ノーベル経済学賞の受賞者でコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授が来日中です。

 (2013年10月)

「宇沢弘文教授メモリアル・シンポジウム」でお話を聞きました。

おととし亡くなった"行動する経済学者"の宇沢先生について "Hirofumi Uzawa was a role model for me and generations to come (私にとっても、次世代にとってもロールモデルでもあった)"と締めくくりました。

スティグリッツ教授は格差拡大に反対する Occupy Wall Street 運動で先頭に立ったことで知られていますが、話を聞きながら原点を見たように思います。
 
基調講演のメモです。

 
<宇沢先生について>

宇沢先生と出会ったのは 1960 年代、シカゴ大学で。毎晩のように一緒に飲んで−と言っても私は飲まなかったが−経済について、人生について、日本の戦後復興について議論した。彼の功績は、数学的な手法を社会問題の解決に活用したこと。戦争や暴力などについても研究し、経済学者が社会現象に影響を与えられることを示した。

研究者のひとりがスポーツカーに乗っていたのだが、「なんであんなスポーツカーを乗り回しながら、格差  (inequality) について研究できるのか?」と不思議がっていのをよく覚えている。
 
アメリカのベトナム戦争への関与が激しくなる中、 1968 年に帰国され、自動車や環境で問題提起して、行動主義にのめり込んで行った。その後、私も行動するようになったが、その際によく彼のことを思い出す。最後にお会いしたのは数年前、京都で。温室効果ガス削減で効果が期待される「竹」について話し合った。

<持続可能な経済>

きょうのメモリアル講演のタイトルは Towards Sustainable Economy and Society Under Current GlobalizationTrends Within Planetary Boundaries(グローバル化と地球の限界下に置ける持続可能な経済と社会)。
 
GDP は、人間の福利を測る良い物差しではない。人々の暮らし向きが悪化する一方で GDPが伸びる場合がある。また、成長が持続可能かを判断できない。必要なのは、環境保全のためのイノベーションや学習だが、いまはその動機づけがない

いまの  GDP は、消費に誘導するものであり、生活の質とは関係ない。アメリカの生活は持続不可能だ。世界のみんながアメリカ人のような生活をしたら、この地球は限界を超えてしまう。
 
ミルトン・フリードマンは言った。 

Maximizing stock market value, maximizes societal well-being 
(株式市場の価値の最大化が社会の福祉を最大化する)

これは短期主義、格差拡大(short-termism and inequality) を増長させた。
 
私は TPP に反対だ。批准されれば、環境保全や、医薬へのアクセスが難しくなる。というのは、 TPP を事実上作ったのは、民主プロセスを経ていない大企業だからで、大企業の思惑通りにしかならない
 
気候変動問題を解決するには、まずは、原因を作り出した先進国が費用を負担するべきである。排出取引 (cap-and-trade) は失敗した。自主目標方式もうまくいっていない。温室効果ガスの排出量を減らすには、炭素税 (carbon tax)が必要だ。悪いことに課税した方が合理的だ。
 
日本にとっては、炭素税の導入こそが"一石三鳥"な朝飯前な判断のはずだ (a no-brainer) 。

▼歳入を増やし、▼環境を保全し、▼今は欠如している総需要を作り出すことができる。各国が炭素税を導入するよう強制力 を持たせるには、国境を越える取引に課税すること。

いま直面する本当の問題は、  TPP だ。 TPP は炭素に対する規制、炭素に価格をつけることを難しくする。必要なのは、 Green Fund (緑の基金)で負担を分かち合うこと

 
グローバル化とテクノロジーはチャンスであり、リスクでもある。今のような GDP 成長とグローバル化を追い求める姿勢は、環境破壊につながり、地球の限界を超えてしまう。一方で、グローバル化とテクノロジーは、地球の保全にも寄与する。

実現のためには学者の役割は大きい。

宇沢弘文氏の人生はどう行動すれば良いのかを示してくれた。私にとって、さらに次世代にとってもロールモデルとなった  (Hirofumi Uzawa’s life was a testimony to how this could be done.   Providing a role model for me and for generations to come) 。

(2012年8月)