「今の君は、天使かな? 悪魔かな? それとも別のなにかかな?」

 ややあって、少女は呟くように、それでいて、きっぱりと言った。

「……死神よ」

 死神なら僕も知っている。その役割も。

「じゃあ、僕の命はもうすぐ尽きるんだね」

「……残念に思うわ」

「そうか、死ぬのか……」

 死の宣告をされたというのに、自分でも驚くほど冷静だった。もしかしたら、どこかで覚悟をしていたのかもしれない。できそこないの僕が、長く生きれるはずがない、と。

「大切な誰かを殺さなければならない。僕はいつもそんな衝動にかられていて、気が重かったんだ……殺さなければならない誰かは、僕自身だったんだね」

 僕は一語一語を噛み締めるように、ゆっくりとした口調で話した。殺す相手は僕。僕自身。ようするに――

「僕は死にたくて……自殺したくて憂鬱になっていたのだろうか?」

「それは違うわ。あなたは自ら命を絶とうとは思っていない。憂鬱になっているのもあなたじゃない」

 いつも静かに話す彼女なのに、珍しく語気が強めだった。理由は分からないが、怒らせてしまったのかもしれない。僕は取り繕うように言う。

「そうだね。僕は君ともっと話がしたい。自殺なんか考えていないよ。僕が死ぬのは、きっと病気のせいだよね?」

「病気?」

 不思議そうに彼女が問い返してきた。

「僕は病気なんだろう?」

「いいえ、あなたはとても健康よ。どこにも問題なんてないわ」

 僕の身体は大部分が、まともに機能していない。問題のないところを探すほうが難しい。僕を元気づけるために、彼女は健康だと言ってくれたのだろうか。

 そんな思いを巡らせていると、またもや憎たらしいあいつがやったきた。楽しいひとときを奪っていくあいつが。

「ごめん……まただ……また、眠くなって……きた……」

「ゆっくりと眠って。私はここにいるから」

「どこに……も……行かない……よね……?」

 問いというより、切実な願いだった。彼女が立ち去ってしまっても恨みはしないが、平気ではない。ずっと傍にいてほしい。

「行かないわ」

「また……あとで……話をして……くれる……かい……」

「ええ、もちろん」

「あり……が……とう……おや……す……み……」

「おやすみなさい。またあとで」