clopidogrel(プラビックス)の後継薬と期待されているAstraZenecaのticagrelor(Brilinta)は、その薬自体がP2Y12阻害活性を持っているので、CYP2C19の遺伝子多型に関係なく効果を発揮でき、またPPIとの併用も理論上問題ない新しい薬だ。その薬剤のPLATOのサブ解析(ゲノムスタディ)がLancetに出た。今回のサブ解析も、JUPITERのように本論文がNEJMで、サブ解析がLancetといういつものパターンだ。この論文の解説は次回で述べるが、その前に薬物代謝におけるCYP(チトクロームP450)酸化酵素をおさらいをしよう。ここでは、PPI(Proton pump inhibitor)やclopidogrel(プラビックス)の代謝に深く関与しているCYP2C19だけを取り上げる。

CYP2C19には、CYP2C*2AからCYP2C19*8まで9種類の酵素活性欠損に関する遺伝子多型と、別の部位の機能亢進型の2C19*`17がある。前者と後者は別の部位の変異なので、理論上組み合わせは非常に多くなるが、実際に*17があるのは*1だけだ。

代謝の速さの順に遺伝子多型を分類すると、次のようになる。この遺伝子多型は人種によりおおいに異なっている。白人と日本人との比較で特徴的なことは、Ultrarapid or Rapid heterozygoteは白人では33%に対し、日本人では1%しかいない。一方、Poorは白人では2%しかいないなのに対し、日本人は19%もいることだ。

Genotype
白人(カフカス系)
日本人
metabolic ratio
Ultrarapid (*17/*17)
5%
<1%
Rapid heterozygote (*1/*17)
28%
1%
0.87
Extensive (*1/*1)
36%
26%
2.18
Poor or rapid heteozygote
(*2-*8/*17)
7%
1.5%
3.85
Intermediate
(*1/*2-*8)
17%
44%
3.97
Poor (*2-*8/*2-*8)
2%
19%
32.3


PPI(Proton pump inhibitor)は、CYP2C19で代謝されて、活性を失う。代表的なPPIのひとつであるomeprazoleが実際にどれぐらいの速度で代謝されるかを調べた研究がある。それをmetabolic ratioで表すと、Rapid heterozygote (*1/*17)が0.87、Extensive (*1/*1)が2.18、Poor or rapid heteozygote (*2-*8/*17)が3.85、Intermediate (*1/*2-*8)が3.97、Poor (*2-*8/*2-*8)が32.3だ。Poor metabolizerの代謝速度が非常に遅いのがわかる(数字が大きいほど、代謝速度が遅い)。AUC (area under the plasma level time profiles)で表現すると、Poor metabolizerはExtensive metabolizerの5-12倍になる。実際に、Poor metabolizerでは胃内のpHが高い(酸分泌抑制が強い)時間が長くなり、Extensive metabolizerでは胃内pHが上がりにくい(酸分泌抑制が弱い)。

PPIの中では、比較的CYP2C19の代謝を受けないrabeprazole(パリエット)はExtensive metabolizerでも胃内pHが比較的上がりにやすい(酸分泌抑制が強い)という論文が多く、エーザイもこのことをおおいに宣伝しているが、臨床上は一般的に、ピロリ菌の除菌率は、CYP2C19多型の影響を受けないとされ、またPPIも種類に関係ないとされている。

一方、clopidogrel(プラビックス)は、CYP2C19で代謝されることにより、活性化する。PPI内服患者はPPIのCYP2C19に対する競合的阻害により、clopidogrel(プラビックス)がCYP2C19による活性化が抑制されるのではないかという懸念や論文は以前からあり、昨年FDAは「clopidogrel(プラビックス)内服者はomeprazole(オメプラール)を併用すべきではない」という見解を出した。
本題に戻ろう。PLATOのサブ解析(ゲノムスタディ)では、以下のことが述べられている。

  • ticagrelorは急性冠症候群後の主要心血管イベントを防ぐ効果がclopidogrelより高く、ticagrelorの優越性はCYP2C19多型やABCB1トランスポーター多型に関係なく、示された。
  • ticagrelor群では2C19機能喪失多型を持つサブグループの主要心血管イベントが、それらを持たないサブグループと同程度だったが、clopidogrel群では高い傾向にあり(p=0.25)、治験開始当初の30日間においては、有意水準に達した(p=0.028)。
  • clopidogrel群ではCYP2C19の機能亢進多型を一つ以上持つ患者は、機能亢進多型をもたない患者や機能喪失多型を持つ患者と比べて、主要出血リスクが高かった。