前回は中国オタク界隈における字幕組の活動の背景やその変化について紹介させていただきましたが、今回はその字幕組が現在直面している「公式配信の急増」などによる影響に関して大雑把に紹介させていただこうかと思います。

中国のオタク界隈における字幕組の存在感は非常に大きなものがありました。その合法性はともかく、オタク系コンテンツ供給の大元になっていたのは間違いありませんし、字幕組の最盛期では、中国におけるアニメの人気と流行、作品に対する感性が字幕組によって作られていたといっても間違いではないかと思われます。

またこういった背景があるので、中国オタク内では字幕組の活動を違法だと知りつつも、切り捨ててしまうのは感情的に納得しきれない面もあるようです。現在の中国のアニメ人気やオタクコミュニティはそういった非正規、違法コンテンツの上に発展してきた経緯がある上に、ファンサブ活動を実際に行っていた人間がマニア層には少なくありません。

最近は現地のオタク層にもファンサブ活動が一般的にはアウトなモノであるという知識は浸透しているようですが、面と向かって完全否定される、一律に悪だとバッサリやってしまうと不快に感じるという話も聞きます。

しかし、そんな字幕組の活動も現在は最盛期に比べて徐々に落ち込んでいっているようです。
その原因として大きいのはアニメの正規配信の増加だと思われますが、なぜ今になってこういった影響が出るようになったのかについて考えてみると、以下のような要素が思い当たります。


・字幕組を取り巻く環境の変化
まず、ここしばらくの間で中国のネット業界における競争と淘汰が進んだことによって中国の動画サイトの勢力図が変わり、現在は大手が数サイト生き残る結果となったという点があります。

これにより、生き残った大手動画サイト同士が小競り合いを避けお互いの面子をある程度尊重するようになり、版権獲得作品の削除要請もスムーズに行われるようになりました。この辺は2011年に土豆がテレ東から番組を大量に獲得したと言うニュースが流れた当時と比べてかなり大きな変化ですね。

そして正規に権利を取得した現地動画サイトが自己の利益を護るために動画サイトの非正規動画の削除(及び他の動画サイトへの削除要請)を迅速に行うようになるいうことは、非正規のファンサブ動画をアップロードする集団への圧力にもつながります。

これによりファンサブ動画をアップし難い、アップしても消されてしまうといった状況になったので、動画サイトを主な活動の場所に移していた字幕組にとっては結構な打撃となったそうです。

更に、今までは原則中国国外からになるのでロジック的には可能ではあるもののコストや手間の面から現実的ではないだろうということで、中国オタク内では意識されることのなかった「権利者による侵害対策」が、国内の企業が権利を取得したことにより現実味をおびてくることになりました。そしてその結果、リスクとまではいかなくとも
「プレッシャーを感じる」
ようになったのは確かだそうです。


・ダウンロードには戻れない
動画サイトに関しては大手サイトのパワーバランスの変化に加えて、最近の中国オタクのオタク的ライフスタイルにおいて、動画サイトの存在感がこれまでに無いほど強くなっているという点もあります。

ネット環境やツールの整備向上もあり最近は見る側もいわゆるニコニコ動画的な弾幕コメント系のサイトにおいて、疑似同期で見る楽しみ方に慣れてしまったので、
「もうダウンロードして一人で見ていた昔には戻れない」
といった状態になっている人が少なくないそうです。

自分達のアップした動画に関して反応があるというのがファンサブ活動の大きなモチベーションになっていますから、アップする側も
「ダウンロードして見ればいい」
とバッサリやるわけにもいかなくなっているようです。


・「人気獲得」「支持獲得」のできる作品の予想が難しくなってきた
次に、日本の新作アニメの傾向の変化があります。
最近はオタク向け的な作品を中心とする深夜枠アニメの増加もあって1クールアニメがいよいよ増えてきていますし、「新番」のアニメが毎期ごとに出てきて放映中の作品もどんどん入れ替わります。そのため字幕組がファンサブ字幕を付けるアニメ作品の選定が難しくなっているそうです。

字幕組のモチベーションの重要な要素として
「注目を集めて人気になる」
「自分達が加工してアップした動画が多くの人に見てもらえる」
というのがありますから、字幕組としては
「人気アニメ、大作アニメに字幕を付けたい」
という考えになります。

昔は作品の入れ替わりが今ほど激しくなかったのに加えて、中国オタク内に入る情報の量も限定的だったので中国オタク内でウケる、話題になる作品の予想に関しては分かり易い所もあったのですが、最近は番組も増えていますし、人気になる作品を予想するのがいよいよ難しくなってきているかと思います。
実際、最近は毎期ごとに予想外の面白さでダークホース的な人気を獲得するアニメが出ていますしね。

そして手間をかけて字幕をつけても作品があまりウケなければ見る人間も増えず反応も目立たないといったことになりますから、加工した側としては徒労になる(と感じる)ケースも増え、モチベーションの維持が難しくなってきているという話です。


・公式字幕とのクオリティ差の縮小、或いは逆転
そしてもう一つ、ファンサブが中国オタクの間で高く評価される理由であった
「公式や海賊版よりも字幕のクオリティが高い」
という点に関しても変化が起きています。

昔は字幕組によるファンサブ字幕は
「作品への愛があり、作品を理解している人間が翻訳しているので商業的な字幕よりレベルが高い、面白い」
とされてきましたし、実際昔は海賊版ではない商業的なモノでも、アニメ関係についての知識がある人が少なかった上にやっつけ仕事ということも珍しくなく、レベルの低い字幕が少なくなかったそうです。

以前の記事でも紹介させていただきましたが、最近は本腰を入れてアニメの公式配信を行う所が増えてきたことから、公式配信の字幕のクオリティがかなり向上してきており、現在はファンサブ字幕との差も縮小して見方や好みによっては逆転しているケースも出ているそうです。

ここ数年の間に中国では若い日本語スキル持ちの人間が増加し、それに加えてネットの進歩によって翻訳サイトなどのツールが進化し、参照できる例文や用語も増加しています。更に日本の文字放送による補助もあり、昔に比べて翻訳がかなりやり易くなってきています。

もちろんファンサブグループ側もこの恩恵を受けてはいるようですが、ツールや人材を活用できるのは公式配信側も同じです。それに加えて公式配信側は映像データだけでなく資料や台本といったものまで公式ルートで迅速に入手できるという、ファンサブグループが持ちえない強みがあります。またアニメや漫画を見て育った世代、「分かっている」世代が社会に出ていますから、公式側にいる人間に「オタクの知識がある」ケースも珍しくありません。

そのため、現在は字幕翻訳のクオリティにおけるファンサブと公式配信の差はそこまで絶対的ではなく、好みの差を考慮しなければ、むしろ資料や組織のバックアップのある公式配信側の方がクオリティ面で安定していることすらあるようです。

しかも大多数の人間にとって、違和感のないレベルの翻訳であれば細かい翻訳センスに関する差についてそこまで明確には感じられません。特にアニメはライトな層が大量に見ているものでもあるので、一部のマニアやじっくり何度も見る熱心なファンでもない限り、字幕の質に関しては一定以上であればOKといった所もあります。

新作アニメに関しては「早さ」が求められる所がありますし、趣味でやっている人間が多いファンサブはどうしてもムラが出ます。
一定以上のクオリティの字幕を定期的(しかも番組データがネットに流れてから可能な限り早く)に供給するという点において組織のバックアップやリソースのある公式配信側と競うのは段々と厳しくなっているそうです。

それに加えて、中国のファンサブ界隈においては人が入れ替わる際にファンサブ関係の技術、翻訳や字幕加工のノウハウなどの技術の継承があまり行われていないというのも、「公式との差」という点で考えた場合に無視できない要素になってきているそうです。

ファンサブは基本的に趣味でやっている人が多く、忙しくなったり仕事をはじめたり他に興味を覚えるものが出たらやめてしまう人も少なくないので、日との入れ替わりもそれなりに多いので、クオリティの安定と向上という面ではなかなかに難しい所があります。
それに対して企業の方はノウハウの蓄積や引き継ぎが行われますし、開始当初はグダグダな字幕であっても、商売でやっているのでいずれはそれなりのもの、「見れる」レベルまで引き上げて来ます。


・アニメ字幕の有難みが薄れた、手間の割に評価されない
最後に、中国のネットの状況の変化や、ファンサブ字幕を付ける側の事情に加えて、ファンサブ字幕加工されたアニメを見る受け手側の中国オタク層の意識が変化している点も無視できません。

これは言ってしまえば、ファンサブ字幕加工されたアニメの
「有難みが薄れてしまった」
という所でしょうか。
少なくとも昔に比べて字幕組の加工した動画が有難いとされなくなっているのは確かなようで、下手すれば「あって当然」みたいな扱いをされてしまったりもするようです。

受け手側がファンサブ字幕付きのアニメがあるという環境にすっかり慣れてしまっている上に、公式配信によるアニメも増加しているわけですから、昔に比べて「餓え」のようなものは薄れています。
見る人間の感謝が無くなったわけではないでしょうが、あって当たり前的な扱いも見え隠れするようになってきているそうです。

しかも情報や比較対象が増えている上に、フォーラム以外にもweiboやコメント付き動画サイトなど手軽に参加できるネットの交流媒体が増えて来ていることから、昔に比べてクオリティや間違いに関する批判や揚げ足取りをされ易くなっています。

そんな訳で、ファンサブ活動をやっている側からすれば
「やってられない」「割に合わない」
という考えにもなってしまうそうで、最近はどうせ翻訳するなら、
「アニメ以外の方が楽だしウケる」
ということで、日本語スキルを持っている人間がアニメの字幕以外のジャンルに流れているという話です。

最近そういったファンサブ翻訳関係で人気や需要があるのは日本のオタク界隈の最新情報や、業界情報、ディープな日本事情、クオリティの高いオタクネタやら同人誌といったものだそうで、現在はその辺を中国語化する方が注目されてウケを取れるといった考えも広まっているそうです。

コチラに関しては競合する相手が少ない上にクオリティに関する要求もそれほどでは無く、しかもアニメのファンサブ字幕に比べて労力が少なくなるケースも多いですから、現在のアニメのファンサブ字幕にかかる労力と返ってくる反応を考えると、「アニメよりも楽だしウケる」という所は確かにありそうです。



グダグダと書いていたら妙に長くなってしまいましたが、以上のような要素が影響して中国のアニメのファンサブの動きに勢いが無くなってきているのではないかと思われます。

最近の中国オタク界隈では、技術と環境の面に加えて、モチベーション的な面もあり、アニメのファンサブ活動というのが昔に比べて
「楽しくてウケる、評価される」
ものではなくなってきているのは間違いないようです。ファンサブ加工自体は昔に比べて簡単になっているとは思うのですが。

ファンサブで加工されたコンテンツが勝手にネットにアップされてしまうことは、日本語のオタクコンテンツが出続ける限り無くなることはないでしょうし、アニメのファンサブが消えることも無いと思います。
しかし、昔のような中国オタク界隈における根幹的な要素ではなくなっていくのではないか……という気もしますね。

とりあえず、こんな所で。
例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。

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