3メートルの復讐(完結)

ライトなラノベコンテストへの、応募作品です。 約三千文字程度の超ライトなラノベです。10分もあれば読めるので、気軽に読んでください。

※10分もあれば読める、超ライトなラノベです。
※下記のアドレスより、第一話から読むことができます。
http://blog.livedoor.jp/katari20142/archives/cat_148200.html

一度『3メートルの復讐』は完成しましたが、見直してみると、構成的にも文章的にもおかしな部分が、多々ありました。現在、改稿版を再連載中です。
※2014年1月25日、改稿完了しました。

二次審査で落ちてしまいました。

そりゃ、ほぼ処女作が通るはずないっす。

これからも精進します。
お読みいただいた方、ありがとうございます。 

また、当選された方、おめでとうございます。

大勝とれたらいいですねー。

色々考えた結果、『ぷチュっと』から『3メートルの復讐』にタイトルを変更しました。

意味深な感じがして、いい感じになった気がします。

そう思うのは僕だけかもしれませんが…… 


 復讐からはなにも生まれない。

 よく耳にする言葉だが、復讐を企てている奴は、なにかを生みだしたいとは、雀の涙ほどにも思っていない。恨みのある相手に、報復できればそれでいいのだ。俺にとって、あの女はそういう存在だった。決して赦すことのできない、憎々しい存在だった。

 女に殺された仲間は、もう数知れない。その中には俺の親友も含まれていた。手足を砕かれ、内臓をつぶされ、やつの最後は悲惨なものだった。

 なぜ、こんな惨い行いができるのか?

 恐怖したのち、怒りが込みあげてきた。そして、俺は誓った。復讐を。悪魔のような女に、一矢報いなければ気がすまない。きっと、殺された仲間たちも、それを望んでいるだろう。

 しかし、俺は銃などの武器を手にしたことがないし、毒物にも疎い。どうするか考え抜いたすえ、最も現実的な刺す方法を選択した。恐くないと言えば嘘になるが俺も男だ。覚悟はできている。刺し違えてでも仲間の仇を討ってやる。

 そこで俺は、復讐をより確実なものとするために、一週間ほど女の行動をつぶさに観察してきた。その甲斐あって、最も無防備になる時間を知り得た。

 午後九時ちょうど。ようするに今から五分後だ。俺は物陰に身を潜め、女がリビングに現れるのを、じっと待っていた――

 ややあって扉が開く。

 来た。あの女だ。武者震いなのか、恐怖からなのか、身体がぶるっと一つ震えた。

 Tシャツにショートパンツという薄着で現れた女は、首にピンクのバスタオルを巻いていた。ぱつんと切った前髪が少し湿っていて、頬がほんのりと赤い。

 今年、高校生になったらしいが、まん丸い目や、桜色の唇には、まだまだ幼さが残っていて、中学生、ともすれば小学生にも見間違えてしまいそうだ。しかし、可愛らしい容姿に騙されてはいけない。心には魔を宿している。

 女がおもむろに隣のキッチンへと向かう。

 リビングとキッチンの間には仕切りがなく、ここからでも、女の行動を確認することができた。キッチンで洗い物をしているエプロン姿の女性は、女の母親と考えて間違いはないだろう。女は母親と二言三言交わすと、冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、マグカップに注いだ。そしてリビングに戻ってきた。

 テレビの前に革張りのソファー。腰をおろした女は、牛乳に口をつけ、リモコンを手にした。画面に映し出されたのは、次から次へと一発芸を披露する、テンションがむやみに高い若手芸人だった。どこがおもしろいのか、俺にはまったく理解できないが、女は牛乳を吹き出しそうになっている。

 いつも通りの行動だった。女は九時になると風呂からあがり、必ずリビングでテレビを観る。

 女との距離は約三メートル。幸運なことに、女は俺が潜んでいることに、微塵も気づいていないようだ。だが、復讐のベストタイミングは今じゃない。もう少し待て。焦る必要はない。俺は自身に言い聞かせ、そのときがくるのを、息を殺して待った――

 どれくらい時間が経過したのだろう。女の頭が前後に大きく揺れはじめる。ようやくおとずれたのだ。待ちに待った、復讐のベストタイミングが。

 女は十中八九、テレビを観ながら眠りに落ちる。その隙に忍び寄り、刺してしまおうというのが俺の策だった。

 問題はキッチンにいる母親だ。うとうとしている女に近づくのは容易だが、母親が忍び寄る俺に感づく可能性がある。そうなれば、とうぜん娘を守るために俺を妨害するだろう。下手をすれば返り討ちにされてしまうかもしれない。復讐を果たす前に殺されてしまうかもしれない。なんせ、あの女の母親だ。娘同様に残虐な心の持ち主に違いない。

 やっぱり夜にしようか?

 一瞬、そんな思いが頭をよぎった。皆が寝静まったころ、暗闇にまぎれて女に近づけば、まず、悟られることはないだろう。しかし、闇の中では女の表情がうかがえない。俺は、女の顔が苦悶に歪むさまが見たいのだ。

 夜じゃだめだ。刺すなら今だ。

 そう思い直し、ぐっと腹に力を入れた。

 女は眠っている。母親はこちらを見ていない。細心の注意を払いながら、そっと物陰から出た。途端に手足が震えはじめる。さっきの震えは恐怖からだと知り、臆病な自分をもどかしく思った。いや、情けないと思った。

 それでも、俺は着実に女との距離を縮めていった。気配を消して、なるべく静かに近づいていく。少しづつ、少しづつ。

「う……うん……ケーキ……むにゃ……」

 残り二メートルというところで、女が突如なにか呟いた。いつのまにか頭の揺れも止まっていた。

 目覚めたのか? 

 恐怖で身体が強ばり、心臓が早鐘を打った。

 今日は中止にするか? いや、刺し違える覚悟をしたじゃないか。

 そんな葛藤を繰り返していると、再び女の頭が揺れはじめた。どうやら、寝言だったらしい。ほっと胸を撫でおろす。

 呼吸を整えるため、息を一つ深く吸い込み、さらに距離をつめようとした。ところが、凍りついたかのように身体が動かない。さっきの恐怖で腰を抜かしてしまったらしい。つくづく情けない。

 目を閉じて、殺された仲間の顔を思い浮かべた。あいつらが天国で見守ってくれている。そう我が心に諭すと、不思議なほど勇気が湧き、身体に力が戻ってきた。今日こそ仲間の仇を討つ。俺は改めて決意を固めた。

 残り二メートル。

 女を起さぬよう、母親に見つからぬよう、じわじわと近づく――

 残り一メートル。

 気をゆるめてはいけない。慎重に、慎重に――

 とうとう到達した。たかが三メートル、されど三メートル。短いようで長い距離だった。大切な仲間の命を奪った憎き女が、もう目と鼻の先にいる。

 母親にちらりと目をやると、こちらに背を向けて、冷蔵庫の中をごそごそやっていた。女は、あいかわらず、まぬけ面で、こくりこくりと頭を揺らしている。

 女も母親も、俺に気づいていない。しかも、この距離からなら、いつでも刺すことができる。成功したも同然だと思った。よっぽどのことがない限り、無事に復讐を果たすことができるだろう。余裕が出てきた俺は、女を眺めながら少々思索にふけた。

 どこを刺そう?

 足か、腕か、しばし考え、こう思い至った。そうだ、あそこが最もダメージを与えられると聞いたことがある。あそこにしよう。

 母親に感づかれぬよう、低空飛行に徹していた俺だったが、肝を据えて一気に高度をあげた。女の身体を舐めるようにして、俺は大胆に飛ぶ。慎重さも大切だが、ここまでくれば思い切りも必要だ。

 視線を落とすと、女のすらりと伸びた足が、ずいぶん下にあった。目の前では、呼吸と同調して、胸が規則正しく上下している。

 顔をあげ、羽を力一杯動かす。細い首を通り過ぎると、少し開いた唇の隙間からのぞく、小さな歯が見えた。女の寝息が間近で聞こえる。あと少し――

 

 ここだ! ここを刺してやる!

 ぷす、ちゅー……

 ああ、おいしかった。

 一矢報いたし、お腹もいっぱいになったし、見つかる前に退散退散。

 ぶーん……


「う……かゆっ! かゆい! お母さん、蚊に刺されちゃった!」

「そんなところで寝ているからでしょう」

「しかも、まぶた! 明日デートなのに! ……もう、あと残らないかなぁ?」

「はい、お薬。ちゃんと塗っておけば大丈夫よ」

「ありがとう……し、沁みる! 目に沁みるよ!」

「あら、ごめんなさい。まぶたに塗ったら沁みるかもね」

「なんで、こんなとこ刺すのよ。私に恨みでもあるのぉ? ……っていうか掻きにくい! まぶた、掻きにくい! かゆいよー」
 

    <完>


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