北朝鮮の核兵器開発は、日本にとっても国際社会にとっても望ましくない事態であり、日本をはじめ多くの国から非難されている。しかし、非難が多いことは、北朝鮮の核兵器開発が「異常」であることを意味する訳ではない。

 国際政治学の観点から見れば、国家が自国の安全保障のために敵国の軍事力に対抗しようとするのは、通常のこと、普通のことである。この見方は、特に学問的なものではなく、極めて常識的なものであると言えよう。

 北朝鮮の核兵器開発は、このように学問的にも一般的にも受け入れられている「国家が通常行う安全保障上の措置」と考えられる。

 北朝鮮が主に敵対している国はアメリカと韓国である。北朝鮮が両国と戦った朝鮮戦争は、1953年に休戦協定が締結され休戦となったが、その後今日まで、平和条約が締結されていないため、終結していない。

 北朝鮮が敵対関係にあるアメリカは、言うまでもなく、世界最強の軍事大国であり核兵器大国である。そのアメリカの核戦力に対して、核戦力で対抗するために、北朝鮮は核兵器開発を進めていると考えられる。北朝鮮自身も、自国の核兵器開発をそのような対抗措置であると説明してきた。

 北朝鮮は、1961年に中国(中華人民共和国)と中朝友好協力相互援助条約を締結し、同盟関係にある。しかし、中国は、1979年にアメリカ、1992年に韓国と国交を正常化し、それ以降、密接な経済関係を築いてきた。その結果、北朝鮮にとって、同盟国としての中国の信頼性は大幅に低下することになった。

 中朝友好協力相互援助条約の第三条は、「いずれの締約国も、他方の締約国に対するいかなる同盟をも結ばず、また、他方の締約国に対するいかなるブロック、行動又は措置にも参加しない」となっているが、中国は、北朝鮮の核兵器、弾道ミサイル開発に対する国連安全保障理事会の制裁決議(2006年に初めて採択)に反対せず、決議を履行する姿勢も強めている。その結果、中朝関係は更に冷却化し、同盟の形骸化が進んだ。

 同盟国中国の信頼性が低下する状況で、世界最強のアメリカの核戦力に対抗するには、
核戦力を保有し増強する必要があると北朝鮮が考えたとしても驚きではない。

 
「核戦力には核戦力で対抗する」という措置は、国家が一般的に取る措置である。韓国、日本の場合は、同盟国の核の傘に入る形で、アメリカの核戦力で間接的に対抗する形を取っている。北朝鮮の場合は、同盟国である中国の核の傘の信頼性が低いため、独自の核戦力を保有し、増強することを目指してきたということである。

 アメリカと同盟を結び、米軍も駐留している韓国ですら、
北朝鮮の核兵器開発の進展に伴い、核武装論が強まっている。仮にアメリカとの同盟関係がなくなれば、韓国が核武装する可能性は更に高まるだろう。日本の場合も同様である。