ぼちぼち通常の更新に戻していこうかと思います。

中国オタク界隈では日本の歴史に関して特に人気が高いのが幕末と戦国時代です。
また幕末に関しては新選組関連が特に人気が高く、沖田総司や斎藤一など中国オタク界隈では一般常識レベルになっている隊士もいます。
しかしその新選組を詳しく調べていくと中国の感覚では首をかしげるような部分も出てくるそうです。

そんな訳で以下に中国のソッチ系のサイトで行われていた
「幕府側組織なのになぜ現代の日本の作品で新選組の扱いが良いのか?」
などといったことに関するやり取りを、例によって私のイイカゲンな訳で紹介させていただきます。


現代日本の作品で新選組の扱いが良い、主人公扱いされるのは何故だろう?
幕府側組織としての活動や背景を見ると普通は悪役で確定に思えるのだが

確かに政治的に明らかに悪の組織扱いされそうだよね
実際日本にはそういう作品もあるけどよく見たら個別のキャラの扱いが良かったりするし、普通に主人公側になることもあるのは不思議だ

幕末は各陣営の立場が錯綜しているし、封建勢力VS進歩勢力と分けるのが難しかったりするので新選組も悪役以外の解釈が可能なんだよ

坂本龍馬が人気になったのも明治維新で勝ち組だったはずの土佐藩が維新後の権力闘争で負けたので盤外戦術に走った結果という面もあるからな

その辺はかなり混乱するよね
例えば西郷隆盛が西南戦争で敗死する、大久保利光は旧武士階層や薩摩派閥に憎まれて暗殺されるなど誰が勝者で誰が評価が高いのか分かり難い

それに加えて日本は伝統的に敗者の美学がとても好まれるという事情も影響しているのではないかと
源義経や豊臣秀頼は敗者側なのに人気や評価が高い

真田幸村の人気、二次元ジャンルでの主役扱いもそういう所あるよな

個人的には新選組って姜維みたいなものじゃないかなーと思っているんだが
日本の社会、歴史的な補正が入って人気が高くなった姜維ポジションのキャラ、組織?
姜維は後の時代から見れば正当な王朝の天下統一を拒否し国を分裂させた反動勢力になってしまうが、それでも一定の人気や評価はあるし創作で扱いやすい大義名分もある

ウチの国だと革命を成し遂げた側が圧倒的に「正しい」とされるけど日本はそうではない
徳川幕府と明治維新政府にも一定の連続性が存在するのでこっちの辛亥革命や王朝交代と単純に重ねるのはちょっと違うし、新選組をはじめとする関係者の評価や扱いのにも違いは出るんだよね

明治維新派の「尊王攘夷」とか下手すりゃ義和団の思想と行動みたいな所があるから単純な全肯定は難しい
そして一般庶民の視点で見たら明治維新派の人間が別に「良い人」というわけではなく、江戸や京都で殺したり燃やしたりしてた連中でもある。新選組も壬生浪とか下に見られてはいたけど京都の治安組織だから一般庶民にとってはそっちの方がマシに見えるのも無理はないし、ある種のヒーロー的な扱いにもなるよ

敗者側の英雄の末路が創作の題材として好まれるというのはどの時代にもある
特に土方歳三は残っている写真も美形なので新選組に対する好意的な解釈を強化している

幕府側の人間=清側の人間の扱いと考えるから混乱するんだよ
それに明治維新後の日本政府がやらかしたことも記録と記憶に残っていて徳川幕府側も江戸時代を通じて安定した封建社会を維持していたので倒された側にも良い所はあったみたいな見方もできる

近代日本は明治維新、それから第二次世界大戦敗戦という二つの転換点がある
だから明治維新政府の敵だった新選組も、第二次世界大戦後は旧日帝政府に立ち向かった組織として評価が急展開して「良い扱い」をされるようになったし主人公の役回りも増えた

それは違うと思われる
明治、大正時代も新選組は人気が高くて新選組主役の映画も多かった
当時の日本のスター俳優が土方歳三を演じているというデータもある

幕末は新選組関連のエピソードが多いし武士としては低い身分や浪人の若者ばかりだから、新選組は田舎の低い身分の若者達が剣術を武器に大都市に出てのし上がっていくというサクセスストーリーにもできる(なお内部闘争
それに明治維新後も生きていた関係者からの話や資料もあるから描きやすい存在だったんだよ

当時の京都における格や規模としては新選組よりも見廻組の方が上のはずなのに創作では見廻組の存在感がほぼ無いのは、新選組とそのキャラが何かと使いやすいということなんだろうね

新選組は浅葱色の模様の羽織がデザイン的にも作画的にも良いので出番が増えたという事情もある。歴史をテーマにした創作作品で歴史考証的に正しいユニフォームで統一できるのは本当に強い。
まぁ実際は当時の感覚だとダサ過ぎて新選組隊士は皆着たがらなかったらしいが……資料として存在するのはやはり強い

見廻組の構成員は旗本の子息だったので当時としては普通に身分のある存在だったからな
新選組は下の身分出身で成り上がり時代の流れに敗北する英雄と見ることができるので「宣伝材料」としても優秀だから洗脳教育の素材としても使われてきた
だから現代日本でもイメージが良く創作でもヒーロー扱いされている

新選組関係は直接的な洗脳力は無いだろ……それだったら西郷隆盛とかの方がまだ分かりやすい

幕末の人物って数年の間に立場がコロコロ変わったりするなど、勝者側にも後ろ暗い所というかツッコミ所は少なくない
だから明治維新で功績のあった人物の評価も良い所ばかりではないし、逆に新選組も切り取る場所次第では「良い人」的な解釈はできる
しかも幕末なら敵側に設定できる人物や組織にも事欠かないので新選組は何かと使い勝手が良い組織であるのは間違いないし、「主人公扱い」される作品が少なくないのも理解できなくはない

新選組は最初の方は登っていくだけだから描きやすい
業績も概ね前半に集中していて後の方の描写は少ないのでイメージ、扱いも良くなるわけだな

描写に関しては前半もだが、最後の壊滅する所も多い
時代に取り残されても武士の意地を見せた敗者の美学が強調される
あと隊士を粛清しまくった内部抗争はあまり描かれない!

粛清に関しても新選組側の問題が過小になる傾向はある
伊東甲子太郎とか雑に裏切り者にされがちだし

まず新選組という組織を中国国内の組織や事情で例えるのが難しい……

それは私も理解できるよ
佐幕派で小規模な組織、しかし名声はあるといった表面的な部分だけ見ても本当に当てはめられそうな人物や組織が思いつかない
かなり無理に解釈してどうにか?というレベルだ

尊王攘夷志士を捕まえる、治安維持組織?
雑に考えるなら革命烈士を捕まえる組織……これは悪役にしかならねえ!
あと日本の攘夷志士側も放火や人斬りなどのテロ行為やってたのがそのまま伝わっているので単純に評価し難い

攘夷派の連中も最初の頃はごく普通のテロリストだからなあ

「るろうに剣心」とかの効果で幕末志士の人斬りが美化されているけど、あれ普通にテロだよね
視点を変えれば敗者の方の人斬りがカッコよく描けるのも当然ではあるし、日本だとそっちの方が人気が出そうに思える

まぁ新選組も押し借りで金を返さない実質略奪行為みたいなことやってたしね!
当時の京都はコワイ!

日本の幕末動乱に関しては分かりやすい革命というわけではない
見方を変えれば「立場の異なる英雄好漢の衝突」という解釈もできるから、幕府側の失敗や敗北がそのまま佐幕派志士の評価を下げるとは限らない
そして新選組は有名で身分も低いから一般庶民から好まれる好漢のように扱われる機会が多く、それがそのまま現代の娯楽作品における扱いにつながったのでは

何が先かは私も知らないけど、現代の新選組ネタやイメージのほとんどが娯楽作品の影響なのは確かだ
娯楽作品の社会的な影響というのはバカにできない

子母澤寛と司馬遼太郎の影響が大きいらしいね
それに加えて新選組に関しては大正〜昭和時代に映画の題材として多用されたのも「良いイメージ」に貢献しているとか

FGOでさえ幕末ネタでは経験値が司馬遼太郎が作ったネタやイメージをそのまま使って批判されていたくらいだし影響は本当に大きい……

実は経験値の司馬遼太郎ネタの影響が一番多いのは坂本龍馬で新選組は相対的に少ないし、批判を受けた後は軌道修正している
坂本龍馬はキャラの根本的な部分が司馬遼太郎過ぎるけど、岡田以蔵が幸運にもFGO独自のキャラ構築に成功したので岡田以蔵経由で動かす、語らせるということで独自性を獲得することに成功しているのはなんか面白い

上の方でも言われているけど新選組自体は悪の集団と描かれがちだったけど、近藤勇は昔からスターが演じるので人気が高かったらしいな
あと土方歳三と沖田総司の人気が本格的に上がったのは司馬遼太郎作品からだという話も見たことがある

昔から扱いは悪くないみたいだが、それでも昔の日本の方が新選組=悪役な扱いはかなり多かった。近年の作品ではキャラクターと背景だけ取り出して扱われるので良いイメージのキャラとして描写されることが増えたのではないかと。

二次元における新選組の扱いの良さに関しては女性向け作品での出番が多いというのも影響してそうだ
この数十年くらい、女性向けジャンルでは新選組モチーフの長編人気作品が続いているしそこで蓄積された正のイメージが現在の二次元界隈にかなり出ているはず



とまぁ、こんな感じで。
現在の中国オタク界隈の認識も含めてイロイロな話が出ていました。

ちなみに今回のネタを教えてくれた方からは
「日本の幕末時代は中国では日本の戦国時代と並んで人気の高い時代ですが、新選組が中心になる作品を通じて幕末を知った人も多いので歴史上の人物の立場や思想が流動的だったことまできちんと認識している人はあまり多くないと思います……」

「中国の学校では明治維新は世界史で結構大きく扱われていますが、革命という形で紹介されます。また近い時期に辛亥革命もあるので明治維新の際の日本国内の被害が少ない、徳川幕府系の人材がそのまま明治維新政府にもかなり採用されている、他の革命と比べて非常に穏当な変化だったことは意識されていません」

などといった話もありました。


それからnoteの方に昔の中国オタク事情をまとめた年末記事をアップしているので、そちらもよろしければご覧ください。

忘れそうなので今のうちに書いてみる1990年代の北京海賊版家庭用ゲーム事情 その1

1990年代後半頃の北京の若者の家庭用ゲーム体験 1990年代後半の北京PS、SS海賊版ゲーム事情 その2

1990年代後半頃の北京の海賊版事情なども含まれる昔の中国のゲーム関係の話題はなかなか書く機会がなかったので「その2」に書いた
「昔の北京でやれた日本の中古ゲーム転売でのひと稼ぎ」
のようなネタを思い出したらまとめていきたいですね。

とりあえず、こんな所で。
例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。