経済産業省は、“電力システム改革が創り出す新しい生活とビジネスのかたち”という名のパンフレットを作成している。電力システム改革が、どれほど夢のあることで、いかに素晴らしいことであるかを紹介する内容。

 その中で、“家庭でも電力会社を選べるようになります”、“どんな電気を使うか、自分で決められるようになります”等々、歯が浮くような物凄いことが書かれている〔資料1〕

<資料1>
45
(出所:経済産業省資料 “電力システム改革が創り出す新しい生活とビジネスのかたち”)

 これは、ほんの一例であるが、本当にそんな夢のようなことが実現するのだろうか???

 昨日の日本経済新聞ネット記事では、“4月の電力小売り全面自由化へ向けて、新規電力事業者(新電力)が顧客の獲得へ動き出した”、“自由化で新たに生まれる年8兆円の市場を巡る争いが激化してきた”などと、少々劇的な論調で報じている。

 経産省とともに、今次一連の電力システム改革の旗を振った日経新聞。だから、そうした論調になるのは仕方ないのかもしれない。だが、本当に新電力各社の発表資料を熟読したのだろうか、本質的な新電力の問題点を理解していないのではないか、と疑いたくなる。

 この記事では、幾つかの新電力を例示している〔資料2〕。それらの発表資料は、次のURLの通り。

・東京ガス https://request.tokyo-gas.co.jp/power/req/index.html
・東燃ゼネラル石油 http://www.tonengeneral.co.jp/news/uploadfile/docs/20160104_J_2.pdf
・東急パワーサプライ https://www.tokyu-ps.jp/
・三菱商事とローソン http://www.machi-ene.jp/

 これらのうち、現時点でメニューや条件を詳しく書いているのは、東京ガス東急パワーサプライ。この2社の発表資料をよく見ると、次のような記述がある。

東京ガス
10

東急パワーサプライ
33

 つまり、一括受電の集合住宅や離島の場合には、この2社に申し込んでも、この2社から電気を購入することはできない。契約アンペアが20A以下のような電力消費量の少ない低所得層などの場合も、同様だ。見つけにくいが、それもこの2社の資料に遠慮がちに書かれている。あまり言いたくないことだからだろう。

 これは、この2社が悪いわけでも何でもない。以前から分かっていたことであるし、商売にならないものには手を出さないのは、民間企業として当然のこと。

 一括受電をしている集合住宅の消費者は、今回の電力小売自由化によっても電力小売会社を自由に選ぶことはできない。離島での電力小売は、新電力にとってはおいしい商売にならないので、電力小売自由化は殆ど関係ない。
自由化とは、そういうもの。供給者が消費者を選ぶことにもなるわけだ。

 しかし、上記の経産省資料には、そういうことは書かれていない。それを明記してしまうと、電力小売自由化が、全ての消費者のためのものではないことが明らかになってしまい、所得格差や地域格差を助長することが明らかになるからだろう。

 役所にとって都合の悪いことは、役所の資料には書かれないのが常だ。私にも、そうやってきた経験が何度もある。

 日経新聞もそうだが、マスコミの役割は、こうした役所側の御都合主義を糾すことなのではないか?それにもかかわらず、役所と一緒になって“誰でも電力会社を自由に選べる時代が来た!!”などと書いているのは何故なのか??

 本来のマスコミの役割は、一括受電の集合住宅の世帯数や離島の世帯数がどのくらいいるのか、契約アンペアが20A以下のような電力消費量の少ない低所得層はどのくらいいるのかなども含めて、電力小売自由化の不都合な部分を役所に質していくことであったはずだ。

 しかし、そうはなっていない。役所とマスコミが結託すると、こうなるという話。国会には、それを正す機能を期待することはできない。だから、こうなっている。“大手電力憎し”を卒業できていない。

 いずれにせよ本件は、我々庶民が騙されていく典型例。言い方は上品ではないが、そういうことだ。一体どうやって、“どんな電気を使うか、自分で決められるように”なるというのか???



<資料2>
07
(出所:日本経済新聞(2016.1.5))