綛田芳憲 ある政治学者のブログ

綛田芳憲の個人ブログです。主な研究対象は、日本の政治外交、北東アジアの国際政治(特に、北朝鮮を巡る国際政治)です。

 ここで検討する問は以下の4つである。

    米朝首脳会談で、北朝鮮の非核化はどの程度進展するのか。

    米朝首脳会談で、米朝国交正常化は実現するのか。

    米朝首脳会談後に、北朝鮮が核兵器開発、弾道ミサイル開発を再開する可能性はどの程度あるか。

    米朝首脳会談を開催する北朝鮮の狙いは何なのか。

 20171月のトランプ政権発足後、米朝対立は緊張の度を強めたが、20182月の韓国の平昌五輪を契機に、北朝鮮は強硬路線から融和路線への政策転換を早い速度で進めてきた。2018427日には南北首脳会談が開催され、6月12日には初の米朝首脳会談が開催される予定である。ここでは、上記の4つの問題を検討する。

 非核化の進展については、基本的に、米国が北朝鮮の要求を受け入れる程度に左右されると思われる。より具体的には、米朝関係の改善が進み、国交正常化が実現するかどうかに大きく規定されると考えられる。北朝鮮は、これまで米国に対して朝鮮戦争を終結させる平和協定の締結を含む国交正常化を求めており、その要求はクリントン政権期の1994年に結ばれた米朝枠組み合意、ブッシュ政権期の2007年に結ばれた6者協議合意にも反映されることになった。

 しかし、米国は合意後も北朝鮮との国交正常化に消極的な姿勢を示してきた。それは、米朝国交正常化に伴い北朝鮮の脅威が消失すれば、米国の韓国、日本への影響力が低下することが容易に予想されるからであると考えられる。その点を考慮すれば、今回の米朝首脳会談でトランプ大統領が金正恩委員長に非核化の見返りとして国交正常化を約束したとしても、再度履行が滞る可能性が否めない。

 そうなった場合、枠組み合意、6者協議合意の崩壊後に見られたように、北朝鮮が核実験やICBM開発を再開するかどうかが問題となる。この点については、金正恩政権下で核兵器開発が進み、金正恩委員長が、20171129日には「国家核戦力の完成」を宣言し、2018420日には経済成長に重点を置くことを唱え、核実験場を廃棄する方針を示したことなどから判断すれば、以前に比べて核兵器開発を再開する可能性は低いと思われる。

 金正恩政権としては、核実験場の廃棄などの非核化措置を実施して行くことで、米国との関係正常化、特に米国による経済制裁の緩和を実現したいと考えていると思われるが、米国が以前のように消極的な対応を取っても、北朝鮮としては、中国、韓国、ロシアとの経済関係を活性化できれば、それによって少なからぬ経済成長を遂げられると考えているのではないかと思われる。
 
 中国、韓国、ロシアとしても、金正恩政権が主張する段階的な非核化に対して理解を示しており、また、北朝鮮との経済交流、或いは、北朝鮮を経由した貿易を拡大することに大きな利点を見出しており、北朝鮮が非核化措置を実施して行けば、これら三ヶ国との経済交流が活性化し、北朝鮮経済は着実に成長を遂げると思われる。また、中韓露との経済交流が拡大し、その重要性が高まれば、北朝鮮が核実験や
ICBM実験を再開する可能性は更に低下すると推測される。中韓露は、米日とは異なり「完全且つ検証可能で不可逆的な核廃棄(CVID)」を強く要求していないので、経済交流が拡大しても、米朝国交正常化の進展なしにはCVIDの実現は困難であろう。

 

 2017417日の『WEDGE Infinity』に、「“斬首”より”別荘にようこそ” 金正恩に核開発を断念させる方法」という記事が掲載された。執筆者は、産経新聞前論説委員長の樫山幸夫氏である。

 そこで、樫山氏は、「トランプ大統領が、安倍首相、習主席を招いたフロリダの豪華別荘に、金正恩を招待する。思い切って歓待し、「あなたの政権は認める。国交を樹立し、友人として付き合おう。だから核兵器はやめてほしい」といって、経済協力などお土産を持たせてやる――」という方法で、金正恩委員長に核開発を断念させることを提案している。

 樫山氏は、この方法を「北朝鮮の望みを最大生かし、核開発断念というをとる。肉を切らせて骨を切る方法だ」とする一方、「突飛なアイデアかもしれないし、成否もむろん、わからない」としている。

 これは、「肉を切らせて骨を切る方法」と言えるのか疑問の余地はあるが、要するに、大きな譲歩をすることで、相手から大きな譲歩を引き出すという方法である。そのような交渉方法は、「突飛」ではなく、至極一般的なものである。成否に関しても、成功事例は多くある。北朝鮮の核開発を巡る米朝交渉においても、成功例がある。その代表例が、1994年の米朝枠組み合意の成果である。

 具体的には、199410月に、クリントン政権は、年50万トンの重油供給、軽水炉2基の提供、米朝国交正常化などの見返りを提示することで、北朝鮮に、核施設の稼働を停止し、核兵器の原料となるプルトニウムの抽出を中止することを合意させた。これが「米朝枠組み合意」である。その後、軽水炉の提供、米朝国交正常化は実現しなかったが、ブッシュ政権が誕生した翌年2002年の末に合意が崩壊するまで、8年余り北朝鮮は核施設を凍結しプルトニウム抽出活動を停止し続けた。

 このように、クリントン政権は、北朝鮮に大きな譲歩をすることで、北朝鮮から大きな譲歩を勝ち取った。これは、非常に重要な事実である。この点については、樫山氏も、「8年間にわたって、核開発を凍結、比較的平穏な米朝関係がたもたれた事実は重い」と高く評価している。


 北朝鮮に核兵器開発を断念させる方法としては、主に、1)見返りを提供する方法、2)圧力を掛ける方法がある。つまり、アメとムチである。もちろん、一方だけでなく、両者を組み合わせる方法もある。

 北朝鮮の核兵器開発を巡る米朝対立の歴史を振り返ってみると、これまで、クリントン政権以降、ブッシュ政権も、オバマ政権も、北朝鮮に対して、クリントン政権ほど大きな譲歩をしたことはない。枠組み合意に批判的であったブッシュ政権は、圧力重視の強硬政策をとり、枠組み合意を崩壊させた。その後、北朝鮮に対して金融制裁を実施したことで、北朝鮮は反発を強め、2006年に初の核実験を実施した。圧力重視政策が、北朝鮮の核兵器開発を促進した事例と言える。

 クリントン政権は、米朝枠組み合意で大きな譲歩をする前に、北朝鮮に対して、それまでで最も強い圧力を掛けた。この事例は、大きな圧力を掛けた後に、大きく譲歩することにより、北朝鮮から大きな譲歩を引き出せる可能性があることを示している。

 トランプ政権は、政権発足後、これまで以上の圧力を加えようとしている。問題は、その後に、大きな譲歩を示すかどうかである。これまでの米朝関係を振り返れば、大きな譲歩をすることは、「弱腰外交だ」といった批判や強い反対に直面することが予想され、容易ではない。そのような状況を打開するには、強い指導力を発揮する必要がある。果たして、トランプ大統領にそれが出来るのか。

 北朝鮮による日本人拉致の問題(拉致問題)は、日本にとって非常に重要な問題であることは、今更、言うまでもない。

 2002年9月の第1回日朝首脳会談後、5名の被害者が帰国し、2004年5月の第2回日朝首脳会談後、5名の被害者の家族が来日した。しかしその後、拉致問題は実質的な進展を見せていない。被害者のご家族も高齢になり、お亡くなりになった方もいる。一刻も早い問題解決が望まれる。

 問題は、どうやって解決するかである。

 その点に関して、「北朝鮮による拉致被害者家族会」(家族会)、被害者家族を支援する「救う会」は、2017年4月23日に開催した「拉致問題を最優先として今年中に全被害者を救え!国民大集会」において、決議案を採択し(以下に引用)、日本政府に対して、以下の要求を行った。

1)
核・ミサイル問題と切り離して全被害者救出のための実質的協議を最優先で実現すること
2)協議では、全被害者帰国の見返り条件として独自制裁解除な
どを使うこと

 家族会、救う会のこのような立場は、朝日新聞などでも報じられた。

 独自制裁の解除については、決議案の別の箇所で、「核・ミサイルに関して国際社会と共に圧力を強めることと、わが国独自の制裁解除などを見返り条件とし全被害者救出のための実質的協議を行うことは矛盾しない。わが国の独自制裁は拉致を理由にしているので、金正恩政権が拉致被害者全員帰国を決断すればその解除を見返りとして与えることができるからだ。わが国の独自制裁は拉致を理由にしているので、金正恩政権が拉致被害者全員帰国を決断すればその解除を見返りとして与えることができる」との説明がされている。

 実際、日本政府は、拉致問題での進展を図るため、2014年5月に日朝合意を結び、同年7月に独自制裁を部分的に解除したことがある。従って、同様の措置を再度取ることは可能である。しかし、2014年に部分的に解除した制裁は、その後、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展に伴い日朝関係が悪化する中で、拉致問題での進展も見られなかったため、復活することとなった。

 また、2014年の部分的制裁解除は、かなり限定的であった。それは、日本の独自制裁が、日本人拉致だけを理由としているのではなく、核・ミサイル開発も理由としていたからである。実際、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展に伴い、日本は独自制裁を強化してきた。それを考慮すれば、核・ミサイル問題と切り離して、拉致問題で北朝鮮の譲歩を引き出すためだけに、独自制裁を全面的に解除する、或いは、輸出入禁止措置を解除するなどの大幅な解除をすることは容易ではないだろう。

 このように、拉致問題の解決のために独自制裁を解除する場合、どの程度解除するのか、また、制裁の解除がどの程度の成果を生むのかは、核・ミサイル問題の状況に影響される。日本政府としては、拉致問題を巡り北朝鮮と二国間協議を行うことは出来るが、残念ながら、独自制裁を解除することも、それにより拉致問題で成果を挙げることも、核・ミサイル問題の悪化により、難しくなっている。

 このような困難な状況において、拉致問題で成果を挙げるには、日本政府はこれまで以上の努力を注ぐ必要がある。
 
<以下、「救う会」HPからの引用>

◆決議案採決

笠浩史(拉致議連事務局長代理)

 みなさん長時間お疲れ様です。最後に決議案を朗読させていただきます。

 本日、私たちは「拉致問題を最優先として今年中に全被害者を救え!国民大集
会」を開催した。北朝鮮が昨年2回の核実験を強行し、繰り返しミサイル発射の
暴挙を続ける中、米国を初めとする国際社会は軍事行動をも含む全ての手段をテー
ブルに載せて圧力をかけている。それに対して金正恩政権は核先制攻撃も辞さな
いなどという脅迫の言辞で緊張を高めている。私たちはこのような情勢の中で、
拉致被害者救出の旗が吹き飛ばされてしまうのではないかという強い危機感を持
ち、本集会に集まった。

 危機をチャンスに変えるため、私たちは昨年より拉致被害者救出を核・ミサイ
ル問題と切り離して最優先で取り組むよう政府に要求してきた。核・ミサイルに
関して国際社会と共に圧力を強めることと、わが国独自の制裁解除などを見返り
条件とし全被害者救出のための実質的協議を行うことは矛盾しない。わが国の独
自制裁は拉致を理由にしているので、金正恩政権が拉致被害者全員帰国を決断す
ればその解除を見返りとして与えることができるからだ。

 北朝鮮人権法に明記されているとおり、拉致は「北朝鮮当局による国家的犯罪
行為」だ。犯罪被害者救出は政府が最優先で取り組むべき責務だ。だからこそ、
核・ミサイル問題での国際連携強化を進めつつも、北朝鮮からの被害者帰国を早
期に実現せねばならない。拉致問題がいかに重大な人権侵害事案であるかを国際
社会に訴えてきたのもこの時のためだった。あらためて政府に、核・ミサイル問
題と切り離して、独自制裁解除などを見返り条件として使い全拉致被害者救出の
ための実質的協議を行うよう求める。

 被害者が彼の地で祖国の助けを待っている以上、私たちは負けるわけにはいか
ない。今年中に必ず救い出すという決意を込めて以下の決議を行う。

一、北朝鮮は、今すぐ、拉致被害者全員を返せ。全被害者を返すための実質的協
議に応ぜよ。

二、政府は、核・ミサイル問題と切り離して全被害者救出のための実質的協議を
最優先で実現せよ。協議では、全被害者帰国の見返り条件として独自制裁解除な
どを使え。

三、北朝鮮が全被害者を返す決断を渋る場合に備えて、政府と国会は、新法制定
なども含むより強い独自制裁をかける準備をせよ。地方自治体は、朝鮮学校への
補助金廃止、朝鮮大学校などの各種学校認可の再検討を行え。

平成29年4月23日

「拉致問題を最優先として今年中に全被害者を救え!国民大集会」参加者一同

(出典:『救う会 全国協議会』http://www.sukuukai.jp/mailnews/item_5902.html )

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