[時評・ウェーブ]石川和男/「介護離職」企業は1割だが…(2017.23.9 電気新聞)

 “介護離職”という言葉が聞かれる。親族の介護を理由として退職や転職を余儀なくされることだ。
 独立行政法人労働政策研究・研修機構が昨年5月に公表した「介護者の就業と離職に関する調査」では、介護離職の実態について次のように報告されている。
 (1)介護期間と介護離職
 (1)要介護者が施設や病院で過ごす期間を含めた全介護期間は平均39.5カ月で、10年を超えることもある。
 (2)在宅介護期間は平均18.0カ月で、長くても5年以内。
 (3)在宅介護期間が3年を超えると、介護発生時の勤務先を勤め続ける割合(同一就業継続率)は下がる。
 (4)要介護者と同居している場合は在宅介護期間が1年を超えると同一就業継続率は下がり、別居の場合は3年を超えると下がる。
 (2)介護休業制度と介護離職
 (1)介護発生時の勤務先に介護休業制度がある場合、在宅介護期間が3年以内であれば同一就業継続率は高くなる。
 (2)勤務先が法定を超えて定める制度については、休業取得可能期間が93日を超える長期の休業よりも、複数回に分割できる方が就業継続率の上昇につながる。
 (3)柔軟な働き方と就業継続
 (1)短時間勤務制度、始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ、所定外労働免除の制度が介護発生時の勤務先にある場合は同一就業継続率が高くなる。
 (2)1日の作業量やスケジュールの裁量がある働き方をしている場合は、そうでない場合に比べて3年を超える在宅介護期間の同一就業継続率が高くなる。
 また、東京商工リサーチが昨年12月に公表した「『介護離職』に関するアンケート調査」は、上記の調査とは別の視点で、次のような調査結果を報告している。
 (1)過去1年間に介護離職者が発生した企業は1割。
 (2)将来的に介護離職者が増えると考えている企業は7割。
 (3)仕事と介護の両立支援への取り組みは、7割の企業が不十分と認識。
 介護保険サービスは、国策の公益事業。政府は「介護離職ゼロ化」を掲げる。そのためには相応の財源が必要で、消費増税によって賄うことが有力。だが、増税になかなか踏み切れないのが現実の政治だ。
 介護保険サービスの根拠となっているのは介護保険法で、その目的は要介護者の尊厳の保持や自立の支援。しかし、どんなに目的が崇高でも、実際にそれを行うためのヒト・モノ・カネが十分でなければ画餅で終わる。
 では、「介護財源」をどこから捻出するか? 本来ならば、いわゆる無駄の削減によって捻出すべきだが、それは事実上困難。介護が他の事業よりも優先順位が高いので優先的に予算を獲得しろ!とはとても言えない。社会保障費は、教育費や公共事業費、防衛費など他のどの予算よりも大きな支出額で、他の予算の削減分を財源とすることもできない。
 となると、社会保障費の中で予算額を調整するしかない。その場合、介護よりも支出額の大きい年金・医療からの財源転用があり得るが、実際には無理だ。年金・医療よりも介護の優先順位が高い、とは説明し切れない。やはり、介護保険財政の枠中で調整していくほかない。これを政策理念の観点から見ると、「国民皆介護」の修正となる。もともと、「国民皆介護」には無理があることは暗示されていたので、今後はそれを明示していくに過ぎない。「選択介護」にならざるを得ない。
 要介護者自身よりも、その近親者を救うためのものであると認識しておくべきだ。要介護者の近親者の状況いかんで介護保険サービスに差を設けざるを得ない時が来るだろう。

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