胃がん検診には、厚労省のお墨付きの胃X線(バリウム)検査があります。多くの企業や自治体では、40歳以上の人を対象に無料(会社、健保あるいは自治体の負担)で行われています。拙書にも書きましたが、これほど馬鹿らしいことはありません。私が勤める会社ではこのために年間1億円支出しています。経費節減のために、コピー用紙の品質を落とすなど涙ぐましい努力をしているのに、1億円垂れ流しです。

検診が有効かどうか、あるいは医療経済学的にペイするかどうかは、「対象とする癌の罹患率」、「検査の感度」、「検査の特異度」の3つに大きく依存します。

国民の血税で運営されている国立がんセンターが中心になって纏めた「厚労省の胃がん検診ガイドライン 」では、20年から30年前の症例対象研究というエビデンス・レベルの極めて低いエビデンスを金科玉条のようにして、胃X線(バリウム)検査を推奨しています。

エビデンス・レベルとは、研究の方法によってその研究の信頼性が大きく変わるので、それをわかりやすく6段階に分けたものです(他にも分け方はあります)。代表的な分類によると、症例対象研究のエビデンス・レベルは、6段階の中の5段目という低さです。

しかも、その症例対象研究が行われてた当時は、社員(国民)の8割がピロリ菌に感染していましたが、現在は1割です。大雑把に行って、社員の胃がん罹患率は8分の1に下がっています(国民全体では、高齢化が進んでいるので、これほど下がっていません)。昔は国民全体を胃がんの高リスクと捉えても大きな間違いはなかったのですが、ピロリ菌感染が激減した今は、違います。研究方法と、現在のピロリ菌感染率から見て、胃X線(バリウム)検査は無効である可能性が極めて高いのですが、未だにそれを推奨している厚労省は馬鹿としか言いようがありません。

私たちが開発した、ピロリ菌抗体とペプシノゲン値を組み合わせたABC検診は、現在RCT(無作為化比較試験)が行われています。RCTは、その結果が一つあれば、それで薬が認可されるほど信頼性が高い方法です。今進行中の試験は、2019年に終わり、2020年頃には結論が出るはずです。

中間報告では、従来の胃X線(バリウム)検査での胃がん発見症例は0例だったのに対し、ABC検診では3例の胃がんを発見しました。まだ、有意差は出ていませんが、幸先のいいスタートです。

(10月19日追記)ただ、上記のRCTはエンド・ポイントが胃がん死亡でないのが難点です。胃がん死亡が減らないと、ABC検診は「見つけなくてもいい癌を見つけただけではないの?」という批判、つまり過剰診断の可能性を排除できません。

それとは別に、WHO/IARC作業部会で、胃がん死亡をエンドポイントとするGISTAR研究のパイロット・スタディを準備中です。本試験の結果が出るのは、15年後という先の長い話ですが・・・。