株式投資の「リスク」と、個人の健康の「リスク」とは意味合いが異なる(前者は「標準偏差」、後者は「確率」)が、個人は、自身の健康のリスクについて、もう少し関心を持って欲しい。健康リスクについて言えば、最大のリスクは喫煙だ。私は、基本的には、喫煙家の言うことは信用しない。しかし、それ以外の生活習慣病のリスクは過大評価されている。検査データがまったく問題ない人にも、脳卒中、心筋梗塞はかなりの頻度で起きる。しかも、生活習慣病の半分は遺伝なので、いくら生活習慣を改善しても、たかが知れている。従って、無理して我慢する必要はない。好きなものを食べて、飲めばいいと思う。人生は短いのだから。しかし、高血圧症や脂質異常症の人は、薬は飲んだほうがいい。

一方、癌、とくに早期発見が比較的簡単な消化管の癌は、リスクに応じた検診が肝要だ。これらの癌で死ぬのはあまりにもったいない。生活習慣病関連で死ぬのは、ある程度、不可避だが、癌死はかなりの程度、避けることが出来る。

胃癌に関して言えば、ペプシノゲンとピロリ菌抗体を組み合わせたABC(D)検診で十分だ。最初からピロリ菌のいない人(A群)に、胃癌が発生する確率はきわめて低い。対策型検診としては、このグループに検診をする必要は、まったくない。一方、ピロリ菌がいて、ペプシノゲン陰性(B群)では、年間0.1%の胃癌発生率、ピロリ菌がいてペプシノゲン陽性(C群)では、年間0.25%の胃癌発生率なので、数年に1回の内視鏡検査が必要だ。勿論、除菌をした上でだ。

未だに、国民のピロリ菌感染率が80%で、国民のほぼ全員を胃癌のハイ・リスクと捉えても間違いがなかった頃の施策(全員X線検査)が取られているとしたら、時代錯誤もはなはだしい。現在は、胃癌検診対象者のピロリ菌感染率は20%以下であり、とくに若年層では5%以下に激減しているので、近い将来、胃癌の罹患率は現在の10分の1以下になることは間違いがない。

大腸癌は、最近漸増しているが、明確なリスク・ファクターがない。赤身肉を食べる人に大腸癌が多いとか、肥満の人に大腸癌が多いとか、逆に果物を多く食べる人に大腸癌が少ないというデータはあるが、せいぜい数%の話だ。従って、すべての人は、40歳を過ぎたら、下部消化管内視鏡検査を 受けたほうがいい。異常がなければ、5年後の検査で十分だ。

一方、食道癌は、胃癌や大腸癌に比べて、罹患率が一桁少ないが、かなりリスク・ファクターが明確だ。これには、遺伝子リスクと生活習慣リスク(飲酒と喫煙)がある。遺伝子リスクは、ALDH2(アルデヒド脱水素酵素)とADH1B(アルコール脱水素酵素)があるが、1件数万円もする遺伝子分析を受けなくても、ALDH2(アルデヒド脱水素酵素)低活性型の人は、お酒を飲むとすぐに顔が赤くなるということでわかる。日本人の40%は低活性型だ。ちなみに白人や黒人は低活性型の人はいない。ADH1B(アルコール脱水素酵素)の低活性型の人は、普通の量のお酒を飲んでも、次の日、お酒臭いということで、ある程度、判別できる。これは、日本人の10%だ。遺伝子リスクがいずれかの1つある人が、飲酒と喫煙の両方をすると、これらのリスクがない人に比べて、食道癌の発生リスクは60倍以上になる。さらに遺伝子リスク2つと生活習慣リスクが2つある人は、食道癌のリスクが100倍以上になる。