先日の第一報の記事の後、
中国で「無職転生」が配信中止になった模様
たくさんのネタのタレコミや質問をいただいておりますので続報まとめ的な物をやってみようかと思います。

まず中国のbilibiliで配信されていた1月新作アニメ「無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜」が配信中止になった件に関しては大体以下の流れのような経緯で発生してその後の混乱につながった模様です。


・「無職転生」は日本のネット小説系作品としては中国のオタク界隈における原作の評価が非常に高く1月の新作アニメにも注目が集まっていた所に、期待以上のクオリティでのアニメ化によって非常に良いスタートを切る。

・中国では1月のシーズンにおけるいわゆる覇権作品候補クラスの人気にもなり「なんであんな下品な内容のある作品が人気になるんだ!」という批判もオタク界隈内で出る。
ただしこのような人気作品への批判自体は毎シーズン出現する定番ネタでもあるので、この時点ではそこまで問題にはなっていなかった。

・第四話で主人公の父親パウロの浮気、そしてそれをかばって父親を許す方に持っていき家庭の維持を図った主人公の行為、それが成立するストーリー展開に対して作品の思想や価値観に問題があるという批判が爆発。ちょっとした炎上状態になる。

・bilibiliで活躍する大手up主(でいいんですよね?)のLexBurner氏が自分の動画で「無職転生」を批判し、無職転生視聴者を「人生の勝ち組ならばこんなアニメは見ない。これは勝ち組向けのアニメじゃない。無職転生を見ているのは社会の底辺、下水道の中で失敗した人生を送る人間だ」などと煽り大炎上、up主ファンと作品ファンの間で通報合戦が発生。
このLexBurner氏に関しては元々アンチ層も多かったことから、作品ファンだけでなくアンチ層も流れ込み容易に炎上につながったという見方もあるそうです。

・この大炎上がニュースとなって広まり、bilibiliのコミュニティの外からも人が入ってきて事態は更に拡大。「無職転生」の四話の展開に関しても伝言ゲーム的に広まって批判と通報が加速していった模様。
フェミニズム的な立場からの批判やそれに対する反発による炎上がそこかしこで発生。更に祭りに参加して騒いでやろうという人間も参戦。もちろん皆通報を武器にして。事態は混迷を極める。
(「無職転生」が配信中止になったりLexBurner氏のbilibiliアカウントが停止になったりしたのも大体この辺りのようです)

・bilibiliの過去のキャンペーンや関連発言が堀り起こされ女性を侮辱し、蔑視しているサイトとして批判の声が高まりbilibili批判の方での炎上にもなっていく。
bilibiliに広告を出しているというスポンサーからの撤収やbilibiliと協議中といった発言も出る。
bilibiliは春節直前の2/10に声明を発表して事態の収束を図るものの混乱は続く。

・春節になりました



といった所でしょうか。
言っては何ですが今回の件については個々の炎上要素を見ていくと中国では類似する事例もあるので、偶発的な炎上が連鎖して大変なことになったという見方はできます。
しかし同時に、現在の中国特有の事情からいつかは発生していた事件でもあるかと思われます。(さすがに春節に大爆発というのはアレでしたが)


中国のネット特有の事情としてはまず気軽に
「通報」
が行えるというものがあります。現在の中国では個人が非常に簡単に「許せないもの」に対して「通報」を行うようになっているそうです。

通報する人間が増え大規模になると上が動いて圧力をかけたり潰したりしてもらえることから実際にかなり効果的ですし、中国では「通報によってダメージを与えて勝利(?)」した経験のある人や通報の効果を実感している人も多いのだとか。

現在の中国のサイトを巡回していると通報のための入力フォームがほぼ完備されているのが分かりますし、政府機関への直接の通報に関しても関連サイト上で手軽に行えるようになっています。
そんな訳で今の中国では誰もが通報を手軽にできるようになっているのですが、これが現在の中国のネットでは非常に安価で強力な武器となってしまっています。

今の中国では注目を集めている人や作品、組織などが炎上気味になると通報が行われて追い込まれるといった事例が頻発しています。そして今回の件のように特定の作品のファンと批判者の争い、或いはコミュニティ同士での批判合戦になるとそれがそのまま「通報」という強力な武器を使った戦いになってしまいがちなのだとか。

またその際には「敵」を潰すために政府関係各所やメディア、フェミニズム関連などの上の大きな力を呼び込んで相手をぶちのめそうとする動きも取られることから、どちらも大ダメージどころか結果として戦場になった作品や分野が瀕死になってしまうといったことも珍しく無いという話です。

それに加えてこのような「通報」を武器にした戦いが繰り返された結果、個人でも組織でもそういった手法が洗練され続けているので、近年は「通報」の口実をアピールする、広めるという技術やそれによる炎上力も強化され続けているとのことです。

ちなみにbilibiliは2018年にサイト上の通報機能の不備や対応の悪さをメディア上で強めに批判されているのでまた対応の不備で怒られるのはかなりマズイという話も。
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それからもう一つの現在の中国特有の事情として、近年の中国社会ではフェミニズム関係からの抗議が強まっていて、その方面で各種メディアの態度表明や作品の取り下げなどが頻繁に出ている流れの影響も考えられるそうです。
今回の炎上についてもフェミニズム的な立場からの批判が強く出てきた面もあるそうです。

また中国国内のメディアでは男性の浮気がかなり強めに「批判されるべきニュース」として扱われているそうで、上の経緯にもあるような浮気、そして浮気をした男が許されるという展開は極めて卑劣なものだと受け止められるという事情もあるそうです。
そしてそれは創作であっても浮気が許容されるような思想や価値観は許されないとなって、批判も集中することになるのだとか。

この辺りについて中国のオタクな方から教えていただいた話によると、近頃の中国では男性アイドルファンの間で通報による殴り合いが発生して中央のメディアが意識表明をすることになったり、某女優の代理母出産問題でやはり中央のメディアが意識表明をするといった事態に発展した事件なども起こっているそうです。
そしてこちらの方でも通報による戦いの経験値が蓄積されているので、この方面に話が流れて人が入ってくるとやはり難しいことになってしまうそうです。


大雑把なまとめになってしまいましたが以上のような事情もあり、現在の中国では「通報」という強力な武器が簡単に行使されることにより炎上が拡散しやすくダメージも深刻なものになりがちで、「新たな人気作品」や「賛否両論な尖った作品」の出現と定着がかなり難しくなっている模様です。

ちなみに今回の件に関しては
「新型コロナの影響で各分野の動きが鈍りネットの存在感が増したことによって、bilibiliなどのオタク系プラットフォームが各種の宣伝、プロパガンダの場所としての属性を急速に獲得しつつあったことによる影響も考えられる……」
という話も教えていただきました。

こういった事情を考えていくと私も頭が痛くなってきますが、今後の中国オタク界隈はどうなっていくのでしょうかね。

とりあえず、こんな所で。
いまだに事態は収束していないようですし、私も全体像をイマイチ把握しきれていません。いつも以上にツッコミ&情報提供お待ちしております。

2/13修正:誤字脱字などを修正しました。ご指摘ありがとうございます。