イランのザリーフ外相(Mohammad Javad Zarif)のお話を聞きました(JIIA主催フォーラム)。
ちょっとユーモアのある哲学者って感じ。■ゼロサム・ゲームの姿勢は時代錯誤である、■トランプ政権下でもイランの核合意の存続を望むし、アメリカも勝手に破棄できない、■経済制裁には負けない、などが印象的でした。
質疑では■トランプ政権のイラン政策、■決済通貨、■サウジアラビアとの関係が出ました。
[現状]
今は非常に課題の多い時期で、多くの洞察力と慎重な分析が必要である(This is a challenging time when you need a great amount of insight and careful analyses
)。
冷戦というかつての世界秩序(world system)が終わったが、次の世界秩序までの移行期が長引いており、不透明感が強まっている。こうした移行期にはとかく戦争がつきものである。
特にアメリカでは冷戦の終了で二極化した世界から一極化した世界がすぐにやってくるという期待があり、ブッシュ(パパ)大統領は、
New American Centuryとも言っていた。その予測は時期尚早だった。
なぜひとつの世界秩序のあとの次の世界秩序(world order)の登場まで時間がかかっているのだろうか。それは、新たな世界秩序を形成するための試みがうまくいかなかったからである。
モンスターを作りだせば、そのモンスターは主人に刃向うものだ
(if you create monsters, these monsters tend to turn against you)。湾岸戦争しかり、アフガニスタンでの戦争しかり。新たな世界秩序の形成に失敗した結果、過激主義やテロリズムといったように新たな不透明感が出た。
それは(アメリカが)武力を行使し、占領し、武力を美化したからだ
(fact of using force, fact of occupation and fact of glorifying force)。
移行期とは確かに不透明な時期ではあるが、同時にチャンスでもある。
[中東地域が直面する課題]
◼︎世界史の中の移行期にあること
クウェートを侵攻してもアメリカが容認する見誤ったフセイン、大量破壊兵器を断念すれば身の安全が確保されると見誤ったカダフィ、イラク戦争で"勝利した"と見誤ったアメリカといったようにmiscalculation
の例が後を絶たない。
ポスト冷戦期が何かという真剣で地道な分析が欠けたのだ(lack of serious and sober analysis)。
■グローバル化
グローバル化した今、他国を犠牲にして自分だけ安全を確保することはできない。他の人たちが屈辱的な扱いを受け、希望を持てない状況では、自分だけ安全であるということはあり得ない。テロリストは、希望を持てないという怒りをツールに自らの主張を広めている。今では「希望のなさ」がグローバル化しているのだ。
グローバル化とは何か?それは、ひとつの地域に病を隔離することはできないということだ。SARSのみならず、テロリズムも病である。シリアを見ても分かるように、時代錯誤の考えにも基づく代理戦争はもうあり得ない。
[ゼロサム・ゲームの限界]
すると重要なのは、ゼロサム・ゲームは今の時代、成り立たないことに気づくことである。グローバル化の中では、ネガティブサム・ゲームとなる。
過去のイランの核開発をめぐる交渉を考えてみよう。アメリカがゼロサム・ゲームでしか物事を考えられず「イランが核技術を保有すれば、誰かが負ける」と考え、どちらかが敗北しなければならないと考えていた。
ロウハニ大統領が登場した直後、我々は質問を再定義した。「どうすればイランは核技術を保有しながら、常に平和利用できるか?」と考えたのだ。それがきっかけで交渉が動かし、結果的にポジティブサム・ゲームとなった。
一方シリアはどうか。この5年「アサドがいるシリアは認めない」というゼロサム・アプローチをしてきた。その結果、両サードが意固地な態度となった
(entrenchment in position)。
これは認識の問題である(cognitive problem)
。つまり、今のグローバル世界の中で単純な勝者と敗者はあり得ないのだ。「あいつら対おれたち」のアプローチではなく、包み込むような
inclusiveなアプローチにしないといけない。
「敬意と希望の欠如」に対して日本が果たすべき役割がある。それは投資だ。西側諸国の人たちは言う。安全なくして、アフガニスタンに投資できない。そうではない。投資がない限り、アフガニスタンは安全にならないのだ。我々の世代のみならず、次の世代、それも国際社会の次の世代のために新たなアプローチが必要だ。
[質疑応答]
■トランプ次期大統領はイラン核合意を破棄し、制裁を強化すると言っているが、どう対応?
□冒頭、JIIAの野上理事長が「きのうまでワシントンに行っていた。みな『まだ分からない(
too early to tell)』と言っていた」と言っておられたが、まさにまだ分からない状況だ。イランの核合意(JCPOA=Joint Comprehensive Plan of Action)
について、希望を失っていない。
理由は2つ。
まず、これはアメリカとイランの合意ではなく、
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か国とEUが合意したものであること。さらに国連安保理も支持した。確かに国際合意を履行しない可能性がないとは言えないが、アメリカが簡単に取り消すことはできないし、取り消さないことがアメリカの国益でもある。
もう
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つは、アメリカが再び制裁を科せば、我々の生活は苦しくなるが、決して負けないから(sanctions will harm us but will not break us)。我々は何度も経済制裁=ワクチンを受けたことで、いわば免疫ができた。
しかも、交渉前に
200しかなかったウラン濃縮に使う遠心分離機は2013
年に
20,000まで増やした。それがアメリカを交渉のテーブルにつかせたのだ。我々はカネで海外から安全を購入しているわけではない(we don’t purchase security from abroad)
。
我々は、JCPOAが存続することを望んでいる。きょう安倍首相や岸田外相らと会った際にも、
2日前に中国を、その前にインドを訪れた際もみな、合意の有効性を認めている。
とは言え、イランの選択肢に限りがあるというわけではない。外交官はあらゆる誤った選択を取った後に正しい選択をするものだ(Diplomats usually reach the right option after exhausting all the wrong options)
。すでに誤った選択肢を取ってきたので、大丈夫だろうという楽観的なことを言いたい。
■フランスのトタル社がイランの油田開発にあたって決済通貨が
ドルではなく、ユーロだったと聞くが、アメリカへの挑発では?
□アメリカこそがユーロ決済に向かわせたのだ。ドル決済はニューヨーク連銀を通るため、経済制裁でイランとの間の決済でのドル使用は禁じられている。
アメリカはその後、「容認できないわけではない」としているが、日本との決済は円とユーロで行う。ほかの国との貿易も現地通貨とユーロを使用する。我々が挑発したのではなくアメリカが自ら招いたものだ(
not provocative by us but self-provocation by the US)。
■ゼロサム・ゲームは時代遅れという発言があった。最近の原油減産をめぐる合意を見るとその精神のもと、イランとサウジアラビアの関係は改善したのか?
□サウジアラビアの話はしたくなかったんだよ(笑)。オイル・ゲームでより苦しんだのは、イランよりもサウジアラビアだろう。我々は原油市場で政治的な駆け引きをするべきでないと言ってきた。原油はイランの予算の50
%を占めていたが、今では30%だ。というのは、我々には制裁に対する免疫ができたからだ。
サウジアラビアは敵国を助けることが自らを救うことになるという現実的な認識にたどりついたのだ
(Saudi came to the hard recognition that helping adversaries will help you)。
イランは近隣のすべての国との関係構築にオープンである。それが安全な地域につながると考えるからだ (Iran is open to engagement to all neighbors, because that will bring a safe neighborhood)
。
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