昼食と夕食に積極的に誘い、一緒に過ごす事でサークルというコミュニティに依存させるのだ。
僕はぼっちを救う。
 
アパートに越してからも僕とのぶおの関係は続いた。
僕はのぶおの部屋に行きウイニングイレブンで対戦し、一緒に闇風呂に入った。
のぶおが僕のアパートに来たときにはアルバイト先のシェフに教わったカルボナーラやペペロンチーノを作って一緒に食べた。
上手くいく時もあれば上手くいかないとき時もあったが、いつものぶおは「うめぇ、うめぇ」と言ってくれた。 
 
のぶおは4月の履修登録こそしたものの、講義に出たのは4月だけで5月以降はまた学校に行かなくなっていった。
春休み中は短期の引越しのアルバイトをしていたようだが、それが終わってからは相変わらず寮の部屋に閉じこもったままだった。 
 
その頃のぶおは高橋歩にハマッていた。
高橋歩の本をいくつか買い込み、それを読んでは「すげぇ、すげぇ」と言っていた。
 
のぶおは次第に沖縄に強い憧れを持つようになっていった。
僕は高校の修学旅行が沖縄だったがのぶおは沖縄に行ったことが無かったのだ。 
のぶおは僕に沖縄について尋ね、僕の修学旅行の写真を見ては「すげぇ、すげぇ」と言った。 
 
ある日のぶおは決意した。 
 
「お、おれ沖縄いくわ」
 
1人で行って何するんだと聞いた。
「た、ただ浜辺に座って海見てるだけでい、いいんだよ」
 
のぶおは言った。
 
「誕生日に出発するんだ」
 
僕らは19歳でもう少しでハタチだった。 
 
 
のぶおは信じていた。
ハタチになれば何かが変わると。
 
のぶおは信じていた。
沖縄にいけば何かが変わると。 
 
 
のぶおにとって「ハタチの誕生日に沖縄に行く」事が全てになった。 
 
もう学校に行くことは忘れた。アルバイトもしない。今、寮の部屋に引きこもっていて毎日自堕落な生活を送っていても気にしまい。
 
ハタチの誕生日に沖縄に行ければそれでいいのだ。 
のぶおはそれで何かが変わると信じて疑わなかった。
 
 
のぶおは沖縄行きを決めてから煙草とお酒をやめた。
生活費を節約するためだ。 
 
アルバイトをしていないのぶおは実家から毎月送られてくる仕送りで生計を立てていた。
その仕送りの中から旅費を捻出しなければならない。
寮は朝夕食事付だったから嗜好品を節約すればお金はそんなに必要ないのだ。
のぶおはコツコツとお金を貯めた。
 
飛行機は高いからフェリーで行くことにした。 
フェリーだと沖縄まで3日かかるらしいが気にはしまい。 
人生初の沖縄、人生初のひとり旅。 
のんびりとハタチになった自分を見つめながらの船旅も悪くあるまい。
 
のぶおは荷造りを終え、なけなしの金を船会社に振り込んだ。
 
 
そして出発前日になった。 
僕はのぶおの部屋に行き、普段のようにウイニングイレブンで対戦した。
もちろん僕が勝った。
 
いつもは深夜まで部屋にいる事が多いのだが翌日の朝出発とあって日付が変わる前にお暇した。
 
「誕生日おめでとう。いい旅を」
「あ、ありがとう。向こうに着いたら連絡する」
 
僕とのぶおはがっちりと握手をして別れた。
ハタチののぶおに幸あれ。
 
 
出発から3日経ってものぶおからの連絡は来なかった。
 
僕は4日目の朝にメールをしてみた。
 
「無事着いたか?そっちはどうだ?海は綺麗か?」
 
のぶおからの返信は夜になってからきた。
 
 
 








 
「着いてねえよ。寝坊して船乗れなかった」

 
僕は寮に走った。誰よりも速く。
 
部屋のドアを開けるとのぶおはマヌケな顔して煙草を吸っていた。
 
 
 
 
の、のぶおぉおおおおっっつつううお! 
 

 
二十歳になったのぶおがまずした事は旅に出る事ではなく両親に生活費の催促をする事だった…。


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kanyamane at 12:38│Comments(12)日常 | 思い出話

この記事へのコメント

1. Posted by たかし   2014年09月22日 13:00
入籍おめでとうございます!

なんだか前の記事に僕がコメント書くと汚れてしまいそうなんで(笑)。

ますますのぶおに会いたいです。
2. Posted by キクチ   2014年09月22日 13:51
向こうに着いたら連絡する→向こうに着いてないから、連絡しない。
のぶおよ、そんな律儀さはいらねえから、寝坊すんな。

というか、おめでとうございます!!
おれも前の記事に書き込むと汚してしまいそうだし、
なんか照れくさくもあるので、コッチでチラっと。
3. Posted by けいす   2014年09月22日 17:08
読んでいて大学の時、一番仲良かったけど今連絡とれない友達のこと思いだしました。
遅ればせながら入籍おめでとうございます。
汚れそうでというわけではないけどなんとなくこっちにコメントがしっくりきたので、、、。
4. Posted by たけし   2014年09月22日 21:50
入籍おめでとう!
僕もこっちに(笑)

のぶお好きだな〜。是非会ってみたいです^ ^
5. Posted by マーマン   2014年09月23日 00:51
の、のぶおぉおおおおっっつつううお!
入籍おめでとうございます。
あっちに書いて汚しちゃったんでこっちでもコメントを・・・。
6. Posted by おっとー   2014年09月25日 10:28
遅ればせながら、入籍おめでとうございます♪(*^^)o∀。
わたくし、婚後3年で7kg増&安堵したのか抜毛が急加速しました。お気を付けを(笑)。
楽しい家庭をお築き下さいませ〜(^^)。


7. Posted by 官九郎   2014年10月03日 20:07
たかしさん
ありがとうございます!
返信遅くなってすみません(・_・;
けして汚れるだなんて思ってないですよ(笑)
またアドバイス下さい♫
8. Posted by 官九郎   2014年10月03日 20:08
キクチさん
ありがとうございます!
コメント欄でもシャイなんですね(笑)
のぶおはね、沖縄行きに全てをかけていたんですよ…
9. Posted by 官九郎   2014年10月03日 20:11
たけしさん
ありがとうございます!
僕ものぶおに会いたいです(T ^ T)

もう見た目がのぶおなんです。
「のぶお」と言ったらのぶおしかいないくらいのぶおなんです(笑〕
10. Posted by 官九郎   2014年10月03日 20:14
けいすさん
ありがとうございます!

仲良かったのに今じゃまったく連絡取らない、会うことないって結構ありますよね…。
ブログの更新を滞ってる間、走れない間、ブログ村で知り合った人ともそうなるのかな、なんて考えたりしました( ̄◇ ̄;)
11. Posted by 官九郎   2014年10月03日 20:16
マーマンさん
度々ありがとうございます!(笑)

自宅アバートから寮ののぶおの部屋まで走る僕は今の倍は速かった自信があります( ̄▽ ̄)
12. Posted by 官九郎   2014年10月03日 20:18
おっとーさん
ありがとうございます!
早くも生活スタイルとか食生活などが変わりつつあります…。
今の生活に慣れるまでストレスというか時間のやりくりが難しいです( ̄◇ ̄;)

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