中国は9月から新学年なのでこの時期は中国オタク界隈も動きが鈍くなるので、今回はありがたいことに以前教えていただいたものの後回しにしていたネタで。

中国のいわゆる二次元系のジャンルや中国オタク界隈の盛り上がりにおいて、「Fate」シリーズはいろいろな意味で原典の一つとなっていることもあってか、
「Fateのような作品」
「Fateのような成功」

といった文脈で語られることも多いそうです。

中国のソッチ系のサイトではそんな話題の一つとして
「Fateのように複数の作家が関わる作品が成功できる理由」
などといったことに関するやり取りが行われていましたので、以下に例によって私のイイカゲンな訳で紹介させていただきます。


日本ではなぜFateみたいな複数の作家を使った作品が成功しているのだろうか?Fateはなぜ上手くいったんだろうか?才能以外の理由があれば知りたい……

複数の人気作者が集まっての創作って夢があるし最初は良いんだけど、作者間の調整が難しくていつの間にかグダグダになって消えていくよね
関わった作者達も別の自前の作品に注力するようになって期待していた人間はガッカリする

日本はクリエイター間の距離が良い意味で近いという印象がある。ネット上の営業的なものとはまた違った感じで。
だから合作の調整、他のクリエイターによるネタを自作に反映するとかも上手くいくのではないかと

才能の問題かもしれないけど中心に柱となる作家(Fateなら奈須きのこ)がいるのと、同レベルの作家の一群でやるのとでは違う部分が多い
もちろん同レベルと言ってもレベルが低いわけではない、こっちでもネット小説系なら長編作品で成功した作者が集まるわけだし成功の目が無いわけではないだろうけど、企画が走り出したときに分解しやすいのは明らかにこっち

最初から基礎となるストーリー、良質な世界観があったことだろうか?
「Fate」はこれが出来ているから、他の作家はフレームに沿って制作すれば良いし、たまに失敗する部分が出てもファンは耐えられる

型月は作家の個性や特異なジャンルが違うのに出てくる作品が型月の伝奇作品の範囲に入っているのもよく考えたら凄いことだよね

国内の失敗例を考えると主導した作家や企業のリーダーシップ不足というか、向いてなかったみたいなのが見受けられるし、奈須きのこと型月が現在の体制で作品展開するのに向いていたということでは……

作家連合による創作ってすぐにどっちが上か下か、どちらがたくさん仕事してリソース割いているか、誰が得して誰が損しているかみたいな話になって作品が二の次になりがちなイメージがある

こういうのって二次創作向きの作品かどうか、二次創作が盛り上がるかというのがまず重要で、世界観を大きく深くするよりも大筋として把握できるストーリーや世界観になっているのかが大事

中国の作家はシェアードワールド向いていないんだよ
誰もがトップに立ちたがるしお互いに相手を下に見るから継続した仕事を上手くやっていくのなんて無理

集団創作と言いながら、他人が書いたものをひっくり返して自分の踏み台にしようとするというか、結局は自分のための作品しか書かないというか……

その辺は中国に限らずIP持っている所がスタッフ入れ替えて作った作品でも発生する。日本の二次元業界でも珍しいわけではない。
しかしこっちの集団創作だとそういうのが目に付き過ぎるのも否定はできない。

このテーマで想定されるようなプロジェクトっていわゆる「成功した」作者を集めるから言うことを聞かせるのが難しい
他人の作った設定を上手く使うよりも他人の作った設定をぶっ壊す方向になりがち

成功した作家を集めた企画の場合、自分が中心になれない企画なら別の作品を書いた方が金銭的にも名声的にも良いということで、別の作品は書いているのに企画の方の作品はずっと放置みたいなことになったり……

国内でも複数の作家使って成功しているケースはあるぞ?
皆が日常的に見ている国産ネット小説、あれは大体が複数人による制作体制だ

言われてみればそうだな
ウチの国のネット小説は商売で勝つ、稼ぐために複数作家、スタジオ体制で量産している

ネット小説の場合は世界観を共有して別キャラ、別エピソードを作るわけではないけどね。ただ「Fate」で例えるなら「FGO」に近いやり方になっている所もあるはず。
トップになる作家がコントロールして、バトルパートや日常パートなどを得意な作家に割り振るみたいなのは珍しくない。

日本はゲームでシナリオを外注する、メインライター以外のライターにも仕事を投げることが多いので業界が慣れているというのもありそう
中国は分業体制が作品の内容でも商業的な習慣でも安定しない

しかし分業体制に慣れているはずの国産ネット小説で成功した作家が世界観共有した複数ライターの参加する作品をやろうとして爆死するのは何故なのか

シェアードワールド的な作品とかウチの国だと始まるときは威勢が良いけど中盤で崩壊していくイメージしかない

一つの看板での内部体制じゃなくて外部作家との作業になるからというのが原因の一つかな?
ビジネスとしてもクリエイターとしても面子の問題が出てくるし、利益と責任の問題も表面化しやすい
「Fate」が強いのは奈須きのこが設定、内容を全てコントロールするという上下関係があるのと、その体制に合ったライターを使っているからではないかと

「Fate」には聖杯戦争という現実世界を舞台にした英霊召喚というシンプルで応用の効くフォーマットがあるのが良かった
中国で中華ファンタジーや武侠ベースでやっても作者や読者の知識と認識、共有する世界観における国家や文化、習慣といった細かい設定が食い違って面倒なことになる

似たようなテーマを考えていて、日本の作品は規模が小さいまま終われるのが良いのではという考えになったことがある。
日本の作品はどれも規模が小さい、村レベルの戦いとかバカにされがちだけど世界観を共有した作品を作る上では「やり過ぎない」「その後の作品を縛る設定を残さない」というのは重要。
世界の危機を救うのは良いけど、世界を超越して頂点に立つのはインフレ加速するから作品としては良いことじゃない。そして中華ファンタジー系だと超越して世界を上から眺められるようになるのが求められるしどの作家も多かれ少なかれそれで成功してきたから加減が上手くない。

理解できる話だ。西洋のファンタジー系世界観の作品、TRPGベースの世界観による作品群を見てもそういった部分はある
アメコミのように定期的にリランチするやり方もあるけど、設定重視の中国の読者には好まれないだろうから難しいかな

極端な言い方をすれば型月系作品は原作奈須きのこで他のライターは全部二次創作だし、そういう関係の方が企画としては安定するのだろう。あと設定に矛盾が出てもめた場合、奈須きのこが出張ってきて処理を行うのもファンを混乱させないという意味で非常に有効。
ウチの国の過去の企画を考えると、誰が作品を創作したかの争いが起こったり勝手に「公式設定」を投げ込んだりとファンの信頼を失うようなことが様々な作品で様々な形で発生している

私が思いつく成功の理由は、奈須きのこが下にかなり好きにやらせている、本人が口を閉じているわけじゃないけど関連作品に対する過度の干渉はしない(ように見える)、良い意味で商売よりも作品でファンからの評価を狙っている所だね
それから武内崇が権利や組む相手をかなり厳選して奈須きのこ主導で進められるような環境にしているのも成功の理由として欠かせない
才能がある作家はいるけど、その作家の才能を信じて奉仕するクリエイターとしてのスキルや嗅覚もある優秀なビジネスパートナーは滅多にいない……

きのこと社長に関しては、社長がきのこに勝手に描いたイラスト送りつけたり、ストーリーの修正に関して発破をかけたりと距離が近く動きが速いのも特徴だろう
ああいうクリエイター同士の距離感やスピードはこっちの成功したクリエイターを集めた企画では無理だ
作家ではなくスタジオや企業が前に出る形でも怪しい

私もイロイロと考えてみたが、やはり中心に完結した大成功作品があるのが強いという結論になった

それは同意したくなる話だ
ネット小説は引き伸ばして稼ぐ構造になっているし、最初からシェアードワールド的に始めた場合はメインストーリーがきちんとしていないから迷走しがちになる
アメコミだってクロスオーバーやる前に個々のヒーローとヴィランの話をやっているわけで

ストーリーでなくても、大枠となる時間軸と大きなイベントが確定していればいけると思う。
上の方で出ていたTRPG的な世界観の作品はそういう形でまとまっていたりする

内容以外の部分だと作品の権利を奈須きのこと武内崇がしっかり握ってコントロールしているのは大きい
複数の作家が関わる場合は権利関係もぐだぐだなことが多いからね

日本はラノベ、ネット小説は一人の作家が書いていることが多いけど、ゲームシナリオは複数の作家が分業していることも多い
これはエロゲー時代から続く業界の習慣なのでFateに限らず長編作品やりやすそうに見える

内容に関してはある程度雑に扱える複数の世界、平行宇宙を内包する世界観になっているかも重要だろう
ある作家が書いた内容が別の作家が書いた内容と矛盾するとか、別の作家の構想を掣肘するようなことが起こり難い
世界観は複雑にすればいいとは限らない

自分の認識していなかった部分の話もあって興味深い話題だ
個人的に思いつくのはやはり「Fate」のテンプレが非常に使い勝手が良いということだね
能力を好き勝手に解釈した歴史上の偉人のサーヴァントを出して聖杯戦争、聖杯戦争中のサーヴァントの生死は問題ない、最後はお別れ!というのは物語におけるキャラの使いまわしとしても商売としても便利過ぎる



とまぁ、こんな感じで。
近頃の中国オタク界隈の認識も含めてイロイロな話が出ていました。

ちなみに今回のネタを教えてくれた方からは
「これはクリエイターに限った話ではありませんが、中国では複数の人間が集まって行う仕事は最初は友好的でも利益が出た後の分配、作業の配分でもめる事になりがちですね。それからクリエイターであっても現場の作業より上の方で管理や指示を出す地位になりたがります。日本は契約したらその期間は割り切って仕事をする、現場の作業を楽しんで続けているような人が多いのも作品を作る上でやりやすいように見えます……」
などといった話もありました。

とりあえず、こんな所で。
例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。

9/2修正:誤字脱字を修正しました。ご指摘ありがとうございます。