カルデアエース掲載の東出先生の荊軻と始皇帝の小説の件ですが、前の記事
中国オタク「始皇帝を怪物にするなど許されることではない」「始皇帝がアーサー王ごときに匹敵だと?ふざけるな!!」
にもあるとおり中国オタク界隈では非常に強い反発が出ており炎上中のようです。

実際、私の知り合いの中国オタクの方からも
「始皇帝を醜い肉の塊にする意味が分からない。全くの説明不足で作者の力量を疑う。描写する力量が無いならこういうものを書くべきではない」
などといった、極めて強い反発が出ました。

私も反発が出るかもしれないとは考えていましたが、ここまで強烈な反発が出るというのは予想外だったので、ついでにちょっと
「では始皇帝はどのようなサーヴァントなら良かったのか?中国で求められているのはどういったサーヴァントなのか?」
と聞いてみた所、以下のような返答をいただきました。

・始皇帝は皇帝という概念を創った存在であり、全ての帝王像の基礎なので特別な解釈はいらない

・装備やスキルも戦車や長剣、弩、兵馬俑などオーソドックスなものであればいい

・不老不死への追及は国家と万民を自分が全て背負わなければならないといった思考によるものなどにすればいい


ちなみに、理想実現のための不老不死に関しての話はマキリ・ゾォルケンっぽい所を感じたので、あの方向はどう思うかと聞いてみた所
「マキリ・ゾォルケンは悪の博士っぽくて帝王感が足りない」
とのことでした。

さて教えていただいた話によると
「余計な解釈はいらない」
「オーソドックスにやってくれればそれでいい」

という点が強調されていたのですが、ここから既に食い違いのようなものが出て来て私も少々困惑してしまいました。

もしも「日本のイメージでオーソドックスに」やってしまったら功績の評価も結構アレなことになるような……
中華統一して皇帝の概念を創り様々な改革を打ち出したことは凄いものの、改革を急ぎ過ぎ、土木工事やり過ぎて民を疲弊させて、しかもオカルトにハマって水銀中毒で自分の寿命も縮めて更に全国巡遊中に死亡して趙高の専横や後継者問題勃発させて国も項羽と劉邦に滅ぼされたとかになるけど、それでいいのだろうか?
功績の部分を強調して、暴君的な面や不老不死の追及に関する解釈の修正を入れていくとかしないでいいんですか?
司馬遼太郎の「項羽と劉邦」の始皇帝みたいなの出しても大丈夫なんでしょうか?と……


私自身もこの炎上まではあまり意識したことは無かったのですが、日本と現在の中国では始皇帝の評価や捉え方に結構な違いがあるのではないかと思われます。
きちんと調べたわけでは無いのでハッキリとは言えないのですが、現代中国ではイデオロギー的な面からも含めて始皇帝の再評価が行われたりしているようですし、日本では項羽と劉邦など楚漢時代の人気と知名度が高く、漢の資料ベースによる評価の影響が強いといった辺りも理由として思い浮かびます。

また、文化や社会的な背景の違いが始皇帝のエピソードの評価に影響していることも考えられます。
例えば上でも出ている不死の追及やそれにまつわる水銀中毒などに関しても、聞いた話によれば
「世界の頂点である皇帝になったならば不死の追及をするのは当然」
という所もあるようですし日本のようなやらかしたイメージ、尽きぬ欲望による愚者的な面が強調されるものでは無いとのことでした。

この永遠の命を求めたことに関しては、仙人関係の扱いや永遠の命に関するイメージの違いも影響しているような気もしますね。
中国オタク「永遠の命って死ぬより怖いことなの?」
国オタク「仙人が題材の作品って日本人には理解できないんじゃないの?」「日本人は修仙で何やるかも知らんだろ」

ちなみにこの件について相談した中国オタクの方も、今回の件で知った日本の始皇帝事情のイメージに関して意外なことがあったようで、例えば
日本のソシャゲの中華歴史ネタ系レアキャラとしての始皇帝や、ぼくのかんがえたサーヴァント wikiの始皇帝などは中国のイメージで見ても問題無かったものの、日本のネットで出回っている始皇帝に関するまとめ情報には
「功績が殆ど出てない」
と面食らったりもしていたようです。

中国でも古典の時代から始皇帝が反面教師的な扱いにされることはあるものの、現在の中国においては学者の間では始皇帝の功績を肯定的に評価する人も多く、理屈好きなオタク層の間でも突出した英傑のイメージが強いとのことです。

そんな訳で始皇帝に関して中国では多大な功績のある凄くて偉大な英傑といった扱いになる模様ですし、強調される功績や、ネガティブなエピソードの扱いと受け止め方などに関しても日本との違いがあったりもするようです。

中国でも始皇帝が悪役扱いにされることはあるので別に善玉にする必要は無いらしいのですが
「悪役扱いはともかく、重厚な強さや凄さの描写は欲しい」
「邪悪な存在といった扱いは違和感がある」

のだとか。

そしてそういった英傑である始皇帝には異質、異形な怪物というイメージも無く、東出先生の作品における描写に関しては
・醜悪さが付けたされる理由も無い
・そもそも説明が足りない説得力が無い
といった強烈な反発が発生した模様です。

ちなみに中国では始皇帝のキャラ認識的に、TYPE-MOONでの異形形態持ちのキャラや存在と結びつくことも無かったようです。


実は私は始皇帝に関しては中国における人気サーヴァントや出て来る名前の頻度的にギルガメッシュやイスカンダル的なキャラが求められているのかとも考えていましたが、今回の反応や教えていただいた話から考えると求められているのはオジマンディアス的な方向だったのかなーという印象も受けました。
(中国オタク界隈ではオジマンディアスの知名度はまだ低いようなのですが)

そんな訳で今回の炎上に関しては
「(中国の感覚で)普通に考えてオジマンディアス的な方向のFate屈指の強力さを持ち、偉大さのある正統派サーヴァントだろうと想像されていた所に、イメージと全く関係が無いような怪物的存在を出されて大炎上」
といった所もあるのではないかと……


今回の件における中国の反応に関しては最初は私もあまり気分の良いものではなかったのですが、イロイロと調べていった結果、始皇帝に関しては政治的社会的な背景も含めて日中で評価やイメージが違うというのを意識させられることになりました。

怪物化という点で地雷を踏み抜いてしまった感もありますが、
「日本における始皇帝の評価やイメージ」
で始皇帝を描こうとする限り、どこかで炎上する案件だったのでは……という気もしてしまいますし、中国の歴史ネタを現在の中国市場向けに展開することの難しさを改めて実感させられる非常に興味深い事件のようにも思えます。


とりあえず、こんな所で。
例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。




以下、個人的な話なので読み飛ばしていただいても問題ありません。

今回の件が中国オタク事情的な方向から見れば炎上する理由も理解はできるのですが、私は東出先生のファンなので、理解されるとか楽しむとか以前の段階で止まってしまったような所も見受けられたのは非常に残念に思ってしまいます。

しかし正直な所、東出先生の作品の話の膨らませ方で中国の歴史ネタを扱った場合、過去の作品や発言の傾向から考えてFateの公式ライターの中では最も中国で炎上する可能性が高いというのも認めざるを得ません。これはもう良い悪いではなく、創作の傾向と受け手の相性の問題かと……

現在の中国において、中国の歴史ネタは史実からの話の膨らませ方、独自解釈や創作のはさみ方、表現などに関しては制限がかかる所もあります。例えば石川賢的なノリやホラー映画的なノリはわりとアウトだとか。
言ってしまえば歴史的な事実から外れるのは許されない、こうあるべき歴史的評価から外れるのはけしからん、といった感じなのかもしれません。もちろんここでの「歴史的」なアレコレは現在の中国のものであって、過去の中国のものでも日本のものでもありません。

これが中国以外の国の歴史ネタならばそれほど知られていないのもあり、まだ大きな問題にはなり難いのですが、中国の歴史となった場合、「自分達中国人が一番知っている」という考えも加わってイメージ(中国の)から外れる、特にネガティブなモノや異質なモノに対する反発がかなり強くなるようです。

それに加えて中国では「Fate以前の作品」「Fateに影響を与えた作品」が意識されることは少ないですし、Fateそのものに関しても「Fate/Zero」から始まったという人が多いので、日本のファン向けであれば理解されるネタも中国では通じない可能性があり、それどころか「自分達の知っている正しい話」と違うということで拒絶されたり爆発炎上する可能性も考えられます。
面白さを追及したりサービス精神を発揮すればするほどリスクが高くなりかねないというか……


私がオタクになる過程で最も影響を受けたクリエイターは間違いなく東出先生です。
作品も楽しませていただきましたし、中国に留学していた当時は日本のオタク事情を知る上で東出先生のサイトには大変お世話になりました。

月姫や葉鍵系作品を知ったのも東出先生のサイトからでしたし、一時帰国した際に半年〜一年分の日本のコンテンツを仕入れる上でも非常に参考にさせていただきました。
恐らく東出先生のサイトが無かったら、私も中国オタク事情にここまで踏み込むことは出来なかったでしょうし、このブログも無かったでしょうね。

そんな訳で今回の件で東出先生の創作活動に影響が出てしまうのではないかというのが、個人的には一番心配です。