今日、経済産業省・総合資源エネルギー調査会が“電力システム改革”の詳細を決める第1回制度設計WGを開催した。その旨は、同WGが開催される当日である今日の日本経済新聞朝刊等に概要(※1※2)が掲載されている。審議会当日の朝刊に日経新聞がその概要を掲載するのは日常茶飯事。その記事を読めば、程なく行われる審議会での方向性があらかじめ理解できる。興ざめこの上ないのだが、よくある話だ。そうした役所とマスコミの連携プレーに苦言を呈する審議会委員が殆どいないということが、これまた審議会行政における病巣とも言える。好事もあるのだが、それは一般には通用しない領域においてである。

 

日経記事中「2015年に広域運用機関を設置し、16年には地域間連系の新システムを稼働させる。値段が高い電力会社から他地域の電力に乗り換える企業が増えれば、電力会社間の競争も盛んになる」「電気の家庭向け値上げの手続きが一巡し、全国で料金の地域差が目立ってきた。(略)標準家庭の月額でみた9月の料金の地域差は1200円を超す。政府は価格競争を促すため、地域を越えて電力を融通できる体制の整備を急ぐ。2016年には即時の越境売買を可能にするシステムを導入する方針だ」とあるが、この新システムの中核体として検討されているのが、記事中の「広域運用機関」(正式名は“広域的運営推進機関”)である。

この“広域的運営推進機関”の案については、WG資料を見ればわかる。 これを全部読むにはかなりの時間がかかるので、ここではかいつまんで論点提起をしておきたい。この新機関の業務は、次の2つの資料〔=広域的運営推進機関、広域的運営推進機関と送配電事業者等との関係〕に書かれている。ポイントは、「電源の広域的な活用に必要な送配電網の整備を進める」ことと、「全国大で平常時・緊急時の需給調整機能を強化」することである。これはこれで非常に重要なことであるので、こうした中核機関で運営していこうという発想はよく理解できる。

そこで先ず第一に提起したいことは、需要家利益との関係である。新機関の設置によって競争が促進されるとしても、最終的に需要家にとってどのような利益増進があるのかが非常に曖昧なのだが、これは痛い。原子力発電所の不当な塩漬け状況に伴って上昇基調になってしまた電気料金が今後どのような傾向を辿るのか、その展望が示されていない。

制度設計WGは、制度設計しかしないのだから電気料金については何も語らないなどと開き直ること勿れ。この点を明らかにしなければ、新機関の認知度も理解度も上がりようがない。(もっとも、電気料金を下降基調に転換できるような要素は何一つ見当たらない。これでは全然ダメだ。少子高齢社会における望ましい国民負担論を見据えれば、電力行政の最大の肝は電気料金政策に決まっている。電力体制論など、どうでもいい話なのだ。)

広域的運営推進機関の業務概要

広域的運営推進機関と送配電事業者等との関係


次に提起したいことは、新機関の人事に関してである。送配電業務に係る中立機関としては現在、一般社団法人電力系統利用協議会(ESCJ)が業務を行っている。この2つの機関の違いについては、次の資料〔=広域的運営推進機関と電力系統利用協議会との主な違い〕を参照されたい。資料にも書いてあるように、新機関はESCJよりも権限・業務範囲が広い。特に、供給計画の届出の受理や需給逼迫時での電力会社への指示など、その業務は行政機関としての資源エネルギー庁の業務そのものである。

広域的運営推進機関と電力系統利用協議会との主な違い


<需給逼迫緊急時の調整スキーム>

広域的運営推進機関(需給逼迫時の調整)


この強い権限と広い業務範囲を持つ新機関の在り方は、次の資料〔=広域機関の組織〕に案が示されている。これは、エネ庁がこれまで担ってきた広域的運営に係る電力行政の殆ど全てを新機関に委譲するのと同義である。新機関は政府の認可法人となる予定だが、新機関の人事がどうなろうと、実際の広域的運営については電力会社間で適時適切な対応がなされるであろうから何ら心配ない。しかしやはり、この類の事では毎度のことながら
、理事長や理事を誰にするかといった人事案に焦点が当たってしまう。どのように考えれば最善なのだろうか。

新機関の権限や業務範囲もさることながら、それによってもたらされる日本経済社会への影響の大きさに鑑みれば、トップである理事長には電力行政責任と同じ重圧を担わせることになる。だからと言って、官僚OBは“天下り”だとなって容認されるとは思えないし、行政経験のない学者や有識者はただの“天上り”であって全く相応しくない。そうなると、理事長の適任者は一人しか思い付かない。それは『資源エネルギー庁長官』だ。この点に関しては、先の国会で廃案になったが再提出されると見込まれている電気事業法変更案第28条の21において、政府職員は新機関の役員になれない旨が規定されているが、これは修正すべきである。 政府認可法人のトップに現職官僚が就くことの前例はないかもしれないが、権限と業務範囲を慮れば、たとえ前例がなくとも、きちんと行政責任を取れる者でなければならないはずだ。新機関の理事長は『資源エネルギー庁長官』が兼務すべきである。

広域的運営推進機関の組織図


“電力システム改革”は3段階からなる制度変更案であるが、これはその第一弾に位置付けられる。第二弾(小売全面自由化)と第三弾(発送電分離、料金規制撤廃)は需要家利益の増進をもたらすことが全く想起できないばかりか、新規参入予定者の顔ぶれが皆目わからないことなどから、全面的に反対するものであるが、この第一弾(広域的運営推進機関の設立)は強く反対するものでもない。但し上述の通り、需要家利益増進の展望論の明示は改めて必須である。需要家の懐が温かくなることをあらかじめ示せないような制度変更は誰にも求められていない。