2037年12月31日

記憶に近い風景

初めての方へ。

 なぜ隣の恋愛は美しく見えるのだろう。
たとえ、それが別れる5秒前の恋人同士だったとしても…。

 訪問ありがとうございます。ずいぶん長くなってしまいました。
 よければ過去の記事、3月1日の最初から読んでくだされば、ありがたいです。

コメントありがとうございます!  
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2005年11月13日

記憶に近い風景 No.70

 突然ですが、
 今までの恋の体験のようなものを、脈絡のあるように書いてきました。

 だけど、なにげなく、
 短い散文みたいなものが書きたいと思いました。

 これからは、普段の日記みたいな、
 でも日記以外もあるかもしれなくて、
 言葉をここに残していきたいなぁ…、と、
 思いました。

 今まで読んでくれてありがとうございます。  
Posted by kareshi at 19:05Comments(0)TrackBack(0)

2005年10月29日

記憶に近い風景 No.69

 ストーカーはやがて、かけてこなくなった。
 彼女は携帯電話の番号も変えた。僕も変えた。彼女は住む部屋も変えた。

 彼女が突然、故郷に帰ると言い出した。
「少し休んでくるだけ。冬にまた楽団で仕事するから、練習しに帰ってこないといけないしね。それより、あなたもバイトを休んで、一緒に来ない?実家に泊めてあげることはできないんだけど…もしよかったら1日か2日くらい…私の故郷を見せたいの」
 彼女とは、その故郷で落ち合うことにして、僕は行った。
 彼女が駅まで車で迎えに来てくれて、僕たちが向かったのは、いつか2人で話したことのある、岩場だった。確かに電話ボックスが置いてあった。10円玉も案の定、たくさん置いてあった。
「僕も10円玉、置いていってあげようかな…」
 そう言った時、彼女に厳しい目つきをされたのを憶えている。
「やめといた方がいいわ!優しさを見せると、取り付かれるから…。」
 海岸から少し離れた場所に島がある。その島は、潮の流れの関係で、岩場から飛び降りた人の死体が流れ着くという。
「呪われてるのよ、きっと。」

 昔、何だったかのテレビ番組で紹介されていた。レポーターが途中まで、反時計回りに歩くと、突然、霊能者に止められて、結局最後までは回らなかった。僕たちは赤い橋のかかった、その島を岩場の上から眺めていた。

「砂浜の海岸に行こう?」
 名前をsunset beach瓩箸いΑ
「この海岸に太陽が沈むのよ」

 僕は東側で育ったから、太陽が沈む海というのはあまり馴染みがない。他には誰もいない季節外れのsunset beach瓩任呂靴磴合うひと組の恋人たちが印象的だった。
 1つ、気がついたことがある。彼女のこと。彼女の髪はいつの間にか、ずいぶん伸びていた。大人っぽくなっていて、うつむき加減に紅茶を飲む姿が美しい。
「老けたってこと?」
 笑う彼女。老けたふうには見えないのに、なぜか大人っぽい雰囲気を醸し出していた。美しい。本当に美しい。
 喫茶店の中にある、緑の観葉植物に囲まれた席は少し薄暗くて、ゆったりと流れる空気に僕たちは包まれていた。
  
Posted by kareshi at 23:59

2005年10月17日

記憶に近い風景 No.68

 恋は遠い日の花火じゃない。確かにそうだ。

 だけど、花火にもいろいろあるだろう?

 僕が東京へ出て、彼女はきっと喜ぶだろうと思っていたけど、意外に元気がなかったんだよ。ストーカーに彼女はつきまとわれていたから。あのストーカー問題は解決したと思ってた。
 だけど、実は、ほとんど解決していなかったんだ。
 彼女は耐えていた。
 相手は彼女の仕事先の先輩。最初は仲がよかったそうだ。そして、ある日、告白された。彼女は彼を振った。
 
 それからだ。彼の行動がおかしくなり始めたのは。無言電話、非通知電話、嘘と脅迫、嫌がらせ…数え上げればきりがない。動物の死体を送ってこられたこともあったそうだ。

「ねぇ、解決法を考えて欲しいの…」

 僕の前で、彼女は泣いていた。

「私がダメなの…?私が悪いの…?どうしたらいいの…?」

 その夜、僕が彼女のストーカーである彼に電話した。その日から状況は変わった。彼からの電話は僕にかかってくるようになったのだ。記憶とか心というものは本当に複雑で不思議だ。

 記憶は変わる。
 心の風景も同じく変わる。
 心は怖いものだ。

 彼は僕に彼女の事をいろんな風に言った。人生を形で例えるなら、楕円型。たまごのように。見る場所を変えれば、丸になり、ゆがんだ丸になる。  
Posted by kareshi at 00:00

2005年10月12日

記憶に近い風景 No.67

 昔に流行ったコマーシャルのコピー。

「恋は遠い日の花火ではない」

 僕は、彼の話を聞きながら、なぜだろう、あの言葉の意味を考えていた。  
Posted by kareshi at 00:00

2005年09月29日

記憶に近い風景 No.66

 バーテンダーは、話しつかれたのか少し黙った。

 休みの前の夜、仕事帰りに初めて行ったバーだった。
 客はどういうわけか、いなかった。
 薄暗い室内には古めかしいような、新しいような英語の歌詞が流れていて、爍擅稗唯銑瓩箸いκ源が壁に光っていた。端のテレビでチャーリーズ・エンジェルがやっていた。画面の中、その場面もまた薄暗い室内だった。ボリュームが消してあったから、まるで、セリフのないフランス映画でも見ているような気分だった。

 最初に、バーテンダーが注文を聞いて。
「…記憶…と…恋…をキーワードにして、何か作れますか?」

 冗談のつもりで言った僕のひと言が始まり。
 彼は真剣に作り始めた。氷を削ったと思えば、次に小さくなったそれをグラスいっぱいに詰め込んだ。その後、何のお酒かは分からないけど、注いでいた。最後にブルーキュラソーを底に沈めた。ひと口目はりんごの味がしたような気がする。
「最後になればなるほど、甘くなります。メモリアル・ヴァージン、と言うんですよ。恋の思い出は時が経てば経つほど、美しくなるものですから…ね。今夜は月が欠けて、暗いですけどね、星が綺麗なんですよ。近づけば、銀河や星はただの岩盤の集まりだったりするんですよね、でも遠くから見ると、やっぱり美しいですよね。今いる場所も遠く離れれば離れるほど美しくなってゆくのかもしれません」


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 いつも読んでくれてありがとうございます。
 会社の話もお願いします。  
Posted by kareshi at 00:00

2005年09月26日

記憶に近い風景 No.65

 東京でも秋には秋のにおいがする。

 北極星の見える場所に秋がある時、南十字星の見える場所には春があるのだろう。そしてそこは春のにおいで覆われていることだろう。

 窓から、金木犀の香りがやってくる。秋だ。花の前の人は過ぎてゆくのに、人の前の花は変わらず香りを放つことだろう。

 窓から、上弦の月が見える。月の下の人は過ぎてゆくのに、人を照らす月はいつまでも光を放つことだろう。

 夜を迎えている今のこの場所に月が輝く時、どこかでは太陽を迎えてる。明日、その太陽は、今ここにやってくる。

 今日、僕のそばを通り過ぎた風は、明日は誰の元へ届くのだろう。

 花は咲いた場所で芳香を放つ。世界のどこだろうと、空の月は今日も空を巡っていることだろう。

 すべての経験は間違いじゃない。

 最後には、きっと自分の選んだ道が正解になる。  
Posted by kareshi at 00:00

2005年09月25日

記憶に近い風景 No.64

 東京に行く前の夜だった。

 部屋には僕1人。
 もうやることもない。
 雨が降っている。
 踏切の音が聞こえる。
 電車の音が聞こえる。
 …電車の音が遠ざかる。
 踏切の音は聞こえなくなっている。
 部屋が静かになる。
 今から眠ったら、きっと明日の朝まで熟睡できることだろう。
 不安やいろいろな怖れを抱えて眠れない人がいることを考えるなら、こうして平和に眠れることがきっと幸せなことなのだろう。
 でも、夜を眠らせてくれない人がいたあの頃を思い出すと今でも悲しくなる。
 最後に別れを告げたのは僕からだった。
 転勤してまだ間もなかった彼女の部屋でぎこちなく座って。

 踏み切りの音が聞こえた。
 電車の音が聞こえた。
 …電車の音が遠ざかった。
 踏切の音は聞こえなくなっていた。
 静かと静かの間隔に彼女が声にならない声ですすり泣いていた。
 彼女が小さく言った言葉が、こだまする。

「愛が少しさめたくらいで別れようなんて…少しでも愛が残ってるならもう1度やり直そうって、言ってよ!バカッ!」

 その1ヵ月前の夜の同じ時間、僕はたぶん眠っていて、彼女からの着信で起こされていた。会いたい、なんていうメールで起こされることはもうなくなった。夜、長く話すこともなくなった。平和な夜が戻った。
 たった1ヶ月未来のことでさえ人は予測できない。
 もし神様が許してくれて、戻れたなら、あの時とは違うことを言うだろうか。
 あの時間のあの場所で。
 踏み切りの音も、電車の音もそのままで。

 いつかの恋を呼び起こさせる音だ。

 雨が降っている。
 踏み切りの音が聞こえる。
 電車の音が聞こえる。
 …電車の音が遠ざかる。
 何だか空耳みたい。  
Posted by kareshi at 00:00

2005年09月24日

記憶に近い風景 No.63

「私が、あなたを捨ててどこかへ行っても、あなたは追いかけてこないかもしれない。もしあなたが、私を捨ててどこかへ行っても、私は追いかけない」

 なぜだろう?
 この言葉を聞いた時、彼女の元へ戻ろうと決意したんだ。  
Posted by kareshi at 11:59

2005年09月22日

記憶に近い風景 No.62

 夏前だったかな…。

 彼女に言ったことがある。
 せめてあなたの前でだけは強くてかっこいい自分でいたい、と。
 そうしたら、彼女は言った。

「どんなに気取っててもいいけど、せめて私の前では自然にしてて。私の前ではかっこつけなくていいから。無理しなくていいんだよ…無理は長続きしないから」

 いつだったか、昔、別の人に言われたことがある。
「せめてあたしの前では見栄を張ってて。あたしの前ではかっこつけていて。不自然なくらいに気取ってて欲しいの」

 私の前では自然にしていて…。
 あたしの前ではかっこつけていて…。
 どっちが正解なんて分からないけど。

 彼女のいる東京へ、また行きたいと強く思った事を思い出す。  
Posted by kareshi at 00:00

2005年09月18日

記憶に近い風景 No.61

 人生はバラードのようだと思うことがある。メロディーの続きは予想できるのに、最後まで聞いていたい。そして、曲が終わったら、僕はリピートのボタンを押している。

 悲しく終わる恋を繰りかえすたびに、次は幸せな恋をしたい、と願う。美しい時を奏でられるように、と祈る。

 だけど、どんなに愛し合っている恋人同士だろうと、夫婦だろうと、結局別れることになる。最期に「死」という別れが待っているんだから。

 1度は顔を合わせて、ある程度まで心触れ合った同士が、一旦別れたが最後、未来永劫またと巡り会わない。それはなんて不思議で淋しいことだろう。
 僕の心は、このやむを得ない人間の運命をしみじみと感じては深い青に似た感情を体験することになる。

 それなのに、人はどうしていつも、また誰かを求めるのだろう。  
Posted by kareshi at 23:59

2005年09月10日

記憶に近い風景 No.60

「今夜も暑いね…。ね、何してる時が幸せ?」
 突然、彼女が聞いた。
「私はピアノを弾いてる時が幸せなの。小さい頃からピアノやってるけど、うちの親は別にあたしをピアニストにさせたい、なんていうふうには考えてなかった。いつか、大人になった時、悲しいことや嫌なことや、苦しいことがあったら、ピアノを弾いて少しでも早く抜け出せるように、って。いつでも、ピアノに帰ってこられるように、って。何がなくてもピアノだけがあれば、また生きていくことができる。ちょっと、弾いてみるね。…聞こえる?」
「…知ってる。最近の曲だね。」
「うん、よく聞くから覚えちゃった」

 その曲を初めて聞いたのは、何ヶ月か前。
 あの彼女が初めて部屋に来た時に流していた。(→記憶に近い風景 No.1〜)
 そして、あの同居人の車の中でも流れていた。
 その時は、毎日、混沌とした感情を抱え込んでいて、とても悲しい時だった。

「…ね、どうしちゃったの?急に黙って。私のピアノがうますぎた?」
「いや、うん、本当にいい曲だ、と思って」
「この曲、好きなんだ?」
「いや、違うんだ。好きじゃない。でも、いい曲だと思う」
「言いたいことが分からないわ?」
「ちょっと、前、悲しいことがあって、その時にたまたまこの曲を聴いていたんだ」
「じゃぁ、その悲しい思い出を私が消してあげる。しばらく聞いてて。この曲を聴くたびに私のこと、思い出せるでしょ?」  
Posted by kareshi at 23:59

2005年09月08日

記憶に近い風景 No.59

 巡る季節を何度経験しただろう。
 経験した季節をいくつ思い出せるだろう。

 僕たちが生きている間に経験できる季節なんて数えるほどだろう。
 思い出せる季節なら、もっと少ないかもしれない。

 人生とは?なんて哲学的な質問をされたら、いろいろ考えて、答えはないのかもしれない。だけど、今なら、思い出を作るため、なんて答えてしまいそうだよ。いや、忘れるため、なのかな…。

 夏はいくつ体験しただろう。

「今夜は少し暑いね」
「ちょっと涼しくなる話をしてあげるよ」
「怖い話?」
「うん、中学生の時の話だよ。その日、風邪で学校を休んでた。ベッドで寝てたら、ラジオの周波数を合わせるようなザザーって音がして、すぐ金縛りにあったんだ。足元から『何してるの?』という声がした。体は動かない。目をつぶって、震えてた。目を開けると、金縛りは解けた。金縛りからは解けたけど、怖くて、制服を着て、学校まで走ったんだ。学校に着いたら、少し吐いた。やっぱり具合が悪かったからね。保健室で、すぐに帰りなさい、と言われた。でも、怖いから、友達を連れ出して、一緒に帰ったんだよ。学校を出たのがお昼1時半くらい。歩きながら友達が自分の腕時計を見ながら言う。時計が狂ってるって。針が進んでたんだよね。5時を指してた。遅れることはよくあるけど、進むのっておかしいね、なんて笑いながら歩き続けてた。少し歩いて、また時計を見たら、今度は4時を指してる。2人とも黙って、早足になった。家に着く前にもう1度見たら、3時、家に着いたのが2時で、家の中の時計も2時だった。急いでテレビをつけたら、ちょうど2時のワイドショーが始まるところだった。」
「全然、涼しくならない…、次は私の番」

「私の生まれた町にはとてもきれいな景勝の地があるの。夕日が綺麗な岩場なんだけどね。そこがね、自殺名所なの。近くには電話ボックスがあるわ。そこには10円玉がたくさん置いてある。死ぬ前に、大好きな人にメッセージを残すため。絶壁になってるんだけど、上から下を覗くと、無数の手が伸びてくるのが、見える人には見えるらしいわ。その岩場から離れた場所に、島があるのよ。その島を時計回りに歩いて回るのはかまわないんだけど、逆時計回りに回ると、帰って来れないらしいの。いつか、案内するね」
 そう言って、彼女はふふっと小悪魔的に笑った。  
Posted by kareshi at 00:00

2005年09月03日

記憶に近い風景 No.58

「今、何してる?」
「歩きながら電話してるよ」
「どこ歩いてる?」
「橋の上。こいのぼりみたいな魚がたくさん泳いでるの」
「ん?どうやって?何で?」
「川の両岸から、ふわふわ〜って下がってるの。風に泳いでる。あっ!つかめた!ねぇねぇ、つかまえたよ!」
「すごいじゃん!」
「風で私の方になびいてきたの!」
「屋根よ〜り〜高〜い〜こいのぼり〜♪知ってる?」
「うん。歌って歌って。私が部屋に帰り着くまで、歌って聞かせてて…」  
Posted by kareshi at 23:59

2005年09月02日

記憶に近い風景 No.57

「今夜の夕食は?」
「パスタを食べたの、一緒に食べたかったね」
「今度、食べに行こう!」
「うん、どこへ?」
「イタリア」
「それで?」
「イタリアでパスタを食べた後、おいしい空気が吸いたくなる」
「そうね」
「だから、アルプスに行くんだ。そしてアルプスの豪邸に泊まろう。そこはバスルームから綺麗な星空が見えるんだ。ライオンの形をした蛇口から暖かいお湯が溢れてくる。バスルームには薔薇の花。僕はその薔薇を一輪取り上げ、花びらを1枚1枚ちぎっては浮かべていく」
「すごいわね。楽しみにしてるわ。約束ね…」  
Posted by kareshi at 23:59

2005年08月30日

記憶に近い風景 No.56

 ある日のこと。場所は日本で、僕は公園にいた。キャッキャッと騒ぐ女子高生。暇を持て余してそうな大学生。犬と戯れている人。誰かと待ち合わせをしていそうなサラリーマン風の男。微笑みあう2人の男女は恋人同士かな…。次の瞬間、人々の顔は青ざめ、バタバタと倒れた人は死んでいった。静まり返った公園。
 噴水だけが不思議に音もなくしぶきを跳ね返していた。虹が出ていて、そこから彼女が現れて、太鼓を叩いたんだ。
 それに合わせて、僕が体を揺らすとさっきまで死んでいた人たちは甦った。その代わりに彼女と僕は天国へ行くことになった。

「そんな夢を見ていたんだよ」
「あなた、おかしいわ」  
Posted by kareshi at 23:59

2005年08月28日

記憶に近い風景 No.55

 突然、携帯が鳴った夜中。
 またストーカー?どうしたんだろう?早まる鼓動を抑えつつ、携帯を開いた。

i am lonely tonight…

 メールを見た後、僕はすぐに彼女の番号を押した。
「どうした?どうして今夜はロンリー?」
「…うん、なんとなく」
「…なんとなく?」
「友達のこと」

 彼女が東京に来る前、同じ楽団で、一緒にやっていた友達がいた。彼女はティンパニで、その友達はフルート。その友達は、もう亡くなっていた。
「あの時は『お葬式、行かなくちゃ、でも忙しいから…』って、理由を作って、行かなかったの。大きな出来事でもないような気がしてた。でもね、今度、用事で彼女の実家へ行くことになったの」
「それで久しぶりに思い出したんだ?」
「うん…。」
 そこまで話すと彼女は堰を切ったように涙声で話し始めた。
「でもね…でもね…。…弱虫って思われるから話さない、話さない、話さない…さない…ない……‥本当に仲良かったんだよ…いつも一緒にいて、遊びに行って、合奏したり、歌ったり…。…私の中で、まだ整理しきれていなかった…急に現実で…‥行かなきゃ…。や、でも行けない。私自身を守るために…。でも行かなきゃ…」

 なぜか、ふと僕は、祖父があの世へ旅立った日のことを思い出していた。病室は7階だった。祖父が息を引き取った後、気がつくと、1匹のコウモリが天井を舞っていた。コウモリが7階の高さまで飛べるのかどうかは知らない。だけど、その時、舞っていたのは確かにコウモリだった。
 数日後のお葬式。祖父がいつも寝ていた畳の広間に親戚が集まっていた。何もかもすべてが終わって棺桶が閉じられると、部屋の中に1匹のコウモリが舞っていた。きっとあの時、部屋にいたみんなが考えていたことは同じだっただろう。誰もそのコウモリを追い払おうとはしなかったのだから。
 火葬場へ運ばれて、骨を拾い、部屋に戻るとコウモリの姿は消えていた。

 彼女が言った。
「聞いてくれてありがとう。落ち着いた。行ってくる」
「うん…またロンリーになったら連絡して」
「うん。ありがとう。おやすみなさい」

 さっきまで何事もなく、何も思い出さなかったかのように、また時間は流れ続けた。  
Posted by kareshi at 23:59

2005年08月25日

記憶に近い風景 No.54

 ところで、話はずっと戻るけど、東京の彼女の話を聞いてくれる?最愛の人の話だよ。あの時の2人の距離は大して遠くもなかった。だけど、気軽に歩いて行けるような距離ではない。毎晩は会えない。できることは手紙にメールに電話。
 あの海岸で、同居人に浮気を打ち明けられた日(→記憶に近い風景 No.18)から、しばらく音信不通だったけど、すべてが終わった後で、僕から連絡してみたんだ。
 そうして、僕たちの恋はまた始まった。

「実はね、最近、ストーキングされてたの…」
「誰に?」
「前、私に好きだと言った人。夜中に非通知の無言電話がよくかかってきてた。後をつけられたりもしたわ。少し急ぎ足で部屋に戻ると、電話がかかってくる。爐かえり瓩辰董8紊らつけられない日もあったんだけど、そういう日は、玄関のドアノブに手をかけた瞬間、ネチャッってするの」
「えっ?」
「白くて、ベトベトした液ね。ちょっといろいろ忙しくて、電話もしばらくできなかったの。でも、もう大丈夫。だいたい解決したわ。でも…、何だか思い出したら、少し怖くなってきちゃった」
「心配だ…」
「ありがとう。このまましばらくもうちょっと、電話付き合って」
「……」
「……」
「この電話越しの沈黙、キスしてるみたいだね」
「うん」
「次に会った時は、最初にキスしようね」
「うん………」
「……」  
Posted by kareshi at 23:59

2005年08月24日

記憶に近い風景 No.53

 人生は、戦いで、どんな逆境や向かい風にも歯を食いしばって生きていくものだと思っていた。恋も愛も奪い合い。だけど、本当はすべて、もっと安らかなものなのだろう。
 花が散るのを見て人は悲しむね。
 だけど、花が開いて落ちるのは、木が成長して、果実をつけるためだ。果実がやがて落ちたら、豊かな土が生まれる。
 花も実も土に帰り、生命は生命を生む。
 きっと何年も経ったら、誰に騙された、とか、誰を憎んで、誰に憎まれた、なんていうのはさほど重要なことでもなくなっているのだろう。楽しい思い出はいつまでも残って、悲しい思い出は忘れていくものだから。

 そして、花はまた咲く。

 嫌という程、疑って、人は信じることを知るのだろう。
 嫌という程、偽って、人は真実になるのだろう。  
Posted by kareshi at 23:59

2005年08月22日

記憶に近い風景 No.52

 ねぇ、人はたくさん泣く生き物だよ。だけど、どんなにくじけても転んでも、最後に起き上がれたらいい。どんなに泣いても苦しんでも、最後につかめばいい。
 美しい恋や至福の時を。  
Posted by kareshi at 23:59