8月1日電気新聞
[時評・ウェーブ]石川和男/老老介護の現実

FullSizeRender

 一部報道によると、介護に疲れて妻を殺害したとして殺人罪に問われた大阪府寝屋川市の被告(76)の裁判で、大阪地裁は6月30日、懲役4年半の実刑判決を言い渡した。
 被告は昨年5月、自宅で妻(当時70歳)を殺害。妻は一昨年に入院し、昨年4月から自宅で療養していたそうだ。
 弁護側は、妻が心中に同意したと主張。判決は、「捜査段階で明確に供述していないのは不合理」と退けた。在宅介護期間が3週間程度で介護負担は重くなく、「同情の余地は大きくなく執行猶予は相当ではない」とのこと。
 これも、“老老介護”から“介護殺人”に至った、何とも痛ましい事件だ。
 厚生労働省による2016年の調査結果では、75歳以上の要介護者のうち、介護する人も75歳以上というケースが初めて30%を突破し、65歳以上同士の老老介護は約55%で過去最高を更新した。
 この調査結果について多くのマスコミは、老老介護が深刻化した!と危機感をあらわにしながら報じている。
 しかし、こうした危機的状況は、今に始まったことではなく、以前からあった。それが年々深刻化している。
 介護問題は高齢化問題そのものだ。様々な指標に関する2000年→16年の推移は次の通り。
 ▽要介護者の同居者の年齢=「60歳以上同士」54%→70%、「65歳以上同士」41%→55%、「75歳以上同士」19%→30%
 ▽要介護者のいる世帯構造=「単独世帯」16%→29%、「高齢者世帯」35%→55%、「夫婦のみの世帯」18%→22%、「核家族世帯」29%→38%、「三世代世帯」33%→15%、「その他の世帯」22%→18%
 ▽要介護者の年齢別構成比=「90歳以上」15%→21%、「85~89歳」21%→24%、「80~84歳」22%→25%、「75~79歳」19%→15%、「70~74歳」10%→8%、「65~69歳」7%→4%
 これを見ると、(1)老老介護世帯は増加傾向にあること(2)要介護者のいる世帯の人数は単独または2人である場合が増加傾向にあること(3)80歳以上の要介護者の割合は上がり、79歳以下の要介護者の割合は下がっていること――などが読み取れる。
 80歳を境として、介護を不要とするほど健康でいられるかどうか分かれる場合が多くなりつつあるということだろう。
 現在、平均寿命は男性80歳、女性87歳となっている。ただし、介護や医療を必要とするまでの年齢の平均値(いわゆる健康寿命)は男性71歳、女性74歳。この差が“不健康な期間”であり、男性で9年、女性で13年もある。
 そして、この不健康な期間に介護や医療に係る社会保障費が必要となる。健康寿命と平均寿命に大差があることこそ、消費増税の最大の理由。
 社会保障財源が足りないという理由だけで増税を実施することは、政治的にも非常に難しい。歴代政権に比べて支持率が高く推移してきた今の安倍政権でさえ、消費増税(税率8%↓10%)を2度も延期してきた。
 いつまでも国債発行に頼るわけにもいかない。我々の世代はそれで良くとも、次の世代に大きなツケを回してしまう。
 そろそろ、国民全体として発想を変えないといけない。介護・医療費を大幅に削るという手法もなくはないが、これも政治的には極めて困難。
 だから、健康寿命を平均寿命に近付けていく努力が今後ますます重要になる。同時に、不健康な期間をいたずらに長らえるのではなく、尊厳ある最期を遂げる環境を整えていく必要もある。尊厳死法制に向けた議論をタブー視してはならない。