ありがたいことにネタのタレコミをいただきましたので、今回はそれについてを。

最近は中国社会における娯楽コンテンツの規制についての話がよく流れてきますし、特定のジャンルや内容に関して「中国では難しい」といった扱いになることもよく聞きます。

しかしそういった難しいアレコレが発生する理由については上からの規制だけでなく、下からの需要や要求によるものもそれなりに混じっているのだとか。

中国のソッチ系のサイトではそんな話題の一つとして
「中国のネット小説から恋愛要素が消えていた」
といったことなどに関するやり取りが行われていましたので、以下に例によって私のイイカゲンな訳で紹介させていただきます。


気が付いたらウチの国のネット小説から恋愛が本当に消えている気がする……最後まで恋愛要素を意識できる作品になかなか出会わない。どうしてこうなったのか?
自分も何となく想像できるけど、皆の意見を聞きたい……

序盤に無いわけじゃないが、後の方になると男性主人公女性主人公現代異世界問わず、クエストやプロジェクト重視になるのは同意する。

それはどこの国の作品でもそう変わらないのでは?
長編で終盤の方になると個人の恋愛は話のスケールが合わない。

ネット小説書くような作者は恋愛書けないからだよ。

何百章何千章を使って恋愛モノな展開を書いても仕方ないからねえ
ハーレム系作品であれば別なのかもしれないが、今では規制されてるし流行ってた時代も後半になるとテンプレコピペの繰り返しみたいになってたから淘汰されるのも無理はない
今は基本的に主人公一人に相手は一人で固定が良いんじゃないか?それか恋人ポジションのキャラは出さないでいくか。

日本のネット小説だと恋愛がランキング上位独占しているし、メインでなくてもかなりの頻度で入ってくるんだけどな

私としては逆に日本のネット小説がなぜ恋愛要素入れて人気になるのかが不思議だ

自分が見ている範囲での話だが、日本の作品は日常回や視点変更で話数稼いだり、ヒロイン増やしたり、仲間キャラと同じような扱いにしたりしている。恋愛感情メインではなければどうにかなるんだろう。

言ってみれば、感情方面を掘り下げていくのは書くのが難しいんだよ
それでいて好む人もそんなに多くない。

好む人が多くないというか、好む人が細分化しているんだと思う。それでいて自分の好みから外れると批判が爆発しやすい。

ラブストーリーは長く書けない。告白して結婚したあとに何を書くんだ?家を借りて子育てをする生活感の強い話をそれまでの読者が読みたくなるか?

告白、結婚までを長引かせるのも難しいからね。戦闘力のインフレ、強敵を倒す展開とは違う。
かと言ってすれ違いやよろめきで胃が痛くなる展開や一度築いた愛情が壊れる展開を、爽快感が求められるネット小説でやってどうするんだということに。

ネット小説的な文脈で恋愛を書かせても主人公が強くなった優秀になったからモテたという展開でそれって結局金と権力にひかれた異性がいるだけで恋愛モノとしては……

そこまで深く考える必要は無い。
以前は恋愛メインじゃなくても恋愛要素、ラブコメ有な展開は雑に書かれてはいた。それこそ「種馬小説」なんてジャンルがあったわけで。ヒロインとっかえひっかえな展開の。
規制されて消えたけど。

とは言え、恋愛関係は雑にテンプレ展開を繰り返すとアレが目立ちやすいんだよね……ネット小説はイラストでの区別も基本的にはできないし。

強くなる、勝負に勝つみたいなメインストーリーに異性キャラとの感情方面の話を載せることも載せないこともできる。それをやらないってことは需要が無いってことなんじゃないの。

こっちでの日本のラノベの恋愛モノに関する話題の広がりからして需要は無くもない。ただ嫌いな人も多いしネット小説の作者が上手く書けない。
ハーレム的な展開になりがちでそこでまず批判されるし、話が進んで初期のキャラの存在感が消失するとそのキャラを好きだった読者から批判されるのも避けられない。これが一対一だったらまだ何とかなるがハーレムだと多方向から飛んでくるんだぞ?

恋愛モノは戦いや仕事と違ってゴールが明確なのも難しい。レベルや規模を上げるのとは違う。くっ付いた後を上手く書くのが困難だから後半になって恋人キャラが行方不明になりがち。

金庸とか昔の武侠小説は普通に恋愛要素あったんだがな。
ああいうのもいつの間にか見かけなくなっているのは……

ネット小説プラットフォーム側の編集からやめた方が良い(実質「やるな」)と言われたり、書いたら削られるか止められるかする内容になるからめんどくさいんだよ

編集の審査が厳しくてテンプレも使い勝手が悪い、そして読者の好みが分かり難い。企画の最初でまず避けるに決まっている。

今は恋愛展開に入るだけで反発する読者が目立つ。主人公の活躍をもっと重点的に書けとか文句も出る。
主に人気と課金のためにネット小説を書くんだから、優先順位的に削られていった結果が今の状態だよ。

ドラマ化まで意識した際に編集し難い(変えると文句が出るとも言える)恋愛要素が入ると競争的にマイナスといった話もある。

そもそも今の恋愛系テレビドラマのロジックがおかしいキャラと現実感皆無な舞台設定と描写の作品、それに対する低評価と批判を見るとな……

今の時代に全編でわざわざ恋愛要素入れているのって、よほど作者の趣味嗜好が強固でもなければありえない。初動でテンプレ的に恋愛が入ることもあるが、それだって今の時代に合わせたバランスになっている。

作者が上手く書けないというのは言い方を変えれば恋愛ネタはテンプレが使いにくくなってしまったということでもある。
ネット小説ってテンプレをスマートに使いこなして量産する、爽快感を与えるというのが攻略法になっているけど恋愛ネタは他のいわゆる俺TUEEEEEやら何やらに比べると人気の維持が難しい。

日本のラノベみたいな頭悪い恋愛、気持ち悪い妄想をやったらこっちでは一発で炎上してダメになりそう。
もちろん俺TUEEEEEも頭悪いの少なくないけど、価値観から来る嫌悪感が恋愛モノは段違いにキツイ。需要以上の批判があるし、容易に規制されるからテンプレ的に恋愛要素は既に「入れたら人気が落ちるから避ける」方の要素になっている。

感情重視の描写をして失敗すると読後感が悪くなる。読者はその経験をしているからそっちに流れるのを警戒してリスクを感じたら批判する。もちろん作者も安全な方に行きたいから批判が出たら方向修正する。

恋愛要素入れるということは、それを嫌う読者を失うリスクが発生するということでもあるからな。
ほとんどの読者は恋愛モノを見に来たわけではなく、爽快な文章を読みに来ている。そこで恋愛要素をメインにされたら怒るよ。

ネット小説も極論すれば人気とそこから来る課金、他媒体への進出による成功を目指すものだ。
「恋愛」が消えたのはウチの国の市場で人気になって稼ぐための「安全な近道」「攻略法」を求め続けた結果だよ。

他所では成立しにくい世界観説明とチート能力や攻略法解説で文字数稼ぐのもウチの国のネット小説プラットフォームのビジネスモデルに特化した、文字数課金、月額読み放題のお得感、ボリューム勝負によるものだからね。
そう言えばあれがあるから他国に進出するのが難しいという話もあったっけ。

ウチの国ではまずは文字数の関門がある。こっちで本当に人気になるのを目指すなら数百万字クラスが求められる。
そしてハーレム路線が規制的な面でも読者からの批判的な面でも使えないから恋愛モノでそれだけの文字数にするのは困難だ!

そうそう。長編を書きたいというか、儲かるためには長編にしないと。中短編はネット小説で稼ぐのは極めて困難。

同じ「ネット小説」という名前であっても日本の環境の作品は比較対象として参考にならない部分が少なくないし「日本ではあるのに」みたいな言い方をするのはどうなのかと思う。
例えばこっちのネット小説は人気が出て読者を掴んでからが本番、そこで課金で稼ぐために作品を長くするのに対して、日本のネット小説は中短期でランキング上位になって商業化するのが攻略法でそれほど長くならない。
だから日本では恋愛ネタが序盤〜中盤の引きとして強いし商業化の際のアピール(イラストに美形キャラ!)になる。そしてもちろん日本では社会的な価値観、倫理観ベースの規制や通報が厳しくないといった事情もある。

見る側の価値観、意見や通報をする環境が変わってしまったというのも。我が国のネット小説は好きに書いているだけとはいかない。
どこの国も独自の倫理的社会的な規制ラインはあるだろうけど、我が国はそれを個人の好悪で押し付けられるようになってしまっているから……

ネット小説における恋愛要素の消失に関しては「書くのが難しいのにリスクが高いわりに人気にならないから」という結論になると思うが、そこに至った経緯や切り捨てられたものを考えると少し憂鬱な気分になる。



とまぁ、こんな感じで。
中国のネット小説プラットフォームを取り巻く環境や読者の反応などイロイロな話が出ていました。

ちなみにこのネタを教えてくれた方からも
「中国のネット小説は日本と違って基本的に課金があるので人気になればネット小説の時点でお金が稼げます。中国では人気になってネット小説プラットフォーム上の課金で稼ぐのが最初の目的になるので人気作品を引き延ばして読者を維持し続けようとします」

「ネット小説は話を拡大し続ける上で使いやすい題材やテンプレを使って量産されますが、恋愛メインで長編にするのは難しいです。恋愛要素が入ると作品の方向性が変わるので恋愛要素が入るのをとても嫌う人も少なくありませんし、批判も多くなるので使われなくなっていったのだと思います」

「中国のネット小説の作品に対する批判は日本と比べてかなり強烈で被害の大きいものになります。私も日本の小説家になろうの感想欄が荒れることは知っていますが、それでも中国と比べればまだ穏やかだと感じています」

「中国では読者は課金しているので文句を言う権利があると認識が非常に強く、自分の思い通りの展開にならなかった場合の作品批判は激烈ですし、感情が逆転したのかプラットフォーム側や上への通報も発生することもあり得ます」

「今年中国で発生した無職転生に対する批判が例になると思います。人気になって目立つと価値観を口実にした自分が認めたくない作品に対する批判や、それを利用したPV数稼ぎも増えるのでコントロールできなくなります。恋愛要素はそういう問題につながりやすいので、書く人がいなくなるのも当然です」

などといった長めのお話がありました。

近頃は中国独自の環境による上からの規制、下からの批判と通報などが何かと目に付くようになっていますが、ネット小説も人気獲得と(できる限りの)安全確保に関する独特な背景があるようですね。


とりあえず、こんな所で。
例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。